商会紹介照会
新規の評価、ブックマーク、感想、誤字報告ありがとうございます。
感想欄にとても丁寧に誤字報告をしていただき、ありがたさと申し訳なさと恥ずかしさで筆者が最期を迎えそうな件。
あの誤字だと下手したらデザートに毒盛ってるようにも思われかねないので即修正いたしました(;´Д`) ご報告ありがとうございます。
はいどうもこんにちは。ただいま料理人ギルドの受付で確認作業中。
プランを実行に移そうにも、そのためにはクッソめんどくさい準備が必要なわけですよ。
同行しているファラム君がおっかなびっくりな様子で周りを眺めているな。内心俺も似たような状態だけど。
冒険者ギルドや暗殺者ギルドなど、戦闘職のためのコミュニティがあれば当然のように生産職のためのコミュニティもある。
料理、医療、建築、商人、その他諸々。むしろ戦闘職関連のギルドよりも種類が多いかもしれない。
で、これからのプランを実行に移すための準備として、料理……というか駄菓子みたいなもんだがそれを孤児院主体で売っても問題が無いかの確認をしてもらっている。
誰かがその駄菓子の特許権でも持ってていらんトラブルでも起こすことになったら面倒だからな。もしもダメだったらまた別のモノや方法を試そう。
お、受付嬢が確認用のファイルを閉じた。確認終わったのかな?
「お待たせいたしました。確認の結果、特に該当するものの特許権などは無いようです」
「そうですか、よかった。材料も調理法も物凄くシンプルで安価ですから大丈夫だとは思ったのですが、万が一ということもありえますからね」
「食材を揚げる料理は珍しいですが、それでもとても簡単な調理法ですね。料理というよりは、お菓子の類でしょうか?」
「そうですね。あ、よければサンプルを食べてみますか?」
「よろしいのですか? それではおひとついただきます……ふむ」
パリパリと音を食べながらお菓子を咀嚼し、飲み込む前に次へと手を動かし口へ運ぶ受付嬢。
うん? モノが薄っぺらいから一つだけじゃ味がよく分からなかったのかな。
やっぱ料理人ギルドの受付嬢となると舌も肥えているだろうし、『ポテトチップス』程度じゃ大したインパクトは感じられないか。
このポテトチップスことポテチは、孤児院の庭で栽培している牛馬鈴薯を使用している。
サツマイモみたいに長く太い形状だから、皮がむきやすいうえにスライサーで薄切りにすると一個で数十枚ものポテチを作ることができる。地球のジャガイモよりもポテチを作るのに向いているかもしれない。
味の方も日本で売ってた有名メーカーのポテチと遜色ない味わいだった。
薄切りにした芋を水に浸けて10分ごとに水を換えるのを2回、その後水をよく切って生活魔法の乾燥風で乾かしてから揚げて、油を切った後に塩で味付けするだけだから子供たちでも楽に作れる。
湿気やすいからポテチ用の包み紙の密閉はしっかりして、その日のうちに食べるように表示しておけば賞味期限の問題でトラブルが起こったりすることもないだろう。
………ってちょっとちょっとお嬢さん、いつまで食べる気ですか。おひとつとか言ってたのにサンプル用のポテチがもうなくなりそうなんですが。
「……はっ!? す、すみません、軽く心地よい食感に手が止まらずつい…」
「いえ、お気に召されたようでなによりです」
「正直、材料と調理法がとてもシンプルなので実際に口にしてみるまで売れるかどうか疑問だったのですが、これなら大丈夫そうですね。少なくとも私は買いに行きますよ」
「そ、そうですか」
「売り始めたら、是非ご連絡ください。ええ本当に、是非」
ポテチを食べつくしたあと、すごいグイグイくる受付嬢。なにがそんなにツボにはまったんだろうか。
……これアレかな、普段凝った料理ばっか食ってるからシンプルな味わいが逆に新鮮に感じたパターンかな。
高級な料理を庶民が食べて驚くこともあれば、逆も然りというわけか。俺もいつか食べてみたいなー。
はい、で次は商人ギルドへ行ってモノ売る許可とかショバ代の相談をしなければ。
孤児院主催でポテチ売ろうとするだけでいくつ手順を踏めばいいのやら。メンドクサー。
狩猟祭の時はお祭りムードで比較的楽に屋台が出せたが、今回は今後の孤児院の収入源を増やすために平時から商売をするというんだからどうしても多くの準備が必要になる。
