進化 ついでにこっちもなんか進化
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「アルマっ! 精霊魔法でオーガの足元を不安定にさせつつ、必殺技の準備! レイナは影の中にいて、オーガが攻撃を繰り出す時に腕だけ出して手裏剣を顔に向かって投げろ!」
『コケッ?』
「ヒヨ子は他の魔獣に気を付けつつ離れてろ! 今のお前じゃ攻撃が掠っただけであの世行きだぞ!」
『コ、ココッ!』
はいどうも、ノルマをこなした後、しばらく探してようやく発見したオーガと絶賛激闘中です。
戦うのは2回目だが、やっぱこえーなこいつ。迫力満点すぎでしょ。
だが、武器無しでしかもタイマンだった前回に比べれば、遥かに戦いやすい。
「オルァァァアアア!!」
『ダァァアアガアアアアアアアッッ!!』
俺が破損させて、買い取るカタチで弁償したエクスなんちゃらこと爆裂大槌を試しにオーガ相手に使っているが、思った以上に使える。
持ち手を回して角度を変えれば思った通りの方向に慣性を無視して振るって、予測不能な軌道で攻撃を繰り出せるうえに、何度も同じ角度のまま爆発させれば凄まじい遠心力を攻撃力に上乗せすることができる。
鍔迫り合いみたいな状態になった時に爆発させれば容易に押し切れるし、破損した試作品とは思えないほど実戦で有効だ。
「せいやぁっ!」
真正面からの近接戦闘じゃ不利だと判断したのか、一旦距離をとろうとしたオーガに向かって大槌をぶん投げる。
馬鹿正直に真っ直ぐ投げられた武器なんか躱すのは簡単だ。実際余裕しゃくしゃくで避けられてしまった。
が
『グバハッ!!?』
避けたはずの大槌が、軌道を変えてオーガの後頭部に命中した。
魔力の遠隔操作で軌道を操って、命中する直前に大槌を爆発させた。いくら防御力が高かろうともその衝撃は頭の中に大きく響き渡っただろう。
で、怯んだ隙にアルマが例の『必殺技』を発動させた。
「シィッ!」
速すぎて軌道が目に見えないほどの、素早さ特化の一撃。
その運動エネルギーは、Bランク上位の魔獣すら容易く屠るほど強力だ。
ステータスに表示こそされないが、仮にステータス換算したら軽く攻撃力1500超えてると思う。
基礎攻撃力のおよそ4~5倍って頭おかしいやろ。
ドスッ とオーガの胸に剣が深々と突き刺さった。
どう見ても致命傷だ。人間相手ならこれで勝負あっただろう。
だが、魔獣の生命力を甘く見てはいけない。こいつより数段下のジェットボアですら、頭を貫かれても死ななかった。
「アルマ! まだそいつ死んでないぞ!」
『グブッ……!! ……ガァッ!!』
「……っ!」
アルマを叩き潰そうと、剣が胸に刺さっていることなど気にも留めず腕を振りかぶった。
痛みからか、怒りを浮かべた表情でアルマを睨みつけて殺意を露わにしている。
「させないっす!」
『ハグゥッ!?』
大口を開けたオーガの顔面に、影から腕だけ出して手裏剣を投げつけるレイナ。
面食らった様子だが、咄嗟に口を閉じて手裏剣を噛んでキャッチするオーガ。器用だなこいつ。
ガリガリと、まるでせんべいでも齧るかのように手裏剣を噛み砕いている。あれでは手裏剣の巨大化もできないだろう。
だが、一瞬でも時間を稼げればそれでいい。
「【火炎剣】!」
『グバッ!? グググガアアアアアア!!!』
オーガに突き刺さってる剣から、白い炎が噴き出てきた。
身体の内部を直接焼く超高熱の炎。ジェットボアもこれには耐えられなかった。
『グゥギギギギガグゥゥ!! ガアアアアアアッ!!!』
「…!?」
しかし、足りない。
まだ、コイツを即死させるには、火力が足りない。
致命傷を負って、内臓を焼かれつつも、いまだにコイツは倒れない。
振りかぶった腕を、今度こそアルマにむかって叩きつけようと振り下ろした。
「させっかい、この野郎!!」
『ググウググググッ……!!』
魔力飛行で急接近し、振り下ろした腕を掴みすんでのところで攻撃を防いだ。
反射的に全身を気力で強化したけど、こんな怪力相手にそう長く拘束を維持できる気がしない。
火炎剣の炎でどんどんオーガのHPが削れていってるけど、HPが0になるまでもつか!?
「アルマ!! もっと火力を上げてくれ!!」
「……ヒカル、先に謝っておくね。……かなり痛いかもしれないけど、ごめん」
「……はい?」
え、ちょ、アルマさん? なに? なにする気なの? なんでそんなすごく申し訳なさそうな顔して—――
「【稲光乃剣】っ!!」
アルマの剣から炎が消えうせ、その直後、剣と、オーガと、そしてオーガの腕を掴んでいる俺の身体を紫の稲妻が駆け抜けていった!
