鬼先生
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……はい、どうもこんばんは。
ただいまいきなり現れた不動明王みたいな魔獣に夜食のカラアゲを食べられている真っ最中。
なに言ってるか分からんだろうけど俺も今の状況がさっぱり意味分からん。
『…』
あ、やばいカラアゲ食い尽くされた!
追加! 追加オーダー入ります! 明日の昼食用に作っておいた豚の角煮ですどうぞ!
『……ムグムグ……』
あ、危ねぇ……! カラアゲが尽きたから、今度は俺が餌にされるんじゃないかとヒヤヒヤしたわ。
……てかどうしよう。このままこの人、……人? じゃなくて鬼か。鬼さんが腹いっぱいになるまで料理を出し続けなきゃならんの? どうしてこうなった。
下手に逃げようとしても、ここに現れた時みたいなスピードで追いかけられたらまず逃げ切れない。
あ、そうだ。ファストトラベルがあるじゃないか。すっかり忘れてたわバカス。
『…グル…』
アッハイおかわりですねヨロコンデー!
あ、アカン、逃げようとか考える前に怖すぎて反射的に料理を出しちまった。
……料理のストックが切れる前になんとかファストトラベルを―――
……!?
『ゴルルル……!』
『グルル……!』
『ググガガ……!』
しまった。目の前の超ヤバい鬼にばっか意識が向いてて、周りの警戒を怠ってた。
いつの間にか周りにオーガの群れが集まってて、俺と鬼さんを取り囲むカタチに。
てかオーガって普段は1体でいるところしか見たことなかったのに、なんで今に限って群れてんだよふざけんな。
『グガァッ!!』
囲んでるオーガの1体が、俺に向かって【縮地】を使って突っ込んできた。
隣にいる鬼さんより先に、まず弱そうな俺から殺ろうってか。
目の前の鬼さんに比べたら、お前らなんか全然怖くないわ。
「でぇりゃぁあああっ!!」
『ゴヴァァッ!!?』
瞬間的に筋力を2000程度まで強化し、俺に向かって突き出してきた腕を掴み、背負い投げで地面に向かって思いっきり叩きつける。
魔力操作で動きを阻害して受け身をとれなくするおまけつき。
モロに胴体を強打してしばらくまともに息ができなくて苦しいだろうけど、先に手を出してきたのはそっちだからね仕方ないね。
『ゴ、ゴルル……!』
それを見た他のオーガが若干怯んでいるように見える。
てかこいつらなんで群れでこんなとこに来てんの?
……ん?
『……グル』
……あれ? なんで鬼さんこっちに向かって戦闘態勢に入ってるの?
もしかしてこのオーガ、鬼さんのお友達かなんかだった?
だとしたらすみません謝りますからその拳を下げていただけませんかあっダメですかそうですk―――
ズパァンッ!! とこれまでの人生で聞いたこともないような快音。
殴られたのが俺じゃなかったらさぞ心地いい音に聞こえただろうな。
鬼さんが拳を構えたと思ったら、気が付いた時には殴り飛ばされてた。
反射的に気力操作で能力値を爆上げしてなかったら、多分そのまま死んでた。
だって、1000を超えてる俺のHPがもう残り80しか残ってないもん。
やばい。気力操作で限界近くまで能力値を強化したのに一撃喰らっただけでこの有様かよ。
あと一発でも喰らったらそれでアウト。死ぬ。死んでしまう。
能力値の差なんか、気力操作でいくらでも埋められると思ってた俺がバカだった。
スキルや能力値じゃ測れない、もっと特別な『ナニカ』がこの鬼さんにはある。
それは多分、これまで潜り抜けてきた修羅場や死線、膨大な戦闘経験、それに伴い何千何万も打ち込んできた拳の数だったりするんだろう。
さっきの正拳突きも速すぎてチラッとしか見えなかった。なのに思わず鳥肌が立つほど綺麗かつ豪快な一撃だった。
こんなもんどうしようもない。敵対した時点で逃げるべきだったんだ。
ああでも、さっきの一撃を見ることができただけでも貴重な体験だったな。
『……グル?』
俺がまだ生きているのを見て、気のせいか鬼さんがちょっと驚いたような顔をしたように見えた。
あの、ホントごめんなさい。調子こいてました。料理だったらいくらでも出しますからもう勘弁してください。
『グガァッ!!』
とか小物感満載な思考を浮かべていると、今度は別のオーガが俺に向かって襲い掛かってきた。
鬼さんにやられた今がチャンスってわけか、そりゃ正解。
事実、今の一撃で気力がすっからかんになっちまったわ。
もう無理。逃げる。メニュー、ファストトラベルで…
『グ、グガッ……!?』
『……』
……?
