努力豊作
新規のブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
『シャアァァァアアア!!』
『クキャアアアアアアアア!!』
「はい、こっちのヘビはLv25のロックスネーク、アナコンダみたいだな。毒は持ってないらしいけど長い胴体を使って締め付ける力が強くて牙術も使えるから注意。こっちの一つ目の怪鳥はLv43のヘルウィング・モノアイ。【魔眼】っていうスキルを持ってるらしくて、目と目が合った相手にステータス異常なんかの様々な効果をもたらすから、目を見ないように戦うことを意識するんだ」
「……ヒカル、当たり前のように両手で魔獣2体を捕まえてるけど、大丈夫なの…?」
「い、いつもみたいにレベリング用の魔獣を運んでくれるのはありがたいんすけど、なんでカジカワさんは攻撃されてないんすか?」
「魔力で拘束してあるからな。孤児院のオオカミを魔力で操れたくらいだし、Lv40台までならギリギリ大丈夫みたいだ。こらヘビ公、大人しくしないと胴体固結びすんぞ。トリ公も目玉にトウガラシ摺り込まれたくなかったらこっち見んな鬱陶しい」
『シャアァ……!?』
『ギャァ……!?』
はいコンニチハ。昼食も済んで一段落ついたところでレベリング午後の部を開始します。
レイナにはLv20台、アルマにはLv40台前半くらいの魔獣を狩ってもらうことに。
どちらもレベルが一回り近く上だが、同レベル帯の魔獣じゃ経験値もショボいし訓練にならないのでこれくらいが丁度いいだろう。
それじゃあ、ファイッ! かーん。
「なにゴング代わりに鍋鳴らしてんすか! 気が抜けるからやめてくださいっす!」
「すまんすまんついノリで。あ、レイナ、前、前、きてるぞー」
『フシュルルル……!』
「うひゃああ!? ちょ、速いしウネウネしてて気持ち悪いっすー!! このぉ!」
接近してきたヘビに向かって、投影した手裏剣と苦無を投げて攻撃するが、体表の鱗に弾かれてダメージを与えられない。
やっぱ格上相手には通用しないか。じい様特注の手裏剣と苦無ならいけるかもだが。
ヘビ公は変則的な動きでレイナに接近しつつ、噛み付くか締め上げるか攻撃の機会をうかがっているようだ。
レイナも影潜りを使おうとヘビの影を見ているが、下手したら潜る前に締め上げられてしまう。
まあそうなっても密着してるヘビの身体の影に入れば脱出できるだろうけど。
『クルルルァァァアア!!』
「…」
オレの目を見ろォ! と言いたげに巨大な一つ目でアルマを睨みつけながら吠える怪鳥。
それをそっぽ向きながらスルーするアルマ。なにこの空気。
ちなみにこいつが使える魔眼は、目が合った相手を一時的に状態異常に陥らせるもので、『混乱』『幻痛』『暗闇』などその効果の種類は多い。コレガヤミノセカイダー。
魔眼だけじゃなくて爪術や攻撃魔法のスキルも持っているけど、こいつってブレイドウィングの進化先の一つだったりするんだろうか。
「『リトルノーム』、穴を」
〈またあなか。しかもこんどはじぶんをおとすのか?〉
〈まああいてはとりだし、おとしてもすぐにとびあがられちまうだろうけどさ〉
何を思ったのか、精霊魔法を使って自分の真下に穴を作り地面の下に落ちていった。
『クルル……?』
急に地面の下に沈んでいったアルマを見て困惑していたが、とりあえず穴の中を覗いてみようと近付く怪鳥。
あー、アルマがなにやろうとしてるか大体分かった気がする。
怪鳥が穴を覗き込んだ直後、真昼間だというのに眩しくて直視できないほどの閃光が穴の中から放たれた。
『クキキャアアアアッ!!?』
スパークウルフの角とほぼ同等くらいか? 穴から横に漏れた光でもこの眩しさ。それを至近距離からモロに直視してしまった怪鳥は、涙を流しながら目を閉じてしまっている。
光属性の攻撃魔法【シャインボール】をより強い光を放つようにアレンジしたみたいだな。
あの様子じゃ魔眼を使うどころじゃないだろう。
『シャルルァァッ!?』
「アルマさんグッジョブっす! おかげで影の中に入れたっすよ!」
そして、その光で作られたヘビの影に潜り込むことに成功したレイナ。
ヘビの方は光に目をやられたりはしなかったようだが、レイナを見失って混乱している。
仮に目が眩んでいたとしても、ヘビには熱を感知する器官が存在するらしいから大した影響はなかっただろうけど、それでも影の中に潜ったレイナの気配を感知することは無理だろう。
狙ってやったのか、それとも咄嗟にこの状況を利用したのか。どちらにせよいい判断だ。
光がおさまると、アルマがまるでエレベーターのように地面を盛り上がらせて戻ってきた。上へ参りまーす。
そして、【暴風剣】を発動して一気にケリをつけるつもりのようだ。
……また暴風剣か。あの技、素早さは大幅に上がるけど火力が低いんだよなー。でも素早さを底上げしないとそもそも格上の魔獣相手に対応できないっていう。
でもこの状況なら【火炎剣】を発動して一発で仕留めた方がいい気もするんだが……お?
