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この表と裏の温度差よ

新規の評価、ブックマーク、ありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。



「えー、いらっしゃいー! いらっしゃーい!」


「おいしいお菓子のし、ししょく? さーびす? をしてまーす」


「サクサクしてておいしいですよー、一口いかがですかー!」



街中で、孤児院の子供たちがポテチの試食を元気な声で促す声が聞こえる。

慣れない接客でちょっとぎこちないところもあるが、逆にそれが微笑ましく見えるのかむしろ客引きをよくしているようだ。

子供から大人まで、一口食べてみてあとをひいたのか何枚か食べ続けている人の姿がちらほら見える。思ってた以上に好評のようだ。

ちなみにお金は一切受け取っていないので、ショバ代なんかは現時点では払う必要はない。あくまで宣伝だからね。



「おいおい、少ねぇなぁ。もっとねぇのか?」


「ぼ、ぼくのもってるのはこれだけだよぅ…」


「こんだけじゃ足りねぇっつってんだよ、いいからさっさと持ってこいや。早く持ってこねぇとただじゃおかねぇぞ」



ん、向こうの方で宣伝してる小さな子に、体格がよくてヤンチャそうな子供が絡んでるな。ガキ大将的な。

試食分を一人で食いまくった挙句もっと食わせろと騒いでいる。ちょっと微笑ましく見えなくもないが、絡まれてる子からしたらすごく怖いだろうな。涙目だし。

助け舟を出すべきか? ……いや、必要なさそうか。



「ああ、すみません! こちら追加の分となっております!」


「こんなに食べてくれるなんて、相当気に入ってくれたんですね! 嬉しいです!」


「ささ、遠慮なさらずどうぞ! まだまだ沢山ありますから!」


「な、なんだお前ら!?」


「どうぞどうぞ! はっ、まさかこれでも足りませんか!? ならもっと応援を――」


「わ、わかったわかった! おれが悪かった! もうカンベンしてくれ!」



小さい子が絡まれているのを察した他の子たちが集まって、ガキ大将風の子に自分の分を食べるように集団で超プッシュしてきた。

善意による数の暴力。なんか逆に変な迫力があって怖いなアレ…。

あの様子ならちょっとしたトラブルくらいなら自力でなんとかできそうかな。

さすがに真昼間から孤児院の子たちに絡んでくるようなチンピラもいないようだし。

……というか、数日前の騒動以降この街にたむろしていたチンピラやガラの悪い奴らの姿が激減したそうな。ナンデダロウナー。


とりあえず街中で2日ほど試食サービスをして、その次の日から本格的にポテチ売りを開始する予定だ。

試食の際に店を出す場所を伝えてあるので、気に入ってくれた人がリピーターとして来てくれるのを期待しよう。


料理人ギルドの方も対応してくれた受付嬢(ジュニヴァさんというらしい)が口コミを広めてくれたらしく、シンプルながらもそこそこ美味しいお菓子としてちょっとした噂になっているらしい。

料理の専門家の人たち相手じゃそんなに高評価はもらえないだろうけど、まあそれでも何人かは買いに来てくれるだろう。多分。


冒険者ギルドには、アルマたちが薬草採取に行く際に対応してくれた受付嬢(ビーナファーさん)に依頼達成の報告ついでのお土産に『これから孤児院で売り出すお菓子だそうですが、よかったら』とおすそ分けするカタチでポテチを渡しておいた。

港町でかき氷を売りに出した時にも、ナイマさんが口コミを広げてくれたおかげで大盛況だったし、同じように口コミを広げてくれるとありがたいが、さて。



「とりあえず、事前にやれることは大体やったな。あとは実際に売り出した時の反応を見て改善点を見つけていくことくらいかね。飽きがこないようにちょっとずつ新しい味を増やしてバリエーションを作っていくことも考えないと」


「…みんな、これまで見たことがないくらいに活き活きとした顔をしてるなぁ……」



感慨深げに呟くファラム君。

毎日3食美味しいものを食べるという目標のために、またずっと助けられっぱなしだった院長の助けになるために、皆小さな身体で走り回っている。

……きっと後者の方が主な理由だろう。うん。そう思いたい。



「この様子なら大丈夫そうかな。じゃあ、俺とアルマとレイナはちょっと出かけてくるね。夜になったら孤児院に戻ってくるから、報告することがあったらその時に」


「分かりました。ところで、どこへ行くんですか?」


「魔獣討伐依頼をしにテリトリーへ行ってくる」


「そうですか、お気をつけて。……カジカワさんって実は料理人かと思ってたんですが、本当に冒険者なんですね」



料理人ジャナイヨー、孤児院じゃ料理長とか呼ばれてたけど実際はスキルのないただのオッサン予備軍なんですよー。



本当は今回の言い出しっぺの俺がつきっきりで見ておくべきかもしれないんだけど、本業も大事だからね。仕方ないね。

それに、『今の実力ではまだ不十分だ。急いで強くならないとまずい』と俺のゴーストが囁いていらっしゃいますので。

Aランク下位の白金ニワトリとか迅雷白虎とか単騎で倒せるくらいでもまだ不十分なのか。

ゴーストさん、ここんとこずっと頑張ってたしたまにはちょっとくらいまったりしてもええんちゃう? あ、ダメ? そっすか……。

……急いで強くならなきゃならんくらいヤバい危機が近付いてるってことなのかな。ああ、やだやだメンドクサー。もうトラブルはお腹いっぱいだっちゅーの。





――――――――――――――――――――――――――――――









もう 充分だろう



何万年も理に守られながら思うままに栄えてきただろう



魔王という必要悪を倒されるべき調停者として さほど大きな争いもなく 過不足なく一定数を維持し続けてきた



そろそろ 幕を引いてもいい 否 引くべきだ



人の歴史は 少々長すぎた







「魔王様、例の魔法、実用に至るまでの目途が付きました」




御苦労 実用までの時間はどれほどかかる




「おおよそ、1年」




ならば 1年ほどは各大陸の拠点を維持せよ



それまで この場が表舞台に出ること まかりならん




「御意」








勇者は幾度死のうとも蘇り 何年かかろうとも魔王を確実に討つことができる



討たれるまでに人の数を調整し 人の世に死の恐怖を与え呉越同舟を促すのが魔王の役目



…神に 弓引いているわけではない



ただ 神が与えたであろう可能性を活かそうとしているだけだ



何万年も 魔王と魔族は神に尽くしてきた



何万年も その悍ましい役目を務めてきた



何万年も 人の世のために悪になり続けてきた




≪勇者のパーティに新たな人間が加わった模様 職業は【賢者】≫



分かった 引き続き 勇者の動向をモニタリングしてくれ



≪了解≫





もう そろそろ いいだろう



もう 報われても いいだろう






もう 人の世は 終わらせても いいだろう


お読みいただきありがとうございます。



ちなみにカジカワの正体が実は魔王でしたなんてことではないのでご安心を。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] 以前の感想でも書いたと思うんだが、なぶり殺しが好きな魔族とかは論外だけれど殺されるために産み出される魔王や魔族たちってすごく可哀想。幸せを求める気持ちは分かる
[気になる点] 「料理をできるのは、料理人の職業」 という認識なのですが、孤児院の子どもたちがポテチを作れるのはなぜですか? 揚げるだけとはいうものの、「○○だけ」といった簡単なことすら、適正職だとで…
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