ドン引きする職人たち
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拳の鬼神先生との衝撃的な出会い(物理)から2週間ほど経過。
あれから大体2、3日に1回ぐらいのペースで、筋トレ走り込みのついでに先生の所に通って組手を受けている。
とりあえずの目標は組手の時間を10秒以上まで延ばすことからだ。
……大体2、3合くらい打ち合ったかと思ったら、気が付けばぶっ飛ばされててすぐ終わっちまうけどな。ぐぬぬ。
組手の際に、先生の攻撃のモーションをなんとか目に焼き付けておく。
一瞬の出来事だから、極限まで集中して観察していないと認識すらできない。見逃せばそれでその日の組手は無駄になってしまう。
で、なんとか観察できたモーションを参考に、先生の格闘術をちょっとでも真似できないかと素振りをしてみたり。
もちろん俺が見ただけでまともに再現することなんかできっこないので、メニューさんにモーションの手直しをしてもらいつつ微調整しながらひたすら素振り。
正拳突き一発すらまだ不完全な再現しかできてないけど、そのうち素の格闘術もそこそこ使えるようになるといいな。
スキルが無くても料理ができるように、格闘術だって再現することはできるはずだ。多分。
剣術や槍術なんかと違って、拳法・格闘術は魔力操作との相性も悪くないし鍛えておいて損は無いだろう。
フィジカルの強化訓練はそんな感じで、始まったばかりだが手応えは悪くない、気がする。
一方、武器の製作もとても順調らしく時々顔を出すたびに意見を求められて、それを反映しながら組み立てているようだ。
例えば壊れてしまった試作品の爆裂大槌を見せたところ、同じ握りの太さではアダマンタイトでも耐えられないかもしれないという意見が。
「ううむ、となるともう少し柄の部分を太くして耐久度を上げるべきか」
「ダメだ、これ以上握りを太くするとまともに振るえなくなっちまうぞ。カジカワの馬鹿げた筋力の強さでも握力が足りなきゃ手からすっぽ抜けちまう」
「あー、いえ、握りに関してはどうとでもなるのですが……」
「バカ言え。極端な話、そこに置いてある油満タンのドラム缶を片手で振り回すようなもんだぞ? 柄の太さはこのままで、爆発させる際に加減を考えて使うのが一番現実的だろ」
それじゃあ素材を変える意味がない。
武器の耐久度を考えずに思いっきりぶん回せるくらい丈夫に作ってもらわないと、強敵と当たった時にまた壊れてしまう。
……あんまり自分の力自慢みたいなことはしたくないんだけどなー。
「ん? カジカワ、そのドラム缶がどうかしたの……か……!?」
さっき例えに出した、油満タンのドラム缶を魔力で握りの範囲を拡大して、片手で握って持ち上げた。
素の状態じゃちょっときついが、少し気力を使えば問題なく持てるな。
で、持ち上げたドラム缶をブンブン振り回してみせる。うん、これと同じ感覚で振れるならまあ問題ないだろ。
「あの、これなら問題ないと思いますが、どうでしょうか?」
「お前さんバケモンか!? 冗談半分で言ったことをそのまま実践しやがって!」
「……アンタマジで何もんだよ……?」
ゲンさんとヒグロさんがドン引きしながら驚いている。
……なんでちょっと魔力操作とか使うたびにバケモンだのなんだの言われなきゃならんのか。
バケモンっていうのは、草原で見た黒龍とか鬼先生とかアルマの御両親とかのことを言うと思うんだがごめんなさい冗談です。
「ま、まあこれなら握りを太くしても問題なさそうだな」
「うむ! あれなら思いっきり爆発させながら振り回してもらえるというものだ! フハハ!」
「ただ、その分アダマンタイトのインゴットの消費量もちっと増えちまって、値段も上がるからそのつもりでな」
ま、また高くなるのか。
いやまあ肝心の槌頭部分は俺たちが準備したから、加工技術料だけで素材の代金自体はタダで済んでるし、柄のアダマンの代金くらいならさほど痛くないか。
「ところで、今作ってる武器の製作が終わったら次の仕事を依頼したいんだが、どうかな?」
「むむ!? もう次のことまで考えているのかね?」
「ああ。というか作ってほしいものが山ほどあって、しばらく仕事が途切れることはないんじゃないかな」
「フハハ! なんとも景気のいい話だな! 例えばどんなものを作ってほしいか、ザックリとでいいから聞いてもいいかね?」
「ああ。例えば……」
いくつか次の武器や魔道具の製作案を口頭で打診してみる。
始めはいつものように上機嫌で聞いていたが、作ってほしいものの内容を話すと笑顔がだんだん引き攣っていくのが分かった。
うーん、やっぱ作るのが難しいのかな……?
「……マイ・カスタマー、一言、言わせてもらっていいかな?」
「なんだ?」
「えげつないな君は! なんだその悪魔さながらの発想の数々は!? 勇者の武器に負けず劣らずではないか!」
うん。まあ過去の勇者と同郷ですしおすし。
珍しくドン引きした表情のジュリアンが見れたな。お前の作った武器を見た人たちも、多分同じようなリアクションをとっていたんじゃないか?
