閑話① 各パーティのレベリング 前編
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俺の名はダランディズマ。
Dランクパーティ『天空の竜』のリーダーを務めているナイスガイだ。
今月に入ってようやくDまで上がった。心機一転、気を引き締めていかねぇとな。
「リーダー、ノックの奴のレベルがやっと16まで上がりましたぜ!」
「あの黒髪のバケモンの顔を殴って、しばらく拳を痛めてたけどやっと本調子に戻ったぜ! ハハハ!」
「ヒャッハー! よぉし! 今日はもう飲み行こうぜ飲みに!」
……このバカ野郎どものリーダーなんか務めてる自分が時々情けなくなってくる、こともある。
全員、成人前から付き合いのある奴らだが、どうにも頭が弱いというかなんというか。
魔獣の討伐依頼を兼ねたレベリングを始めてからまだ1時間も経ってないのにこの騒ぎ。飲みの酒代どころか宿代も危ういことも分かんねぇのか…。
「まだだ。最低でも20体は狩らねぇと話にならねぇぞ」
「えー、ここ最近ちっと気ぃ張り過ぎじゃねぇですか? たまには息抜きしましょうや」
「そうそう、行きつけの酒屋に新しく入ったウェイトレスの嬢ちゃん、中々可愛いですぜ? 今すぐ行ってみたくねぇですか?」
「てめぇらは気ぃ抜き過ぎだっつの! ったく、こんな有様だからあの黒髪コンビにも軽くあしらわれるんだろうが」
数ヶ月前に、パラディンの小娘『アルマティナ』をパーティに入るように勧誘したが、一緒に歩いてた黒髪の野郎に邪魔された時のことが頭をよぎった。
アルマティナの使う【魔法剣】とかいうスキルは、とんでもなく強いはずのウェアウルフを一撃で仕留めるほどの威力があった。
あの力があればもっと楽にのし上がることもできたかもしれねぇが、ないものねだりしても仕方ねぇ。
ガラじゃねぇが、週2日の魔獣討伐を3日に増やして地道にコツコツ地力をつけてるところだ。
「いやいや、ありゃ仕方ねぇって」
「顔を殴った手の方がヒビはいるわ、縮地を使うわ、聞いた話じゃ剣を素手で切ったとかいう噂もあるような野郎ですぜ? 相手が悪すぎたんすよ」
……まあ、こいつらの言ってることも分かる。
ありゃどう考えてもEランクの強さじゃなかった。控えめに言ってバケモンだ。
縮地が使えるってことはおそらくBランク以上、下手したらAランクに届くかもしれない。
そんな奴がなんで成人して間もないアルマティナと組んでいるのやら。ロリコンかなんかかアイツ?
「今月中に、全員基礎レベルを20以上まで上げる目標だってこと忘れてねぇよな? あと3週間だが、このペースだと1週間に1回はレベルを上げなきゃならねぇぞ」
「そりゃちっときつくねぇですか?」
「ちょっと前まではひと月に1でもレベルが上がりゃいい方だったのに、最近のリーダーなんか焦ってねぇか?」
「そりゃ焦りもするわ! 魔王が復活してから世界各地で魔族どもが侵攻してんだぞ、今のなまっチョロいレベルのまんまじゃすぐにやられちまう」
「このあたりで魔族が出たって噂は聞かな……いや、ヴィンフィートで魔族が古代兵器の封印がどうたらって話があったっけな」
「それ結局またすぐに封印されて、ほとんど被害が出なかったらしいけどな」
そう、魔族の手はもうすぐ近くまできている。
もしも、そいつらの破壊活動なんかに巻き込まれでもしたら、今のままじゃ終わりだ。
「てめぇらが明日より今日だって心構えで酒に逃げるつもりならもう止めねぇ。俺一人でも魔獣討伐を続けっから好きにしな」
「ま、待ってくれよ! 悪かったから、そんな不機嫌になんなよリーダー」
「分かったらさっさと次の獲物を見つけんぞ! 酒だったら終わったあとに浴びるほど飲みゃいい!」
「聞いたか野郎ども、飲み放題の許可が出たぜぇぇえ!!」
「「「「ヒャッハー! 酒だぁああ!!」」」」
「終わった後だっつってんだろうがバカ野郎!!」
……こんなバカどもでも、一応俺についてきてくれてることには変わりねぇ。
せめて自分の身は自分で守れるくらいにはしてやらねぇとな。
……ところで、新しいウェイトレスってどんな娘だろうか。
~~~~~ラスフィ・バレド視点~~~~~
「ゼェ、ゼェ、ら、ラスフィ、今日はもう、このへんで、いいんじゃないか……?」
「はぁ、はぁ、い、いや、まだだ。まだいける……!」
「いや、まだいけるは、もう危ないって冒険者の基本の格言が…」
「万が一に備えて、回復ポーションや魔力回復ポーションなどもいくつか用意してある。力尽きそうになっても大丈夫だ」
「そう言って、こないだフラフラの状態でハイゴブリンに囲まれて死にそうになったばかりだろうが。これ以上は無謀だろ」
最近のラスフィはどうにもなにか焦っているように見える。
というか、ダイジェルのスタンピード以来ずっと強くなることに対して貪欲なまでに熱心だ。
あのスタンピードで、なにかあったんだろうか。
「魔族対策なんかのために強くなろうと必死なのは分かるけどよ、最近少し焦り過ぎじゃねぇか?」
「……そうかもしれない。でも、もしもの時に私の力不足でとりかえしのつかないことになったら、と思うと、どうしても落ち着かないんだ」
「いや、こないだのハイゴブリンにリンチされそうになった時も、わりと本気で死を覚悟したんだが……。あれ以上にとりかえしのつかない状況ってのもそうそうないと思うぞ」
「……そうかもしれないが、ダイジェルのスタンピードの時のように、お前が倒れてしまった時に守り切れなかったりしたら……」
待て待て、なんで俺が守られること前提で考えてんだ? 普通逆じゃねぇか?
