情けは人のためならず
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さてさて、カナックマートさんのおかげでボられることもなく、むしろほどよく人通りの多くて格安の立地に屋台を出せるように手続きができたな。
あの後にカナックマートさんが、…長いから愛称のカナートさんでいいと言われたので今後はカナートさんと呼ぼう。ごねていつまで経ってもギルマスを呼ぼうとしない受付嬢にキレて、ギルマスの部屋へ受付嬢と書類を持って殴り込むように入っていった。
そっからはもう無双状態。容赦も遠慮も一切なく今回の、どころかこれまでやってきたピンハネ着服詐欺不正を根掘り葉掘り調べさせるように指示。
…なんで商会側がギルマスに指示を出せるんですかね。普通逆じゃね? どんだけ強い立場なんだろうか、もしや冒険者ギルドにおけるアルマの御両親くらいすごい人物だったり?
ギルマスの反応を見る限りじゃ、ギルドぐるみで詐欺をはたらいているわけじゃなくて、一部の職員が法外な徴収金を提示して差額分を着服していたようだ。
で、さらにカナートさんが『他の職員とかの様子を見る限りじゃ今回みたいなことやってるのはこの受付嬢だけじゃないだろう、このギルドの全職員のことも外部から人員を入れて調べさせろ。できないと言うのなら今後ウチの商会はニューシーナに足を運ぶことはない』と言うと、ギルマスは大慌てでギルド職員の調査を約束した。
急にそんなことを言われてもすぐに対応できるもんじゃないだろうに、まるで大災害が起こったかのように迅速な対応をしていたな。
……この人何者? 一商会の会長とはいえ、ギルマスがペコペコしながら言うこと聞くとか、冒険者ギルドでもほとんどそんなところは見たことないぞ。しいて言うなら暴食スライム再封印後の領主面談の時くらいか。
「さっきみたいなトラブルは珍しいことじゃないけどな、商人ギルドみんながあんな詐欺師まがいの阿呆ばかりとは思わんでほしい。がめついのが多いのは認めるが大体の商人は真面目に儲けようとしとる」
「ええ、ちょっと狼狽えたりはしましたが、それはこれまで関わってきた商人の方々が皆いい人ばかりだったからこそです。商人全員に必要以上に不信感を抱いたりはしていませんよ。必要以上に信じ切るつもりもありませんが」
「うむ、完全には信用してないってのは分かるし、ワシもそれでええと思う。でないとさっきみたいな奴にカモだと思われて騙されかねんからの」
ギルドの建物から出て、途中まで行く道が一緒なので駄弁りながら移動中。
さすが商人と言うべきか、話の弾ませ方が上手く会話が途切れることがなく談笑を楽しめている。コミュ力高いなー。
「それにしてもギルマスに指示を出せるなんて、カナック旅商会って物凄く大きな会社なんでしょうか?」
「んー、自分で言うのもなんだけどな、人数だけなら結構なもんだと思うわ。ほとんどの大陸にワシの商会のモンが旅しながら商売やっとるし、正確な数はぶっちゃけ把握しとらんけど大体1000~2000人くらいかのぉ」
「うわ、すごい規模の商会じゃないですか!」
てか人数の振れ幅酷いな! あなた仮にも会長でしょうに、そんなアバウトな認識でいいんですか?
