ジュリアンの芸術武器工房
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討伐報酬および依頼報酬を受け取りに、ギルドの受付嬢ことフロイナさんへ報告。
魔獣の死体がある程度新鮮ならば、ギルドに解体を依頼してそのまま納品してもらうこともできるらしいのでそのまま渡すことに。
街の解体屋に比べてちょっと高いが、手間を考えるとこっちの方が楽だし丸投げしてしまおう。
「まさか一日で素材採取の依頼を複数こなすとは思いませんでした。普通なら早くとも1日に1件こなせればいい方なのですが」
「ギルドで解体してもらえるなら、討伐と運搬だけすればいいのでさほど苦労はしませんでした。自慢になりますが、この子たちが優秀だからでしょうね。楽させてもらってますよホントに」
「……いや、あなたの討伐した魔獣の質と数の方がそちらのお二人よりも大変そうなんですが」
「いえいえ、今日倒したオーガなんかは二人が頑張ってくれたからこそ、危なげなく仕留められたんですよ。昨日は本当に危なかったんですから」
ウチの子自慢をしつつ、話題の矛先が俺に向かないように誘導しておく。
あ、なんかその二人の突き刺さるような視線が後ろから感じられるわー。余計なこと言うな的な。
「あとは、この武器のおかげでもありますね。オーガともやりあえるくらいですから、なかなか便利ですよ」
「その武器は? 見たところ鋼鉄の大槌のようですが……えくすぷろーじょん・ばすたー? …疲れているのでしょうか、鑑定結果におかしな名前が見えるような」
「あ、その名前で呼ぶのやめてください。すごく恥ずかしいので」
「そのネーミングと妙な構造、まさかジュリアン工房の作品ですか? ……よくあの店の武器を使う気になりましたね」
ジュリアンって、何気にそこそこ知名度が高かったりするのか? いやフロイナさんの反応を見る限りじゃあんま評判良くなさそうだが。
「発想とネーミングはアレですが、使うのに慣れればとても強力でして重宝しています」
「彼の武器を試しに振るった人は皆例外なく『二度と触りたくない』と言うほど扱いづらく危険なものばかりなのですが。……まあ、あなたも色々おかしいですし、波長が合うのでしょうね」
言い方ぁ! ちょっと失敬すぎるでしょう!
いやまあ自分でも色々おかしいのは認めるけどさ。他人に面と向かって言われるとなんか解せぬー…。
「あの店のことは『元貴族のおぼっちゃまの道楽』と皆言ってますよ。ちゃんとした実績があるならともかく、作る武器があんな珍品では無理もない話です」
「元、貴族? え、ジュリアンって貴族なんですか? 家名なんか名乗っていませんでしたけど」
ステータス画面の名前にも『ジュリアン』としか表示されてなかったんだが。
というか、ただでさえ訳の分からん奴なのに出自が元貴族とかキャラ濃すぎやろアイツ。
「元々は、フィリエ王国に領地を持つ公爵家の跡継ぎだったらしいのですが、色々あって家名を捨てたうえで自立したとおっしゃってるそうです」
「…領地の経営に興味がなくて、変な武器作るのに傾倒した結果勘当されたとかですかね」
「十中八九そうでしょうね。街に着いたばかりのころはまともな武器も売っていたのですが、最近では工房に籠りっきりでアイディアを形にすることに夢中でろくに営業や対応をしていないらしいです。資金繰りは大丈夫なんでしょうか」
大丈夫じゃない、問題だ。
アイツ手持ちの金がもうないって言ってたし、俺が資金提供しなきゃそのまま破産してたんじゃないか?
