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これまでの騒ぎ これからのこと

新規の評価、ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。

お読みくださっている方々に感謝します。


朝食を食べて仮眠という名の二度寝の後、院長とお話タイム。

まだもうちょっと寝ていたいけど、これ以上寝ると昼過ぎまでズルズル寝続けてしまいそうなので我慢。

…最近徹夜とかしてなかったから、ちょっと寝不足になっただけでも結構つらいな。社畜時代、無駄に不眠耐性高かったのを今になって実感。

院長の部屋に入ると大分回復した様子で、部屋の外で覗いていた子供たちも中に入って院長のそばで遊んでいる。



「院長、少々お時間をいただいてもよろしいですか」


「はい、なにか御用で?」


「今回の騒ぎの顛末についての報告と、これからのことについての相談を」


「…伺いましょう」



少し厳しめな表情で頷く院長。

まあ黒幕のせいで死にかけたし、子供たちにも被害が及びかねない事件だったから当然か。



まず成金デブがこの土地を欲しがった理由について。

『お話』の前はこの孤児院の地下に財宝でも隠されてて、それを掘り起こすためにこの土地を欲しがったんじゃないかとか思ってたけど、動機を聞いてみると当たらずといえども遠からずな内容だった。

デブが言うには、この土地にかつて裏社会の組織が隠した違法薬物が埋められていることが最近になって分かり、もしもそれを手に入れて売りさばくことができれば数十億エンもの金を手に入れられるから、だそうな。

違法薬物かー……財宝とかなら孤児院にとって大きな助けになっただろうに、そんなもんじゃなんの利益にもならん。というか利益にしちゃいけない。

ちなみにこの薬物は、朝から憲兵さん方が掘り起こして既に焼却処分済みらしい。仕事早いな。


さらに、この土地の『土』にも無視できない価値があるらしい。

この孤児院回りの土にはどうも植物が育ちやすい成分だかなんだかが含まれていて、菜園の作物とか育つのが非常に、いやむしろ異常なまでに早いらしい。

メニュー曰く、ごく微細な土の魔石のなりそこないのようなものが混じっていて、人工的に再現するのは至難。自然界の奇跡的な偶然が重なってできるとてもレアな土らしい。

ここに埋まっていた薬物の成分を分析して、触媒になる材料の植物の栽培に成功すれば恒久的に薬物による利益を得ることも可能だったかもしれないとか。

なにせ、通常収穫までに3ヶ月かかる作物がわずか半月からひと月程度で収穫できるくらい成長のスピードが早いらしい。……大丈夫なのかそんな異常なペースで育ったものを使っても。



「なるほど。道理で庭の野菜が育つのがやたら早いと思いました」


「前の孤児院の菜園と比べても、3倍は早く収穫できてたよね」


「深く考えてなかったけど、今思うと相当おかしな早さで育ってるよなぁ…」



院長と子供たちが納得の表情で頷く。

…メニューさん、念のため聞いとくけど、ここの土で育ったものを食べて身体になんか悪影響とかない?