「普段は気ままに旅しながら商売やっとってな、指示が必要な時には超遠距離通信魔具で中継施設へ連絡とってたりするんよ」
「各地に足を運ぶのも楽な仕事じゃないでしょうに。商会の会長さんっていうのは、もっと腰を落ち着けた状態で指示出してるイメージだったんですが」
「それはそれで身体は楽だろうけどな、口ばっか動かして自分の足を止めるのはどうも性に合わんわ。どうもワシぁ旅してないと落ち着かんタチみたいでな」
旅をしないと死んじゃう病みたいな。
俺も(脳内で)ネタを挟まないと死んじゃう病っぽいんですよ。ちょっと親近感が、え、湧かない? 皆無? ソウデスカ。
「ギルマスがこっちにペコペコしとるのは規模がデカい商会だからってだけじゃなくて、万が一スタンピードや災害が起こった際に街の復興にウチの商会の力が借りられなくなるのを避けたいんだろうな。まあ今後この街に来ないってのはハッタリだったけどな。でないと関係ない住民の人たちまでその影響を受けちまうし」
「そういえば、周りの人たちがスタンピードによる被害の復興のための物資の流通で大きくなった商会だって言ってましたね」
「そうそう、どっかの街でスタンピード直後に物資が不足しとるのをいいことに、普段より値を釣り上げて儲けようとする商会をいくつも見てきてな。人の足元見て困ってる人間に追い打ちかけるような商売の仕方はどうなんだって思ったんよ。でもやり方は人それぞれだし文句を言う権利は誰にもないからのぉ」
「…あまり感心はしませんけどね」
「だから、逆にどこの商会よりも安く売りまくっても文句言われる筋合いはないっちゅーこった。どこの商会よりも早く、あっという間に大量の物資が売れていったわ。まぁ平時よりもさらに格安で売ってたから、その時は大して儲からんかったけどな」
「え、じゃあどうしてそんなに大きな商会に成長していったんですか?」
「あちこちでそんな風に格安で復興物資を売りまくってるうちに、その噂が各地に広がっていってな。『この商会は利益よりも人々の暮らしのために働いてくれる善良な商会だ』ってイメージができあがっちまったみたいでな。徐々にお客も他の商会もなにかとウチの商会を優遇してくれるようになっていって、気がついたらめっちゃ人員が増えて大規模な商会になっとった」
この口ぶりだと、狙ってやったわけじゃなくて自分の正しいと思うように行動した結果、人々から認められて大きくなっていったってことか。
……狙ってやるよりずっとすごくないですかねそれ。
「今でも、災害やスタンピードなんかのせいで被害受けたところには積極的に人を向かわせて、アイテムバッグに大量に復興用の物資を持たせて格安で売らせるようにしとる。人を助けたらその分の見返りはちぃっと遅れてだがちゃんと返ってくるもんだなぁとか今になって実感しとるとこだわハハハ」
「損して得とれ、いやむしろ情けは人のためならずってことですか。勉強になります」
「ん、そりゃ誰かの格言かなんかか?」
「あー、ええ。故郷で使われていた諺ですね。このあたりじゃマイナーな言葉みたいですが」
「コトワザ? 要は名言みたいなもんか?」
…歴代の勇者も諺くらい広めておけばいいのに。
いや、これまでの会話とかから察するに一部は伝わってたと思うけど、単に伝わってない諺もあるだけか。
「まあ、普段から全部打算ありきで行動しとるわけじゃないがな。さっきのもふざけた徴収金額提示しとるアホに堪えられんで文句言っただけだかんな」
「おかげさまで助かりました。もしもカナートさんが声をかけてくれなかったらどうなっていたか」
「ええって。まあ馬車ん時の借りを返せたようでなによりだわ。……ところでこの街でも店を出すって話だったが、何を売るんか聞いていいか?」
「はい、ちょっとした駄菓子を売ろうとしているところでして。売るのは私ではなくこの街にある孤児院の子供たちが、ですが」
「駄菓子? 港町じゃ5色も種類があるえらい凝った氷菓子を売ってたが、こっちじゃどんなもんを売るんだ?」
「あの氷菓よりずっとシンプルな駄菓子ですよ。試食してみますか?」
「お、ええんか?」
ポテチ入りの紙袋を手渡し、試食を促してみる。
受付嬢に渡した分は無くなってしまったが、アイテム画面にまだまだストックはあるので問題なし。
今も孤児院で子供たちが練習で作ってる真っ最中だしな。むしろどんどん消費しないと処理しきれなくなる。
「はぐはぐ……んん、いけるのぉ! エールとか発泡酒のつまみによさそうだわぁ」
子供向けの安い駄菓子として売りに出そうとしていたんだが、なるほど、酒のつまみにもなるのか。
俺酒飲まないからその発想はなかったわ。いや日本の飲み会の乾き物なんかじゃ割と鉄板かもしれなかったけど。
孤児院の近くに小さな酒屋があったけど、あそことちょっとした提携を結んで売りに出してもらうのもありかもしれないな。
やっぱ人に意見をもらうのって大事だわー。
「えらい薄くてサクサク軽い食感だが、こりゃなんじゃ?」
「芋を薄切りにしたものを油で揚げて、塩で味付けしただけの簡単なお菓子ですよ」
「……聞いたワシが言うのもなんだけどな、他人にこれから売ろうとしてるもんのレシピを簡単に公開しないほうがええぞ。それだけで商売敵ができちまう可能性だってあるんやし」
「あ、今の秘密で」
「遅いわい。まあレシピ聞いたからって簡単に再現できるか分からんし、お客で恩人のニイちゃんに不都合になるようなことはせぇへんつもりだから安心しな」
ポテチのレシピくらい誰でも再現できるだろうけどなー。いやこの辺じゃ揚げ物は珍しいみたいだからそうでもないか?
