笑ってはいけない
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「……なにしてるの?」
「あ、おかえり」
ジュリアンの工房に入ってくるなりジト目で俺を見ながらアルマが問いかけてきた。
見れば分かると思うけどお肉焼いてます。タレも作ってあるでよ。
マップ画面も無いのによくここに飛んでいったことが分かったな。あ、魔力感知か。
「おかえりじゃないっすよ! 急にとんでもない勢いで飛んでったかと思ったら、なに暢気にお肉焼いてるんすか!」
「今日の晩御飯にお肉が一品欲しいとか言ってたのレイナじゃん。だからもういっそ今日の晩御飯は焼肉でいいかなーって」
「そうっすけど! いやそういうことじゃなくてなんでいきなり飛んでったんすか!? 置いてけぼりにされてすっごい困ってたんすけど!」
「ごめん、緊急事態で説明してる時間がなかった」
「緊急事態? なにがあったの?」
「ああ、それは—――」
「ううむ、この独特な味わいも美味いと言えば美味いが、そろそろ他の肉の部位も食べてみたいのだが……」
アルマとレイナに弁明している最中に空気を読まず、いや空気を読んだうえであえて言っているのかジュリアンが焼いたレバーを咀嚼しながら話に割り込んできた。
失った血も生命力譲渡のおかげである程度補給できたとはいえ、貧血状態には変わりないので鉄分豊富で増血作用のあるレバー肉とスピナ(ホウレンソウモドキ)のおひたしを食わせまくってるが、さすがに飽きてきたようだ。
「お前、腕を斬り落とされてまだ血が足りてないだろうが。我慢してレバーを食べ続けとけ。飽きてきたなら塩コショウばっかじゃなくてタレとかで味変を試してみろ」
「……腕を、え? 今、なんて?」
「そのソースかね? なんだか妙な香りがするが大丈夫なのか……? …む、むおぉ!? なんと新鮮な味わいだ! ガリク(ニンニクモドキ)とソイソに、なにか刺激的な風味が混じってレバーの臭みを旨味に変えているではないかぁ!」
「すりおろした森生姜だな。あと酒を煮詰めて作ったみりんモドキ、いや甘いタレも混ぜてある。……てかやっぱ食レポうめーなお前」
「いや、あの、二人だけで和やかに話してないで、ちゃんと説明してほしいんすけど! 腕を斬り落とされたってなんすか!?」
飯食ってるだけでオーバーなリアクションをするジュリアンに対して、適当に相づちを打つ俺にレイナがツッコミを入れてくる。
あんまいい加減にあしらうのもよくないし、とりま晩飯を食いながらでも事情を説明しますかね。
焼肉を食べながら事のあらましを話し終えると、二人ともなんとも言えない表情を見せた。
ジュリアンが腕を斬り落とされたことに怒ればいいのか、それをあっさり再生させた俺に驚けばいいのか、暗殺の依頼人がジュリアンの弟だということに同情すればいいのかリアクションに困ってますねこれは。
「……色々情報が多すぎて、反応に困る」
「その暗殺を依頼された二人はどうなったんすか?」
「そこで転がってるのがそうだ。憲兵さんがもうちょっとしたら引き取りにくるからそれまでそこで放置してる」
「……変な顔」
「だよな。なんだあの眉毛とヒゲは」
「いやあれどう見てもラクガキされた後じゃないっすか! やったの絶対カジカワさんっしょ!」
事情を聴いた後、頭にゲンコツ喰らわせただけで特に『お話』することもなかったので、とりあえず報復として教科書の偉人ばりに油性塗料でラクガキを実行。
憲兵さんとかが見たら困惑するかもしれないな。別にいいけど。
「こんなことしてると、起きた時に恨みを買われそうなんすけど……」
「なに言ってんだ、ちゃんと起きてるだろホラ」
「それ目蓋に眼を描いてるだけじゃブフッ! ク、ククッ……!」
デデーン。 レイナ、アウトー。
我慢しながら半笑いでツッコミを入れていたが、目蓋のラクガキを見て決壊した模様。
さすがにケツ叩いたりタイキックしたりはしない。元ネタ分からんだろうし。
「さて、ひとまず今現在の危機は去ったが、我が生きていることが弟に知られたらまた暗殺者を送られかねん」
「だから、肉を焼きながら今後の相談をしてたんだが、俺たちだけで話を進めるわけにもいかないし、二人の意見も聞かせてほしい」
「意見?」
「コイツの安全を考えたら、表向きは店を畳んで行方不明になったってことにして、別の工場や工房で武器を作ってもらおうと考えてるんだ」
「うむ。そのうえで、もういっそのこと我は死んだと実家の方に連絡を入れてもらうように依頼を出しておこうと考えている。身の安全を図るためだと事情を話せばなんとかやってもらえるだろう。貴族の放った暗殺者を返り討ちにしたので、その貴族に文句を言ってくれと言われるよりはよっぽど気が楽だろうしな」
「…ジュリアンがそれでいいなら、無難な選択だと思うけど」
「ジュリアンさんはそれでいいんすか? 腕を斬り落とされたことに対して、なにも感じないんすか……?」
「思うところはあるが、目が覚めたら元通りになっていたしさほど気にすることもないさ。それにしても、魔力だけでなくまさか生命力まで操れるとはな。……我はともかく、君は大丈夫なのか?」
心配そうで、申し訳なさそうな表情をしながら問いかけてくる。
他の人間が同じことやったら寿命が縮むらしいが、俺はHPが身体と連動してないから無問題。
「問題ない。俺はちょっと色々仕様が違うみたいだからな、ステータスを見たなら分かるだろ?」
「そうか、かたじけない。……ところで、我が武器を作るための工場や工房にアテはあるのかな? 恥ずかしながら、我には職人同士の繋がりがほぼ皆無なのだが…」
「ああ、その辺は期待してないから心配するな」
「何気に酷いな君ィ!」
「事実だろーが。まあ、アテというか交渉次第でなんとかよく計らってくれそうな所だったら心当たりがある。絶対大丈夫とは言わんが、まあやるだけやってみるさ」
さーて、その交渉が上手くいくかが問題だな。
交渉のカードはジュリアンの武器職人としての腕と、アレだな。うっぷ。
お、誰か外から2、3人ばかしこちらへ向かっているようだ。どなたかな?
「すみません、お待たせしました。暗殺者が送られてきた工房とはこちらでしょうか?」
あ、憲兵さんか。お疲れ様です。
「はい。こっちの目力が凄くてヒゲの濃ゆい二人がそうです」
「ブフォッ!」
「そ、そうですか。で、では連行します。……プククッ……!」
ででーん。 全員、アウトー。
ラクガキされた暗殺者の顔を見た途端、憲兵さんたちも噴き出してしまった。
そりゃ通報を受けて気が張ってるところにこんな顔見たら笑うわな。
「工房のアテはあるって言ってましたけど、どこへ?」
「ゲンさんのところだ。他の工房じゃジュリアンを受け入れてくれる気がしないが、あそこなら騒がしいのが一人増えても大して変わらないだろ」
問題はあの師弟喧嘩に巻き込まれないか心配なところだが、まあ大丈夫だろ。
さて、そうと決まれば明日ゲンさんのところに顔を出しますか。…また喧嘩してなきゃいいが。
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