ギリギリの鍔迫り合い
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今回もアルマ視点です。
鍔迫り合いのように、巨大化した剣身と魔獣の牙の押し合いの状態に。
少しでも力を抜けば、そのまま押し潰されてしまうだろう。一瞬も気が抜けない、ギリギリの状態。
『ヴヴヴヴがギギギヴ……!!』
「くぅっ……ううぅ……!」
【大地剣】を獲得して辛うじて突進をしのぐことができたけど、それでも状況はこちらが不利。
ヒカルの気力強化がどんどん弱まっていくのを感じる。もうすぐ効果が切れる時間なんだろう。
さらに私の気力ももう残り少ない。もうこれ以上能力値の強化はできない。
それに対して、この魔獣は魔力もスタミナも十分すぎるほど残っている。
ダメージもさほど受けていない。さっきの火炎剣と伸魔刃の合わせ技も魔獣の体格を考えると致命傷には程遠いだろう。
このままじゃジリ貧だ。こっちの気力と魔力が尽きた時点で押し負ける。
その前に、勝負に出るべきだ。
残りの気力を全て使って瞬間的に筋力を強化して、押し切――
『ヴァヴォァァァアア!!』
「うぅ…!?」
いけない、こっちより先に魔獣の方が【気功纏】を使って能力値を強化してきた。
まずい、まずい。すぐに気力強化を、ダメだ、押し負ける……!
『ピピッ!』
「! ……ヒヨコ? なにを……!?」
急にヒヨコが私の肩に乗ってきて、それと同時に体中に力が漲ってくるのを感じた。
そうか、気力強化は自分だけじゃなくて、他人に対しても使える。
ヒヨコが、自分の気力を使って私の能力値を強化してくれたんだ。
「……ヒヨコ、ありがとう。このまま、押し切る!」
『ヴァガギィィイイイ!?』
不利な状況から、一気にこちらの方の力が上回った。
困惑したような叫び声を上げながら踏ん張る魔獣。いい加減倒れてほしい。
『ゲ、ゲ、ゲヴォォア!!』
っ!
最初に放ってきた消化液!?
だめだ、力を抜けないこの状況じゃ避けられない!
魔法で迎撃、いや、もう魔力も残り少ない。
迎撃した時点で魔力不足に陥って、そのまま押し負けてしまう。
……なら、溶かされながらでも押し切ってやる!
「アルマさん! 自分が防ぐっす!!」
レイナが叫びながらクナイを投影して、さらに巨大化させて盾代わりに構えた。
消化液のかかったクナイがみるみる溶けていく。
『ヴォヴッ! ヴォェ! ヴォゲヴォァ!!』
「この、ゲーゲー吐き過ぎっすよ! 二日酔いかなんかっすか!?」
悪態を吐きながら、さらにクナイを創り出して防ぎ続けるレイナ。
クナイを創るたびに魔力が大幅に減っていくのが分かる。そう何度も防げる状態じゃない。
もうここで、決めるしかない!
魔力不足になることを覚悟で、全力で強化した【魔刃・疾風】を発動する!
「ああぁぁああっ!!」
『ヴォギャアアゥゥウウウ!!?』
大地剣の刃が、魔獣の顔を切り裂いて食い込んでいく。
このまま真っ二つにすれば、いくら魔獣の生命力が強くても死ぬはず。
お願い、このまま……!
「う、うぅ………!!」
『ヴヴヴヴ……! ヴォヴァアアア!!』
身体がだるい。魔力不足に陥ったみたいだ。
力が入らない。眩暈がする。立って剣を構えているのが精一杯。
それに対して、魔獣は身体の3割ほどを縦に切り裂かれたけど、まだ、死んでいない。
頭が斬られているのに、なんで生きているんだろう。蟲の生命力って、本当に不思議だ。
益体のない思考を交えながら、少しずつ大地剣を押し戻し、こちらをゆっくりと押し潰そうとする魔獣を眺める。
「あ、アルマさん……自分の、魔力を……!」
「レイナ……ありがとう。でも、それでも、もう……」
同じように魔力不足でフラフラになっているレイナが、残り少ない魔力を全て私に分けてくれた。
魔力を譲渡し終えると、そのまま気絶して倒れてしまった。
……お疲れ。せめて、最期は、安らかに。
レイナに魔力をもらっても、せいぜい魔力不足から回復する程度までしか回復しなかった。
もう気力強化の恩恵も尽きている。また魔刃・疾風を使っても、もう押し切ることは無理だろう。今度こそ、本当に、詰んだ。
でも、諦めない。
最後の最後の最期まで、諦められない……!
諦めたら、私を信じて残りの力を託してくれたレイナとヒヨコ、そして私を庇ってくれたヒカルにあわせる顔がない!
『ヴァアアアアアアっ!!』
「うあああああああっ……!!」
剣が、押し返される。
このまま、今度は、私のほうが剣に真っ二つにされるだろう。
諦めない、諦めない! 諦め、ない、あきらめ――――――
――――――――――
「おい、飯食わねぇか?」
……
は?
