芸を見せろ(強制)
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「はいはぁい! こんばんはクソガキども、そろそろあのクソ院長はくたばった頃かねぇ!?」
孤児院の正門前から、甲高く下品な声が聞こえてくる。
言ってる内容も相当ゲスい。……どこのどいつだろうか。
玄関の扉を開け正門の方へ向かうと、暗がりでも分かるくらい派手な赤髪で前髪だけ白い、成金デブ中年の姿が見えた。
その周りには取り巻きと思しきガラの悪い男たちと、オオカミとトラ型の魔獣を従えた魔獣使いの姿があった。
魔獣の反応はこいつらか。……強さはBランク上位、大体Lv40強くらいだな。
しかも、トラ型の方は【迅雷白虎】とかいう固有魔獣だ。草原で戦った金銀オオカミよりは強そうだな。
院長の代わりに出てきたのが子供ではなく、見慣れない俺なのが予想外だったのか、首を傾げながらこちらを見ている。
「……んん? なんだね君は?」
「院長の代理を務めている者です。院長はまだ容体が不安定な状態ですので、御用でしたら院長の容体が回復してからお願いいただけますか」
うん、別に孤児院の経営を任されているわけじゃないけど(勝手に)院長の代わりに応対しているから代理を務めているというのは嘘じゃない。
…ちょっと苦しい言い訳かな。
「あーあーそうかねご苦労さん。……そんな気の長いこと言ってないで、さっさとあの死にぞこないのババアのところまで案内してくれるかね? こちらも無駄足踏むためにこんなボロ孤児院まで足を運んだわけではないんでね」
「院長は魔獣に襲われた際に受けた毒の影響で、現在会話ができる状態ではありません。今日のところはお引き取り願います」
「ああ、別に話ができなくてもかまわんよ。というか別にババアと話すのが目的じゃない」
「では、どのようなご用件で?」
「先日から何度も何度もババアには言っておいたんだが、この土地の権利書を渡してもらうためだ。ちゃんと金は払うし、ガキどもにもちゃんと引き取り先を紹介してやると言っているのにまるで聞く耳持たん。歳のせいか耳どころか頭まで悪くなってるんだろうなあのババアは」
不快だ。
甲高い声も、話の内容も、他人を見下すその態度も全てが癇に障る。
まだ敵意剝き出しの魔族と会話してる方がマシだ。まだ魔獣と殺し合いしてる方がマシだ。
さっさとどっか消えてほしい。はよ帰れ。
こんな奴が紹介する引き取り先なんかロクなところじゃないのは目に見えている。下手したら奴隷商あたりに売り飛ばされることすらあり得そうだ。
「土地の所有権は私ではなく院長にあります。院長がご存命である限り、私の采配でどうこうすることはできません」
「うむ、ごもっともだ。院長が生きている限りはな。しかし、解毒ポーションがこのところ品薄になっていてまだ手に入れられてないんじゃないのかね? ハチ型の魔獣に襲われてからもう3日、そろそろいつ死んでもおかしくないほど時間が経っているだろう」
「ええ、ですがあと数時間以内に中級の解毒ポーションが届く手筈になっていますので、心配は無用です」
「…………ほう、そうかそうか」
一瞬眉を不快気に動かしたが、すぐに下卑た笑みを浮かべ意味深げに呟く成金デブ。
その後ろで、魔獣使いの男2人がなにやらゴソゴソやっているのが見える。
あ、オオカミの方の従魔の首輪外しやがった。
その直後、首輪を外すまで大人しくしていたオオカミ魔獣の目つきが野性味を帯びて鋭くなった。
牙を剥き、涎を垂らし、今にもこちらの喉元に食らいついてきそうだ。
「数日前にも、たまたま魔獣がこの辺りに侵入してきて院長を襲ったそうだな。…一度あったことは二度あってもおかしくはないと思わんかね?」
「……院長が魔獣に襲われたのは、まさか…」
「まったく、まったくまったくまったく! この街以外の近場の街でもポーションを買い占めて、念入りに材料の薬草まで伐採して、ちゃんとくたばってくれるように手を回していたというのに! あのババアも貴様も邪魔ばかりしおって!」
おぅ、聞いてないのにあっさり自白しおった。アホか、アホなのかこいつは。
それとも、これから俺がその魔獣に食い殺されることを見越して、感情任せにこんなアホみたいな癇癪起こしてるんだろうか。
「毒で死んでもらおうなどと、回りくどく不確実な手段を選んだのが間違いだった。シンプルに、分かりやすく、確実に死んでもらおうじゃないか」
「テイムされた魔獣を使っての殺人ですか。魔獣から飼い主の情報を割り出せば、すぐに犯人は特定できると思いますよ?」
「貴様とあのババアを食い殺させた後に、テイムを解除し魔獣を放棄すれば問題ない。その時点で我々とはなんの関わりもない魔獣が孤児院を襲ったことになるから、心配は無用だよ」
………
クズが
「さて、グズグズしてると誰かに見られかねんのでな。さっさと食い殺されてくれたまえ」
