閑話 ギルマス回想
新規の評価、ブックマーク、感想をいただき、ありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
今回はダイジェルのギルマスことヴェルガランド視点です。
窓から空を見上げると、雲一つない青空が広がっている。
爽やかな朝、なんだがこれからすぐ仕事にとりかからなきゃならんと思うと気が滅入る。
せっかく朝食に取り寄せた料理の味もよく分からんくらいに、今後が不安で仕方がない。
『指揮官』の職業は極めてレアで、俺以外の指揮官や指揮者は大抵、国の大規模な軍の団長なんかを務めている。
指揮官が戦場にいて指示を出すだけで、明らかに軍全体の動きがよくなるから当然と言えば当然だが、それ以外の生き方が指揮官にはほぼ無い。
レア職業の指揮官はまず見つけることに苦労する。手間暇かけて見つけた指揮官を最大限に活かすには、大規模な軍を指揮させるのが最も大きな効果が出せるからだ。
成人した日に国の御偉いさん方がゾロゾロやってきて、強引に軍へ連れていかれた日のことは今でも忘れられねぇ。
例えば剣士なら、冒険者にも衛兵や傭兵や軍の兵士、あるいはその筋力を活かして畑仕事なんかの手伝いという牧歌的な選択肢もあるだろう。
別にそれを妬ましいと感じているわけじゃないんだが、選択の自由がないというのは理不尽なもんだと常々思う。
まあ魔獣や山賊、また他国の脅威から国を守る仕事もやりがいはあったがな。
年を取り、後継者が見つかってから軍を退き、義務から解放された俺はずっと前から興味のあった冒険者ギルドを訪れた。
冒険者、というのは軍に所属させられて、成人してから自由を知らない俺にとっては憧れの職業だったからな。
命がけとはいえ、仕事の内容を自分で選べる。
安定した収入のない日雇い仕事とはいえ、いつでも休める。
そして、そのコミュニティは老若男女国境職業貴賤問わず、様々な人間と交流する機会がある。
…もしも自分が指揮官ではなく、もっとポピュラーな戦闘職だったなら、そんなところで働くこともあったのかもしれない。
などと思考に耽りながらギルドの中を眺めていると、街の中に強力な魔獣が攻めてきたと通報があり、俺も対処に回ることになった。
退役軍人に無茶させんじゃねぇよとか思ったりもしたが、いかんせん数も質もギルドや防衛隊だけでは対処が困難なレベルだったからやむを得ない。
なんとか魔獣の討伐が完了し、その数日後に冒険者ギルドのグランドマスターに『アンタ人使いが滅茶苦茶上手いし、今日からこの街のギルマスやって』と凄まじく軽いノリで任命された。
いや、だから俺は退役軍人だっつってんだろ! 残りの半生くらいゆっくりさせろ! と文句を言ってやろうかとも思ったが、国王陛下から既に許可を賜っていたらしくそれを無下にするわけにもいかず半ば強制に近いカタチでダイジェルのギルドマスターをやらされる羽目になった。
本人に確認もせずに国王陛下にまで話を通しやがって。こんなことなら、無理にでも断って知らんぷりでもしてればよかったかもしれない…。
こうして、俺が望んだカタチじゃなかったが、内心憧れを抱いていた冒険者ギルドに40代半ばにもなって所属することになった。
…全然、俺の思っていた仕事内容とは違ったものだったが。
軍に所属していた頃と違って、体力を使うような仕事は滅多になかったがデスクワークに追われる日々が続いた。
冒険者ギルドの運営側には俺の思ったような自由はなかったようだ。くそったれ。
だが、それでも比較的平和で充実した日々を享受できるのは、悪くなかった。
……どこぞの世界最強の男女の冒険者が貴族様相手に喧嘩を売って、事態の収拾のために国がその貴族を断罪した後にその男女にもう勘弁してくださいと頭を下げる事件とかがあるにはあったけどな。
そもそも、その男女の女大魔導師をその貴族が手籠めにしようと攫おうとしたのが原因だったんだが。事後処理に走り回って目が回る思いだったな…う、思い出しただけで胃が…。
そして今から一年少しほど前に、その世界最強の男女とその娘がこの街のギルドにやってきた。
前回の騒ぎのこともあるし一瞬身構えそうになったが、成人した娘に冒険者としての基礎を学ばせてほしいと言うだけで、他に用もなく去っていった。
…去り際に『万が一娘に手を出したりしたらすぐに駆け付けますので』『周りにもお気をつけて』とか穏やかかつ迫力のある笑顔で言ってきたことは今でも昨日のことのように思い出せる。
人に自分たちの娘を押し付けた挙句脅迫めいた捨て台詞吐いていくとかホントに勘弁してほしい…。
一応、そのための費用なんかに結構な額を受け取っているから文句は言わんが。
その娘『アルマティナ』は、色々と非常識で規格外な両親と違い、表情に乏しいが比較的まともな娘だった。
