凸凹師弟鍛冶屋
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違う、違う、この店も違う。ここも悪くないけど、いまひとつ。
おはようございます。宿で一泊して頭と体の調子を整えてから、現在魔獣の素材を加工してくれる職人さんを探しているところです。
ちなみに宿の方は一泊の値段が一人頭2500エンだった。やっぱ徐々に高くなってるわこれ。他にもっと安い宿屋があるにはあったけど、全ての部屋がしばらく予約済みで入れなかったから仕方ない。
値段が高い分、ベッドやソファなんかもなかなかのフカフカ具合だったから満足感はあったが、一日で7500エン消費は正直かなり痛い。
さっさとよさげな職人さんを見つけて加工してもらってから魔獣討伐兼レベリングでもして稼がないと。資金は割と潤沢にあるにはあるが、装備を作ってもらうのに結構な出費を強いられるだろうしな。
材料を持参しているから一から注文するよりは遥かに安いだろうが、強力な魔獣の素材は加工の難易度が高いからその分料金が高いのには変わりないし。
で、街の中を探索しつつ店を見て回っているわけなんだが、どうも「これだ!」って感じの店がなかなか見当たらない。
いや決してスルーしてる店のレベルが低いわけじゃない。むしろ他の街の職人たちより平均レベルは総じて高めだ。
だが店の職人のスキルレベルが7に満たなかったり、7以上でも値段が相場の何倍も高かったり店に並んでいる商品の質がちょっと低かったりしてて、どうもコレジャナイ感じが否めない。
≪一定以上良質な素材の部分は、貴族や王国軍など身分の高い相手に優先して使用されており、店に並んでいるのは並以下あるいは補修が必要な部分を使用した商品の模様≫
高級な素材はそれ相応の相手に優先して回されるってわけね。ファッキン格差社会。
まあ、店に並んでる商品ですらぼったくりじゃなくても相当な値段が表示されてるし、むしろこの方がバランスがいいのかもしれないけどさ。
≪ちなみに悪質な店の場合、客が用意した素材の粗悪な部分を使い『残りは端切れとして処分した』と虚偽を述べ良質な部分を他の客用の商品の素材として着服するケースもあるため、慎重に店を選ぶことを推奨≫
うん、実際これまで見てきた店の3割くらいはそんな感じの店だった。質がよくても値段がぼったくりだったり、あるいはその逆も。
値段も質もいい店もあるにはあったが、そういう店はどこも予約数か月待ちの店ばかりですぐには対応できないところばっかりだった。
せめてひと月以内に加工してもらいたいんだがなー。いつまでもこの街に留まるのもつまらんし。
…なんか異世界にきてから旅するのが当たり前みたいな感覚になってきたな。
「なかなか決まらないね」
「カジカワさん、ちょっと店と職人さんを見ただけですぐどっか行っちゃうからみんな不機嫌そうに「冷やかしか!」って言ってるんすけど」
「ほっとけ。妥当な値段や品質で品物を売れない店側の方にも問題あるだろうが」
「見ただけで品質や職人のレベルが分かるのは便利だけど、それを知らない人たちから見たら嫌な客に見えても仕方ないと思う」
まあね。それでどう思われようともどうでもいいけど。
どうせスルーした店で今後買い物する気無いし。
……お、お?
不意に、狭い路地の奥でクッソ小さい看板に『ゲン工房』とだけ書かれている店が目に入った。
こういう目立たない店って隠れた名店とか便利な店だったりすることもある気がしないでもない。…我ながらなんて自信のない直感だ。
目立たない便利な店といえば、ダイジェルの素材屋の婆さん元気かな。急にダイジェルを出ていったもんだから通えなくなってちょっと申し訳ない気分だ。
ちょっと覗いてみようかな。また冷やかしにならなきゃいいが。
店の前まで足を運んで、ドアノブに手をかけた直後
ガシャァンッ!! とガラスの割れる音。超ビックリした…!