≪特になし。育つペースが早いだけで、品質の方は特別良くも悪くもない≫


ふむ、ホントに育つのが早いだけか。ひとまず安心だな。



「まあ件の薬物は既に処分済みですし、薬物の材料栽培のためにこの孤児院を狙ってくる輩に関しては大丈夫だと思います」


「農業関係者からしてみれば垂涎ものの土地でしょうが、いかんせんそれほど土地の面積が広くないうえに、特に作物の品質が良いわけでもありませんからね」


「今回の騒ぎに関してはこんなところですね。あの紅白髪の成金デブは御用になりましたし、連れて歩いていたチンピラたちや魔獣使いたちも散り散りになったようです」


「……そういえば、庭にでっかいオオカミがいたけど、あれは?」


「ああ、それならミーアが飼うって言ってた」



……そのオオカミだが、一時的に気絶してはいたけど、『お話』に夢中になってるうちに目を覚ましていた。

従魔の首輪も外され、足がつくことを恐れたのかテイムも解除されていた。

こうなると野生の魔獣と変わりないはずだが、何故か庭で縮こまったまま動かないでいたらしい。

朝食の後に、オオカミのことを思い出した俺が慌てて庭に出てみると、無抵抗で子供たちにもみくちゃにされているオオカミの姿があった。

…カルラが首にナイフを突きつけられている時に匹敵するくらい肝が冷えたわ。


メニュー曰く、どうもこのオオカミは魔獣使いによってパワーレベリングされて育った魔獣らしく、実戦経験がほとんどないらしい。

レベルは40台だがこれまで死にかけの魔獣くらいしか仕留めたことがなく、今回みたいに使い潰す目的で育てられたみたいだな。

人を殺した履歴もなく、初めて戦った人間が俺であんな訳の分からん目に遭わされて、その結果人間に対して恐怖心を抱くようになってしまったようだ。


特に俺に対しては最早トラウマになっているらしく、俺を視認した直後に震えながら服従のポーズをとっていた。

それを見た子供たちのうちの一人、ミーアラーシュという8歳くらいの金髪少女が「いじめちゃダメー」と俺からオオカミを庇ったりしていた。ちゃうねん、あれは事故やねん。

で、俺から自分を庇ってくれたことを理解したのか、それ以降オオカミはミーアに懐いてしまった。

しかも都合のいいことに、ミーアは【テイム】スキルを取得しているらしく、ヒヨコの従魔登録の際に買っておいた予備の従魔の首輪をミーアの手でオオカミに着けさせた結果、成人前の子供がLv40以上の魔獣を飼うという異常事態に。

……これって大丈夫なの? てか成人前でもスキルがあれば魔獣を使役できるのか…。


≪飼い主が人を襲うように命令しない限りは安全と推測。本来、成人前の人間に魔獣が使役されることはほぼない。今回は魔獣が梶川光流により屈服させられたが故にミーアラーシュにより懐柔できた、レアケースであると推測≫


……絶対にいたずら半分に人を襲わせたりしないように、よく言い聞かせておかないとな。

俺とヒヨコはスキルなしの主従関係、というかヒヨコからしたら親子関係みたいだが、本来はスキルがないと魔獣を使役することはできない。

従魔の首輪はあくまで目印で、首輪そのものに大した効果はない。

メニューの翻訳機能がなければ、ヒヨコと心を交わすことができず、ある日急に野生化なんてこともあり得たかもな。



「あんな大きなオオカミ、大丈夫っすかね……」


「ミーアちゃんが指示しない限り、人を襲うことはないでしょう。よく注意しておけば問題ないかと」


「いえ、餌代とかが」


「…魔獣のテリトリーに放って、弱めの魔獣を狩らせれば餌は大丈夫みたいです。あのオオカミLv40を超えているようですし、実戦経験がちょっとこころもとないですが魔獣湿地の魔獣くらいなら楽に仕留められるでしょう」


「ミーアはまだ8歳だぜ? 魔獣のテリトリーになんかまだ入れないよ」


「一度魔獣のテリトリーまでオオカミを案内すれば、食事どきに自分だけでテリトリーに行けるようになるだろうし、問題ないよ」



……案内は、俺以外の人に行ってもらおうかな。めっちゃ俺のこと怖がってるし。



「なにはともあれ、一件落着ですね。カジカワさん、今回は本当にありがとうございました」


「いえいえお構いなく、依頼ですから。……さて、騒ぎの件はこれでよしとして、今度はこれからのことでお話があります」


「これからのこと、ですか?」


「ええ、ちょっと今晩の夕食も私に手伝わせていただけますか? もちろん材料は用意しますので」



この孤児院の子供たちはほぼ全員が成人前の子たちだ。

しかし、成人前の子供でもLv40を超える魔獣を使役するという可能性を見たばかりだ。

他の子たちも力を合わせれば、きっとそれは想像を超える力を発揮するだろう。

……失敗したら、たんと寄付してさっさと出ていこう。すごくカッコ悪いけど。


お読みいただきありがとうございます。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
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