師(死)との出会い
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前回の閑話の最後のちょっと前のお話になります。
真・エクスプロージョンバスターの製作が終わるまで、おおよそ2、3週間ほどかかるらしい。
それまではその製作費の残りを稼ぐため、また地力の底上げのためにひたすら魔獣山岳でレベリングをしながら過ごすことに。
で、その魔獣山岳で、現在いつものように丁度いいレベルの魔獣を二人のもとに運んでいるところです。
「はい、こっちはハイマウンテンベア。Lv30台で、ハイケイブベアとほぼ同等クラスの魔獣だな。言うまでもないと思うが、牙と爪の攻撃に気を付けて。四足獣スキルの轟突進にも注意するように」
『グゥジャアアアアッ!!』
「わ゛あああっ!? く、クマっすー! いやぁぁあああ!!」
「……どんだけクマに対してトラウマ抱えてんだ。大丈夫、今のレイナなら気力操作を使えば全然余裕だってば」
魔獣山岳に生息している魔獣は、意外と種類が多い。
単にレベリングをするだけじゃなくて、魔獣ごとの立ち回りの違いなんかを学ぶには持ってこいの場所だろう。
まあ、どの魔獣も食べられるようになるまでの仕込みや加工が手間な奴ばっかりだが。あるいは虫型の魔獣やオーガみたいに食用に向かない奴とかもいるし。
『グジュジャガアアアア!!』
『コケェッ!!』
『ギャグフアッ!?』
レイナに対して威嚇を繰り返すクマ魔獣を、気力で膂力を強化したうえで魔力操作で強化した魔爪・疾風で蹴りつけるヒヨ子。
凄まじい速さと力強さの蹴りを受けたクマの身体が、数メートルばかり吹っ飛んだ。
「ひ、ヒヨコちゃん……?」
『ココッ、コケッ』
「『やらないなら、私がもらうぞ腰抜け』的なこと言ってると思う。……お前、なんか最近口が悪くないか?」
「む、むきーっ! 腰抜けとはなんすか! こんなクマ自分の力だけで充分っすよ!!」
レイナとヒヨ子はダンジョン攻略してからレベルに差が無くなって、互いに対抗心を燃やしながらレベリングしているようだ。
結果として強力な魔獣に対しても尻込みせずに、非常にスムーズにレベリングをすることができている。
『ギャアァアア!!?』
「ヒカル、次をお願い」
……で、アルマの方のレベリングですが、極めて順調というか、むしろ鬼気迫る勢いで魔獣を狩っていらっしゃいますね。
今日だけで既にLv40台の魔獣を21体。例の必殺技も使わず、淡々と手早く魔獣の首を狩ったり複数の属性の攻撃魔法を同時に使ったりして仕留めている。
……このペースだと、武器が完成するまでにこの近辺の魔獣が死滅しそうなんですがそれは。
「アルマ、そろそろ休憩しないか? ちょっとハイペースすぎる気が……」
「大丈夫。魔力もスタミナもまだまだ余裕」
確かに、あれだけの数を仕留めておいて、MPSPともにまだ半分以上残っている。
しかし、俺が心配しているのは体力や魔力やスタミナの問題ではなく、精神的な負担のことだ。
あのクソデカミミズとの戦いの際に、俺がアルマを庇って半身ミンチになったことを気に病んでいるのか、どうにも無理をしているように見えてならない。
俺の気のせいならそれでいい。でも、俺のせいでアルマが無理をするようになるのはいただけない。
いや、違う。そうじゃない。そもそも先に無茶をしでかしたのは―――
「アルマ、いいから休め。ここ数日、無理しているようにしか見えないぞ」
「…そんなこと、ない」
「……ダンジョンの最深部でのことは、本当にごめん」
「……違う! ヒカルが謝ることじゃ—―」
「無茶するなってアルマから何度も何度も言われてるのに、いつもあんな有様じゃあな」
「だから、そんなんじゃない! アレは私が油断したせいで起こったことなの!」
「無茶する側は、それがどれだけ他人に心配をかけているか、他人が無茶しているところを見て初めて分かるんだなって、今のアルマを見ていて思ったよ」
「……っ!」
俺の言葉に目を見開いて、驚いたような顔を見せた。
「……俺が言えた義理じゃないだろうけど、無理しすぎないでくれ。俺も、無茶しないように気を付けるから、な?」
「……本当に、無茶しないって約束してくれるなら」
「ああ、約束する」
「…分かった、休む」
そう言うと、どこか無理をしているような雰囲気が、少し和らいだ気がした。
…うん、何事もほどほどが一番だよな。俺も、気を付けよう。
「フゥーハハハー! あれあれぇ? ヒヨコちゃんもうバテちゃったんすかー? 自分はまだまだ余裕っすよぉ?」
『コ、コケェッ! コケーッ!!』
……後ろのマスコットたちにもそろそろ休憩するように言っておこう。
さて、レベリングも大事だが、努力値を上げるための新しい筋トレなんかのことも考えないとな。
夜の間に宿でやろうとしたら床が抜けかかって本気で焦った。……目立たず迷惑にならない筋トレの場所っていったら、やっぱこのあたりがよさそうだよな。
今晩、ファストトラベルでこっそり抜け出して筋トレしてみるか。
というわけで、やってきました夜の魔獣山岳。
昼間と違って、活動している魔獣が夜行性のものに変わっていて、ちょっと普段と違う顔の山々を見ていると新鮮な気分だ。
んー、筋トレのために来たのはいいけど、夜なのにどこも魔獣だらけで邪魔になりそうだなー。
おお? あの山のてっぺん、なぜか魔獣の気配が無いな。
丁度よさそうだし、あそこで筋トレするとしましょうか。
あの山のてっぺんは、意外にも真っ平らに近く、筋トレ以外にも走り込みなんかをするのにもよさそうなくらい広いみたいだ。
なぜか魔獣も寄り付かないし、基礎錬にはうってつけだ。では、新しい筋トレを開始しますか。
魔力を、筋肉の動きをあえて阻害するように纏わせて、身体にかける負荷を増加させる。
まるで某野球漫画の大リーグなんとかギプスみたいだが、あれって野球やるうえであんま意味無いとこ鍛えてるらしいね。……話がまた脱線したな。
さらに魔力を地面側に引きつけて、数十kgから百kg強もの重量を加える。
この状態なら、高すぎる能力値に甘えることなく『素の身体』の筋肉を鍛えることができるから、努力値もジワジワ上がっていくことだろう。
う、うむ、凄まじい負荷だな。魔力を纏ってるだけで疲れてくるわコレ。こりゃ効果ありそうだなー……。
で、筋トレや走り込みを開始してからたった20分で息切れ。
う、うぐぐ、素の状態なら数時間続けても大丈夫なくらいなのに、能力値の恩恵が無い状態だとこんなに早くバテるのか……!
