出発準備
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いよいよポテチ販売を開始し、1週間ほど経ったが結論から言うと予想以上に上手くいった。
用意した数百袋が連日完売するほどの盛況ぶりで、出だしは好調。宣伝の効果が効いてるな。
まあ最初は物珍しさと『他の人が買ってるから自分も買ってみよう』という人が多いからだろうけど、それでも相当な売り上げを得ることができた。
「いっぱい売れたー!」
「こ、こんな大金見たことない……!」
「一袋350エンって、お菓子の値段にしちゃ安すぎる気がしたけどその分たくさん売れたからね」
なお日本じゃその三割程度の値段の模様。料理やお菓子の値段が高いこの世界だからこそ許される値段だな。
材料の牛馬鈴薯は菜園からすぐに育って手に入れられるし、仮に収穫がポテチの生産に追いつかなくなってもそのころには材料を買う資本金には困らなくなってるだろうし、問題ない。
「皆、すごく頑張ってくれたんすね。……とても嬉しく、誇らしく思うっす」
「いんちょう、ぼくたちね、いっぱいいっぱいいもをほったんだよ。すごい?」
「もちろんっす。あれだけの数の大きな芋を毎日掘ってくるなんて、ニックたちは偉いっすねー」
その金髪の小さい子が夢で肉に間違われていたニック君か。食われないように気を付けろ。
まだ6歳児らしいがそれでも芋ほりくらいはできるのか。小さな身体には重労働だろうに、立派だな。
「カルラたちも、芋の皮むきが大分上手くなってきたっすね」
「レイナお姉ちゃんが、ナイフの使い方を教えるのが上手だからだよ」
「ふふふ、この調子でいけばカルラも立派な短剣使いになれるっすねー」
レイナは短剣使いじゃなくて忍者だけどな。
てかカルラって短剣術のスキル持ってたのか。もしかしたら、カルラがレイナに懐いているのはその辺も大きく関係しているのかもな。
「カルラたちが剥いた芋をひたすらスライスして水に浸けて、乾燥風で乾かして調理班に渡す。単純だけど、とにかく量が多いよなー」
「芋を切る時に自分の指の皮まで切らないように注意するっすよ。カジカワさんが鍛冶屋に頼んで作ってもらったスライサーって道具、ホントに切れ味すごいんすから」
街の鍛冶屋さんに頼みに行った時に、『ウチは鍛冶屋だ! おままごとのオモチャは細工士にでも頼め!』と怒鳴られたりもしたが、ポテチの現物を食べてもらうと不機嫌そうな顔が少し驚いたような表情に変わった。
お酒好きな鍛冶屋さんでよかった。ポテチはお酒のつまみにも適しているから、『ソレを作る道具なら作ってやる。ただし店を出す場所を教えろ』と最終的には快く作ってもらえた。
なお、値段は4万エンもした模様。劣化しにくいようにミスリルが刃の部分に使ってあるらしく、もしかしたら世界一高いスライサーかもしれない。
長く使えるように素材にはケチらないようにしたが、何気にポテチの準備で一番金がかかった。頼むから大事に使ってくれよ…。
「最初は揚げすぎて焦がしたりもしたけど、もう要領は掴んだから大丈夫」
「塩加減もどれくらいが丁度いいか分かったし、そろそろ別の味付けの練習もしないとね」
「リーナたちも毎日調理お疲れ様っす。モグモグ、このままでも充分美味しいけど、モグモグ味のバリエーションが増えるのは嬉しいっすねモグモグモグモグ」
「喋ってる途中でつまみ食いすんのやめろ! てか食いすぎだっつの! 売る分が無くなっちまうぞ!」
売り始めてひと月程度経ったら、醤油味やニンニク味とか一定周期で増やしていくように指示を出しておいた。
成人前の子供とは思えないほど手際よく調理を進めていて、調理スキルの有効性と子供たちのセンスに少し嫉妬すら覚える今日このごろ。
「できたお菓子の販売の方は、お金の計算なんかもしなきゃいけないからもしかしたら一番大変だったでしょうに、連日よくやってくれてるっすね」
「値段が安くてそんなに細かくないし、お釣りなんかの計算も楽だからそれほど大変でもないけどね」
「時々、難癖付けて値段をまけたりタダで持っていこうとする人もいたけど、ミーアが『いじわるしちゃ、めっ』って言ったらすぐに引き下がってくれたから今のところ大きなトラブルは無いね」
「…ていうか、ミーアの乗ってるオオカミにビビって逃げてただけだろあれ」
「オオカミじゃなくて、『ワンシャン』だよー。ちゃんとなまえでよんでよー」
「お、おう。……お前、その名前でいいのか?」
『オ、オンッ…』
若干不服そうだが、鳴いて答えるオオカミことワンシャン。名前可愛すぎやろ。
成り行きでテイムさせたワンシャンだが、思わぬカタチで役に立ってくれているな。今後も頼むぞ。
名前と言えば、俺の飼ってるヒヨコにもいい加減名前を付けてもいいかもしれない。
なんて名前にしようかなー。ヒヨ子とか? いや成長したらニワトリじゃないしそりゃないか。
つーか飼い始めてから半月近く経ってるけど、未だにサイズが全然変わってないんだけどちょっと成長遅くね?
