閑話② 各パーティのレベリング 後編
新規の評価、ブックマーク、そして誤字報告ありがとうございます。
ステータス画面の抵抗値の頭文字のスペルを間違えている致命的ミスorz
急いで全部直しておきます(;´Д`)
お読みくださっている方々に感謝します。
今回は、三人娘ことフィフライラ・シウルマーニ・ミオクスメルのシウル視点からスタートです
「あー、やっと終わったわぁ……今回の依頼はかなり面倒だったわね」
「魔獣のテリトリーでもない洞窟の中にコロニーを作るなんて、変なアリだったね。うぅ、思い出しただけで気持ち悪くなってきた……」
「巣の中はかなりの広さだったな。おかげで掃除し終わるまで2週間もかかっちまった。ああ、もうしばらくアリは見たくもないよ……」
クタクタになりながらギルドへ戻って、依頼達成の報告を終えて宿に戻る道中に愚痴を漏らす三人。
街の近くで、アリ型の魔獣の巣ができてしまったから駆除してほしいって依頼だったが想像以上にてこずっちまった。
3人とも、もう疲労困憊で今日はもうさっさと宿で休みたい気持ちでいっぱいだ。
「洞窟の中だから派手に爆発系魔法を使ったりしたら崩落の危険があるし、弓のリーチも制限されて戦いづらかったなー」
「そのせいで前衛の私ばっかりアリどもの相手をするハメになって、すぐにスタミナ切れになって大変だったわー……」
「でも、そのおかげでフィフラちゃんすごくレベルアップしたよね。もうちょっとで中堅職になれるよ」
今回のアリ討伐が思わぬレベリングになり、アタシがLv22、ミオルがLv23、フィフラがLv24までレベルを上げた。
依頼を受ける前は全員Lv21だったのに、微妙に差がついちまったなー……。
というのも今回の依頼はちっとアタシに、というか弓使いには相性が悪かったから仕方ないってのは分かるんだが。
フィフラは前衛でガンガンアリどもを倒していたから一番経験値が入っている。
ミオルは補助魔法でそれをサポートしていた分、何割か経験値を分けてもらってたからこっちもそこそこレベルアップしている。
で、アタシは遠距離攻撃が制限される洞窟内じゃ上手く攻撃できなかったから、1しかレベルが上がらなかった。
「毎日毎日、斬ったアリどもの体液でドロドロになるのは本当に嫌だったわ。もうアリの駆除なんかゴメンよ!」
「それでも、最後まで投げ出さずに依頼を達成するあたり、フィフラちゃんってなんだかんだ言って真面目だよね」
「いやいや、途中で投げ出したらそれまでの苦労がパアになるし、なんか癪じゃないの」
「冒険者としての責任感とか、依頼を反故にした時の罪悪感とかはどうでもいいのかよ……」
「短期間でここまでレベルアップできたのは大きいわよー。物騒な今のご時世、早くそれなりの実力を身に着けないと自分の身もまともに守れないだろうし」
そこはまあ同意しとく。
欲を言えばアタシももうちょっとレベルアップしたかったけどな。
自分たちの身くらいは自分たちで守れるように。そう意識してレベリングに精を出し始めたのはダイジェル近くのダンジョンで下手を打った時からだ。
前衛のフィフラが罠にかかって孤立したうえで気絶させられ、フィフラを助けようとしたアタシとミオルは魔獣に囲まれて絶体絶命の状況に陥っていた。
……もしも、アルマとあのオッサンが助けてくれなかったら、魔獣共の餌か慰み者になっていただろう。
あの時のことを思い出すだけで身震いする。
魔獣の餌食になりそうだったこともだけど、それ以上に怖かったのはあのオッサンだ。ナンダアレ。
……ホブゴブリンを一撃で仕留めたり、投擲武器の代わりに魔獣を投げ飛ばしまくって攻撃したり、挙句の果てになんか帯電して自分ごと魔獣を感電させたり。
字面だけ見ても意味不明だけど、実際に見たアタシらはもっと理解が追い付かなかった。
これ以上思い出すのは止めにしよう。うん。
宿屋に帰って、夕食を済ませてようやく人心地ついた。
明日くらいは久々にゆっくり休みたいもんだ、まったく。
フィフラが食後に茶を啜りながら新聞を広げている。
なにか面白そうなニュースでも入ってきてるのかな。
「イルユディでスタンピード、第3大陸最大の都グルルラン滅亡、対魔族軍募集……気が滅入るようなニュースばっかりね」
「し、仕方ないよ。魔王が復活しちゃったんだから、魔族も復活して暴れまわってるんだし。……そ、それにほら、2カ月後に第5大陸のフィリエ王国で武術大会開かれるってさ。悪いニュースばっかりじゃないみたいだよ?」
「武術大会ねぇ、気晴らしに見物に行ってみるのも良さそうね」
「もしかしたら、魔王復活と同時に召喚された勇者も出場するかもな。………お、その勇者サマの記事もあるみたいだぞ。しかも写真付きで」
「うわ、可愛い! ゆ、勇者様って女の子だったの……?」
「過去の勇者たちは大体男だったみたいだけど、女が召喚されることもあるのかもな。第1大陸で武者修業開始だってさ。………ん、どうしたフィフラ?」
勇者が仲間と一緒にいる写真を見た直後、フィフラが新聞を見たまま石のように固まった。
数秒間ほど硬直したかと思うと、フィフラの身体が小刻みに震えているのが分かった。
「え、えっと、フィフラちゃん、なにか気になることでもあったの……?」
「あ……あ……あ……!」
「……あ?」
「あんのバカァッ!! なんで勇者なんかと一緒に居るのよレヴィアぁあああっ!!!」
憤怒の表情で、怒号を発するフィフラ。
い、いったいどうしたってんだ!?
