閑話 デスマラソン
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「……これで何回目だっけ……」
「……8回、いえ、9回目だったと思うわ……」
「……死ぬのにも大分慣れてきたなハハハ……」
「……白目剥きながら言わないでよ……」
はいどうも、ただいま冒険者ギルドで受けた依頼をこなしている真っ最中です。……うっぷ、死んだ時のショックがまだ残ってて吐きそう……。
魔獣討伐を続けて、現在オレはLv18、レヴィアはLv14にまで上がっている。
ちょっとは強くなってきたし、たまには人助けになるような依頼を受けてみようとギルドの依頼書を覗いてみたのですが、その中にちょっと気になる依頼があってですね。
依頼人のおっちゃんいわく、成人して2年ほど経った娘さんが『慢性型魔力欠乏症』という病気にかかっていて、現在常に魔力不足の状態になってまともに生活できないほど弱ってしまっているらしい。
極めて珍しい病気らしく、市販の解毒ポーションなんかじゃ治療できないとか。
自然に治るまで何年かかるか分からないし、その前に衰弱しきって命を落とす危険性もあるので早く治すべきだが、そう簡単に解決できるものじゃないらしい。
治すには最上級の全状態異常回復薬か専用の薬が必要だが、前者は家が軽く2、3軒買えるくらい高価なうえに、この近くじゃまず売ってない貴重な薬だからすぐには手に入らない。
取り寄せようにも薬の所在は不明。医療ギルドや錬金ギルドなんかに持っていそうな人物を調べてもらったけど、ろくな情報が入ってこないらしい。
ただ、幸い専用の薬の材料は近くに生息しているようなので、そちらのほうはまだ手に入れられる可能性がある。
強力な魔獣もあまりいないし、一応駆け出しの冒険者でも手に入れられないことはない。
ただし、そこに、辿り着くまでの、道のりが、ヤバい。
もうね、誰かが人為的に自然のトラップを配置してるんじゃないかってくらい、死ぬ要素満点のルートなんですよ……。
誰だこんな死にゲーみたいな地形を作った奴は! 神様か! あの神様こっちに転生させてくれたことには感謝してるけど今だけは許せん!
≪八つ当たりはやめましょうよー。それにどの死因も事前の準備が甘かったり、不注意が招いた事故がほとんどだったじゃないですか。冒険者としての基礎がなっていないからそんなことになるんですよー≫
お前も危険が迫ってるならもうちょっと警告してよ! 死ぬたびになんか減っちゃいけない値がゴリゴリ削れてる気がするんだけど! 残機か、残機なのか!?
≪死亡回数に制限はありませんから気のせいですよー。痛い目みないと身体で覚えないでしょう? なら試行錯誤あるのみですよ≫
試行錯誤っていうか死行錯誤だろうが! いのちをだいじに!
「最初に死んだのは、崖沿いに道を進む時に足場が崩れたからだっけ」
「エアステップ使うまでもなく、仲良く落下死してたわね」
……で、近くにある復活の祭壇で再召喚されたかと思ったら、『おおゆうしゃよwwwしんでしまうとはなさけなブフォッwwwww』って半笑いのクッソ腹立つアナウンスが流れてきたりした。
なんでも、過去の勇者が復活するたびにこのアナウンスが流れるように祭壇に細工をしたらしいんだが、仕上げの録音をする際に思わず笑ってしまってあんな煽りまくりの音声になったらしい。過去の勇者ロクでもないな!
