自覚なき成長
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『フッ! ガッ! ダァウッ!!』
「ちょっ! まっ! うおぉう!?」
空中での激しい攻防。
向こうは【天駆】を使いながら攻撃を繰り出してきているから、脚での攻撃を制限されているはずなのにまるでハンデを感じさせない見事な格闘術を披露している。
お前、ちょっと道場でも開いてみないか? 素手でこんなに鋭い攻撃を繰り出せる人間なんかほとんどいないと思うぞ。
で、そんな達人も真っ青な攻撃になんとか対応できているのは気力操作で膂力を強化していて、かつ魔力パイルをノーモーションで全身のいたるところから出して攻撃を弾いているからだ。
確実に捉えたと思った一撃が、不可視のパイルに弾かれるたびに困惑と苛立ちが混じった顔を見せるオーガ。
能力値に相当な差があるのに、なんか思ったよりもまともに戦えてて自分でもびっくり。気力操作の重要さがよく分かる。
で、あんまダラダラと戦ってると気力も魔力も尽きて詰む。その前にコイツに決定打を与えられなきゃ逃げることを考えなきゃならん。
だが、オーガの攻撃が速過ぎ&強すぎて防ぐので手一杯なうえに、防御力もアホみたいに高くて半端な攻撃じゃ大してダメージを与えられない。
メニューさん、今回ばっかりは判断ミスじゃないかと疑いそうになるんですが。
『ウルルルァァァアアア!!!』
連撃をパイルでどうにか凌いではいるが、このままじゃジリ貧だ。
仕方ない、全気力を使って一瞬だけ能力値を爆上げして—―
ガシッ とオーガの手がなにかを掴んだ。
掴んだのは俺の身体じゃない。魔力で作られた不可視のパイルを掴んだんだ。
そして、そのままパイルごと俺の身体を地面に向かって投げ飛ばした。
「おわわわ!!」
あっぶな! 咄嗟に魔力飛行で方向修正しなきゃ地面に激突してたわ!
さっきまで魔獣たちを何体も墜落させてたけど、こんなに怖いのか。ちょっと罪悪感。
『グァダァッ!!』
え?
いつの間にこんな近くに、ああ、エアステップを使いながら縮地を――
ドスッ と腹部に鈍い衝撃。
モロに腹パンを喰らったらしく、HPがごっそり減って残り2割を切っているのを確認。
やばい、あと一発でも喰らったらHPが尽きてダメージを受けて、最悪そのまま死ぬ…!
再びオーガの両手が掴む。今度は魔力パイルじゃなくて、俺の両腕を。
オーガの頭が光っているのが見える。いや別に頭がハゲてるからとかそういう意味じゃなくて、なにかのスキル技能を使っているんだと思う。
≪格闘術Lv3技能【鉄槌頭突き】 魔力・気力を消費し、基本攻撃力の2倍の頭突きを繰り出す技能。この個体が使用した場合、攻撃力は2360程度にも及ぶ≫
アホか! なんだ攻撃力2360って!? そんなもん喰らったらHPのあるなし関係なく死ぬわ!
どうすんだよ! このままだと頭が陥没するの通り越して真っ赤なきたねえ花火が撒き散らされることになるぞ!
≪気力操作で頭部及び頸部を瞬間的に強化することを推奨≫
残りの気力全部使っても多分無理だと思うんですけど。攻撃力と防御力ともに1700いけばいい方じゃね?
ざんねん! おれのぼうけんはここでおわってしまっ――
≪残っている気力を全て消費したうえで、メニュー機能で残存魔力を全て気力に変換し、さらに強化に回せば迎撃は可能≫
……
その発想は無かったわ。
あ、頭突きがくる。さて、果たしてどっちの頭の方が固い、いや硬いかな。
『ギィィッ!!』
「いいぃぃっ!!」
ゴシャッ と頭蓋が頭蓋にめり込む嫌な音が空に響いた。
「ただいまー」
「お疲れ、ヒカル」
「おかえりなさいっす!」
冒険者ギルドで待っていた二人のもとへ、ようやく帰ることができた。
頭突きを頭突きで迎撃する際に、魔力を全部気力に変換してしまったから、危うく魔力飛行ができずに落下死するところだった。
幸い、レベルアップして魔力を回復できたから墜落せずに済んだけど、空を飛んでる時に魔力を気力に変換するならちょっと残しておくように気を付けないと。
なんかアッサリと一撃で決まってしまったけど、あの時の俺の頭突きの威力はどんくらいのもんだったんだろうか。
もしかしたら攻撃力3000超えてたりとか? まさかね。
「おや、ようやくリーダーのお帰りですか。お疲れ様です」
「どうも。討伐履歴の確認をお願いします」
初めて会った時に『例のアレ』呼ばわりしてきた受付嬢フロイナーシャさんことフロイナさんに今日の戦果を確認してもらう。
Lv40台の魔獣を中心に狩っていたうえに、Lv57のオーガを討伐したんだから結構なお金になるだろうなー。
「おぅ……そちらの二人の履歴を見て予想はしていましたが、やはり凄まじいですね」
「まぁ、高所から突き落とす戦法ばかりとっていましたので、多少強い魔獣相手でもなんとかなった感じですが」
「……あの、ある程度鑑定レベルが高くなるとどんな倒し方をしたのかも大体分かるのですが、オーガを頭突き一発で倒したってどういうことですか」
バレテーラ。あんま深く聞かんといてくれませんかね。
「えーと、私、頭が物理的に硬いみたいで、オーガの頭突きに合わせるカタチでこうゴシャッと」
「オーガの頭突きはミスリル製の鋼板を羊皮紙のようにひしゃげさせるほどの威力があり、絶対に喰らってはいけない攻撃だと有名なのですが……やはりあなた大分おかしいですね」
緑色の髪をいじりながら、顔を引き攣らせて呟くフロイナさん。
……もういいや、さっさと討伐報酬もらって帰ろう。
「グランドラットが4体で12万、グランドスネークが2体で7万、ヘルウィング・モノアイが3体で12万、そしてオーガが1体で13万。合計で、44万エンになります」
高っ! 44万!? 嘘やろ!?