だが、久々にちゃんと自分の身体が鍛えられているのが実感できている、気がする。
これを毎日続けていれば、努力値の分の補正もバカにならんだろう。
ううむ、しかし久々に魔獣討伐以外の運動でいい汗をかいた、のはいいがそのせいかもう夕食を済ませた後なのに小腹が空いてきた。
……この時間になって食事をとるのはちょっと罪悪感あるけど、今日くらいはいいだろ。
さーて、そうと決まればアイテム画面に入ってる作り置きのカラアゲでも食べますかね。
うーむ、美味い。運動した後の飯はやっぱ格別だなー。
作りたての料理をそのままの状態でしまっておけるって、やっぱ便利やわー。
これ食べて、食休みしたら今日はもう帰ってシャワー浴びて寝よう。
≪警告:超強力な魔獣がこちらに急接近している。速やかな離脱を―――≫
え、なに?
メニューが急に警告画面を開いたかと思った瞬間、目の前にソレは現れた。
魔力感知による警戒すら意味をなさない、圧倒的なスピードで、気が付いたらそこにいた。
『……』
「あ、あ、あ………」
呆然とするしかない。
『魔力飛行で逃げる』とか、『ファストトラベルで離脱』とか、後になっていくらでも逃げられる方法はあると気付いたが、この時は『あ、俺死んだ』としか考えられなかった。
俺の目の前に立ったソレは、人型で身長は約2m程度。
筋肉質ではあるがオーガやホブゴブリンより体格自体は小さい。
しかし、しかしだ。目で見て、肌で感じられるプレッシャーが違い過ぎる。
オーガがまるで赤子のように感じられるほどに、その存在感の大きさは圧倒的なものだった。
あと顔が怖い。怖すぎる。
オーガの顔が鬼のようだと例えるならば、こちらは金剛力士像というか不動明王というか某拳を極めし滅殺おじさんのようだというか、威厳と荒々しさがが両立した迫力のある強面だ。
ステータスを確認した時に、その強さは絶望的な確信へと変わった。
なんだよ【★拳の鬼神 Lv96】って!?
なんだよ攻撃力4400って!? その他ステータスも軒並み3000台以上で、俺が全力で瞬間的に気力操作をしてどうにかギリギリ対応できるかどうかという、圧倒的能力値。勘弁してほしい。
なにこの、なに? こんなん、どうあがいても絶望ですやん。
オーガどころか暴食スライムすらまるで比較にならない、下手したら魔獣草原で見た黒龍より強いんじゃないかこれ?
これを倒せる可能性があるとしたら、アルマの御両親くらいなもんだろう。それもコンビでどうにか、といったところか。
つまり、俺じゃ相手にならん。死ぬ。死んでしまう。
無茶をしないと約束したばかりだったのに、早くも破って死んでしまうことを心の中でアルマに謝りながら鬼神を眺めていると
『…ハグハグ……』
「……はい?」
なんか、俺じゃなくて、カラアゲの方に興味がいったらしく、手づかみで美味そうに食べ始めたのが見えた。
……なにこの、なに?
いや、ホント、なに?
お読みいただきありがとうございます。
>閑話と本編を分けるなら――
確かに、閑話はあくまで閑話ですので、仮に閑話で登場したスキルなんかを本編で登場させる場合はちゃんと本編でも解説いれるようにしようと考えています。
閑話が多すぎると感じられているのであればすみません(;´Д`)
目安としては大体10話に1、2話くらい閑話を挟んで箸休めをしたいところです。本編もなるべく早く進めたいと思ってはいますが、どうかご容赦を。本当に申し訳ない。
>ちょっと待てぇ...最後なんか違うのが――
はい、そのなんか違うのが今回出てきた鬼神先生です。
出会い方が我ながら雑すぎる気がしないでもない。
あとまだカジカワは人間やめてません。まだ。……まだ?




