スタンピード①~バーニングスパイラルグ〇コ~
スタンピード当日の朝。
本日は晴天なり。但し極一部を除く。
魔獣森林の上空にだけ、不自然な黒雲が広がっている。
あの黒雲は、スタンピードの始まる直前の目印みたいなものらしい。
ギルマス曰く、あの黒雲から魔獣のテリトリーに雷が落ちた瞬間に、スタンピードの親玉となる魔獣が誕生するらしい。
それまではスタンピードによる侵攻は起こらないし、逆に親玉を事前に倒して侵攻を防ぐということもできないんだとか。
ギルドからの支給品、スパークウルフの角の粉末に爆音キノコ、その他素材や装備の確認は完了している。
あとは雷が落ちた後、侵攻してくる魔獣たちを迎え撃つだけだ。
俺は街を囲む塀の上で、いつスタンピードが起こっても対応できるように魔獣森林の方を見張っている。
魔獣が攻めてきた時の最初の一手を打つのが俺だからな。上手くやれるかなぁ……不安だ。
アルマの御両親とそれに同行する10人近い精鋭たちは既に魔獣森林の中で待機している。
現在、森林には奥地以外にも比較的強力な魔獣がゴロゴロしてるらしいが、彼らくらい強ければ問題なく対処できるらしい。
街の東側の門の内側には、スタンピードに対処すべく、90人強の冒険者たちが集まっている。
緊張や不安に震える者、あるいはスタンピードを待ち遠しそうにして武器を振るう者など、待機中の過ごし方は各自様々だ。
そんな冒険者たちがこんな危険な戦いに挑む理由は、主に3つ。
一つは、街の防衛。
仮にこの街を捨てて、住民と冒険者全員が逃げ出したとしても、いずれ他の街に向かってそのまま侵攻を進めるだろう。
いつまでも逃げられるわけでもなし、今ここで対処するのが最善なんだとか。
親玉を倒せば魔獣たちは撤退するらしいが、それまでに魔獣に街への侵攻を許せば街にどれほどの被害が出るか分からない。
住民の避難が完了しているとはいえ街が破壊されれば住民は住みかを失ってしまう。なんとしてでも守り切らなければならない、とギルマスも下の方で演説じみたことを大声で叫んでいる。
二つ目は、報酬。
命がけの依頼なだけあって、報酬もなかなかのもので、参加するだけでも無条件で一人50000エン。
さらに倒した魔獣の数と質によって、追加報酬が出るらしい。
普段の魔獣討伐よりも高めに報酬が出るので、生き残ることができればそこそこの収入になる。
そして三つ目が、魔獣のレアドロップ。
魔獣が装備している武器や防具の中に、稀に強力な物が混じっていることがある。
スタンピードで侵攻してくる魔獣はレアドロップの確率が通常より高いらしく、強力な装備をしている分リスクもでかいが、それを倒して奪うことができれば大きな糧となる。
まあ、欲張りすぎて強力な装備をしている魔獣に挑み、逆にやられる者も少なくないらしいが。
うーむ、正直、報酬は魅力的ではあるけど命がけの任務で50000エンってのはちょっとなぁ。
俺が持ってきたエフィの実5個分と同じかよ。冒険者の命安いなオイ。
冒険者たちも一人一人が別々に行動する者だけではなく、何人かでパーティを組んでいる者たちも多い。
というか大体の冒険者はパーティを組んで互いの足りないところを補い合い、助け合いながら依頼をこなすのが一般的だとか。
アルマも、この街に来た時にパーティに誘われたことが何度かあったらしいが、その度に見習いパラディンだと分かるとパーティに誘ったのを無かったことにしてくれと言われたらしい。
それでもいいと勧誘してきたパーティもいたが、そのパーティに誘われる頃には何度も職業が原因でパーティを組ませてもらえない自分に自信が持てない状態で、足を引っ張るようなことになるのが嫌で断り続けてきたんだとか。
ちなみに職業が分かっても勧誘を続けてくれたパーティは、意外にもあの三人娘らしい。
何度断っても誘ってきて、何かと気にかけてきたのはあの三人ぐらいだったとか。
この間の一見いじめじみた言葉も、「私たちのパーティに入れば今の貧乏で孤独な生活より良い暮らしができるからパーティに入ろうよ」という遠回しな勧誘のつもりだったのかも知れない。
まあ、だとしてもあれはちょっと言い過ぎな気がするがなぁ。不遇職とか言ってたし。
で、その三人娘も下の方でおしゃべりしながら待機している。レベルは14~15くらいで、スタンピード討伐に参加する冒険者たちの中じゃまあまあの実力のようだ。
………!
黒雲がゴロゴロと音を立て始めている。
そろそろか。ここまできたら腹ぁ括れ俺。
黒雲の音と稲光は段々と、いつ落雷が発生してもおかしくないほどに大きくなっていき、
そして、
カッ ドオオオォォォォォオオオンッッ!!
