修羅場土壇場正念場
新規の評価、ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
今回はアルマ視点です。
剣を振るう。
何度も、何度も、何度でも。
「ふっ! はっ!」
『ヴォゴゥ!? ゲヴァアアッ!!』
この怪物の動きを止めるには一回でも多く、0.1秒でも速く振るい続けなければいけない。
少しでも無駄が生じれば、その隙を逃さず動いて回避するだろう。
図体が大きいから動きが鈍い、というのはあながち間違いじゃないのは確か。
でも、それはあくまで筋力や防御力と比べたらの話。ステータス上の素早さは、恐らく素の状態の私よりも速い。
多分、この魔獣はオーガよりもさらに格上。仮に私が単騎で挑んだとしてもすぐ餌になるだけだろう。
それをどうにかできているのは、補助魔法とヒカルの気力強化、そして自分自身の気力強化が使えるから。
でも、このままじゃいずれ魔力も気力も尽きる。
稲光乃剣の効果で動きは止められているけど、ダメージ自体はさほどでもないしこのままじゃまずい。
今のうちに誰かが決定打を与えないと……。
「アルマ! あと少しだけ動きを止めといてくれ!」
残りの魔力が半分を切ったあたりで、ヒカルが魔獣に向かって飛びながら急接近していった。
よし、オーガを一人で倒したこともあるヒカルなら、きっとこの魔獣にもダメージを与えられるはず。
そう思いながらヒカルを見ていると、魔獣の大きな口に向かって何かを投げ込んだのが見えた。
あれは、レイナの投擲武器? なんであんなものを、魔獣の口の中に?
……まさか。
「やっちまえ、レイナァ!!」
「りょーかいっすー!!」
『ヴゥ!? ヴヴヴヴァヴアアアアッ!?』
レイナが叫びながら、魔獣に向かって手を向けると魔獣の身体が不自然な形に変形していく。
まるで皮袋に無理やり刃物でも詰め込んだように、身体の内側からなにかが出てこようとしているように。
以前、魔獣山岳にいたヘビ型の魔獣にしたように、口の中に投げ込んだシュリケンとクナイを巨大化させて、身体の内側から串刺しにするつもりみたい。
……えげつない手だけど、これなら確実に仕留められ―――
……?
「……嘘っしょ?」
不意にレイナが呟く声が聞こえる。
魔獣の胴体が不自然なまでに歪な形に突き出している。
だけどそれだけ。今にも破れそうなくらいだけど、致命傷にはなっていない。
どれだけ頑丈なんだろう。柔軟さと破れにくさが両立した身体なんて反則。
『ヴロロロアアアァァアッ!!』
いけない、これで仕留めたと思って油断した。
早くまた攻撃を当てて動きを止めないと!
『ヴォヴァッ!!』
え、あ、こっちに、向かって、突進してきた。
まずい 速い そのうえ大きすぎて 避け切れない
精霊魔法で だめ 間に合わない
「アルマァ!!」
押し潰される寸前に、ヒカルが叫ぶ声が聞こえるのと同時になにかがぶつかってきた。
相当強い衝撃を感じて、結構な距離を飛ばされたみたいだけどほとんど痛くない。……身体も動く。ダメージは無いみたいだ。
いったい、なにが?
「カジカワさんっ!!」
「……え?」
……ヒカル?
あれ、ヒカルは、どこ?
『ピ、ピピッ!!』
ヒヨコの鳴き声がする方を向くと
身体の左半分が潰れて血塗れで倒れている、ヒカルの姿が見えた。
さっきの衝撃は、潰されそうになる私を魔力のクッション越しに突き飛ばして、ヒカルが助けてくれたんだ。
私を、庇って、代わりに、ヒカルが、ヒカルが……!
「あ、ああ、ああぁぁ……!」
なんで、なんで?
なんで、私なんか庇って、ヒカルがこんな……!