「済まない、これも仕事なのでな。……やれ」
『グルルル……ッ!!』
魔獣使いが指示を出した後、オオカミ魔獣がこちらに向けて唸り声を上げている。
そして、こちらに駆け出した直後
「いえいえ、お気になさらず。それに、そのワンちゃんにはそんな気はなさそうですし」
『ガフゥッ……!?』
ベシャン とその場に勢いよくひれ伏した。
「……は?」
「おい、なにをやっている…!? 立て、早くアイツを食い殺せ!」
『ギ、ギャインッ! キャンキャンッ!!』
唖然とした表情の成金デブ、困惑した表情で魔獣に再度指示を出す魔獣使い。
そんなこと言われても、と言いたげに鳴き声を上げるオオカミ。
オオカミがひれ伏したのは、別に俺の迫力にビビったからとかそういう本能に基づいた行動ではなく、単に魔力の遠隔操作でオオカミの上からものすごい圧力を物理的に与えているからだ。
数百kgもの砂袋が圧し掛かっているようなものだし、動こうと思ってもまず無理だろうな。
『ク、クゥーン、クゥーン……!』
「ま、まさか、こいつに屈しているというのか…!? 主である私の命令よりも、こいつに対する恐怖心が勝っているとでもいうのか!」
ちゃうねん、単にものっそい体が重くて動けないだけやねん。
スキルを通さない魔力は不可視だから分からないだろうけど。
「おとなしいワンちゃんですね。はい、お手」
『ガルッ!?』
右手を俺の掌に乗せるように無理やり魔力で操る。
「おかわり」
『グ、グルゥッ!?』
混乱した様子のオオカミの左手を掌に乗せさせる。
「はい立って、〇ンチン」
さらに無理やり立たせて、尻尾を股から前へ出させる。ちょっとお下品かな。
ビタァンッ!!
『ギャインッ!!』
…あ、ちょっと勢いつけ過ぎて本当の急所を強打したっぽい。
いやこれはホントわざとじゃない。ごめん、マジごめん。
ワンちゃん悶絶、意識混濁。五体投地。
「な、な、な……!?」
「ええい、なにをやってるんだ! 遊ばれた挙句自滅など無能にもほどがある!! おい、もう一頭の方を出せ!」
「し、しかし、こちらの魔獣は切り札で、使い潰すにはあまりにも…」
「やかましい! 代わりの魔獣くらい、後で用意してやる! もたもたしてないでさっさと放て! それともう一人は見張りに出していた魔獣を呼び戻せ! 総攻撃だ!」
「……なっ…!?」
成金デブの指示を受けて、魔獣使いの片方がトラ型の魔獣の首輪を渋々ながら外した。
が、もう一方の魔獣使いの様子がおかしい。どしたの?
「どうした、早く呼び戻せ!」
「そ、それが、見張りに出していた魔獣たちが、たった今全滅したようで……!」
「バカな、訓練済みのLv30以上の魔獣が5体だぞ!? あの湿地の魔獣如きに後れを取るはずがない!」
なんか俺の知らないところでトラブル発生している模様。
湿地ってことは、アルマたちが薬草を採りに行った魔獣のテリトリーに見張りを立ててたのかな。
で、このタイミングで全滅したってことは、……あっ(察し)
「…まあいい。黒髪の院長代理、キリングウルフを制した程度で調子に乗るなよ。こいつはそこらの魔獣とは格が違うのだ!」
『ゴグルルル……!』
確かに、さっきのオオカミより大分強そうだな。
魔力操作で操るのは厳しそうだ、ちょっとステ確認。
魔獣:★迅雷白虎
Lv48
状態:正常 テイム(ジルナギア)
【能力値】
HP(生命力) :903/903
MP(魔力) :623/623
SP(スタミナ):610/627
STR(筋力) :749
ATK(攻撃力):749
DEF(防御力):504
AGI(素早さ):812
INT(知能) :341
DEX(器用さ):677
PER(感知) :666
RES(抵抗値):540
LUK(幸運値):122
【スキル】
魔獣Lv5 体術Lv10 極体術Lv4 爪術Lv10 鋭爪術Lv1 牙術Lv10 貫牙術Lv1
【マスタースキル】
オーラ・ミティゲイション
リベンジ・クロー
バイタル・タスク
【ユニークスキル】
疾風迅雷
【称号】
格上殺し 魔獣キラー 固有魔獣 スキルマスター 雷の支配者
状態項目のテイム(ジルナギア)ってのは飼い主の名前か。
マスタースキルが三つもあるとは。バイタル・タスクってのは初めて見るな。
≪マスタースキル【バイタル・タスク】 自分のHPを消費して一時的に攻撃力を高めるスキル。消費したHP分だけ、そのまま攻撃力が上昇する≫
やばいな、この時点で下手したら白金ニワトリより強いかもしれん。
…で、ユニークスキルの疾風迅雷ってのは?
≪ユニークスキル【疾風迅雷】 攻撃に雷属性を付与。また自身への雷属性の攻撃を無効化する≫
……やばい、俺の弱点の雷属性の攻撃使ってくるのかよ。
雷の攻撃を喰らっても身体が傷付くわけじゃないけど、神経を直接刺激されて痛みが襲ってくるのがまずい。
…ああやだやだ、久々に痛い戦いになりそうだ。
お読みいただきありがとうございます。




