ヒヨコ(ニワトリ)
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魔獣の素材は鍛冶屋に渡したし、アルマ用のアクセサリも魔道具屋に付呪してもらうように手続きをして、ようやく装備品の依頼は済んだ。
港町で気まぐれに買ったマギパールに付呪を施してもらうことにしたけど、あれでよかったんだろうか。
アルマによく似合いそうなんだけど、どうかな? って言ったら「それがいい」って即答してたけど、今思うと自分でゆっくり選ばせてあげるべきだったんじゃないかなー……。
まあ特に不満はなさそうだしいいか。…次からはちゃんとオシャレに時間をかけられるようにしてあげよう。
装備関連の手続きが済んだら、いつもの流れで金策とレベリングを兼ねて魔獣討伐のために冒険者ギルドへ。
受付嬢がこちらを鑑定した際「ああ、あなたが例のアレですね」とか言われたんだが。
例のアレて。もっと言い方ってもんがあるでしょうが。どんな情報が送られてきてんだオイ。
すんなりと依頼を受けられるのはありがたいが、なんか釈然としない…。
依頼書の貼られている掲示板には、対魔族軍のメンバー募集とか特定の街の防衛の依頼とか、どうも最近魔族関連の依頼が増えてきているようだ。
ヴィンフィートの一件の例もあるし、決して他人事じゃない。魔族対策が急務なのは当たり前なんだろうけどやっぱ物騒だなー。
いよいよ開戦ムードが漂ってきた気がしないでもない。避難しようにもどこに逃げればいいのやら分からんし、とりあえずトラブルに巻き込まれた時に最低限対応できるくらいには鍛えておかないと。
はい、というわけでやってまいりました【魔獣山岳・ウィレンフィレット】 許可してない人は入っちゃダメの看板を通り過ぎていざ進入。
これまでの魔獣のテリトリーの中でも最大の面積を誇り、俺が感知できる範囲全てに点々と魔獣の反応が感じられる。
いったい何haあるのやら。これもしもスタンピードが起きたらあの街詰むんじゃね?
≪日本の北海道とほぼ同じぐらいの面積で、このテリトリーと隣接している街は11ほど。仮にスタンピードが発生した場合は、これらの街全てに魔獣が分散して侵攻するため、対処可能なレベルではある。ただし、分散しても数千ほどの魔獣が侵攻してくるので応援要請は必須≫
分散して数千ですか!? ダイジェルのスタンピードなんか全部で600匹程度だったんだけど、どんだけショボい規模だったんだ…。
魔獣の強さもスゲー強い反応が高い所にいくつもあるし、これらが侵攻してきたらと思うとゾッとするな。てかこれ各山のボスかなんかか? いったいどんなバケモンがいるのやら。
「ふわー、絶景っすねー。港町で見た海とはまた違った広さを感じるっすー」
「山岳って、岩がゴロゴロしてるだけの山が並んでるようなところを想像してたけど、草木の緑がとても綺麗」
「だな。もう少し季節が進めば紅葉も楽しめそうだけど、そのころにはもう別の街に移ってるだろうなー」
『コケッ』
まずは景色を堪能して、英気を少しでも養っておく。
しばらくここでレベリングすることになるだろうし、風景に飽きるまでに存分堪能しておこう。
ちなみにレベリング目的だから、ヒヨ子も擬態を解いてニワトリの姿になっている。この状態でヒヨ子っていうのもなんだし、今からでも改名するか? ニワ子とか。
『ココッ! コケェッ!』
まだヒヨ子の方がマシ? というか真面目に名付けろ? これでも大真面目なんだが。え、余計悪い? そうですか。
可愛い系の名前よりもっとカッコいい名前の方がいいのかな? ゴンザレスとか。……分かった、俺が悪かったから蹴爪で蹴るのをヤメロ。
とかアホなやりとりやってるうちに、早速第一村人もとい魔獣発見。
いや第一どころじゃない。軽く2、30匹はいるわアレ。
拳大サイズのLv10未満の虫型魔獣の群れが、こちらに気付いたのか不快な羽音を響かせながら一斉に接近してきた。
ハチ、蝶、カナブン、バッタ……ってキモイな! 見てるだけでゾワゾワしてくるわ!
