仕事場交渉
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「馬鹿野郎! もっと粗研ぎしてから本研ぎしねぇか! こんな半端な研ぎ方のままこまめに研いでたら、何日かかるか分かんねぇぞ!」
「うるせぇな! ちょっとバランス悪くなっちまったから微調整するだけだっつの!」
「そりゃお前が下手だから……ん? ちょい待て、カジカワじゃねぇか。どうかしたのか?」
どうも、ジュリアンが今後武器を作るための場所を貸してもらえないか交渉するために、朝からゲン工房へ足を運んだところです。
で、来てみたらやっぱ喧嘩中だった。剣を研いでるヒグロイマさんに、ゲダガンさんが怒鳴ってそれに反抗してどったんばったん大騒ぎ。
……この師弟、もう喧嘩するのが日課になってるんだろうか。近所迷惑にならないのかな。
こちらに気付いたゲンさんが喧嘩を中断させたけど、俺の後ろにいるジュリアンを見ると微妙な表情を見せた。
…この顔は、ジュリアンのことを知ってるっぽいな。
「おはようございます。朝からお元気ですね」
「嫌味に聞こえるからやめな。それより、お前さんの後ろにいるのは街の端っこの工房で変な武器を作ってる奴じゃねぇか。なんか用か?」
「初めまして、ジュリアンと申します。以後お見知りおきを」
ジ、ジュリアンがまともに挨拶しているだと……!?
いやまて、今思うとコイツ、作ってる武器や俺に対する言動以外は比較的まともだったし、もしかしたら普段のハイテンションは本当にテンションが高かっただけで、本来のジュリアンはこんな感じなのか…?
「少々時間を頂けますか? コイツのことで相談がありまして」
「……話してみな。なんだか面倒くせぇ予感がするが」
昨日の襲撃のこと、今後しばらく身を隠す必要があること、武器を作るために場所を一部貸してほしいこと等を話す。
それに対して、場所を貸す話になった際にゲンさんとヒグロさんの顔が渋い表情に。……まあいきなり仕事場のスペース貸せとか言われたらこんな反応するわな。
「悪いが、仕事場はお遊びのための場所じゃねぇんだ。他を当たりな」
「無理を言っているのは分かります。初対面の相手にいきなり自分たちの工房を貸せと言っても承知しかねるのは当然でしょう」
「分かってるなら、ここは退いてくれ。無茶な製品の注文を受けることはままあることだが、仕事場に部外者を入れるってのはさすがに……」
「第一、そいつまともな武器も作らずに、妙ちくりんなもんばっか作ってる変人って話だろ? 鍛冶は元貴族様のお遊びでできるもんじゃねぇぞ!」
「そうですね。ところで、これがジュリアンが作った剣のサンプルですが、ゲンさんから見てもお遊びだと思うレベルの出来でしょうか?」
「話聞けよ! てかなに急に剣取り出してんだ!?」
半ギレしながらジュリアンと俺を非難するヒグロさんをスルーしつつ、ゲンさんにジュリアンの作った『まともな剣』を見せる。
ジュリアンは普段作ってる武器がアレなだけで、腕自体は決して悪くない。というか相当いい。
剣を見てジュリアンの腕の良さを察したのか、まじまじと剣身を眺めながらゲンさんが口を開いた。
「ほぉ。なあ、ジュリアンっつったか。この剣を打ったのはお前さんって話だったが、こりゃ誰が振るうことを想定した剣だ?」
「はい。筋力の値が180以上、体格は身長170cm前後の男性に適した剣を作ったつもりです。なにか問題点があればご指摘いただけると参考になりますが、いかがですかな?」
「……いや、いい塩梅だ。適当にバランスの良い武器を作るだけなら誰でもできる。極端な話、それじゃ鋳造と大して変わらん。使い手のことまで考えて打たなきゃ鍛造で武器を作る意味がねぇ」
剣を返し、今度はジュリアンの掌を掴み眺めている。
生命力譲渡で治したにもかかわらず、ジュリアンの掌は鍛冶仕事を繰り返してゴツゴツした掌のままだった。
…まさか遺伝子にも刻まれるくらい鍛冶仕事を繰り返してるんだろうか。こわ。
「…お前さん今までどれだけの武器を作ってきたんだ? この手を見る限りじゃ100や200どころじゃねぇだろ」
「申し訳ない、数を数えることを怠っておりまして覚えていません。鍛冶を始めたのは12年前からですが」
「おいおい、しかもステータスを確認させてもらったが、お前さん鍛冶士じゃなくて魔具士じゃねぇか!? なのに鍛冶スキルと魔具作成スキルが両方Lv6ってなんだよ!? か、鍛冶士でもないのにたった12年でどうやって…?」
「Lv6!? お、俺よりも鍛冶が上手いのかお前……!?」
ゲンさんの鑑定結果に、目を見開いて驚く凸凹師弟。てかこいつ鍛冶士じゃなくて魔具士だったのか。ステ確認した時にスキルばっか見てて職業確認してなかったわ。
特にヒグロさんは専門職なのにスキルレベルで負けていると分かってショックを受けているようだ。ドンマイ。イキロ。
