布石の晩餐
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孤児院の食堂、というか屋内運動用のスペースにテーブルを並べた部屋に、料理がビッシリと隙間なく並べられていく。
細かいのも含めると、十数種類もの料理が用意されている。
肉を焼いて塩コショウで味付けするだけのような単純な料理から、ジェットボアのトンカツ(というかシシカツ?)のようなちょっと手間のかかる料理など、肉料理中心だが子供たちや院長の栄養状態を見るとこれぐらいが丁度よさそうだな。まぁ野菜料理もしっかり食べるよう催促はするが。
俺一人じゃこんな量と種類の料理を用意するのは到底不可能なので、リーナをはじめとした炊事当番の子たちにも物凄く頑張ってもらいました。
料理スキルを持っているのは全員で7人。普段からこれだけの人数で孤児院の子供たち全員の食事を用意しているというんだから大したもんだ。
まあ、普段の料理が芋を蒸したりトマトを刻んだりする程度の簡単なものばかりらしいから、さほど負荷は大きくないらしいが。
だが、今日の晩御飯は違う。
種類も量も普段の食事とは比較にならないほど多い。
レシピがあるとはいえ、慣れない作業も多々あるから困惑して手が止まることも何度かあったが、実際に目の前でやってみせるとすぐに覚えて自分たちで調理を進められるようになっていった。
この量の料理を夕食までに準備するのは決して楽な仕事じゃない。調理が終わるころには皆ヘトヘトになっていた。
それでも誰も嫌な顔ひとつせず、愚痴も言わずにむしろ楽しそうに料理を作っていた。
普段の食事の準備は毎日ほとんど代わり映えしない単純作業らしく、食材もレシピも豊富にあって色んな料理を作れるのが嬉しかったそうな。
毎日こんな多くの種類を作るのは無理だろうが、せめて毎日三食違う料理を作れるくらいにはしてあげたい。
今日のパーティじみた夕食はそのための布石だ。順序が逆かもしれないが、まずは料理の味を楽しむことを思い出すことから始めよう。
「ならべおわったー!」
「うはぁ、めちゃうまそう! これホントに食っていいのかー!?」
「早く食べようよぉ!」
「はいはーい、全員席に着くっすー! まずは挨拶と合掌が先っす!」
見慣れない料理を目の前に、我慢できず今にも齧り付きそうな子供たちを諫める院長。
その院長も料理を前に表情が綻んでいるのが見て分かる。あ、ちょっとよだれ出てる…。
「はい、というわけでカジカワさん。挨拶お願いします」
「…え、俺がやるの?」
「料理長、みんなをこれ以上待たせたら可哀そうだよー」
「りょーりちょー、はやくー」
「…料理長ってなに?」
急に挨拶を院長から任され、給仕当番の面々からも催促を受ける俺。
……うん、言いたいことはあるにはあるけど、合掌前の挨拶は手短に済ませよう。
そろそろ子どもたちの限界が近いみたいで、こっちを見てる眼がギラギラしてて超怖いし。
「えー、皆さんこんばんは。今回依頼を受けた梶川と申します。まずは院長先生の体調が無事回復したことをお祝い申し上げます。まず今回は院長の代理を務め、解毒ポーションを手に入れるために奔走してくれていたファランナム君がギルドに依頼を出してくれたからこそ、私たちが依頼を受けることができたことを知っていていただきたい」
「ファラム兄、ありがと」
「ファラムにい、がんばったー!」
「い、いや、僕はなにもできなかったよ…解毒ポーションが手に入ったのはカジカワさんやレイナたちのおかげだし…」
「ファラム、自分が倒れてから色々と苦労かけてしまったみたいっすね……ありがとう、よく頑張ってくれたっす」
「い、いんちょ、う、…ぐすっ……」
自分たちの功績自慢の前に、まずは依頼を受けるきっかけを作ってくれたファラム君を称賛しておく。