しかもギルドの許可を得るのはあくまでスタートライン。宣伝に口コミ、そして実際に売りに出して改善すべきところを見つけたりと、魔獣討伐とは違った大変さがある。
むしろ俺にとっては魔獣のテリトリーでテキトーに討伐して、ギルドに報告して素材売ったりしてる方がよっぽど手っ取り早くて楽だ。いやあれはあれで命がけの仕事だから楽って言い方にはちょっと語弊があるかもだが。
ギルドの受付で手続きを終えた後、
「あの、カジカワさん、今更ですけどなんで孤児院のためにここまでしてくれるんですか?」
「孤児院のためだけじゃない。俺なりにちゃんと打算ありきで行動しているよ」
「打算、ですか?」
「ああ、と言っても別に売り上げを一部寄越せとかそういうこと言うつもりはないから、そこは安心してくれ」
「はぁ……」
怪訝そうな表情で相づちを打つファラム君。そんな微妙な顔せんでも。
打算というのはお金云々の話じゃなくて、レイナのことだ。
一応、今回の騒ぎは解決できたから一安心ではあるんだが、レイナの性格上、今後も孤児院の経営が苦しいままだとどうしても気兼ねしてしまって充分に冒険者ライフを楽しめないかもしれない。
で、そんな様子のレイナを見てたら俺やアルマも気が滅入るし、精神衛生上大変よろしくない。
要するにあくまで自分の都合のための、偽善みたいなもんだ。
……まあ、子供たち自身で今の孤児院の状況を改善してほしいという気持ちは嘘じゃないつもりだが。
お、ようやく許可が下りたか。
ふむふむ、今週末から営業可能で、……なんか全体的にショバ代高くない? 一番安い場所でも売り上げの2割って、暴利すぎやろ。
「貸場所の代金が高いと思われるかもしれませんが、どこもこんなものですよ。まあ孤児院の敷地内で営業されるとおっしゃるのでしたら、場所の代金は発生しませんが」
「それにしたって、最低2割というのはちょっと……」
「よろしければ相場の一覧表を確認されますか? これでも比較的安く、目に付きやすい所を紹介したつもりなのですが…」
申し訳なさそうな顔で相場の表を手渡してくる受付嬢。
………なんか違和感。いや、ぱっと見悪い人には見えないんだが、なんか、こう、仕草と表情と言葉遣いとは違った部分に違和感。
一覧表を確認してみると、確かに目に付きやすくて場所代も他と比べて安く表示されているが、確認している俺を見ている受付嬢や周りの視線もどこか妙なモノを感じる。
……メニュー、この相場表は妥当な値段が書かれているか分かるか?
≪あくまで標準的な基準と比較してだが、相場の2~3倍程度の値段が書かれている模様≫
……要するに今、俺たちはボッタクられそうになっている真っ最中というわけか。
人畜無害そうな顔して、この受付の姉ちゃんかなりの腹黒だな。この申し訳なさそうな顔が少女漫画に出てくる悪役令嬢の演技みたいに見えてきたわ。
どうしようか、別の受付にこの相場が正しいか確認してみるか? ……いや、この視線を見る限りじゃ他の奴もグルになってる可能性もあり得る。
商売の素人だと思ってバカにしやがって……ならさらに上の人間に掛け合って、……いや、まさかとは思うが上層部まで腐ってるなんてことも――
「おう、ニイちゃんじゃねえか! お前さんもこの街まで来てたんか!」
「え、はい?」
内心葛藤しまくりながら書類を眺めていると、後ろの方から聞き覚えのある声が話しかけてきた。
この声は、馬車で相乗りになってた小太り商人の…
「あ、カナックマートさん。どうも」
「おう。見覚えのある髪型だと思ったらお前さんだったんで声をかけてみたんだ。狩猟祭じゃなかなか景気よく売ってたじゃねーか、この街でもなんか売りに出すんか?」
「ええ、正確にはとある孤児院の出し物のために手続きをしているところなのですが、……そうだ、ちょっとどの辺りの場所がコスパが良くておすすめかご教授いただけませんか? 狩猟祭の時もそうでしたが、どうも私は場所選びがすごく下手くそみたいで」
「おう、ええぞええぞ。まあニイちゃんならどこでも大丈夫だとは思うけどなぁ」
「あ、あの、まだ受付の最中なのですが……!」
ぼったくりな値段の書かれた一覧表をカナックマートさんに渡すと、受付嬢が焦ったような声を上げている。
いやいやー、場所選びが下手糞なのは事実だし商売のベテランに相談するのは至極普通でしょー。なにをそんなに焦っているのかなー?
