別れの挨拶 don'tこい
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いよいよニューシーナを出発する日だ。
孤児院はもう大丈夫。ギルドにも特に目ぼしい依頼はないし、これ以上ここに留まる理由は無い。
……なのに、やっぱり少し後ろ髪を引かれる思いだ。
「レイナお姉ちゃん、もう行っちゃうの……?」
「もっとゆっくりしていこうよー! ていうかもうずっと一緒にいてよぅ!」
「料理長、まだまだお料理教えてほしいのに…」
「大体の基礎は修得したみたいだし、もう教えることはなにもないよ。レシピも毎日ファラム君が腱鞘炎になりそうになりながら100種類くらい書き写しただろう。君たちもそろそろ自分たちだけの力で頑張ってみるといいよ。……あと料理長って言うな。本業冒険者だから」
「……うん、正直書き写し過ぎて、すごく腕がだるくて辛かったなハハハ…」
もうすっかり料理長呼ばわりが定着していて思わず苦笑い。
ファラム君も掌を握ったり開いたりしながらちょっと顔をしかめている。…お疲れさん。
「アルマ姉ちゃん、もう剣のお稽古できないのか…?」
「ちょっと、魔法のお稽古の方も忘れないでよ!」
「なんだよ! こっちが先に言ったんだぞ!」
「喧嘩はやめて。どっちも、まだまだ教えたいことがいっぱいある。でも、仲良くしてないともう教えたくない」
「「うっ……」」
「また会う時までつまらないことで喧嘩しないって約束できるなら、いくらでも教えてあげる。だから、仲良く」
「「……はーいっ」」
アルマは戦闘職候補の子供たちにちょっとした稽古をつけてあげていたようで、ちょっとしたアイドルみたいな扱いになっているな。
さすがに魔力や気力の直接操作は教えていないようだが。……当たり前か。
もしも教えていたら恐るべき子供たち量産状態になっていたことだろう。なにそれこわい。
レイナの方は、院長と別れの挨拶をしているようだ。
「レイナ、今更だけど、スタンピードから逃げた後に少しずつ各地に預けておいた子供たちを迎えに行ってたんすけど、あなたを一番最後に回してしまって長い間寂しい想いをさせてしまって、ごめんなさいね…」
「そんなこと全然気にする必要ないっすよぉ。一緒に避難したピュシアとヒエナも、新しい家族のところで幸せそうに暮らしてるし、自分もカジカワさんとアルマさんに拾ってもらって冒険者になれたんすから!」
「ふふふ。やっぱり、レイナはたくましくて元気で優しいっすね。……あの二人のいいところをそのまま受け継いだみたいっす」
「むー、お母さんはともかく、アイツになんか似てないっすよー……」
「……レイナ、ギルカのことを許せない気持ちは分かるし、許す必要もないっす」
ギルカっていうのは、レイナの父親のことだな。……似てるか? スキルぐらいしか共通点なくね?