俺に殴りかかってきたオーガの動きが急に止まった。
なにかに怯えているような、というかこの鬼さんに睨まれて固まってるのか?
『グル』
うわ、急に目の前まで移動してくるのやめていただけませんかね。
なにがしたいんだよこの鬼さん。アレか、『オレの獲物だ、トドメを横取りするな』的な感じなんだろうか。
………ダメ元で、ちょっと交渉してみるか?
ダメだったら即ファストトラベルで帰ろう。メニュー、もしも攻撃がきたら即離脱してくれ。
≪了解≫
「あー、えーと、あの、とりあえず、今日はこのへんで勘弁してもらえませんか……? 見逃してくれたら、またさっきみたいな料理を持ってきますんで」
はたから見てたら、『魔獣相手になに言ってんだコイツ』とか思われるかもしれない。
しかし、メニューの自動翻訳機能の影響なのか、Lv30を超えたあたりから一部の魔獣に対して言葉を話すとフィーリングくらいは通じるようになってきた気がするんですよ。
こないだレベリング中にヘビ公に『胴体固結びすんぞ』とか脅した時に、ヘビ公が怯んでいたように見えたし、簡単な単語くらいは伝わるのかもしれない。
……まあ単なる気のせいの可能性も大いにありえるが、さて。
『グル………フンッ…』
俺の言葉が通じたのか、それとも通じなかったのかイマイチ分からないが低く唸った後に、俺に背を向けてオーガたちの方へ向かっていった。
『ガ、ガルッ……!?』
『グルゥッ……!?』
『グル』
『『『ガルゥッ!!』』』
『あの、トドメささないんですか?』みたいな感じでオーガたちが鬼さんに声を発していたが、鬼さんが短く唸ると全員背筋を伸ばして『了解っ!』的な感じの声を上げた。
てか、このオーガたちはなんなんだよ。鬼さんのお弟子さんたちかなんかなの?
だとしたらどうしよう。俺、鬼さんのお弟子さん何体か殺っちゃったことあるわ。
いや、単に群れのボスがこの鬼さんってだけか。魔獣が弟子なんかとるわけないし。
『グルル』
「あ、どうも」
カラアゲとかを乗せていた皿をこちらに投げて返す鬼さん。
アレか、これは一応交渉成立とみていいんだろうか。……だとしたらよかった。
この鬼さん、強い。果てしなく強い。
単に能力値やスキルレベルが高いだけじゃこうはいかない。一挙一動が洗練されすぎている。
だんだん高くなっていく能力値や、魔力や気力の操作に頼ってばかりで基礎がまるでなっていない俺とは比較にならない。
だから、この鬼さんから学べることは山のようにある。鬼さんの技をちょっとでも学べたら、それは俺にとって非常に大きな収穫になるだろう。
決めた。筋トレついでに数日に一回鬼さんのところに料理を持ってって、その代わりに組手をしてもらおう。
これまで面倒だとか基礎を学んでも大した効果は無いと思い込んでたけど、そろそろそういったところにも目を向けるべき時期かもしれない。
というわけで、これからよろしくお願いします鬼さん。いや、鬼先生。
『……グル』
ビシィッ! と頭に鈍い衝撃と激痛。
「いってぇぇええ!!」
頭の中で変なあだ名をつけたことを察したのか、額にデコピンをかましてきた。
そのせいで残りHPが0になっちまった。……よく今ので死ななかったな俺。
鬼先生は嫌みたいだな。じゃあ鬼師匠とか? あっすみません先生、今後は先生と呼ばせていただきますからデコピンはやめくぁwせdrftgyふじこlp;@
……先生に冗談は通じなさそうだ。まあ魔獣だし当たり前か……。
お読みいただきありがとうございます。