…武器の料金を払いに行くのも兼ねて、ちょっと顔を出しに行こうか。
街の端っこに立ってる小さな武器屋。屋根を突貫工事で塞いで補修した跡が見える。
正面には『ジュリアンの芸術武器工房』と無駄に綺麗な字で書かれた看板が立っている。ここで間違いなさそうだな。
ここからギルドの前までぶっ飛ばされてきたのか。…よく生きてたなアイツ。
店に入ると、展示されてる商品の半分は普通に品質のいい武器が並んでいる。
鍛冶Lv6は中堅とベテランの中間くらいの腕前らしく、ジュリアンの年齢を考えるとかなりいい腕をしていると思う。
……問題は、店の前面に展示されている禍々しささえ感じられる珍品たちだ。
ただでさえ目立たない立地なのに、ショーウィンドーに展示されている物がおかしい。
チェーンソーみたいに連続した刃の鎖が剣身に沿ってつけられてたり、その隣は槍の先にドリルみたいな、っていうかまんまドリルがついてたり。
他にも珍品奇品のオンパレード。拷問器具か土木用具か分からんようなもんばっかである。
ロクに営業やってないとか以前に、外から見た武器がこんな訳分からんもんばっかじゃ客足遠のくのは当たり前だろ。
物珍しさに店内に入る人もいるかもしれないが、試し振りした結果武器に振り回されてえらい目にあわされるんじゃリピーターもいないだろうし。軽く詰んでないかこの店。
まあいいや、さっさと奥に居るジュリアンに金を払いに行こう。
「ああ、すまない! いま工房を補修中でね! 武器の注文は今受け付けていな……ってマイ・カスタマーッ!! 早速来てくれたのかぁぁぁあああ!!!」
「うるせぇよ! もっと声のボリューム下げろっつってんだろ!」
「ふはは! 照れる必要はない! 我は分かっている、分かっているぞぉぉおお!!」
「なにがだよ!」
「…うるさい」
「…ジュリアンさんの声のせいでお店が軋んでるんすけど、これ大丈夫なんすか?」
こっちの顔を見た直後、無駄に目を輝かせて大声で歓迎するジュリアン。アルマも言ってるけどうるせぇ。
「残りの武器料金の一部を払いに来たんだ。つーか分かってたけど店の中ガラガラじゃねーか」
「まあな! なにせ店頭に置いてある武器がアレでは、普通の感性をもつ者ならばまず近付かないだろうから当然だ!」
「分かってるなら奥半分に展示してある武器の方を目立つ場所に展示しろよ。そっちは普通に品質いいだろ」
「ノン。我も普通に武器を作り続けて売れば普通に商売安泰なのは理解しているのだ。だが、それは別に我が作らずともいいだろう?」
よくねぇよ。お前いま破産寸前だろうが。まず武器を売って金を作ることが第一目標やろ。
「この街には多くの職人がいて、誰もが素晴らしいレベルである。加工が困難な素材をいとも容易く絶妙に洗練されたフォルムの武器に加工してみせている。心より尊敬すべき者たちばかりだ!」
「お前もそこそこいい腕してるだろ。その若さでこんだけいい武器が作れるなら、真面目にスキルレベルを上げれば相当いい鍛冶屋になれるだろ」
「ふはは! お褒めの言葉ありがとう! だが、尊敬こそすれ、我はその腕のいい職人たちのことを羨ましいと思えないのだ」
急に真顔になるな、怖いから。
「装備を作り続ければスキルレベルが上がる。スキルレベルが上がればより加工の難しい素材を使い、より作るのが難しい装備を製作できる。それの繰り返しだ。もちろん、それはそれで素晴らしいことだ。敬意を表するに値する偉業だとも」
「分かってるなら――」
「分かっている。分かってはいるが、その素晴らしいあり方は我が目指すものとはどうも違うようなのだ。なぜなら、それらは鍛冶スキル、あるいは裁縫スキルという枠組みの中での話だからだ」
こちらの言葉を遮りながら、言葉を続けるジュリアン。
こちらとしてはさっさと用件済ませて帰りたいところではあるんだが、ジュリアンの話が少し気になる気持ちもある。
「スキルは装備や道具の作り方を半自動でサポートしてくれる。スキルに身を任せればまず失敗はしない。だが、それでは個性に欠けるのだよ」
「個性って。色んな店を見る限り、職人ごとにこだわる点なんかは結構違うと思うんだが」
「それもあくまでスキルにできることの中での話だ。……我は、その『スキル』の限界をぶち壊して、新たな可能性を生み出したいのだ!」
「新たな可能性って、そこに展示してあるなんだかよく分からない武器……武器? のことっすか?」
「そうだ! といっても、並のステータスの戦闘職ではまともにその真価を発揮できないほど高出力のものばかりだし、まともに扱えるほど能力値が高ければ普通に高級な素材を使った装備を振るった方が扱いやすくて強いだろうな」
「ダメダメじゃないっすか…」
「正直、失敗の連続で心が折れそうになっていてな。自棄になってエクスプロージョン・バスターを起爆させたらあの有様というわけだ」
自棄っていうか、それもうほぼほぼ自殺紛いの自傷行為じゃねーか!
やること成すこと全部おかしい。…俺が言えた義理じゃないかもしれんが。
「まあ、そのおかげで初めて本当の意味でのマイ・カスタマーと出会えたのだ! あのエクスプロージョン・バスターはある意味大成功と言っても過言では――」
「過言だ馬鹿野郎」
「ふはは! ……ところで、せっかく足を運んでくれたのだ。よかったら我の武器を試し振りしていかないかね?」
話題の転換早いわ! てかまともに振るえないもんばっかだってさっき自分で言ってただろうが!
……でも、コイツの作った他の武器が気になるのもまた事実。
ものは試しだ、ちょっとだけ試運転していってもいいかもな。
「あ、なんかカジカワさん乗り気っぽいっす」
「……ヒカル、あんまり暴れすぎないようにね」
『ピィ…』
後ろからジト目でこちらを見ながら呟く二人+1羽の視線が痛い。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだから勘弁してくれ。
さーて、なにから試そうかなーフフフフフ。
お読みいただきありがとうございます。