アルマの全身が、気力操作で強化されていくのが分かる。
【気功纏】とは違う、純粋に気力で膂力を瞬間的に爆上げするつもりのようだ。
「……シッ!」
アルマが短く、かつ力強く息を吐くのと同時に姿が消えた。
……え? どこ行ったの?
『クキャッ………?』
怪鳥が間抜けな声を上げた後、動きがピタリと止まった。
1秒ほど硬直すると、その首がゆっくりとスライドして胴体と泣き別れになり、地面に向かって崩れた。
恐らく、自分が死んだことにすら気付かずに絶命したんだろう。
「すうぅ……ふうぅぅ………」
息を整える声が聞こえる方を向くと、アルマが汗だくで深呼吸しながら剣を鞘に納めているのが見えた。
……これ、なにが起きたの? 全然動きが目に映らなかったんですけど。
≪工程として、1・暴風剣を魔力操作で強化し素早さを大幅に底上げ 2・さらに気力操作で膂力とクイックステップを瞬間的に強化 3・魔刃・疾風を発動し首を攻撃 以上の3工程により魔獣を仕留めた模様≫
瞬間的に素早さに極振りして攻撃を仕掛けたのか。タネが分かればシンプルだが、攻撃を喰らった相手はなにが起きたかすら分からず死んだようだ。
素早いってことはそれだけ運動エネルギーも大きいから、火力も充分というわけだ。火力不足とか言ってた俺バカス。
……あんな速さ、俺なら気力のほとんどを費やして瞬間的に能力値を上げないと無理だぞ。なのに魔力と気力を1~2割程度消費しただけで済んでいる。
魔力と気力操作、そしてスキル技能の複合技。いや、むしろ
「すっげぇ……まさに必殺技じゃん」
「必殺、技?」
思わず呟いた言葉を、アルマが不思議そうに復唱する。
「うん、必殺技だ。スキル技能とか自分の手札を組み合わせた、アルマだけの技だな。あんなの俺にも無理だ。……ホント嫉妬すら覚えるよもう…」
「……そう」
なんか反応が薄い気が、いやよく見ると嬉しそうに見えなくもないか?
よく見るとちょっと口角が上がってるのが分かる。微妙な表情の変化だがアルマにしちゃこれでもよく顔に出てる方か。
この技を編み出せたことは自信をもっていいと思う。多分当たればLv50以上の魔獣にも充分通用するだろう。
……センスの差に、やっぱちょっとジェラシー。レベルがいくら上がってもすぐに追いつかれることに焦燥感を覚える…。
「こっちっすよー、いややっぱこっちっすー!」
『シィッ!? シシャァァアッ…!?』
レイナの方は、影から出たり入ったりを高速で繰り返してヘビ公を撹乱している。モグラ叩きかな?
予測不能な動きに混乱して、がむしゃらに胴体を捩らせてイラついているのが分かる。
「うわっとっとー!?」
『シィッ! シャアアアアアアア!!』
ヘビ公の滅茶苦茶な動きが功を奏したのか、影から出たレイナが間の抜けた声を上げながら体勢を崩してしまった。
その隙を逃すまいと、大口を開けてレイナに向かって噛み付いてきた。
「なんつってー! せやぁっ!」
『フギュゥガ!!?』
手裏剣と苦無を投げて、口の中に放り込むように攻撃した。
体表は硬い鱗に覆われているから効かなかったが、さすがに口の中はそうもいかなかったようで血を吐きながら痛みに悶えている。
しかし、致命傷には至っていないようで、怒りを浮かべた表情でレイナを睨みつけている。
『シィィシャギャアアアアッ!!!』
「ひぃっ! 怖いっす! でもこれでトドメっす!!」
ヘビ公に向かって手を向けるレイナ。なにをする気だ?
と思った矢先に、ヘビの頭の内側から巨大な刃が突き抜けて、その顔面を縦に真っ二つに切り裂いた。
……アレ、さっき投げた手裏剣と苦無か? なんであんなデカくなってんの?
≪あらかじめ、投影した忍具に大量に魔力を込めておき、着弾を確認した後にその魔力を操作し忍具のサイズを巨大化させた模様≫
こっちはこっちでえげつないな! なにこのロリ忍者怖い!
「ふっふっふー……忍殺完了っす」
あんま忍んでないけどな。てかこんなデカい得物で仕留めたらむしろ目立ちまくるわ。
あのね、いつも俺のことヤバいだの非常識だの言ってるけど、君たちも人のこと言えないからね?
アルマもレイナも、基礎練しつつスキルの運用を日々研究して、その努力が少しずつどころかドンドン実を結んでいってるようだ。
いかん、最近やっとちょっとはリーダーらしい強さを身に着けられてきたと思ったのに、このままじゃすぐに追い抜かれてしまう。
努力してもダメだったならともかく、余裕ぶっこいて追い抜かれて失望されるのはホントに勘弁願いたい。
……その辺の魔獣相手に適当に実戦訓練してたら、新しい技とか閃いたりしないかな。え、ない? デスヨネー。どーすっかなー。
お読みいただきありがとうございます。