毛並は黄色から白へと変わったけど、それ以外じゃ特に目立った変化は見られないんだが。
≪梶川光流が飼育しているメドゥコッコは既に成体まで成長している。サイズの変化が見られないのは、自分を幼生体に見せかける魔獣スキルLv1技能【幼生擬態】を使用しているため≫
…え、もうとっくに大人になってたのか?
それならなんでヒヨコのふりなんかしてたんだ?
『ピピッ、ピッ』
サイズがデカいままだと邪魔になるかと思った?
いや、まあ移動する時には小さい方が肩には乗せやすくて便利だけどさ。
だが徐々に成長していくところを見てみたかった気持ちもあったんだがなー。
…まあ、まだこれから進化していくだろうし、もう大人だと分かれば明日からレベリングだ。気合入れろよヒヨ子。
『ピッ! ………ピ?』
え、その名前で決定なの? みたいな反応してるけど無視。俺にネーミングセンスを求めるな。
孤児院の方はもう大丈夫かな。
日に数万から10万ちょっとは稼いでいるし、贅沢しなければ人並みに生活することぐらいはできるだろう。
日々の食事のレシピも結構な種類を書き写させたし、これ以上のバリエーションを望むなら自分たちでなんとかするべきだろう。
もう俺が余計な茶々を入れる必要はない。これならレイナも心置きなく出発できるだろう。
「2日後に、この街を出ようと思う。子供たちの頑張りのおかげで、もう孤児院の運営も心配無さそうだしな」
「ヒカル、もう少し、ゆっくりしていってもいいと思うんだけど…」
「……いえ、カジカワさんの言う通りっす! ……あんまり長く留まってると、別れるのが辛くなっちゃいそうだし……」
「もう既に辛そうだぞ。なんならレイナだけ残るか? 俺は別に、構わないぞ、うん、ホントに」
「すっごい不本意そうな顔してるじゃないっすか! 残らないっすよ、自分はお二人と一緒に色んな所を旅して、その時の話とお土産を持ってまたここに顔を出したいって思ってるっす」
「ならいい。ラディア君はまた港町に戻ってレベリングをするらしいが、俺たちはどうしようかな」
また飛んで送ってあげようかと言ったら『勘弁してくれ』と顔を青くしながら断られた。遠慮しなくていいのにー。
彼には本当に助けられた。また会った時に改めて礼を言っておこう。
「本当なら、俺たちも魔獣草原でレベリングするのが無難なんだろうけどな」
「どこか行きたい場所があるの?」
「港町とは逆の方向に、工業の盛んな都市があるらしい。そこで今まで仕留めた強力な魔獣の素材を加工して、新しい装備を作ってもらおうと思ってる。この街の武具屋じゃ固有魔獣やAランクの魔獣の素材の加工は難しいって言われたからな」
「おおー、そういえば魔獣草原で強い魔獣をいくつか仕留めてたって言ってたっすねー」
「あと孤児院で待ってる間に押しかけてきたクソ成金デブがけしかけてきたトラ型の固有魔獣の素材もあるぞ。……腹に穴開いちゃってるけど」
「腹に穴って、なにやったんすか!?」
「いやぶん殴って吹っ飛ばそうとしたら、こう、ズボッて」
「ギャー!! グロイっすー!!」
「……想像したくない……」
トラの腹にモツ抜きした時の感触は思い出したくない。生温かくていやに柔らかくて、……これ以上は止めておこう。
さて、そうと決まれば街を出る準備を始めますかね。工業都市って言ってたけど、どんな街なのかなー。
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