はしゃぎすぎにはご注意を
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「ふははは! かたじけない、おかげで生き返ったような心地である! 気のせいか事故の前より調子が良い気がするぞ!」
「は、はあ……」
事故現場から吹っ飛ばされた黒焦げ君(仮称)を生命力操作で治療すると、引くぐらいのハイテンションで礼を言われた。
この人、元からこんな感じなのか、それとも事故のショックでちょっとおかしくなってるだけなのか。……多分前者かな。
事故の前より調子が良いのは、多分背骨とか筋肉とかに元々負荷からくるダメージがあって、それも一緒に治療してしまったからかな。
治療が終わって全身の煤を拭き取ると、短い銀髪に金色の瞳、整った顔立ちに引き締まった身体。
外見だけはパーフェクトなイケメンがそこにいた。なお中身。
「いやはや、新しい武器の試運転の際、予想を超える反動にこんな所まで飛ばされてしまうとは! 威力は凄いがこれも失敗作だな! 誰にも扱えん! ははは!」
なにわろてんねん。俺がクッション代わりにならなかったら落下死してたところやぞ。
つーか、人一人を反動だけでこんなところまでぶっ飛ばすとかどんな武器だ。というか武器かそれ?
「おっと、我としたことが自己紹介が遅れてしまったな。我が名はジュリアン! 武器芸術家のジュリアンである! …よろしく」
「よ、よろしく」
自己紹介とその後の握手のテンションの差が酷い。情緒不安定なんだろうか。
出会ってまだ数分程度なのに話してるだけで「こいつヤベェ」と理性が警鐘を鳴らしているのが分かる。
「全身、酷い火傷でしたけれど、なにが起きたのでしょうか?」
「おお、聞いてくれるか! なにを隠そう、我は『新しい武器』の開発をしていて、その試作品の試運転をしていたところだったのだが、あまりにも破壊力が強すぎて扱いきれなかったのだ!」
「新しい、武器?」
……おい、なにを聞いているんだ俺。
こいつはどう見ても真っ当な鍛冶屋でも魔具屋でもない、控えめに言ってマッドサイエンティストの類だぞ。
適当に会話を切り上げて、さっさと宿屋に戻るべきだ。でないと面倒やトラブルに巻き込まれかねない。
なのに、なんで、脳内のゴーストはこいつと話したがってるんだ?
「うむ! 火の魔石に無色の魔石を燃料代わりに接続し、爆発を起こしてその推進力を利用し凄まじい勢いで振り回し、絶大な破壊力を発揮できるハンマー、名付けて『エクスプロージョン・バスター』だっ!! これをまともに喰らって無事でいられる者などそうはおらんだろうっ! まあ問題は勢いが強すぎて誰にも扱えないことなのだが」
「…エクスプロージョン・バスター……」
「最後にチラッと致命的な欠点があるって言ってるんすけど…」
後ろの方で、アルマとレイナが黒焦げ君ことジュリアンさんの説明を顔を引き攣らせながら聞いている。
凄まじく大仰な名前なうえに、さっきのジュリアンさんの状態を見る限りじゃ敵を殴る前に扱ってる人間の方が死にそうなんですがそれは。
「ああ、そこに転がっている大槌がそれだ。一緒に吹っ飛ばされてきたようだが、誰かに当たらなくてなによりだな! ははは!」
危ねぇよ! 笑い事じゃねぇだろ! 地面に突き刺さってるしこんなもん人に当たったら即死だろ!
てかデカいな!? 餅つきに使う木槌ほどのサイズだが、見たところ金属製みたいだしそもそも爆発云々以前に持ち上げられる人間が限られてるんじゃないかコレ…。
槌頭部分の後ろに、バイクのマフラーみたいな排気口があるけど、中で爆発させた空気がここから噴き出ることで推進力に変えてるのかな。なんつーアホな発想だ。
とりあえず、引き抜いて返しておくか。お、グリップ部分が微妙に柔らかくて掴みやすい。基本的にアレな発想の産物なのに変なところで芸が細かい。
んー、ステータスが大分上がってきた影響なのか、俺なら気力操作無しでも普通に振り回す分には問題なさそうだな。片手でもいける。
「おおお! 素晴らしい、我はその槌を両手でゆっくり振るのが精一杯だったというのに、片手であたかも木剣でも振るかのように扱うとは!」
「掴みやすくて、バランスもいいですね。爆発する機能を外して普通の武器として売れば買い手はつくと思うのですが」
「ノン! ただの武器ではダメなのだよ! 我の目指しているものは『新しい武器』、すなわちスキルの恩恵を超える武器なのだっ!!」
……不覚にも、なんかビビッときた。
この狂人めいた青年の言葉になぜか惹かれるものがある、と感じてしまっている。
まさか、まさかとは思うが、この人が作った武器ならば、あるいは
「……ちょっと、爆発のさせ方を教えていただいても?」
「む、むむむ? 君、この武器に興味があるのかね? 大抵の人間は我の絶妙に珍妙な作品を悍ましいものでも見るかのような眼をするものだが、君も随分と物好きだなハハハ!」
変な武器作ってる自覚あんのかよ。
「だが、爆発機能を使うのは遠慮してくれたまえ。安全性が保証できないのはさっきの我の有様を見れば分かるだろう。そんなものを使わせて怪我でもさせたら申し訳ないだろう? それに、そもそも燃料となる無色の魔石は先程の試運転で消費して無くなってしまったのでどのみち無理だ」
あら、意外とその辺の常識はあるのね。
無色の魔石か。……メニューさん、今更だけど属性付きの魔石と無色の魔石の違いを聞いても?