「理想の武器を作るために、毎日朝から晩まで金属を打ったり魔具の術式を刻んだりすることばかりして、他は特になにも。鍛冶スキルのレベルの上がりが魔具作成スキルに比べて悪いので、鉄を打つ時間が多めですが」
「なんで職業を選ぶ時に鍛冶士を選ばなかったんだ? このペースなら、とっくに俺と大差ないレベルまで技術力も上がってただろうに」
「我の作りたい武器は、どちらかというと魔道具としての側面が強いようなので」
「ふむ、お前さんの作りたい武器ってのは、店頭に並んでる妙な武器のことか?」
「はい。もっとも、ほとんどはまともに使えないような失敗作ばかりですが。あなたの言う、武器を振るう人間のことを考えずに作った無価値なものです」
「ほとんどってことは、使える武器もあるにはあるのか?」
「一応は。もっとも、それを扱えるのは彼だけなのですが」
そう言いながら俺の方を向くジュリアン。こっち見んな。
……なんか期待されてるようなので、カバンを介してエクス以下略を取り出す。
「これは試作品で、少々乱暴に使い過ぎて槌頭が変形してしまっていますが、まだ使えなくはないです」
「……その槌頭部分に、魔石を消費して爆発する機関が付いてるみてぇだが、そんなもん使えんのか? どう考えても持ち手の方がぶっ飛ばされるだろそれじゃ」
「いえ、実戦で使用してみましたが非常に有効でしたよ。こちらがこの武器を使って仕留めた魔獣です」
説明しながら、アイテム画面からオーガの死体を取り出……あ、違うこっちじゃない。
「すみません、間違えました。こっちの方です。はい」
「いや待てなんだ今の頭が潰れた死体は!?」
「あれは武器の説明とは関係ないやつなのでお気になさらず。このオーガと殴り合いになった際、頭の方に上手い具合に当てられたのですが、確かにダメージを与えられてました」
「鋼鉄製の大槌で、オーガにダメージを与えるとは。もしも、もっといい素材で作ったのなら、そりゃもう武器と言うより兵器と呼ぶべき威力を発揮するだろうな」
「その武器を完成させるためにも、武器を作る場所が必要なのです! どうか、それを作るまでの間だけでも我に場所を貸してください! 決してそちらの邪魔はしませんし、必要ならば雑用でもなんでもします!」
ん? 今なんでもするってアーハイハイいまネタに走るシーンじゃないですねスミマセーン。
ジュリアンらしからぬ、真剣な態度で頭を下げて懇願している。うん、内心ふざけてる場合じゃなかったわ。ホントごめん。
「……言っとくが、ウチの場所代は安くねぇぞ。それでもいいなら好きにしな」
「と、ということは……!」
「ああ。しばらくはウチでかくまってやるよ。だが邪魔ばっかするようならすぐに叩き出してやるからそう思いな」
「あ、ありがとう、ございます!」
……よし、とりあえず許可は下りた。
あとは場所代の相談だが、そのことも一応考えてはある。
「あの、ジュリアンの場所代の相談なのですが、このオーガの死体を一つ提供することで賄えませんか?」
「うわ! さっきの頭が潰れた死体じゃねぇか!?」
「……オーガの素材となりゃ、数十万程度の価値があるんだぞ? そんなホイホイ渡しちまっていいのか?」
「それだけジュリアンの武器に期待しているんですよ。おい、こんだけサービスしてやってんだから、絶対に完成させてくれよ」
「……ああ! 任せたまえマイ・カスタマー!」
「……ところで、このオーガはどうやって仕留めたんだ? まさかその大槌で頭を砕いたのか? オーガの頭蓋骨は鋼鉄じゃ歯が立たねぇはずだが」
「いえ、オーガの頭突きに対して、こちらも頭突きでカウンター気味にこう、ゴシャッと」
「いやいやいや、嘘つけ! そんなことしたら潰れんのはアンタの頭の方に決まってんだろ!?」
「…いや、どうやら本当みたいだな。信じられねぇが、オーガを仕留めた履歴にトドメは頭突きって表示されてやがる。………この大槌より、お前さんの頭突きの方が威力高いんじゃねぇか?」
「ま、マジか。どんな石頭だよアンタ…」
そのバケモノでも見るかのような目でこっち見るのをやめてもらえませんかね。傷付くわー。
全魔力と全気力を消費してようやく仕留められたけど、それじゃいくらなんでも燃費が悪すぎる。
だからこそ、強くて俺に合った武器が欲しい。そのためにこんな面倒な手間をかけているわけで。
ジュリアンの問題はこれでなんとか一区切りついたな。
あとはダンジョンを素材目当てに攻略していきますか。
……何回リセマラするハメになるのやら。気が滅入りそう。
お読みいただきありがとうございます。
さすがにラクガキを刺青にするほど鬼畜じゃないようで。
でも手足を曲がっちゃいけない方へ曲げたり腕を捩じ切れるまで雑巾絞りしたりはする模様。…自分で書いといてなんだけど基準が分からん。