「アルマさん、カジカワさんはまだ生きてるっす! 早く立たないと今度こそ潰されちゃうっすよ!」
レイナがなにか叫んでいるのが聞こえるけど、なにを言ってるのか頭に入ってこない。
『ヴィヴィヴァアア!!』
魔獣が、大きな口からうるさい声を上げて、こちらに顔を向けている
今度こそ、私を潰す気みたいだ。ヒカルを、潰したみたいに。
なんでもっと早く 私を潰さなかった
さっさとしていれば、ヒカルが庇うことなんてなかったのに
許さない
「ううぅぅあああああっ!!」
『ヴァギャァア!!?』
魔獣が突進するより早く、こちらからクイックステップを使って急接近し、火炎剣を発動しながらさらに魔刃・疾風を使う。
剣を離さないように、気力で握力を強化。血が滲むほどしっかりと握る。
レイナのシュリケンとクナイの影響で肉と皮が突っ張っている今なら、私の剣でも充分斬れる。
白い炎を噴き出しながら、魔獣の腹を剣が貫く。
たまらず暴れてこちらを振り払おうとしてるけど、関係ない。
潰したければ潰せばいい。
でも、許さない。お前は許さない。絶対に許さない。
ヒカルを、あんな目にあわせたお前は、死んでもここで仕留めてやるっ!!
さらに突き刺さった剣のリーチを、伸魔刃で伸ばして胴体を貫く。ラディアが使っていた技の応用だ。
このまま剣を振りぬいて、胴体を真っ二つにすれば……!
『ギャヴァアアアィィィアアア!!!』
魔獣を中心に、衝撃波。
体術スキルの【気功・発徑】を使ったらしく、突き刺した剣ごと吹き飛ばされてしまった。
あと、少しだったのに…!
「アルマさん、自棄になっちゃダメっす! あのままじゃいつ潰されててもおかしくなかったんすよ!?」
「……ごめん」
レイナが涙目になりながら、私を叱る。
……頭を冷やそう。冷静にならないと、レイナにまで危険が及んでしまう。
『ヴヴヴヴヴヴ……!!』
「あんなおっきな魔獣相手じゃ、ちょっとやそっとの攻撃じゃ歯が立たないっす。一発で大きな攻撃を当てないと駄目っす!」
「うん、でも、もう向こうが警戒してるせいで、遠距離攻撃じゃ避けられてしまうから、近距離で当てないといけない。威力の高い魔法じゃ、こっちの方がダメージを負ってしまう」
近距離で強力な、かつ自爆の危険がない攻撃。
伸魔刃と魔法剣の合わせ技が、その条件を満たしているように思えたけどさっきみたいに吹き飛ばされたら有効打にならない。
なにか、他に、有効な攻撃方法は……!
『ヴァアアアアアアアアアッッ!!』
「う、うわああ!! あ、アルマさん、くるっす!!」
また、突進。
今度は【縮地】を使っているのか、巨体にあるまじきとんでもない速さだ。
あんなもの、避けられない。精霊魔法で下に逃げても穴を崩されて生き埋めだ。
レイナの影潜り、は、潜れる影がない。
ああ、うん、もう、ダメだ。詰んでる。おしまい。
決死の覚悟で火炎剣を発動。
こうなったら、せめて最後に一矢報いてやる!
え、なに?
魔法剣の、スキルが……?
―――――っ!!
「【大地剣】ッ!!」
『ギャヴァベヘェッ!?』
私の持っている剣のサイズが、おおよそ8倍ほどに巨大化した。
魔力を糧として大きさを変える新しい魔法剣。私は巨大化した剣の質量に関わらず普段と同じように剣を振るえるけど、私以外の全ては巨大化した剣の質量そのままの影響を受ける。
この土壇場でスキルのレベルが上がってくれた。悪あがきに火炎剣を発動したから、運良く獲得できた。
まだ、決着はついてない。
死ぬまで、諦めない……!
お読みいただきありがとうございます。
主人公と勇者以外の視点だと大体シリアスになる不思議。