ただ、随分と甘やかされて育ったらしく、炊事や洗濯、掃除や買い物までロクにやったことがなかったらしい。冒険者としての基礎の前に生活の基礎を教えなければならなかった。
素直で真面目な性格で、嫌な顔一つせずに日々の雑用や冒険者としての心得を学んでいき、一年もするとなんとか自分一人の力で生活できるようになるほど成長してくれた。
というか、一人で生きていかざるを得ない、と言うべきか。
最初は、あの二人に甘やかされて育った娘なんか、我儘放題の面倒な奴に違いないと思っていたが、ここまで素直に言うことを聞いてくれるのは正直意外だった。
…成人する際に選んだ職業が不遇職の見習いパラディンだったから、その劣等感からか少し卑屈にすら感じる。
不遇職故に、自分からパーティを組もうにも拒否され、それを何度も繰り返すうちに自信を無くしてしまったようで、ギルドでは担当のネイア以外の人間とはほぼ話さなくなってしまっていた。
しばらく経って、面倒見の良さそうなパーティに誘われたりもしていたが、不遇職の自分では足手まといになるからと拒否してしまうほどの重症ぶりだ。
そのことで、俺があの二人に責められるのはいい。なんなら受け取った費用を返すことも了承しよう。
ただ、毎日暗い顔をしながら魔獣討伐を一人でこなすアルマティナを見ていると、冒険者としての基礎よりももっと大事ななにかを伝えるべきなんじゃないかと思う。
…だが、あそこまで心を閉ざしてしまった者に、俺ができることなんかあるんだろうか。
そう思っていた矢先に、アルマティナにとっての転機が訪れた。
黒髪の変人オホンッ…もとい異世界人のカジカワヒカルとの出会いだ。
森でカジカワに危ないところを助けられた、のではなくカジカワが魔獣に囲まれて助けを求める声を聞いて駆け付けたのが出会いの始まりらしい。
俺が思うに『助けられた』のではなく『助けた』というのが重要なポイントだな。
自信を無くして落ち込んでいるアルマティナにとっては、誰かを助けることができたというのは非常に大きな収穫だったんだろう。
それ以来カジカワと共に行動するようになって、孤独な状況からは脱することができたようだ。
心なしか表情も少し明るくなったように見える。……表情がほとんど変わらんから分かり辛いが。
で、そのカジカワだが、なんというか、その、………なんなんだろうなアイツは。
常識外れというか、形容しがたい、むしろ名状しがたいなにかというか。
曰く、スキルを一切持っておらず、職業も分からない。
なのに魔力を直接操り、生活魔法を指輪なしで扱えるうえに空を飛ぶことすら可能。
……この時点で既に意味が分からん! なんなんだアイツは。
まあその訳の分からん能力のおかげで、犠牲者もなく無事にスタンピードを乗り越えられたからあまり無下に扱うつもりはないが。
こう言うと変人と言うか不審者というか、下手したら狂人みたいな印象を受けるかもしれないが、カジカワの人間性そのものに関しては特に大きな問題はない。
というか、会話してるだけならむしろ穏やかで常識的な人物のように思える。
テリトリーでの魔獣討伐以外の依頼は、ケルナ村でのイノシシ退治くらいしか受けていないようだが、その村からの評判も非常に良かった。
依頼を出した村人曰く、依頼の内容に含まれていなかったジェットボアが現れても途中で依頼を放棄せず、丁寧に罠の設置を指示して大量のラッシュボアとボスのジェットボアを仕留めてみせ、その素材の大部分を村に譲り討伐報酬以上の利益をもたらしてくれたと言っていた。
ギルドの評判が良くなるのはいいが、気前が良すぎて他の依頼者から不満が上がらないか心配だ。今のところそんなクレームつけてくる依頼者はいないようだが。
他にもヴィンフィートで復活した古代兵器を再封印したうえ、犯人の魔族を仕留めたり、ランドライナムの狩猟祭でAランクの強力なエリア越え魔獣を討伐して、その原因となった相手がフィリエ王国の黒竜の主ということを報告したり、目覚ましい活躍をしているらしい。
……あいつ、ほんの3ヶ月前までLv2~5くらいだったよな? なんだこの異常なペースでの成長ぶりは。
人格はまともなのに、それに対してやること為すこと非常識すぎだろ。なんつーギャップだ。
……なんだか長々と物思いに耽っていたが、ある意味現実逃避をしようとしていたのかもしれない。
まったく、何度も言うが俺はもう退役して一線を退いた身だ。なのになぜ魔族との戦いなんぞに参加しなきゃならんのか。
「すみませーん、マスター、陛下の使者様がいらっしゃいましたー」
……やれやれ、遂に来たか。
しばらくダイジェルのギルドから離れることと、これからの戦いに不安を抱きながら腰を上げて使者のもとへと歩き出した。
ああ、嫌だねぇ。誰か代わってくれねぇかなぁ…。
お読みいただきありがとうございます。
『お話』の内容はあんまり詳しく書くつもりはないです。
グロいというかエグい内容なのは確かですが。




