無茶振り
遅い上に不定期更新で申し訳ありません。
おはようございます。爽やかな朝ですね。
あの後晩飯食って部屋のベッドに潜り込んで、気が付いたら朝でした。全然時間が経った気がしない。どんだけ疲れてたんだ。
朝食は、サラダバーとフレンチトーストでも作るか…。
あとおやつもちょっと作っておこう。
朝食を済ませた後、念のため食料を再購入。
冷蔵庫のスペースギリギリまで買っておいた。
俺とアルマの二人だけなら軽く1週間近くは持つ量だが、スタンピードが済んだ後、食料品店の人なんかが通常の生活に戻れるまでどれほど時間がかかるか分からないし、多めに買っておくに越したことはない。
昨日のような来客がいつ来るかも分からないしな。
ギルドから支給される備品の中に食料もあるだろうが、保存のきく食品って味が良いものは少なそうだし…。
スタンピードが近づいているから荷物をまとめて避難の準備を、と街中でビラを貼ったり呼びかけが行われている。
こりゃ買い物を早めに済ませておいて正解だったな。いくつか朝から店じまいしているところもちらほらあるし。
そして、いよいよ所持金が危険域にまで少なくなってきた。魔獣狩りは森林に入れないから却下。自重無しで薬草採取をすれば軽く100本は手に入るだろうし、ひとまずそれで凌ごう。
受付嬢のネイアさんの悲鳴が上がりそうでかなり罪悪感があるが、緊急事態だ、許せ。
で、今は、ギルドに薬草の山を持って向かっております。
細かく場所を変えながら採取したので、部分的に極端に土の力が弱くなることはないだろう。多分。
いつものようにウェスタンドアをキコキコ鳴らしながらギルドに入って、ネイアさんの方へ向かった。
「いらっしゃいませー! 薬草の納品ですかー!?」
いつもの少し怯えたような顔ではなく、気合の入った真剣な表情で声をかけてきた。
「はい、…なんだかやる気満々みたいですね」
「はい! スタンピードの日が近づいているので、それに備えて少しでも回復ポーションの在庫を確保しておかないと、当日の負傷者に対応し切れなくなってしまいますのでー!」
当日の負傷者のために、今頑張っておいて少しでも被害を減らしたい。
そんな意気込みが言葉だけでなく、表情を見ても窺えるようだった。
普段泣き言言いながら鑑定してる人とは思えない、強い意志が感じられる。ちょっとこの人のことを甘く見ていたかもしれない。
これなら大丈夫そうだね?
「もう、50本でも60本でもどんとこいです! 納品をどうぞー!」
「頼もしいですね。では、納品の確認をお願いします」
ドスンッ
テーブルに乗せた音を聞いただけで相当な重量があるのが分かる、そんな袋を見てネイアさんの表情が固まった。
採取した薬草の量は、しめて173本。普段の約5倍近い量だ。持ってくるの割とマジで大変だったわー。
「お、おうぅ……こ、これ、全部薬草なんですかー……?」
「はい。鑑定お願いしますね」
「ふ、ふえぇーん!!」
泣くな。
頑張れネイアさん。耐えろネイアさん。
あなたの今日の頑張りが、当日の負傷者を救うのだから。
「…ヒカル、ちょっと無責任でひどいこと考えてない…?」
アルマがジト目でツッコミを入れてきた。
…うん、正直スマンかった。
それから数十分後、ようやく鑑定が完了したようだ。
ネイアさんは…顔面蒼白通り越して土気色になってる。ごめんなさい。もうちょっと減らしておくべきだったか。
「ひ、173本、で、17300エンに、なりますー……」
「は、はい。確かに。……大丈夫ですか?」
「持ってきた、カジカワさんが、言わないでー……」
「……正直すみませんでした。ああ、あとこれを」
「ま、まだ何かあるんですかー……?」
そんな怯えた顔せんでも。
薄紙に包まれた、拳より一回り小さいあるものを取り出す。
「いつも無茶させてしまってますから、そのお詫びです。手作りのお菓子で恐れ入りますが」
「お、お菓子…? カジカワさん、料理できるんですかー……!?」
「ええ。手前味噌な話ですが、一応味見して美味しくできたと思うので、良かったら」
「は、はいー! 有難く頂きますー!」
さっきまでの死にそうな顔はどこへやら、一気に復活したな。
早速包み紙を開けると、俺の作った『お米のタルト』が出てきた。
タルト生地に、炊く前のアロライスとミルクと砂糖をベースに作った固めのクリームが乗ったお菓子だ。
バニラの代用品が無いのが残念。そのうち見つけたいものだ。
タルト生地の作り方なんかはさすがに覚えていなかったが、最近とある方法で充電することができたスマホの中のレシピ帳に、手持ちの材料で作れそうな菓子があったので、プレゼント用に作ってみた。
ってもう食べ始めたよこの人。せめてバックヤードで食べた方がいいと思うんだけど。業務中だし。俺は別にいいけど周りの目が…。
「お、おいしいぃ……甘いぃ……普段の苦労が報われたような気分ですぅ……」
めっちゃ美味そうな顔しとるな。口に合ったようで何より。
普段の苦労って俺の薬草納品のことだろうか。そんなに負荷かけてたのか俺…。マジすんませんでした。
食べ終わったところで、ネイアさんが急に何かを思い出したような表情になった。どうした?