後ろでその様子を見ていたアルマとレイナとヒヨ子も怪訝そうにその様子を見ている。別に怪しいもの注文したつもりはないんだが。
「……なにを注文したの?」
「カジカワさんのことだから、多分またハチャメチャな武器でも注文したんじゃないっすか」
「勇者の武器みたいにロマン極振りじゃなくて、これでもちゃんと実用的なものを提案したつもりなんだがな」
「確かに効果は高いだろうが、どれも殺傷力が高いうえに属性付きの魔石を使い捨てにするようなものばかりではないか。こんなもの普通の魔具屋に注文してもやってくれるところは限られていると思うぞ……」
「お前はどうなんだ? やっぱ無理か?」
「いや、面白い。是非やらせてくれ! ただ、値段はどれも相当高くつくからそのつもりでな」
……やっぱ高いかー。なんか俺の分の資金がどんどん武器や魔具代に消費されていってるなー。
俺としては料理の材料とかの方にお金を使いたいんだけどなー……。
「そうそう、前に注文してもらってた武器や防具がようやく出来上がったから、試しに装備してみな。不具合があったら遠慮なく言ってくれ」
「おお、ようやくですか!」
「ただ、固有魔獣の毛皮を使った装備はこの暑い時期にゃ不向きだと思うんだがな」
「そうですね。これらは寒い地域に行った時や冬場に着ることにします」
迅雷白虎と金銀オオカミの毛皮は胴当てではなくコートにしてもらった。
あんだけ立派な毛並を革にするのはもったいないなーと思ったから作ってもらったけど、夏場の今じゃ死蔵確定。冬を待て。
「プラチナムコッコの手袋の具合はどうだ?」
「ツヤツヤしてて、物を持つときに滑ったりしないかとちょっと不安でしたがむしろ滑り止めがついてるみたいに持ちやすくなってますね。サイズも丁度いいです」
「羽根の繊維を糸状にするのには苦労したぜ? 専用のスキル技能があるとはいえとにかく時間がかかっちまった」
白金ニワトリの羽根を使ってて、頑丈なうえによく手に馴染む。
手甲と違って指の駆動の妨げにもならないし、これはとてもいいものだな。
「嬢ちゃんの短剣もいい具合にできたと思うが、どうだ?」
「す、すごいっす! なんか刃の部分がバチバチしてるように見えるっす!」
「雷属性の固有魔獣が材料だからな。仕上げの研磨作業の間もずっとバチバチしてて正直ちょっと怖かったぜ……」
「仕上げはヒグロさんがやってくれたんすね。すごく鋭く仕上がってるっすよ!」
≪【Lv1 雷虎の短剣】ATK+185 攻撃に雷属性の追加ダメージを付与。若干の再生機能があるが、現時点では刃こぼれを長時間かけて修復する程度≫
おいおい、単純な攻撃力だけでもミスリルの短剣より強いじゃないの。
そのうえ雷属性が付いてて再生までして、しかもまだLv1だから成長したらさらに強力になると。
……固有魔獣装備、ちょっとどれも強過ぎんよー。
俺の武器も早く完成しないかなー。え、あと1週間かかりますかそうですか。
武器屋から出た足で、街の魔具屋さんに付呪をしてもらうために預けておいたアルマの真珠のイヤリングを受け取りに行く。
見た目は変わってないけど、地味にとんでもない効果を付けてもらった。
その分値も張ったが。20万エンは高いとみるべきか、それとも安いと見るべきか。
……金銭感覚の麻痺が酷い今日このごろ。
≪【マギパールのイヤリング】 イヤリング自体に能力値補正効果は無い。【魔力自動回復】の付呪がされており、2分間に1のペースで装備者のMPが回復する効果あり≫
つまり、これを身に着けてるだけで1時間ごとに30ほどMPが回復するんですよー。なにこれとっても便利。
魔力回復薬は高いし、常にMPの回復ができるのはありがたい。この付呪代だけで魔力回復薬20本買えるけど。
「付呪の効果もすごいけど、なによりよく似合ってるな」
早速アルマの耳に着けてみると、なかなかどうして似合っている。
主張しすぎず、さりげないオシャレの範疇なのが渋くもいい具合に容姿を引き立てている。
「うんうん、さりげないアクセサリっすけど、ほどよく引き立ててくれて綺麗っすよ」
「……ありがと」
ファッションを褒められるのに慣れていないのか、ちょっと恥ずかしそうにしながらも嬉しそうだ。
冒険者なんかやってると、普段からできるオシャレが限られちまうからな。
なお、休日に小奇麗な服を着ると魅力的になり過ぎてまともに出歩けなくなる模様。
この街で残ってる用事は、俺の武器の受け取りくらいか。
レベルが上がってファストトラベルが使えるようになったし、武器の受け取りはいつでもできる。
となると、そろそろ他の街に移動することを考える時期かもな。
つってもなー。今、特に行きたい場所があるわけでもないんだよなー。
メンバーの意見を聞いて、次はどこへ行くか決めますかね。
お読みいただきありがとうございます。