と、派手な轟音を立てて魔獣森林に稲妻が落ちた。
始まった。
「魔獣森林に落雷! スタンピードが始まったぞっ!!」
「総員、門の内側にて待機! 先行する飛行士からの合図を待て!」
「合図を確認次第、開門し、魔獣たちに突撃せよ!」
ギルマスと、ギルド職員からの指示が門の内側に響いた。
それと同時に冒険者たちも臨戦態勢に入った。
あー、始まっちゃったかー怖いなー緊張するなー。
とか思っていたら、早速魔獣森林から魔獣たちの影が見え始めてきた。
こちらに向かって、ゆっくりと歩みを進めている。
主な戦力はゴブリンとそれらを統率するホブゴブリン。
コボルトや見慣れない魔獣もいくつかいるが、能力値に大差はない。
空からは、小さい鳥型の魔獣とそれらを率いているブレイドウィングたち。
あの小型の魔獣が成長するとブレイドウィングになるのかな?
あれ? ギルドの見立てじゃ確か300くらいの魔獣が攻めてくるって話だったよな?
300どころじゃないように見えるけど、気のせいじゃないよね?
≪魔獣の総数、およそ600≫
倍の数じゃねーか! ギルドの見立て全然あてにならねぇ!
誰だ最初に300匹程度だとか大法螺吹いたのは! 責任者出てこい!
ってギルマスか、もう下に居るわ。あとで文句言いに行こう。
この数相手にすんのか、生きて帰れるかな俺…。
さて奇襲のタイミングだが、早すぎると奇襲後に冒険者たちが魔獣たちの所まで行くのに時間がかかるので、その間に状態異常がある程度回復してしまう。
遅すぎると冒険者側にも奇襲用の角やキノコの被害が出かねない。上手く見極めなければ。
魔獣たちが、歩を進めている。
まだだ。
鳥型の魔獣たちも、地上の魔獣たちに合わせてゆっくりと飛んでいる。
まだだ、もう少し。
まだ。
まだ。
まだだ……。
魔獣たちが、門のおよそ200m近くまで迫ってきた。
いよいよだ。
魔力で全身を覆い、固定。
魔力を操作し、魔獣たちに向けて発射!
ギュンッ!
猛スピードで飛行しながら、魔獣たちに接近。
速攻で角を使おうとしたが、よくみると地上の魔獣たちはこちらに気付いていない奴も多いみたいだ。
このまま角を燃やしても、後ろ側の奴らはあまり光りが目に入らないかもしれない。
出来れば注目を集めてから角を使いたいが、どうしたものか。
と、その時。
ビュンっ!
「うおっ!?」
魔獣:エアスパロー
Lv4
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :37/37
MP(魔力) :30/30
SP(スタミナ):50/59
STR(筋力) :65
ATK(攻撃力):65
DEF(防御力):41
AGI(素早さ):86
INT(知能) :53
DEX(器用さ):28
PER(感知) :79
RES(抵抗値):14
LUK(幸運値):24
【スキル】
魔獣Lv1 攻撃魔法Lv1
小型の鳥魔獣が、こちらに向けて突進してきた。
なんとか避けたが、他の小鳥魔獣たちもこちらに向かって突進しようと寄ってきやがった。
こっちくんな!
とりあえず両手を上げて身体を少しでも大きく見せて、ついでに片足も上げて威嚇してみる。
荒ぶる鷹のポーズ! いやむしろグ〇コ! どうだ!
あ、全然効果ないわー。むしろ集まりまくって、こっちに20羽くらい飛んできてるんですけど。
『ピイィィ!』
『ピュゥイイイ!』
ビュンッ! ビュンッ!
「おっと! あっぶね!」
突進のスピードはそんなに速くないけど、いかんせん数が多いうえに多方向から攻めてきて避け続けるのは難しそうだ。
このままじゃ撃墜される。
…仕方ない、地上の魔獣共の注目を集めるためにもさらに威嚇を強化するか。
背中から翼を生やすように可燃性の魔力を放出、そして着火!
ガチっ! ゴオォォ……!
『ピィッ!?』
『ピピュイッ!』
急に標的の背中から炎の翼が生えたことに驚いたのか、一瞬小鳥魔獣たちの動きが止まった。
が、
『ピュイッ!』
ビュン!
「おおっと!?」
炎を見た目だけの虚仮脅しと判断した奴が構わず突進してきた。
くそ、まだ威嚇が足りないか!
しかも、他の小鳥魔獣達を見ると周りを囲むように陣取り、一斉に突進するつもりのようだ。
これは、避け切れないな。なら!
ガチッ! ボボボゥッ!
さらに前後にも炎を追加!
そして横にグルグルと回転! これで全方向に対応可能だ! ふはははは!
……いや、うん。自分でもアホみたいな絵面なんだろうなーとは思うよ?