≪ハーレム目指してるネオラさんが言えた義理じゃないでしょうに…≫
アーアーキコエナーイ。
つーか過去の勇者たち、割と使命そっちのけで自分の欲望に正直な行動とってる奴ばっかみたいなんだが。
味噌や醤油、あとカレーを再現するのに傾倒したり、こんな風にネタに走ったもんを各地に散りばめたり。自由過ぎるだろ。
初めての『死』は、あっさりしてるようで、思い出すだけで震えがくるようななんとも言えない感覚だった。
いや正確には2度目の死か。向こうで一回死んでるし。
何度死んでもすぐに復活できると分かっていても、自分から死のうとは絶対思えないような奇妙な恐怖。
……でも、途中で諦めたら依頼人の娘さんの方が死ぬかもしれないし、そっちは一度死んだら取り返しがつかないから死の恐怖に耐えながら依頼をこなそうとしているところです。
「で、再挑戦してそこを抜けたかと思ったら激流の川があって、足場になりそうな岩を飛び移って渡ろうとしたら足を踏み外して流されたりしたわね」
「思ったより岩がツルツルしてて滑っちまって、そのまま流されて死んじまったな…」
某スーパーな魔界のビレッジの一面みたいな。…この例え分かる人いるのかな。
その後もとにかく通るだけでも命がけ、というか何度か死んだんだけどもなんとか材料となる素材のある場所、いや、いる場所に到着。
その素材は、【エレメンタル・スネーク】っていうアナコンダみたいにデカい大蛇魔獣の頭。
つまり、そいつを倒して薬の材料にする必要がある。
その大蛇のステータス自体は大して強くないから、戦いになってもそんなに苦戦することはないんだが、厄介なのはその習性。
そのデカい図体はなんのためにあるんだよってくらい臆病で、とにかく逃げまくる。
蛇らしくこっちが通れないような隙間に潜り込みながら逃げるから、追い詰めるのが非常に難しい。
焦ってすぐに仕留めようとすると、毒沼やら刃物のような植物の群生地やら殺意満点の地形にひっかかって死ぬ。向こうはこの辺りの地形を知り尽くしているらしく、無傷で当たり前のように通り抜けていく。
そんな感じで何度も挑戦しているうちに、気がついたら死亡回数が2ケタに到達しそうになっている恐怖。
正直心折れそう。死にゲーの主人公ってこんな気持ちなんだな……。
でも、諦めない。諦められない。
「あんのクソヘビ公をぶちのめすまで諦めんぞ……!」
「追い詰めたかと思ったらこっちが地形の罠にハマって、それを嗤いながら見てた顔が忘れられないわ……!」
もう通るのが苦にならなくなってきた険しい道のりを進みながら、ヘビに対する恨み言をこぼす二人。
娘さんを治してあげたいという気持ちや、依頼をこなさなければという使命感もあるにはあるんだが、それ以上に原動力となっているのは蛇に対する恨み。
あのヘビ公の顔を思い出すと、自分でもビックリするくらい憎しみが湧き上がってきて『絶対コロス』という想いが恐怖を凌駕しているのが感じられる。
『憎しみはなにも生み出さない』って言う人もいるけど、今回ばっかしは別だろう。立ち向かう理由が私怨とか勇者失格かもしれないが関係ない。絶対許さへんでクソァ!!
「さぁて、10回目だ。死ぬのはどっちかなヘビ公さんよぉ……」
「フフフ……もうアンタの行動パターンやこの辺りの地形も大分把握できたわ……今度こそ……!」
≪お二人ともほとんどアンデッドみたいな顔してますよ。怖すぎるんですけど……≫
『シ、シイィィィ……!』
メニューの言う通り、多分オレもレヴィアも幽鬼のような顔をしていると思う。勇者じゃなくて幽者ってか。やかましいわ。
で、その様子を心なしかドン引きしたような表情で見ているヘビ公。
何度も死んだところを見ているはずなのに、いつの間にか復活してこちらに襲いかかってくるオレたちに対して、向こうも得体のしれない恐怖を感じているようだ。
「首おいてけやぁぁっ!!」
「今度こそぶちのめしたげるわっ!!」
『シ、シャァァァァアアア!!!?』
「薬を……持ってきました……」
「ヒィッ!? あ、あなた方は、依頼を受けてくださったお二人ですか。……大丈夫ですか?」
ヘビ公を仕留めて、薬屋に加工してもらった薬を依頼人のおっちゃんの家に持ってきた。
肉体精神ともに極度の疲労と、何度も死んだショックのせいか近寄りがたい雰囲気を醸し出してしまっていたようだ。
「失礼しました。ちょっと思ったより道のりが険しくて……」
「そ、そうですか、こちらこそ悲鳴を上げたりしてすみません、お疲れさまでした。……本当にありがとうございます、これでオリヴィエも救われます……!」
オリヴィエっていうのは娘さんの名前かな。
おっと、薬の副作用について話しておかないと。
「すみません、薬を服用させる前にお伝えしておかなければならないことがあります」
「? なにか問題でも?」
「この薬には副作用があるらしくて、服用した人の生命力を少し消耗させるらしいんです。衰弱が酷い状態で飲ませると危ないかもしれませんので、回復ポーションと合わせて飲むか、あるいは飲んだ後に回復魔法を使用するといいでしょう。……よければ、私が回復魔法をかけましょうか?」
「い、いいんですか? 薬を持ってきていただいただけでもありがたいのに、そこまでしてもらっては……」
「乗りかかった舟です。この際トコトンやりますよ」
「乗り……? そ、そうですか、ありがとうございます」
……ん? 乗りかかった舟って言った時に怪訝そうな顔してたけど、なんでだろうか?