「でも、元から自分の子を売りに出そうとするような腐れ外道じゃなかったってことは、どうか分かってほしいっす。いやまあ確かにデリカシーに欠けたこと言ったりすぐに人を見下そうとしたり自分の間違いを中々認めようとしなかったり悪いことして証拠隠滅しようとしたりトラブルメーカーだったりしたっすけど」
「割と元からダメな奴じゃないっすか! ていうか腐れ外道って何気に言い方辛辣っすね!? ……あれ? その言い分だとアイツの若いころのこと知ってたんすか?」
「知ってるもなにも、レイナの両親はウチの孤児院の出っすよ」
「え、なにそれ初耳なんすけど!?」
「それを言うとレイナのことだから、こっちに対して変に気を使われそうだったっすからね。ただでさえ孤児院の雑務を率先してやろうとして、いつも疲れてる様子だったし」
「そ、そうだったんすか……」
「ギルカがウチの孤児院にレイナを連れ戻しにこなかったのも、さすがに世話になった孤児院にまで殴り込みにくるのは気がひけたからじゃないっすかね。あるいはヤンチャしたお仕置きに尻を2、3百回叩かれた苦い思い出が忘れられないからかもしれないっすけど」
「2、3百回!? 桁がおかしくないっすか!?」
「ああ、今じゃそんなことしてないっすよ。ギルカほどの悪ガキなんかそうそういるもんじゃないっすから」
「き、聞けば聞くほど自分がアイツの子だってことが情けなくなってくるっす……」
げんなりした様子で院長の話を聞くレイナ。
…うん、自分の親の恥の話なんか聞いたらそうなるわな。
「レイナ、強くなった今だからこそ言えることだけど、もう関わりたくないからってギルカから逃げるようなことはやめたほうがいいっす。ギルカのことが許せないなら、その気持ちや憎しみを溜めこんだりしないで思いっきりぶつけてやればいいっす。……できれば急所を蹴る以外の方法でね」
「………院長がそう言うなら、そうするっすよ」
「何度言っても聞きわけないようなら、ウチの孤児院まで引っ張ってくるといいっすよ。いい大人になってもまだバカやってるのかって雷落としてでも矯正してやるっすフフフ…」
「院長、顔が怖いっす……。その必要はないっすよ、あんな奴もう怖くないっす。まだちょっかい出してくるなら何度でもボコボコにしてやるっす!」
「それならいいっす。あと、余裕ができたらちゃんとフェリアにも会ってあげてほしいっす。きっと、すごく心配してるでしょうから」
「もちろんっす!」
フェリアっていうのは母親の名前かな。
レイナによく似た容姿らしいが、どこの街に住んでるのかな? 場所をあとで教えてもらおう。
「さて、話したいことは話したし、あとは見送るだけっすね。……行ってらっしゃい、レイナ。帰ってきたくなったら、いつでもおいでなさい」
「院長…。………行ってきます! またくる時はお土産いっぱい持ってくるっす!」
「あ、できれば今度は牛肉が食べてみたいっす! 鶏肉豚肉兎肉があんなに美味しかったんすから期待してるっすよ!」
「いや、もうお土産の内容をリクエストするとか気が早すぎるっすよ!?」
院長が食い気を出しまくるせいで、別れの挨拶なのにしんみりした気持ちがあまり湧いてこないな。
……わざとやっているのかもしれないが。
「カジカワさん、院長だけでなく、この孤児院そのものを救ってくださったこと、本当にありがとうございました」
「院長の件は依頼をこなしただけだし、ポテチ売りで収入を得られるようになったのは元々子供たちにそれだけの才能があったからだ。だからそんなかしこまる必要はないよ」
「いいえ、自分で行動するのではなく、人の才能を正しく引き出して発揮させる。それがどれだけ凄いことなのかは、カジカワさんに色々と教えてもらった僕たちが一番分かっています。ですから、カジカワさんもそんなに謙遜しすぎないでもっと自分に自信を持ってもいいと思いますよ」
「……そりゃどうも。じゃあ、元気でな。書き物のしすぎで腱鞘炎にはなるなよファラム君」
「は、はいっ」
ちょっと赤くなってしまった顔を見られたくなくて、そっぽを向いてひらひら手を振りながら孤児院の門から外へ歩く。
………アカン、なんかすごく気恥ずかしい。
人の才能を正しく引き出すって言っても、メニューさんに子供たちのスキルや能力値を教えてもらってから適当に人員配置しただけなんだけどなー。
それを俺の功績だって言われても、なんかあんま実感湧かないんですけど。……まあ本人たちが満足そうならいいか。
さて、別れの挨拶も済ませたしさっさと工業都市とやらに行く馬車に乗りますか。
前の馬車は外付けHPすら意味をなさないほどの負荷が尻にきて痛かったが、魔力クッションを覚えた俺に隙はない! どんとこい馬車の振動。
え、今度は馬車じゃなくて獣車? 馬車よりずっと速くて悪路にも強いけど揺れが酷い? ……ど、どんとこい獣車の振動(震え声)。
……やっぱ魔力飛行で移動した方が良かったかなー……。
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