「あの時に、もしもアルマティナや飛行士が助けてくれなかったら、最悪死んでいたかもしれない」
「……まあ、そうだな。油断しちまって、気ぃ失っちまったのは自分でも間抜けだった」
「強さというものには際限がない。基礎レベルが28にまで上がった今でも、まだ自分は弱いままなんじゃないかと不安で仕方がないんだ。……だが、すまない。確かにお前の言う通り少々焦り過ぎていたかもしれないな。……今日は、もう帰ろう」
「あと1体」
「……なに?」
「あと1体だけ倒してから帰ろうぜ。不安は消えねぇかもしれねぇが、気休めにはなるだろ」
あのスタンピードの時のことを言われると、こちらも強く言えねぇ。
俺があの時ヘマしなきゃ、ラスフィがこんな変に気負うようなことにはならなかっただろうに。
だから俺は、不安にならないように、かつやりすぎないように適度にガス抜きできるところを示してやるくらいはしてやらないとな。
「分かった、あと1体だけ見つけようか………ありがとう」
「礼なんかいいさ、水臭ぇ。お、丁度よくなんかこっちに近付い……て……」
和やかに会話してるところに、なにかが近付いてくる気配が。
こいつを仕留めて帰ろうかと思ったが、その姿を見て固まる俺とラスフィ。
『ハルルグルル……!』
ダイジェルのスタンピードの際に気絶することになった原因、ウェアウルフ。
そいつが1回進化した魔獣、ハイ・ウェアウルフ。そいつが目の前に迫っていた。
……今の状態じゃLv30以上の魔獣はさすがにキツい。
「やっぱさっきのなし! 逃げるぞっ!!」
「あ、ああ……」
釈然としない表情で頷くラスフィ。……命あってのものだねだ。許せ。
これはあのオオカミ野郎が怖くて逃げたわけじゃない、戦略的撤退だ! てか速ぇなコイツ! 逃げ切れるのか俺ら!?
~~~~~ラディアスタ視点~~~~~
やっと、やっとLv25に到達した。
中堅職の『短剣剣士』にジョブチェンジして、能力値とスキルレベルが上がったのが分かった。
見習いから駆け出しにジョブチェンジしたのがついこないだのことのように感じられる。
いや実際ふた月前くらいの話だけどさ。
狩場を魔獣草原の黄緑エリアから黄色エリアへ早いうちから変えておいて正解だった。
初めの間は魔獣を1体倒すだけでも死ぬ思いをしていたけど、今なら同レベル帯の魔獣相手ならサシなら余裕、複数相手でもなんとか戦えるくらいにはなった。
一人でも、できないことはないんだ。
でも、やっぱ寂しい。
寂しさを感じるたびに、実家の母ちゃんや弟の顔が浮かんでくる。
少し遅れてカジカワさんとアルマ姉ちゃん、そしてレイナと一緒にいた時のことを思い出す。
………おれ、なんでこんなことやってるんだっけ。
アイツのいるところへ、いつか行くため。
アイツよりもずっとすごいヤツなんだって認められて、アイツを見返してやるため。
アイツを、みんなのところへ引きずってでも連れていって、それで――――――
ああ、やめやめ。
せっかく中堅職になれたんだ。今日はさっさと帰って休もう。
カジカワさんにもらったレシピの料理もうまいけど、今晩くらいは飯屋で思いっきり贅沢してやる。
金も充分貯まったし、装備を整えたら早速第5大陸へ向かうか。待ってろ新天地!
あー、腹減った。今日は何食おうかな。思い切ってあの『海鮮丼』とかいう生の魚料理でも食ってみるかな。
……生の魚って、どんな味だろうか。
翌日、その海鮮丼に中って死ぬほどの腹痛に襲われて、出発するのが1週間ばかし遅れた。
もう二度と生の魚なんか食わねぇぞチクショウが!!
お読みいただきありがとうございます。
べた褒めのお言葉をいただき、気を緩めちゃいけないとおもいつつ画面の前でニヤニヤが止まらなくなってしまいました。ワタシキモイ。
拙い腕で書かれている小説ですが、今後もどうか暇つぶしにでもお読みいただければ幸いです。