「きゃああっ!!?」
「お、おい落ち着け! 周りの客の迷惑になんだろうが!」
「あーほーかーっ!! こうしちゃいられないわ! 今すぐにでもレヴィアを連れ戻しに行くわよっ!!」
今すぐにって、もう夜じゃねーか!
ていうか『レヴィア』? 確か、フィフラの妹さんの名前ってレヴィアリアって名前だったよな。
え、もしかして写真の中で勇者の隣に立ってるのって、フィフラの妹なのか!?
……いったい、なにがあったら勇者なんかと一緒に行動することになるんだよ。
てか落ち着け! なに荷物纏めようとしてんだ!?
こんな時間帯に馬車の便なんかあるわけねぇだろ!
~~~~~勇者視点~~~~~
………今日も、無事に生き残れた。
いや死んでも再召喚されるから、たとえ修業の末に力尽きても大丈夫っちゃ大丈夫なんだけどね?
でも、限界ギリギリまで追いつめられるとそんなこと関係なしに生存本能が働くのか、生きている実感が普段とは比べ物にならないほど強い。
「はい、今日の修業はここまでー。いやー、みんな思った以上にアンバランスでお姉さんビックリよー。素質は悪くないんだけどね」
一見まるで女神のような笑顔で、今日の特訓の終了を告げるアイナさん。
しかし騙されてはいけない。
この人は優しげな顔かつ穏やかな声で、とんでもないことをサラッと言ってくる鬼教官だからだ。
「うーん、当面の目標としてLv30台の魔獣を1日20体以上仕留めるって決めたのに、たったの12体かー。ちょっと仕留めるのに時間と体力使い過ぎじゃないの?」
「い、いえ、オレたちまだLv20前後なんですけど。一回り以上レベルに差がある魔獣を20体なんて無茶ですよ……」
「なにを言うかねネオラ君。別に単騎で仕留めろなんて言ってるわけじゃないのよー? ちゃんとパーティで連携をしっかりすれば楽勝でしょ。はたから見てても明らかにみんな、動きに無駄が多すぎるよー」
そりゃLv70超えてるアイナさんからしたら、まだまだ経験の浅い未熟者だろうから無理もないだろうに。
「オリヴィエちゃんは冒険者としての基礎基本はしっかりしてるけど、ちょっと基礎体力が低すぎるね。走り込みとかしてもっと持久力をつけないと」
「は、はい。頑張ります」
「逆にレヴィアちゃんは基礎がおろそかだけど、戦闘中に面白い立ち回り方をしていたね。槍をぶん投げたのと同時にクイックステップで近付いて拳法で攻撃したりとか。ただ、もうちょっと周りとの連携を意識して行動した方がいいよー」
「……はい」
確かに、オリヴィエは病気で身体がなまっていたのか戦闘中にすぐ息切れしていた。
そしてレヴィアはちょっと一人で突っ走り過ぎてオレの攻撃やオリヴィエの魔法の邪魔になってることが何度かあったな。
「そんで最後にネオラ君。豊富な量のスキルと高い能力値を持っているのにまるで使いこなせてないねー。秘めてるスペックはダントツなんだから、まずはそれをどう使うかを一つ一つ考えるべきだね」
「はい。オレ自身もそう思います」
「というわけで、ネオラ君は晩御飯の後にアタシと組手をしてもらいます。まずはアタシに一撃入れることを目標にしてみましょー」
「……はい?」
え、ちょっと待ってくれませんか。
こちとら日中の修業だけでもバテバテで、もう今日は泥のように眠りたいくらいなんですが。
こんな状態でさらにアイナさんと組手をしろと? 冗談でしょ? 死ぬよ? いや死んでも生き返るけどさ。
「拒否してもいいけど、その場合は今晩アタシがネオラ君の寝室に忍び込んで――」
「ありがたくやらせていただきます!」
「…チッ。それじゃあ、晩御飯の後にねー」
危ねぇ! おちゃらけた口調でなんか言ってたけど、ありゃ冗談じゃなくて本気の目だった!