「あ、そういえば! わ、忘れるところでした! カジカワさんとアルマさんがいらっしゃったら、ギルドマスターのところまで来ていただくように言われていたんでした!」
「それ、薬草の納品の確認前に言うべきことでは…?」
「…すみません、カジカワさんが来たらまず薬草、っていうイメージが頭の中で出来上がっちゃってたみたいですー……」
まあ、普段から薬草の納品ばっかやってるからなー…。
「分かりました、今から向かいましょう。……アルマ?」
なにか言いたげな顔でこちらを見ている。
…ああ、もしかして。
「さっきのお菓子、タルトが気になるのか? 今日のおやつ用にもいくつか作ってあるから安心しなよ」
「!……うん」
表情がちょっと明るくなった。図星だったか。
こないだ大学芋を婆さんに渡して、食べられなかったのがそんなにショックだったのかな。
俺の作る菓子なんかより、その辺で売ってる菓子の方が、って高くてとてもじゃないが買えないか。
日本じゃ最低100円もあれば気軽に甘いお菓子が買えるのになぁ。日本の環境が恵まれていたのを実感するわー。
カリカリカリカリカリカリ…………
ギルマスの部屋に入ると、書類に筆を走らせる音が聞こえた。
デスクの上に文字通り山積みになっている書類の影に、ギルマスがいるようだ。隠れて見えないけど。
「来たか。まあ座れ」
少し、いやかなり疲れたような声で席を勧められた。
昨日別れてからずっとこの調子なんだろうか。過労で倒れないか心配だ。
勧められるままに、近くのテーブルの椅子に座った。
ギルマスが席を立ち、テーブルの向かいに座る。
顔にスゲー疲れてますって書いてあるような表情で、言葉を発した。
「まず、昨日はデュークリスとルナティアラへの対応ご苦労だった。アルマティナとの再会のサポートと食事のもてなし、スタンピードについての連絡までやってくれたそうだな」
「いやまあ、大したことはしてないですよ。…ギルドマスターほどじゃないでしょうが、多少疲れましたが」
「あの二人が娘がらみで暴走したら、最悪街が滅んでもおかしくないからな。お前はよくやってくれたよホント」
心底ホッとしたような表情で言うギルマス。
そんな命がけの面談だったんですかアレ。
てかアルマがいたとはいえ、そんな人たちの対応を俺一人に丸投げすんなや。あ、予定より早く着いたから対応できなかっただけか?
「で、昨日の夜あの二人がこちらに訪ねてきてな、お前とアルマのことを軽く1時間くらい一方的にくっちゃべってきた。こちとら死ぬほど忙しいってのに」
「お疲れ様です」
「なんか、ごめんなさい」
「お前らが気にすることじゃない。あっちからスタンピードについての打ち合わせのために来てくれて、呼びに行く手間が省けたしな。で、その際いくつか聞いてほしいことがある、とも言われた」
「それは?」
「まず、お前とアルマティナの使う、魔力の直接操作についてだ」
…!
あの二人、口は堅い方だと思っていたのに、あっさり喋ったのか?