いや、Bランク下位のハイケイブベアの討伐報酬が2万だっけ? となるとこれでも妥当な方か。嬉しい誤算だ。
「Bランク上位の魔獣とAランク下位の魔獣を一人でこれだけ狩れる人はそういないと思いますよ。しかも武器を使わずにどう戦ってるんですかねぇ…」
「ありがとうございます。武器に関しては使いこなせるものがないので、手持ちの道具なんかを駆使してどうにかといった具合ですね」
「道具を使って討伐した履歴がないのですが……」
細かいことは気にするな!
要は勝てばいいのだ!
…つーか、いい加減武器がほしい。
スキルが無くても戦えなくはないけど、ちょっと強い相手と戦うたびに魔力と気力を使い果たすのはちょっと…。
ちくしょう、スキルスキルスキル! そんなもん無くても使えるような武器はないのか!
逆にスキルがあっても使いこなせないような武器でもあったら、俺に使えたりしないのかねぇ。
例えば『銃』。こちらの世界には存在しない武器で、扱えるようになるスキルも存在しない。『ストーンバレット』とか『フレイムライフル』みたいに魔法の名前としては存在するのにね。おかしいね。
銃を作ってもらおうにも作り方や構造がイマイチ分からん。ライフリングとか繊細な構造を作れる気がしないし。
もっと手に持って戦闘力が上がってることを実感できる武器がほしいけど、イマイチイメージができない。
……もう、諦めて素手主体でいいかな。
ギルドを出て、宿へ向かう。
もうすっかり暗くなっちまったし、さっさと宿へ戻って晩御飯作ろうか。
「ふっふふー、すっごいお金稼いだっすー!」
「これで、装備の代金の分は取り戻せたかな」
「うん。……もうちょっとお金を稼いだら、なにか俺に合った武器を作ってもらえないかゲンさんに頼んでみるかな」
夜になっても、ところどころで金属を叩くような音が響いているのが聞こえる。
昼間ほど騒がしくはないが、それでも完全に静かになったりはしないのかね。
まぁ工業都市ならではの騒がしさだろうし、この程度ならさほど不快でもないから我慢――
ズガァンッ!! と爆発音が街中に響き渡った。
……さすがにこの音は我慢できないかな。つーかこれ事故じゃね?
音がした方を見ると、どこかの工房に大穴が開いて煙がモクモクと上がっているのが分かった。
爆発事故? ダイナマイトを作っている工房でもあるのか? ……あれ、こっちに向かってなにか降ってきて
「ほぐぅあ!?」
「うおぉっ!?」
「ひ、ヒカル!」
「うわぁっ!? だ、誰っすか!?」
……丁度、俺の身体をクッションにするカタチで、なにかが、いや誰かが上から降ってきた。
さっきの事故現場から吹っ飛ばされてきたのかな? つーかさっさとどいてくれ。重い。
「ふ、ふふふ。我としたことが、反動を見誤るとは、あ、ダメだ、死ぬ……」
なんか俺の上で呻き声を上げている人がいるが、声からして男性か?
身体を起こして見てみると、全身からブスブスと煙を出しながら黒焦げになっている男性が、死に体で倒れているのが見えた。
……とりあえず、生命力操作で回復してあげようか。話はそれからだ。
お読みいただきありがとうございます。
残念ながら魔獣との友情を育むことならず。
オーガの死体はアイテム画面に入れておいて、ゲンさんのところに持っていく予定の模様。