「……っ!? 身体が、魔力が……!?」
変な言葉が聞こえた直後、体中に、ヒヨコが強化してくれた時以上の力が漲っていくのを感じた。
それと同時に、魔力も何割か一気に回復したのを感じとれた。
この、魔力は……!
「……ヒカル……!」
「蟲さんもおいでー、飯食うぞぉ」
『ギギヴギッ!!? ヴヴィギャアアアアアッ!!!』
立ち上がったヒカルが再び変なことを口走りながら、魔獣の口の中に何かを投げ込んだのが見えた。
あれは、ライトニングペッパーとかいう香辛料……? というか、さっきからなにを言ってるんだろう……。重傷を負って錯乱しているんだろうか。
あまりの辛さに集中が乱れたのか、気功纏が解除されてさらに状況が楽になった。
いや、というか、あの身体でどうやって立ってるの……!?
「カラいかい? むしろ痛いかい? おじさんはね、お前さんにもっと痛い目に遭わされてるんだよぅ。残さず食えよー」
「ひ、ヒカル! 動いちゃダメ! その傷で無理に立ったりしたら命にかかわ―――」
そう言う私を見ながら、回復ポーションのビンを一気にあおるヒカル。
すると、ベキバキグチャグチャと嫌な音を立てながら、潰れた左半身がみるみる元通りに戻っていく。
ポーションで生命力を回復させた後、直接操作で傷を治したみたいだ。
「ん、なんか言った?」
「え、ええぇ………」
……さっきまで死にかけるほどの重傷だったとは思えないほど、あっさり完治した。
ヒカルが元気になったのは本当に嬉しいけど、魔獣よりもよっぽど生命力が強いのは人間としておかしい気が……。い、いや、とにかく治ってよかった。うん。
「それ、新しい魔法剣か? デカいな」
少し驚いたような顔をしながら、例のエクスなんとかとかいう大槌を取り出すヒカル。
私が鍔迫り合いをしている間に、側面から攻撃する気だろうか。
「アルマ、今からそれをこいつでぶっ叩くから合わせて疾風を使ってくれ!」
「え、ええ…!?」
え、ぶっ叩くって、大地剣を? その大槌で?
頭の整理がつかないうちに、ヒカルが魔力飛行をしつつ大槌を構えて起爆準備に入った。
「オルァァアアアアアッ!!!」
ドンッ! ドゴォン! ドガァン! ズガァン! と何度も何度も大槌を爆発させて、グルグル回りながらヒカルが剣に向かっていく。
目が回らないのかな、とか思っている場合じゃない! なにをやろうとしてるのかは理解したけど、強引すぎると思う!
「今だぁぁあ!!」
「は、はぁああ!!」
『ヴァヴギャッ!!?』
ヒカルが大槌を剣に叩きつけるのと同時に、魔刃・疾風を使って一気に押し込む。
さっきまで大苦戦していたのが嘘みたいに、当たり前のように魔獣の身体が縦に真っ二つに裂けた。
ヒカルの叩きつけた大槌が、砕けてしまったのが見えた。とうとう、耐えきれなかったみたいだ。
『ヴヴゥ……! ヴグゥ……!』
……驚いた。縦に切り裂かれても、まだ生きてる。
こんな状態になってもなお、こちらに這いずってきている。
「……お前も、もう休め」
そう言いながら、例の火力特化パイル? とかいう技を使って、頭の部分を粉々に消し飛ばした。
派手な轟音。それとは対照的に、トドメを刺した後のヒカルは手を合わせて穏やかに軽く会釈をしていた。
身体に魔力が満ちていく感覚。どうやらいくつかレベルアップしたみたい。
決着が、ついた。誰も、死なずに。無事に、乗り越えられた。
「ふう。あー、死ぬかと思った。……なんか強敵と当たるたびにこう言ってる気が――!?」
自分でも、無意識に。
気が付いたら、ヒカルに抱き着いていた
「え、あ、アルマ?」
ヒカルが困惑したような声を発している。
一番驚いてるのは私だ。なにをやっているの、私は……!?
「……ぐすっ……ううぅ……!」
もうなにがなんだか自分でも分からない。
ここまで死を近くに感じたことがなかった恐怖感や、危機を乗り越えられた達成感、そしてヒカルが無事でいてくれたことの安心感。
いろんな感情がごちゃ混ぜになって、もう泣くしかできない。
ごめん、ヒカル。しばらく、このままでいさせてほしい。
本当に、よかった……。
「……え、えーと、これ、しばらくこのままにしといてあげた方がいいんすかね……?」
『ピピッ…』
……レベルアップして魔力と意識が回復したのか、後ろの方からレイナとヒヨコの声が聞こえて、ゴチャゴチャの思考に恥ずかしさも加わってしばらく誰にも顔向けできないくらい顔が熱くなっていくのが分かった。
どうしよう、しばらく尾を引きそう……。
お読みいただきありがとうございます。