ドア横の窓が割れて、中から人が飛び出してきたらしい。最後のガラスをぶち破れ。
割れたガラスで切ったのか、身体のあちこちから血を滲ませたオレンジ色の短髪青年が店の中の誰かを睨みつけている。
「いってぇな!! なにもぶん投げることねぇだろうが!!」
「やっかましいわい!! 未熟者の身で独立なんぞ10年早いわい! アホなことぬかす暇があるなら剣の一本でもまともに打ってみせろ!」
「スキルならもうLv5にまで上がった! もう充分一人前だって言えるレベルだろうが! 向かいの鍛冶屋なんかLv4なのに立派な店を開いてるじゃねぇか!!」
「あんな外装だけ目立って、中につまらんもんしか置かないような店の鍛冶屋になりたいのかお前は!? なら木剣や竹槍の専門店でも開いてろ青二才が!」
「言いやがったな! てめぇも表出ろクソジジイッ!!」
店の中には背がちっさいのに全体的に筋肉質な毛深いじい様がいて、顔に生やしてる立派な髭を撫でながら青年に怒鳴り声を上げている。
これ師弟喧嘩の真っ最中みたいですね。お邪魔しましたー撤収ー。
「よぉし! 今日は念入りに根性叩き直して……む、おい待った、客か?」
窓から顔を出したじい様がこちらに気付いたようだ。見つかっちまった、シット。
「そうっすよー。あ、続きやるんなら帰るんでおかまいなく」
「いや、一旦止めだ。おい、今日はもうさっさと手当して窓を直したら工房に戻れ。炉に火を入れておくのを忘れるな」
「窓に向かってぶん投げたのはアンタだろうが、自分で直せよ」
「今のお前に客の相手なんかまともにできないだろうが、いいからさっさとしろ!」
「分かったよ、うるせぇな……」
渋々ながら指示に従い、店の奥に戻るオレンジ青年。
上司に向かってあんだけの啖呵を切れるのはある意味すごいなこの人。俺にはちょっと無理だわー。え、スライム封印した時のロリマスへの対応? あれは緊急事態だったからね仕方ないね。
って、このじい様鍛冶スキルLv9もあるじゃないか! この街で見た中でもトップクラスの腕前だ。
街の入り口で見たLv9の職人は、この街一番の鍛冶屋の職人らしいがこんな小さな店にそれと同格の人がいるとはな。
つーかこのじい様ほんと小さいな。レイナと同じくらいの背丈やないの。
んー、もしかしてこのじい様…
≪種族:ドワーフと判定≫
やっぱりか。エルフと並んでファンタジーじゃポピュラーな種族だな。
やっぱ鍛冶が得意で力持ちで大酒飲みだったりするんだろうか。
≪ほぼイメージ通りであると推測。生産職でも鍛冶士・鍛冶師ならば腕力は人間に比べて非常に高く、駆け出しの戦闘職以上のSTRを誇る≫
さっきも人をぶん投げてらっしゃいましたね。
戦闘職のドワーフならどんだけ怪力なんだろうな。コワイ。
「ちっと見苦しいトコ見せちまったな、まあ大目に見てくれよ」
「はあ……」
「俺はゲダガン、ゲンって覚えとけばいい。で、そっちのアホ弟子がヒグロイマ。略してヒグロだ」
「誰がアホだクソジジイ」
さっきまで弟子と仲良く喧嘩モードだったのに、何事も無かったかのように接客モードで対応するじい様。カナートさんといい仕事のできる人は切り替え早いね。
店に置いてある品物を見てみたが、どれも文句なしに品質がよく、かつ値段も妥当な表示がされているな。
問題はどれくらいの期間で装備を作ってくれるかだが、さて。
「さて、用件はなんだ? オーダーメイドなら丁度いま注文が途切れてるトコだからすぐ対応できなくもないぞ」
「いっつもガラガラだろうが。こんな辺鄙な場所で毎日怒鳴り声上げてたらそりゃ客足遠のくわ」
「怒鳴り声上げてんのはてめぇのせいだろうが! っとすまん、あのバカが余計な茶々入れてきたせいで話が途切れちまったな」
こんな漫才みたいなやりとりがこの二人の通常運転なんだろうか。賑やかな職場ですね。
「仕留めた魔獣の素材を使って装備を作っていただきたいのですが、この場で出しても?」
「おう、こっちのスペースに並べな。言っとくが、つまらねぇ素材だったらそっちのバカ弟子に任せることになるからそのつもりでな」
一応、そこそこいい素材だと思うんだけどなー。
カバンをアイテムバッグに見立てて手を突っ込み、アイテム画面から白金ニワトリ・金銀オオカミ・迅雷白虎の死体を取り出した。
それを見た瞬間、じい様と青年が目を見開いて素材を凝視している。
「おいおいおい、どれも一級品の素材ばっかじゃねぇか。こっちのオオカミとトラはBランク上位固有魔獣、そっちのニワトリはAランク下位か」
「これを仕留めたって、あんたらAランクパーティの冒険者かなんかか? それにしちゃ随分若いが」
「……ニワトリとトラをほぼ単騎で仕留めたのはお前さんか。ステータスがえらく支離滅裂というか、どうなってんだそれ?」
あ、このじい様勝手にこっちを鑑定しおった。鍛冶だけじゃなくて鑑定まで使えるのか。てかマナー違反やぞ!
まあ人に言いふらしたりしなけりゃ別にいいけどさ。
「ステータスに関してはあまり触れないでいただけると助かります。こちらにも色々事情がありまして」
「そっちの嬢ちゃんたちも歳の割に随分高レベルだな。職業もハイ・パラディンに、ニンジャ? 聞き慣れない職業だ」
「ジジイ、人の詮索より装備の相談を先にやれよ。嬢ちゃんたちも睨まれて怖がってるだろ」
「やかましい、相手のステータスも分からないまま強力なだけの装備なんか渡してもロクなことにならんだろうが! っと、すまん。また大声上げちまって、怯えさせちまったなら謝る」
「別に怖くないっすよー。……うん、カジカワさんやアルマさんがキレた時に比べたら全然マシっす」
「そっちの黒髪二人のことか? このジジイと違って大人しそうに見えるけどな」
「バカ弟子、もうお前口を開くな」
レイナ、余計なこと言わないでくれ。変な誤解されたらどうする。
なんかこの師弟が漫才してるせいでなかなか話が進まないんですけど。
装備の話がまとまるまでこりゃ時間かかりそうだなー……。
お読みいただきありがとうございます。
ちなみにアルマが金銀オオカミと戦っている時に、BランクのオオカミをAランクと誤認していたのは固有魔獣は実質1ランク上の魔獣と同等の強さを誇っているからです。