「そんな顔するな。その技術は世に広まったらまずいものだ、と言っていたし俺もそう思う。で、『それについて怪しまれた時に娘の方は職業が珍しい分、言い訳も比較的しやすいだろうが、カジカワの方は職が分からずスキルもないし、怪しまれたら面倒なことになりそうだから上手く誤魔化すなり隠蔽したりする方法を考えてほしい』と言われたよ。あの二人が娘以外の、それもその日会ったばかりの人間に対してそこまで言うなんて、相当気に入られたみたいだなお前」
……。
うん、あの二人のことをちょっとでも悪く思いそうになった自分をぶん殴りたい。
まさかわざわざそんな相談をギルマスにしていてくれるなんて。アルマだけじゃなく、そのご両親にまでお世話になるとは。足を向けて寝られんなこれは。
素直に感謝しよう。お二人とも、ありがとうございます。
「お二人には感謝してもしきれませんね」
「あとお前の作った飯がまた食いたいって言ってたぞ。ルナティアラなんか、料理スキルがあるのにお前の料理は真似するのが少し難しそうだって言ってたくらいだ。お前、本当にスキルを持っていないのか?」
「持っていないどころか今後も取得できないらしいです……。ってあれ? ルナティアラさんって戦闘職なのに料理のスキルを持ってるんですか?」
「ああ。レベル50に達した時点で、生産職戦闘職問わず、取得したい職業のスキルを一つ無条件で獲得することができるんだ。ギフトスキルって言われているな。まあ中には獲得できないスキルもあるが」
レベル50て。
そのレベルに達すれば俺もスキルもらえないかな。…いや、何となくだけど無理な気がする。取得不可だし。
「それで、ルナティアラさんは料理スキルを選んだんですね。でも、そんなシステムがあると生産職の価値が下がってしまうんじゃ」
「大体の人間はレベル40くらいで頭打ちになるもんなんだ。経験値や年齢の関係でな。あの二人は二十歳ぐらいから何度もスタンピードに突っ込んでいったりドラゴン討伐したりで経験値を荒稼ぎしまくってたから、今じゃレベル70超えてたと思う」
……………れべるななじゅう?
まさに雲の上の存在じゃないですか。…ちょっとスタンピードの親玉が可哀そうになってきた。
「そんなに強いお二人なら、スタンピードの親玉問題なく討伐できそうですね」
「親玉は、な」
「ん? なんか親玉以外のところで問題でもあるのですか?」
「…スタンピードの情報を発表したあと、低ランクの冒険者のなかに避難の準備をしている者たちがいてな。まあ、実力が伴わないうちにスタンピードに挑むのは危険だし、俺も無理に参加しろとは言わん。だが、そのせいで連動して避難する冒険者が増えて、参加する人数が減って、こんな少数でスタンピードに挑むのは危険だ、とさらに参加する者が減って…という具合の悪循環が出来上がりつつあるんだ」
「因みに、現在の参加人数は?」
「およそ100人。親玉討伐に森林内部に向けて同行する人員を考慮すると、森林から街に侵攻する魔獣に対応する人員は90人程度だろう。今の状態が続けば、さらに減るかもしれんが」
あのお二人なら、同行者なんか必要ないんじゃないか、って思ったけど森林の広さを考えると親玉捜索を二人でやるのは時間がかかりそうだしな。
「侵攻してくる魔獣の数の見込みはどれほどでしょうか?」
「大体300ってところだ。規模は小さいが、数に差があるのは厳しい。しかも地上からだけじゃなくて、同時に鳥型の魔獣が空から攻めてくるだろうから、正直今のままじゃまずいな」
「アルマのご両親に、先に進行してくる魔獣の討伐をしてもらったあとに親玉を討伐してもらう、というわけにはいかないですよね。あのお二人ばかりに負担がかかりますし」
「俺も一瞬そう思ったが、最悪なのは雑魚掃除に力を消耗して、親玉を叩けなくなることだ。親玉が存在する限り、スタンピードによる侵攻は何度でも起こる」
アカンやん。
どうしようか、この状況。
「そこでお前だ。カジカワ。お前の力が今回のスタンピード攻略のカギになる」
「…はい?」
え、俺まだGランクのビギナーなんですけど。
なんか過度な期待されてるみたいなんですけど。
いや、無双ゲームじゃあるまいし、俺が300の魔獣相手に何ができるって言うんですかー。
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