成人したての若い身空でこんな大事件が身近で起きて、自分にできることを考えて問題解決に向けて走り回るその行動力には敬意を表するべきだろう。
……俺が彼の立場だったら、果たして同じことができただろうか。自信ないわー。
子供たちも院長も彼の働きを褒めたたえ、報われたことの実感が今になって湧いてきたのか嬉し泣きするファランナム君。夕食がちょっとしょっぱくなりそうだね。
「薬草採取のために危険な魔獣がいるところまで足を運んだアルマとレイナ、お疲れ。そして同行して魔獣退治と薬草の判別をしてくれたラディアスタ君にも感謝を」
「おにいちゃん、おねえちゃんも、ありがとう」
「レイナねーちゃんすげー強くなったんだな!」
「いまレベルいくつなのー?」
「13だってさ」
「え、カルラなんで知ってるんすか?」
「カジカワさんと一緒に院長の看病してる時にお話ししてて、その時に聞いたの。他にも熊と追いかけっこした話とか聞いたよ」
「カジカワさんなに話してるんすか!?」
「いや嘘は一切言ってないぞ? あと俺たちと出会う前の話もしてないから安心しろ」
「……他にはなに話したんすか?」
「突然声をかけてきたストーカーの急所を蹴りまくった話とか」
「間違ってないっすけどそれ違うっす!!」
とりあえず、挨拶の方はこんなとこかな。
これ以上待たせると子供たちが泣き出しかねないし、さっさと合掌してしまおう。
「さて、これ以上長々と話すのもなんですし、そろそろ合掌しましょうか」
「お料理、分けないのー?」
「バイキングっていってね、自分が好きな物を好きなだけ取り分けて食べるんだよ。まあ全部持ってくようなことはしないでくれると助かる。あと肉だけじゃなくて、ちゃんと野菜も食べようね」
「はーい!」
「では合掌。……いただきます」
「「「いただきまーすっ!!」」」
合掌が済むと、皆我先にと料理を自分の、あるいは小さな子の小皿に取り分けていく。
どれも相当な量を作ったから、食べたい料理が食べられなかったなんてことにはならないだろうが、すごい勢いだな。
ちなみにバイキング方式にしたのは特に深い理由はなく、単に作った料理を小分けするのが面倒だったからだ。
作り終えた後にみんなクタクタだったしね、仕方ないね。
「うめぇー! 肉がこんなに食えるとか夢みてぇだー!」
「お魚やエビやカニもいっぱいなのー!」
「エビとカニはレイナが狩猟祭で景品として獲得したものだから、レイナにお礼言っておこうね」
「レイナお姉ちゃんありがとうー!」
「ふっふっふ、ドヤァ」
「こっちのなんかギザギザした肉もサクサクしてておいしい…!」
「それは『トンカツ』っていって、カジカワさんに作り方を教えてもらった料理なの。表面のギザギザはパンを細かく砕いたやつでね――」
「おい、それオレが狙ってた肉じゃねーかー!」
「早い者勝ちだっての!」
「こらこら、喧嘩はダメっすよ。仲良く食べないとお肉禁止っす」
「院長、皿に肉盛り過ぎだろ! よく崩れないなそれ!?」
うんうん、盛り上がってるなー、よかった。いや院長の取り皿の話じゃなくて。
今回、こういったごちそうの山を作ったのには院長の復帰祝いの他に、もう一つ理由があったりする。
あの成金デブの脅威が去ったとはいえ、孤児院の経営が苦しいことには変わりない。
俺たちが寄付してもそれは一時しのぎにしかならないだろう。
できれば、この孤児院の皆の力でこの状況の改善をやってもらいたい。
……上手くいかなかったら、一時しのぎの寄付決定だしやれることはやっておこうか。
あ、エビ無くなった。俺まだ食ってないのにー…。
お読みいただきありがとうございます。
11/14追記
すみません、現在ネット回線の都合でPCからの投稿ができない状況で、回復するまで1週間近くかかりそうです。
スマホからの投稿では追記くらいしかできません。
次話はもうしばらくお待ちを(´・ω・`;)




