希望(一部絶望)
新規の評価、ブックマーク、誤字報告、そして3件もの感想、本当にありがとうございます。
それぞれの数が一気に増えていて一瞬目を疑いましたとも。
え、誤字報告は多くちゃダメだろって?……すみません、毎度毎度本当にお手数おかけしておりますorz
お読みくださっている方々に感謝します。
今回は本当の院長代理、ファランナム少年視点です。
トボトボと、なんの成果も得られないまま帰路を歩く。
院長から借りた懐中時計を見ると、もう夜中の3時半だ。
いつもなら遅くとも日付が変わる前には眠りについているところだが、院長があんな状態の時にそんなこと言ってられない。
院長の身体を治せる中級ポーションを譲ってもらうために、街の端から端まで民家を一軒一軒しらみつぶしに回っている。
なのに、結局解毒ポーションを手に入れることはできなかった。
そもそも、この辺りに中級以上の解毒ポーションが必要になるような毒を持った魔獣はほぼいないはずなんだ。
なのに、毒持ちの魔獣が門番や衛兵の目を掻い潜って街の中に入ってきた挙句、明らかに院長を狙って攻撃してきた。
どう考えても、誰かが裏で手を回しているとしか思えない。
どの薬屋に行っても中級解毒ポーションが売り切れだし、近隣の街も同じ状況らしい。
院長が毒にかかる直前に誰かが買い占めていたんだろう。おそらく今回、院長を襲った魔獣を操っていた人間か、その黒幕が。
……犯人の目星はついているが、明確な証拠がないからどうにもできない。はらわたが煮えくり返りそうだ。
冒険者ギルドに解毒ポーションの譲渡の依頼をして、それが駄目なら材料採取の依頼を頼んでみたが、どちらも望みは薄そうだ。
毒持ちの魔獣が近辺にいない以上、中級解毒ポーションを持っている人は少ないし、仮に居たとしてもたかだか2万強の報酬のために孤児院まで来てくれるかはその人次第だ。
材料採取の方はもっと条件が悪い。ギルドの査定じゃCランク相当の依頼らしいし、本来なら10万以上は支払わないと割に合わない。
せめて、僕があとひと月でも早く成人していたら、『鑑定士』の仕事をこなしてある程度まとまったお金が手に入っていたかもしれないのに…。
…院長に、もしものことがあったら、残された子供たちはどうすればいいんだろう。
あの太った赤毛の男に言いくるめられて、孤児院の権利を強引に奪い取られたりしたら、皆の住む場所が無くなってしまう。
最悪、あの赤毛男に子供たちをドサクサ紛れに売り飛ばされでもしたら……。
それだけは、絶対に許せない。院長が必死に育ててくれた子たちだけは、なんとしても守らなければ。
……院長、お願いだから、死なないで…。
「……なんだ、これ?」
……僕は、歩き疲れて変な白昼夢でも見ているんだろうか。
孤児院まで戻って、まず最初に目に映ったのは手足が変な方向に曲がっているうえに、口を布で塞がれて白目を剥きながら涙と鼻水まみれになって気絶している男の姿。
その傍には、血と思われる赤い水たまり。
そして、なぜか怯えたように隅の方で縮こまっているオオカミ型の魔獣。
一瞬心臓が飛び出そうなほどビックリしたけど、襲いかかってくる気はないみたいだ。
……どうしよう、僕の頭じゃ状況を整理するのが難しいみたいだ。
なにが起きたんだ。なんでこんな状況になってるんだ。みんなは無事なのか。
急いで孤児院の扉を開いて玄関に入ると、小さな灯の傍で給仕当番のリーナがピンク色の髪を弄りながら座っているのが見えた。
…まさか、僕が帰ってくるのを寝ないで待っていたのか?
「あ、ファラム兄さん、お帰り!」
「あ、ああ。ただいま、リーナ。こんな時間まで待っててくれたのか……他の皆は?」
「カルラに起こされてさっきまで起きてたけど、またすぐに眠っちゃった」
安心したような顔で、元気よく出迎えてくれるリーナ。
よかった、とりあえず皆無事みたいだ。
庭の血だまりとかが子供たちのものだったりしたら、どうしようかと思っ―――
……待てよ、皆が無事なのは分かったけど、じゃあさっきの光景はいったいなんなんだ……?
疲れすぎて幻覚でも見えたんだろうか、うん、きっとそうだ、そうに違いない。
「ところで、僕が留守にしている間になにかあったのか――」
ギィャアァアアァアアァアアァッ!!
!?
なんだ、今の絹を引き裂くような、いやむしろ雑巾を捩じ切ったようなきたない絶叫は!?
「……まーた叫んでる。もうこれで何回目だろ?」
うんざり、といった様子で目を細めながら呟くリーナ。
え、なんでそんなに冷静なんだ? というかもう何回も今みたいな叫び声が上がってるのか!?