『グギャアアアアアアアアア!!!』
「ひぎゃあああああああああ!!?」
「ヒカル、本当にごめんなさい! でももうちょっとだけ我慢して!」
≪魔法剣Lv4【稲光乃剣】 剣身に雷を纏わせ、接触した対象に雷属性の追加ダメージを与える技能。接触している間は、電流の影響で対象の身体の自由を奪うことができる。ただし、火炎剣や暴風剣に比べ秒間ごとの消費MPが激しい≫
なるほど! 雷属性の攻撃を喰らってる間は身体がうまく動かせないから、反撃されることなくダメージを与え続けることができるのか!
つーか最初っからこれ使ってくれよ! 痛いんですけど! 超痛いんですけど! 俺がオーガの腕を掴む前に使ってくれればよかったのに!
『アガガガブガババアババァァァァ……ガボッ……』
「ひぎぎぎぎががががが!! あ、アルマァッ!! もう死んでる! オーガ死んでるから! 止めて、マジ早く止めてぇぇぇぇ!!」
「う、うん!」
オーガが泡を吹いて息絶えたのを確認してから、ようやく電流地獄から解放された。
あばばばば………!! う、うん、アルマの判断は、間違ってはいない。
俺はHPが尽きない限りはダメージを受けることはない。だから極端な話、俺ごと敵を剣で貫いたとしても問題はないんだ。
でも、雷属性の攻撃の場合、痛覚を刺激されるから痛いことには変わりはないわけで。
ってアルマ? また稲光乃剣を発動して、おい、なにする気だ!?
「……ヒカル、ごめんなさい。私も、同じ痛みを味わうから、許して」
「ちょっ、ストップ! スタァァァップ!! いいから! 全然平気だからやめなさい!」
涙目になって謝りながら、雷を纏った剣を自分の身体に押し付けようとするアルマを必死に止める。
いや、だから俺はHPが残ってれば怪我しないから大丈夫なんだってば! あんな高電圧を身体に押し付けたら火傷じゃ済まないぞ!
この子、思いつめすぎるととんでもない行動とろうとするな。
…まあ以前俺もアルマに似たようなことやっちまった時はすっごい罪悪感があったから、気持ちはよく分かるけどさ。
「まあなんだ、全員無事なままで討伐できてよかったよ」
「……ごめん」
「だから大丈夫だってば、そんなにしょげることないって。せっかく大物仕留めたんだから、もっと喜びなよ……ってあれ? アルマ、その剣、なんか光ってね?」
「え?」
アルマの装備している『鬼喰い鮫の牙剣』が、よく見ると淡い光を放っているのが分かる。
魔法剣、じゃないな。なにこれ?
≪この剣を使用して討伐した魔獣の数と質が、一定のラインを超えたうえで特定の魔獣を討伐したため【進化】しようとしている≫
進化? あーそういえば固有魔獣の素材を使った装備品は進化することがあるとかなんとか言ってたけど、今まさに進化しようとしてるのね。
って、なんかみるみる形が変わっていってるんですけど、これ大丈夫なの?
「ま、まるで光る粘土みたいに形が変わっていってるっす!」
「……綺麗。こんなの初めて見る」
ひときわ強い光を放ち、光がおさまった頃には、アルマの手には真っ黒かつ艶のある、美しい片刃の剣が握られていた。
≪【Lv2 竜喰らいの黒剣】 ATK+580 INT+300 竜族スキルを取得している対象に特効あり 自動修復効果も強化されており、時間はかかるが剣身が折れても修復可能≫
めちゃめちゃ強くなってますやん! なんなの? 固有魔獣装備の進化ってこんな大幅に強化されるものなの!?
一回り骨太になって、リーチも少し長くなったようだけど、重心が変わって扱いづらくなったりしてないのかな?
「すごい…大きくなってるのに、全然重さが変わってないように感じる。むしろ、前より手に馴染む気がする」
「鬼喰い鮫の牙剣って名前だったから、多分一定数魔獣を倒したうえでオーガを倒すことが進化する条件だったんだろうな。……ん? そうなると次の進化は……」
「どうしたの?」
「いや、その剣の名前、メニュー表示に竜喰らいの黒剣って書いてあるんだが。……もしかしたら次の進化にはドラゴンを倒す必要があるんじゃないか…?」
「ど、ドラゴンっすか!? そんな無茶な!」
「……ハードルが高い」
進化したのはいいが、次の進化の条件がとても厳しい。
魔獣草原で見た黒龍を見る限りじゃ、基礎レベルが10上がったとしても倒せる気がしないんだが。
……まあそんなに焦る必要はないか。レベルを10上げてダメなら20でも30でも上げてから挑めばいい。
どうせいつかドラゴンを食うために戦うことになるんだ。それまでじっくりと地力をつけることに専念しよう。
『ピピッ!』
お、ヒヨ子も戻ってきたな。他の魔獣に襲われたりしなかっ―――
……あれ? お前、毛色が変わってね? 白から茶色になってね? 汚れたの?
≪離れている間に魔獣を討伐し、レベルが10に到達しメドゥコッコからブロンズコッコに進化した模様≫
……。
また、コイツの成長した瞬間を見逃してしまった。
頼むから成長過程を見せてくれよ。知らん間に成長したよーって言われてもなんかちょっと釈然としないから。
お読みいただきありがとうございます。