≪日本の諺が通じてないんでしょうねー。一部勇者の口癖として伝わっている諺もありますが、それ以外の諺はほぼ誰も知らないようです≫
要するに、今のオレは訳の分からん例えをする変人みたいな扱いなわけね。死にたい。
さーて、早く娘さんに薬飲ませて回復させるかな。
おっちゃんに案内されて、娘さんことオリヴィエさんの部屋へ入ると、銀髪ロングの美少女がベッドで横になっているのが見えた。
寝たきりの状態のようで、魔力不足の影響か気だるそうにしている。
こちらに気付くと、身体を起こして傍に置いてあった眼鏡をかけてから口を開いた。
って、デカッ。身長が高いとか太ってるとかじゃなくて、デカッ!
あっゴメンナサイレヴィアさん謝りますから背中の肉を捩じ切る勢いでつねるの本当にやめてくださいたたたたたたた!!
「……お父さん、おはよう。……その人たちは……?」
「オリヴィエ、もう大丈夫だ。この方たちが薬を持ってきてくれたんだ。お前の身体は治るんだよ…!」
「ほ、本当……? あ、ありがとうございます……。身体が日に日に弱っていくのを感じて、もう駄目だって半分諦めていましたっ……!」
目に涙を浮かべながら、感謝の言葉を述べるオリヴィエさん。
うん、よかった。何回も死んだ甲斐があったな。
≪何回も死んだ甲斐があるとかいうパワーワード言うのはやめましょうよ……ん? んん!?≫
うっさいわ。……どうした? オリヴィエさんがなんか気になるのか?
≪ち、ちょっとこの人のステータスを確認してみていただけますか……!?≫
いきなりどうしたんだよ。……まさか他にも厄介な病気にかかってたりするのか?
不安になりながら、言われるままにステ確認。どれどれ……?
オリヴィエール
Lv15
年齢:17
種族:人間
職業:賢者
状態:慢性型魔力欠乏症 魔力不足(大) 身体衰弱(小) 空腹(小)
【能力値】
HP(生命力) :111/256
MP(魔力) :24/321
SP(スタミナ):21/128
STR(筋力) :100
ATK(攻撃力):100
DEF(防御力):115
AGI(素早さ):97
INT(知能) :278
DEX(器用さ):125
PER(感知) :101
LES(抵抗値):122
LUK(幸運値):51
【スキル】
杖術Lv3 体術Lv2 攻撃魔法Lv6 補助魔法Lv4 回復魔法Lv4 精霊魔法Lv1 空間魔法Lv1
……え、『賢者』?
これまで色んな人を見てきたけど、賢者なんて職業見たことないんだけど。
てか知能の値凄いな!? 今のオレほどじゃないけど、同レベル帯の魔法使いと比べても明らかに数値が高い。
≪成人前に4種類以上の魔法系スキルを取得することが条件の、超レア職業ですよ! 世界中探しても、多分片手で数えるほどしかいないくらい珍しいです!≫
そんなレアな職業なの?
……薬を飲ませて回復したら、ちょっとウチのパーティに勧誘してみようかな。
無理に誘うつもりはないけど、このステータスは素晴らしい。是非ウチに入ってほしい。
そしてハーレムの一員になって近くで思う存分たゆんたゆんしてほしあいだだだだだだ!! レヴィアさん千切れる! それ以上はホントに肉が千切れちゃうからヤメテ!!
お読みいただきありがとうございます。
主人公の知らないところでも、関係なく状況は進んでいくものです。
主人公的には自分たちに被害が及ばないように近辺の問題を解決するのが精いっぱいなのが現状ですね。世界的な問題は勇者が何とかしてくれるだろ的な考えで他人任せ。……こいつホントに主人公か?