「え、ええと、今の声はなんなの?」
「院長を襲った魔獣をけしかけた、今回の騒ぎの犯人の声だけど」
「今回の、犯人……!?」
……やっぱりあれは事故なんかじゃなくて、誰かが院長を狙っていたのか!
許せない、絶対に、許してやるもんか!!
「その犯人はどこにいるんだ!?」
「客間だけど、お話が終わるまで中に入っちゃダメってカルラが言ってた。……というか、入りたくない」
「なにを言って――」
ひぎゃああああああぁぁぁあああっっ!!!
再び院内に甲高い絶叫が響き渡ったのを聞いて驚き、そのおかげで少し頭が冷えた。
……落ち着け、怒りにまかせて突っ走っても仕方ない、まずは状況の整理が先だ。
「今回の騒ぎの犯人って言ってたけど、もしかして」
「うん、ちょっと前に孤児院のある土地の権利書を売れって言ってきた、デブで赤髪で前髪だけ白いオッサン」
「やっぱりか……」
最近の諍いらしいトラブルといったらそれぐらいしか覚えがない。
土地を売らなかった報復か、手段を択ばずこの孤児院を奪い取りたいのか、どっちにしても許せない。
いやあだああああああっ!!! やめ、や、ぶごああああああああっっ!!?
「…その犯人が、なんで院内でこんな叫び声を上げてるんだ?」
「カルラが言うには、レイナ姉さんのお仲間が『お話』してるから、だって」
「レイナの、仲間? え、レイナ!?」
「ただいまっすー!!」
今日、何度目かの驚愕。
声がした後ろを振り返ると、スタンピードの時に離ればなれになった、レイナミウレが手を上げながら立っていた。
「あ、レイナ姉さんお帰りー」
「リーナ、ただいまっす! あ、ファラムも帰ってたんすね、久しぶりっす!」
「う、うん、久しぶりだね」
相変わらず元気いっぱいだな。レイナが居るだけで暗い気分が吹き飛んでいくようだ。
「レイナ、早く院長にポーションを飲ませないと」
「ここまでやって手遅れになったりしたら笑いごとにもならねぇぞ、急がないと!」
「そ、そうっすね! 院長ー!!」
レイナの後ろにいた同い年くらいの男女が、レイナを院長のもとに行くように促した。
すぐに院長のいる方へダッシュで向かうレイナ。
…ポーションって、まさか!
「解毒ポーションが手に入ったのか!?」
「ああ、薬草採りに行ってから薬屋に行って急いで作ってもらったんだ。夜中に叩き起こされてえらく不機嫌そうだったけどな」
「……今考えると、行きも帰りもレイナの影潜りで移動すればもっと早く帰れたと思う……」
「…焦って行動すると、かえって遅くなっちまういい例だな。我ながらアホかって思うぜ…」
「な、なんだかよく分からないけど、あなた方がレイナと一緒に薬草を採りに行ってくれたんですね。そのおかげで、中級解毒ポーションを……!」
…よ、よかった。本当に、よかった……!
色々気になることはあるけど、院長が助かる。もうそれだけで充分だ。
「あ、ありがとう、ございます……! これで、院長も……グスッ…!」
「泣くなっての。泣くなら院長さんが起きた時にでも抱き着きながら思いっきり泣いてやりなよ」
「は、はいっ……!」
そう言われても、これまでの不安と緊張が解けた途端に、堰を切ったように涙が溢れてくる。
止めようと思っても、止められるものじゃ――
うぎょべびぃぁぁああああああ!!!!
……うん、きたない叫び声を聞いたせいで、割とあっさり止まってしまった。
『お話』してるって話だけど、客間でいったいなにが起きてるんだろうか…。
「……なんだ今の声?」
「………あっちの部屋の中に、ヒカルと誰かが一緒にいるみたいだけど、なにやってるんだろ…」
「『お話』してるから、終わるまで入っちゃダメだってさ」
「……院長さんと、レイナのところに行こうか」
「……うん」
客間から逃げるように、院長の部屋の方へ移動する二人。
…僕も一緒に行こう。今の客間には入りたくない…。
お読みいただきありがとうございます。
あ、『お話』の内容は次回以降にダイジェストでお伝えする予定です。
え、詳しく知りたい? ごめんなさいあんまりエグい描写書くのはちょっと(ry
勇者君のキャラのブレ具合とコワマスの筋違いの発言についてですが、今読み直してみると確かにこりゃちょっと酷いですね(;´Д`)
閑話とかで補足入れたりして、もうちょっと納得のいく内容にするべきですかねー…。
このように、キャラの発言などを読まれて、どう感じられたか書いていただけると非常に嬉しく、また物語を書くうえで参考になります!
他にも『この描写不自然すぎ』『おい前言ったことと矛盾しとるぞ』『ちくわ大明神』『次話投稿あくしろよ』『このキャラの設定もっと掘り下げて書いて』などありましたら、お気軽に書き込んでいただけると幸いです。誰だ今の
改めて、感想をいただきありがとうございます!