≪簡潔に述べると、属性付きの魔石は外部から流れ込んできた魔力をそれぞれの属性に合ったエネルギーや物質に変換する魔力を持った物質であり、ランクが上がるごとにロスが少なく高効率で変換できる≫
≪無色の魔石は純粋な魔力が結晶化したもので、魔具の燃料などに使われる。ランクが高ければ高いほど高密度の魔力を秘めていることになる≫
例えるなら、火の属性付きの魔石はライターみたいなもんで、無色の魔石はライターの中のガス燃料みたいなもんだと思えばいいのか。
いやまあ実際ライターみたいな運用をするためには火の魔石を使った魔道具が必要なんだろうけど。
……あれ? 生活魔法の指輪には魔石なんか使われてなかったような。
≪生活魔法の指輪は魔石ではなく極々微細な術式が刻まれており、生物から魔力を吸収してエネルギーや物質に変換する機能を魔石無しで備えている≫
≪ちなみに生活魔法の指輪に使われている魔力吸収の術式は極めて制御が難しく、生活魔法の指輪以外の魔道具には使用できないほど繊細な術式であり、魔具を使用するために無色の魔石は必要不可欠≫
ふむふむ、要するにやっぱこのエクスなんちゃらを爆発させるためには無色の魔石が必要だから今すぐは無理ってことね。残念だわー…。
≪ただし、魔力の直接操作が使える梶川光流は例外であり、火の魔石の反応炉に魔力を直接流し込めば無色の魔石無しで起爆可能。起爆に使用する魔力量を調節できるので、むしろ無色の魔石を使用した時よりも制御は容易と推測≫
今の説明を見た瞬間、カチリ と歯車がハマったような、奇妙な感覚を覚えた。
「……ヒカル?」
「カジカワさん、どうしたんすか?」
怪訝そうな顔をしながら呼びかける二人の声すら遠く感じる。
……ちょっとだけ、ほんの先っちょだけ、試してみるか。
魔力を少し、槌頭の中の爆発機関に流し込み起爆してみた。
すると、ドンッ! と予想以上の勢いで爆発し、凄まじい勢いでハンマーが振るわれた。
おいおい、MPを10程度注いだだけでこんなに強く爆発するのかよ。
「なっ! か、回路のどこかに魔力が残留していたのか!? おい、君! 危ないから離すのだ! 下手したら我の二の舞に――」
……面白い、なかなかのじゃじゃ馬ぶりではないですか。
気力で膂力を強化して、さらに起爆に込める魔力を追加!
ドンッ! ドゴォンッ! ズガァンッ!! と徐々に勢いを増して爆発し、猛スピードでハンマーが振るわれていく。
途中で柄の部分を捻って起爆すれば、慣性を無視するかのように振るう方向を急に変えたり、逆に同じ向きを維持したまま何度も爆発させればドンドン勢いを増して威力が高まっていくようだ。
……ナニコレ、なんだこれ、超楽しいんですけど!
「な、なななっ!? なんだこれはぁっ!!?」
「ヒカル! やりすぎ!」
「カジカワさん! これ以上は近所迷惑になるからストップっす!!」
おっとアカンアカン、調子に乗り過ぎたわー。
最後に柄を逆方向に捻り起爆させて勢いを殺し、試運転終了。
……やばい、こんなわけわからん武器なのにビックリするくらい手に馴染んでしっくりくるんですけど。
威力もかなりのもので、もしももっと上質な素材で作れば凄まじい威力を誇る武器になるだろう。
「……素晴らしい」
「スバラシイ、じゃないっすよ!! なにいきなりボンボコ爆発させながら振り回してるんすか!」
「ヒカル、はしゃぎすぎ」
「すみませんでした……」
とりあえず、頭を下げて謝っておく。マジメンゴ。
年甲斐もなくついはしゃいでしまったが、でもこんなロマンの塊みたいな武器を見て興奮しない男はそうそういないと思うぞ。え、そうでもない? そうですか。
でもこれは本当に素晴らしい。欲しい。是非欲しい。
ああでも、連続して起爆したせいか、槌頭の部分が変形してしまっている。鋼鉄製じゃこれが限界か。
できればもっといい素材で作ってくれれば言うことなしだ。てかその前に弁償しないと。
「ごめんなさい、あまりにも魅力的な武器だったものでつい…。槌頭の部分が変形してしまったので、弁償させてくださ――」
「……なんだっ!! 今のはなんなのだ!?」
急に肩を掴んできて、目を剥いて叫び声を上げるジュリアンさん。
「魔石もなくどうやって起爆したのだ!? いやそれより明らかに爆発の規模を制御できていたように見えたが、いやいやというかあんなに連続で起爆しても問題なく扱える君はいったいなんなのだっ!?」
「お、落ち着いてください、というか体を揺さぶるのをやめてください」
「ふ、ふは、ふぅははははぁっ!! グレェト!! エクセレントだっ!! 気に入ったぞ君ぃっ!!」
「ちょ、あんまり大声出すと近所迷惑になりますから落ち着いて!」
「さっきまで爆発させまくって大はしゃぎしてた人がよく言うっす」
「うん」
『ピピッ』
外野もうるさい! というか誰か止めろ!
その後、近所の職人たちから苦情が殺到して全員に平謝りするはめに。どうしてこうなった。
はしゃぐにしても年を、というか場所と時間を考えるべきだったなー。
……だが、この武器は素晴らしい。ちょっとこの後、時間があったら相談してみようか。
これ以外にも変な武器とかあったら是非見てみたい。フフフ、ワクテカが止まらぬ…!
お読みいただきありがとうございます。
去年の今ごろに投稿を開始して、気が付けばもう1年も経っていて時の流れとは早いものだなぁとうちのばっちゃのようなことを思う今日このごろ。
今後ともお暇つぶしにでもお読みいただければ幸いです。