「ひいぃっ!? なんかいっぱい虫が、虫があああ!!」
「……気持ち悪い」
レイナのオーバーリアクションもだが、アルマの感想がシンプルながら辛辣でちょっと笑いそうになってしまった。
まああんなのが近付いてたら笑い事じゃ済まないが。キモい。
「アルマ、2、3匹だけヒヨ子のレベリング用に残しておいて、あとは…」
「うん、燃やす」
食い気味に返事をしながら、虫魔獣たちに向かってマシンガンのように炎の弾を放つアルマ。
みるみる魔獣の群れが消し炭へと変わっていく。無慈悲。
……うん、気持ちは分かる、すごい分かる。でももうちょっと容赦してあげてもやっぱいいやキモいし。
「あ、あっという間に残り3匹に……アルマさんの魔法、やっぱりすごいっすね」
「スキルを魔力操作でアレンジすれば、レイナも似たようなことができると思う。……それでも限界があるけど」
「限界っすか? なんの?」
「自分の手札。使い方をよく考えないと、魔力操作でアレンジしても……」
なんかアルマが意味深なこと言ってて、それに対してレイナが疑問符を浮かべながら首を傾げている。
ここのところ、どうもアルマは自分の戦術に疑問を持っているようで、自分にできることを一つ一つ確認するのが日課になっている。
で、大抵魔力切れ起こして俺が補給するまでがいつもの流れ。魔力不足に陥る前にやめておけとあれほど(ry
『コケッ!』
おっと、ヒヨ子のレベリングを始めないと。
ステータスの継承でどれだけ戦えるようになったのか、見せてもらおうか。
……元々の数値が弱いから大して強くなってないけど。
『コケェッ!!』
!?
え、速っ!?
魔獣に向かってクイックステップで距離を詰めたのは分かったが、その速さがおかしい。
縮地とまではいかないが、通常のクイックステップに比べて明らかに速い。おいおい、まさか…
≪気力操作により、クイックステップを強化している模様。梶川光流により強化された際に習得したと推測≫
ほんの数回、気力で能力値を強化しただけだぞ? もう自力で気力を操れるのかよ!?
接近したらそのまま伸魔爪でリーチを伸ばして薙ぎ払い、残りの虫魔獣たちを文字通り一蹴した。さすがはあの白金ニワトリの子と言ったところか。
初日のレベリングとは比べものにならないほど動きが良くなっている。継承っていうのは戦闘経験もある程度引き継いでくれるのかな。
『コケッ』
そしてドヤ顔でこちらにアピールしてくるヒヨ子。はいはい、よく頑張ったね。
複数相手でも割と余裕そうだったし、これならかなりスムーズにレベリングできそうかな。
というわけで、次は5体同時に相手してみようか。ファイトー。
『…コケッ!?』
え、いや無理でしょみたいな鳴き声上げてるけどスルー。
大丈夫大丈夫、お前ならできるさ。多分。きっと。
『……ピ』
仕留めた魔獣の数が30を超えたあたりで、ヒヨ子が幼体に擬態しストライキを起こしました。
もうこれ以上はヤダ という強い意志を感じる。……ちょっと無理させすぎたかな。
レイナのレベリングの時に比べたらまだ抑え気味にレベリングさせたつもりだが、それでもやっぱきつかったようだ。
「しょうがない、今日はこれぐらいでヒヨ子のレベリングはやめておこうか。昼飯どきだし、弁当食べよう」
『ピピッ! ピピピィ!!』
「はいはい、多めに作ってあるから好きなだけ食べなさい。昼からは俺たちのレベリングをするから、お前は俺の肩に乗って見学してな」
『ピッ』
「普通に会話できてるんすね……いよいよカジカワさんも人間から魔獣寄りになってきたんすか…」
「レイナ、昼からLv30の魔獣と一騎討ち」
「ごめんなさいごめんなさい!!」
「…賑やか」
アルマの言う通り、少人数のわりに随分賑やかだ。そして緊張感に欠けている。ここ一応魔獣のテリトリーやぞ。
まあ、マップには特に警戒すべき魔獣は表示されてないから大丈夫だと思うけど。
さーて、昼からが本番だな。アルマとレイナはどれだけの魔獣とやり合えるようになったのか、見ものだな。
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