「いや、それともレシピの一つや二つ惜しくないほど金儲けのネタを持っとるんかな? ちょっとよかったら一緒に飲みにでも――」
ジリリリリッ! と、カナートさんから黒電話の呼び出し音そっくりな音が鳴り響いた。
電話の音なんか久しぶりに聞いたから、思わず跳び上がりそうになるくらいびっくらこいた……!
落ち着け俺、もうパワハラ上司からの電話なんかかかってくることは二度とないんだ。深呼吸深呼吸。
「なんじゃ、いい時に! もしもし、ワシじゃが誰だ! ……なに、イルユディにスタンピード!? 街が半壊!? 分かった、周辺にいる職員をそっちに向かわせるわ! あー、ニイちゃんスマン、ちっと野暮用ができちまった! 飲むのはまた今度な!」
「は、はい」
「もしもし、セバスか!? 至急イルユディ周辺にいる職員を調べて、復興物資や非常食なんか持たせて向かわせろ! 足りない分の手配は今から大急ぎでやったるわ!」
懐から携帯電話のような通信用の魔具を取り出し、職員たちに指示を出しながら駆け足で去っていくカナートさん。
すげー切り替え早いなあの人。和やかな会話ムードから一気にビジネスモードに変わった。
「嵐のように去っていきましたね…」
「あんな人助けを撒き散らすような嵐だったら大歓迎だけどね。さて、手続きも済んだし後は開店前の宣伝活動かな」
「宣伝って、どうやってですか? その辺にチラシでも貼り付けたりするんでしょうか」
「いや、もっと簡単な方法。簡単だけど、とにかく人手が居るからこっから子供たちも孤児院の外で活動してもらおうと思ってる」
「外で、ですか? でも……」
「大丈夫。なんなら目立つ場所でポテチを食べ歩くだけでも宣伝になるし、そんなに心配することはないよ。他にもギルドの受付嬢に試食してもらって口コミを広げてもらおうかとか思ってる。あと孤児院近くの酒屋につまみとして置いてもらうとか」
「…カジカワさんって、商人としても充分やっていけそうですね」
「いやまあ上手くいくかは全然分からないけどね…」
酒屋との提携にはまた別の許可が必要そうだけど、まあポテチ売りが軌道に乗ってきてからでいいか。
さて、子供たちの力が発揮できるのはここからだ、頑張れ。
……頼むから宣伝そっちのけで自分たちだけで食べまくるのは勘弁してくれよ。
お読みいただきありがとうございます。
どの組織や支部の受付嬢も性格ピンキリなのは致し方ないことなのです。
可愛い担当:ネイアさん(ダイジェル)
真面目担当:アデイラさん(ヴィンフィート)(名前今決めた)
不真面目担当:ナイマさん(ランドライナム)
お色気担当:ビーナファーさん(ニューシーナ・冒険者ギルド)(未登場)
大食い担当:ジュニヴァさん(ニューシーナ・料理人ギルド)(名前今(ry)
詐欺担当:グリィカさん(ニューシーナ・商人ギルド(解雇予定))(名(ry)
……チョイ役なのにみんな個性豊か過ぎな気がしないでもない。