その証拠になんか舌打ちしてたし、こりゃ組手も気合入れてかないとなにされるか分からないな。
……オレ、無事にこの人との修業を終えられるのかな……。
「ね、ネオラさん、頑張ってください。私も、基礎体力をつけるために走り込みをしていますから」
「私も、皆の邪魔にならないようにちょっと立ち回り方の勉強をしておくわ……」
オリヴィエとレヴィアの二人も、それぞれの欠点を補うために自分から頑張ろうとしている。
なのに、オレが弱気になってどうすんだ。情けない。
しっかりふんどし締めて気合入れていくか。熱血なんてガラじゃないけど、オレも二人の頑張りに応えなくちゃな。
……さーて、どんな地獄が待っているのやら。きっとボコボコにされるんだろうなーガクブル。
とか思ってたけど、別の意味で地獄だった。いや人によっちゃ天国かな?
「ネオラ君、踏み込みの仕方がちょっとぎこちないよー。ここはもっと力を抜いてーうへへへ」
「ちょっ、なんで足を撫でてるんですか」
「んー、ふざけてるわけじゃないよー? 分かりやすく丁寧に、かつ手早く教えるためにやっているだけであって、決してなんか下心があるわけじゃ、ああ~スベスベで気持ちええんじゃ~~」
「いやいやいや! 手付きと顔と言動がセクハラオヤジのそれじゃないですか!」
組手をしながらこっちの一挙一動を事細かに修正しようと指摘してくれてるんだが、そのたびにオレの身体にベタベタスキンシップをとってくる。
美人のお姉さんに触られるのは正直ちょっと嬉しくもあるけど、さすがにここまでくると……。
「んふふー、たーのしーなー」
「いややっぱアンタセクハラしたいだけでしょ!? 真面目にやってくださいよ!」
「もー、軽い冗談だってばー。大丈夫だよー、2ヶ月後にはみんな今とは別人のように強くなれるようにしてあげるからねー」
「2ヶ月後? そのあたりでなんかあるんですか?」
「うん。第5大陸で武術大会が開催されるから、とりあえずそこで優勝できるくらいまで鍛えてあげるからそのつもりでー」
「武術大会、ですか」
いや、たかだか2カ月修業した程度で優勝とか無謀でしょ。
それとも、今日以上に死ぬほどの特訓を繰り返して無理やり出場できるレベルまで鍛えられたりするんだろうか。コワイ。
……この2カ月の間、果たしてオレは何度死ぬハメになるのやら。
~~~~~カジカワ視点~~~~~
夜の魔獣山岳、その一番高い山の天辺。
今日も手土産を持って、『先生』のもとへ向かう。
「こんばんは。今日は鳥の照り焼きとトンカツを持ってきました」
洞窟の中で寝っ転がってる先生に手土産を渡すと、すぐに持ってきた料理を美味そうに食べ始めた。
先生は肉料理が好物のようで、野菜はあまり食べないようだ。
多分、肉食獣みたいに体内でビタミンなんかを合成できるんじゃないかと思う。
まあ見た目からして、普段から生肉食っててもなんの違和感もないくらい強面だし、きっとそうだ。
料理を食べ終えると立ち上がり、こちらを向き臨戦態勢に入った。
……食休みなんかはいらないんだろうか。わき腹痛くならないのかな。
まあいいや、向こうがやる気なら、こちらも応えるとしよう。
「では、よろしくおねがいします、先生」
『グル』
軽く礼をした後に、固有魔獣【拳の鬼神】先生との修業が始まった。
……さて、今日は何秒もつかな俺。
お読みいただきありがとうございます。