一覧表を確認しているカナックマートさんの表情が、機嫌良さげな顔から険しい表情に変わっていく。
……こっわ。俺が馬車でキレた時よりよっぽど怖く見えるわー。
「…おい、嬢ちゃん。こりゃいったいどういうこった」
「え、えーと、なにが、ですか」
「この滅茶苦茶な数字の書かれてるふざけた一覧表はなんだと聞いとるんじゃアホンダラァッ!!」
「ひ、ひぃっ……!!」
一覧表を受付の机に叩きつけながら怒鳴り声を上げるカナックマートさん。
その声を真正面から受けた受付嬢は、顔を真っ青にして尻もちをついてしまった。
周りの人たちもさっきまではニヤニヤしながら俺の方を眺めていたが、怒鳴り声を聞くとたじろぎながらこちらを見ている。
「例えばこの場所! 徴収金が売り上げの2割だぁ!? こんなクソみたいな条件の場所じゃせいぜい5%程度がいいとこだろうが!!」
「お、おい、落ち着きなってアンタ。受付が怯えてるじゃないか」
「ああ? なんじゃ貴様、こんな詐欺まがいの書類を手渡してくるようなゲスの味方するんか? お前どこの商会のモンじゃ」
「俺は『ジーナムラ商会』の専務取締のガマルダイってもんだが、知らないのか? 随分と田舎から足を運んできたみたいだな。そういうお前さんは誰なんだ? ん?」
カンカンに怒り続けるカナックマートさんを、はたから見ていた壮年の男性が諫めようとする。
自分のことは知っていて当然だ、と言わんばかりに有名人ぶりながら、小馬鹿にした様子で聞き返す専務どの。
専務かー、俺が勤めてた工場の専務はいつも作業員の残業時間の問題で頭を悩ませてたなー。その対処法が下の人間に『残業時間減らせ、でも売り上げと生産量落とすな。方法はお前らで考えろ』とか言ってるだけで、新しい人員や設備の申請とかしても全然対応してくれない人だったなー。……どうでもいいか。
「貴様、耳が遠いんか? それともさっきこのニイちゃんが名前呼んだの聞いとらんかったんか? ワシぁ『カナック旅商会』の会長のカナックマートっつーもんだが、こんなド田舎じゃ名前が届いとらんのかな?」
「か、カナック、旅商会……!!?」
呆れたような顔で、自己紹介を返すカナックマートさん。って、この人会長なの?
カナックマートさんの名前が出た途端、辺りが大きくざわついた。……もしかしてこの人、商人ギルドじゃとんでもない有名人だったりする?
というか、その会長がなんで旅商人なんかしながら渡り歩いてるんだ? 会長ってのはもっとこう、どこかに腰を落ち着けながら指示を出すもんじゃないの?
「おいおい、カナック旅商会の会長だってよ! 会長自らが各地に足を運んで商売してるって噂は本当だったのか!?」
「最近じゃ各地でスタンピードが頻発してるから、大量の復興物資の迅速な流通で一気にデカくなった商会じゃないか」
「『どこよりも早く安く多くお届けいたします』だっけ? 有言実行だからすげーよな」
やっぱ有名人みたいだ。
…そんな有名人と偶然出会って、しかも窮地になったら助けられるとかちょっとご都合主義すぎない? 自分の運の良さが怖い。
もしかしたら、ステータスの『幸運値』の高さも影響しているのかもしれないな。……今いくらくらいだっけ?
「ジーナムラ商会かぁ、よう覚えとるわ。7年前に本社がスタンピードで物理的に潰れかかった時に、ほぼ原価で資材を売ってやったっけな」
「し、失礼いたしましたぁっ!!」
先ほどまでの勢いはどこへやら、深々と頭を下げながら謝罪する専務。
てかそんな大事件の恩人の顔くらい頭に入れとけや。
「さて、嬢ちゃん。いきなり怒鳴ったりして悪かったな。立てるか?」
「は、は、はいぃ……」
急に穏やかな口調で話しかけてきたカナックマートさんに、辛うじて、と言いたげな様子で力なく立ち上がる受付嬢。
半泣きの状態だったが、どうにか持ち直したようだ。
「ならさっさとギルマス呼んできな。この書類に関して話があるからの」
トドメと言わんばかりにカナックマートさんがそう告げると、受付嬢の顔色が再び蒼白に変わっていった。
……まあ、その、なんだ、因果応報。自業自得。イキロ。
お読みいただきありがとうございます。
回線不良の後に繁忙期がやってきて更新ペースが笑えるくらい遅くなってきた件。うむむ…