でも炎を追加して回り始めてから明らかに小鳥魔獣たちが突進してくるのを躊躇っているのが分かる。こいつら、火に直接触ったら羽に引火しそうだし、無理もないか。
お? 地上の魔獣たちもほとんどがこちらに注目しているようだ。まあこの状態じゃ目立つわな。
よし、それじゃあ至近距離で光を浴びせるために、もう少し近付きますか。
ギュンッ
燃えて回転しながら地上の魔獣共に急接近。ちょっと酔ってきたし、早めに角を燃やしてしまいたい。
角を使うのにちょうどよさげな距離まで近づいたところで、魔獣たちの様子がおかしいことに気付いた。
『ギャアアッ!!』
『ギ、ギギィッ!?』
『グゥアアァァっ!!?』
『ギャインッ! ギャイィッ!!?』
……こっち見ながら悲鳴上げてすごい狼狽えてる。
魔獣の言葉は分からんけど「なんか変な奴がきた!」「なんだあれ見るからにヤベー奴だ!」「こっちくんな!」みたいなニュアンスなのは分かる。
まあ、俺だってグ〇コのポーズ決めて身体のあちこちから炎を噴き出しながらグルグル回って空飛んでるやつに急接近されたら同じような反応起こすだろーな。
あれ? 今の俺完全に不審者じゃね? むしろ狂人のそれじゃね?
……あまり深く考えるのはよそう。今は非常事態だ。
一部逃げ出しそうになってる奴もいる。お前ら侵攻しに来たんじゃねーのかよ。
なにはともあれ注目が十分集まったみたいなんで結果オーライ。
スパークウルフの角の粉末が入った巾着袋を取り出し、
手で目隠しをした後、着火!
ボッ
カッッ!!
三日前ゴブリン達に襲われた時のように、燃えた粉末から凄まじい閃光が放たれる。
目を閉じて手で目隠ししてても周りが明るくなったのが分かるくらいの光だ。
『ギイィィィィッ!!』
『ギャアアアァァアアァァァア!!!』
直接目に焼き付けてしまった魔獣共は一時目が利かなくなった。
『ピュイイイィィィ!!』
『キイイイイイイイイッッ!!」』
視力を失い、明後日の方向に飛んでいったり、地面に墜落したりと小鳥魔獣たちも大混乱だ。
ブレイドウィングにも何匹か被害が出てるな、いいぞ。
で、駄目押しにこの『爆音キノコ』ですよ。やることが我ながらエグいわー。
ギルマスから3つほどもらったキノコを魔力で覆い固定、地面に向かって思いっきり叩きつけるイメージで移動させる。
で、耳を塞ぐ。さぁどうなる?
キノコが地面に着弾した瞬間
ダダダァァァァァァァァアアアアアンッッ!!!
落雷と大型爆弾が同時に炸裂したような、凄まじい爆音が潰れたキノコから響いた。
うひゃー、耳を塞いでこの轟音ですか。まともに聞いてたらヤバかったなこれ。
爆音に晒された魔獣たちは目に続いて耳も利かなくなり、キノコの至近距離に居た魔獣たちは鼓膜が破れて失神した者もいる。
この状態では侵攻どころではないだろう。
一部混乱による同士討ちも発生し始めている。思った以上に効果があったようだ。
そして、今の爆音を合図に街の門が開かれた。
「前衛、全員突撃! 混乱した魔獣共を殲滅せよっ!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」」」
ギルマスの指揮に従い、鬨の声を上げながら前衛職の冒険者たちが魔獣たちに向かって駆ける。
アルマもその中に混じっているようだ。無茶はするなよ。
「後衛は遠距離から前衛の援護! 味方に攻撃を当てないように注意しろ!」
「「「了解!」」」
後衛職から魔獣たちに魔法、矢、投石などが放たれる。
味方には一切当たらず、皆、器用に魔獣共に攻撃を着弾させていく。
よくあんな距離まで正確に飛ばせるもんだ。スキルの恩恵かな?
さーて、飛ぶだけじゃなくて炎出したりしてたからいい加減MPも残り少ないし、撤退しますか。
指輪の魔力はまだ使ってないけど、これは緊急用だ。念のためとっておこう。
そう思って撤退しようとしたところで、
急に俺の魔力が全回復した。
え、あれ? 何があった?
ちょっとステータスを確認
梶川 光流
Lv6
年齢:25
種族:人間
職業:ERROR(判定不能)
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :50/50
MP(魔力) :44/44(+35/35)
SP(スタミナ):0/15
STR(筋力) :22
ATK(攻撃力):22(+30)
DEF(防御力):22(+5)(+20)(+15)
AGI(素早さ):21(+30)
INT(知能) :23
DEX(器用さ):24
PER(感知) :30
RES(抵抗値):20
LUK(幸運値):20
【スキル】
※取得不可※
EXP(トータル経験値) :295
NEXT(次のレベルに必要な値):500
装備
鉄剣
ATK+30
幻惑の仮面
DEF+5
矢避けの外套
DEF+20
疾風のブーツ
DEF+15 AGI+30
魔力貯蔵の指輪
MP+35
……あらら? なんでレベルアップしてんの?
俺、魔獣倒したっけ? 墜落した小鳥魔獣が死んだとか? いや、目が眩んで墜落した際HPを減らした奴はいたけど、死んだ奴はいなかったはず。
っていうか今この瞬間にもどんどん経験値が増えていってるんですけど。なにこれこわい。
いったい何が起きてるの?
お読み頂きありがとうございます。




