どうしてこうなった
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今回ちょっと短めです。
こ、こんばんは……。
現在もうすっかり空が暗くなったところです。
アルマのご両親とようやく一旦分かれることになって、ちょっと寂しい反面内心物凄くホッとしています。
昼食の後もしばらく話しっぱなしだったからなぁ…ただでさえ人と会話するのが少し苦手なのに、あのお二人相手だとずっと気を張ってしまって気疲れ倍増だった。
そのうえ、あのバカ騒ぎだからな…。危うく宿から追い出されるところだった。俺、悪くないのに…。
魔力操作の訓練でもしようかと思ったけど、もうその気力が湧かぬ…。
さっきまでの騒ぎの内容は、こんな感じだった。
「アルマちゃん、ちょっと聞きにくいことなんだけど、……職業はもうジョブチェンジしたのかしら?」
昼食の片付けも済んで、お茶を淹れて一息ついているところで、アルマママが口を開いた。
急にそんなことを言われて、ちょっと身構えるアルマ。
「大丈夫。剣と魔法どちらを選んでも、もう私たちは喧嘩したりしないから」
申し訳なさそうに、二人共アルマの顔を見ながら言葉を続けた。
「将来立派な剣士になるんだ、とばかり常々言っていたから、さぞ口煩く聞こえていただろうな…」
「将来は私以上に、素晴らしい魔法使いになりなさいと教えて、いえ、強要してしまっていたわね……」
「……成人前は、済まなかった。お前の気持ちも考えず、私たちは自分の技をお前に受け継いでもらうことばかり考えていた。そして、お前に将来が厳しい職業の選択肢を選ばせてしまったな…」
「アルマちゃんが、何ができるかじゃなくて、したいことがなんなのかを考えてあげるべきだったと、今は思っているわ。…ごめんなさい」
「……お父さん…お母さん…」
そういえばこの二人は『剣王』と『大魔導師』と呼ばれている凄腕の冒険者だったな。
親バカな一面ばかり見てて、ちょっと忘れそうになってた。
なるほど。親御さんと気まずい関係になっていたのは、それぞれがアルマに自分の職業と技を受け継いでほしいと言って反発しあっていたからなのか。
で、どっちつかずの状態が続いたまま、アルマはどうしても剣士と魔法使いのどちらかに職業を絞ることができなかったから、不遇職と言われている見習いパラディンを選択してしまった、というわけか。
皮肉だなぁ。二人のどちらも、娘の幸せのために技を引き継いでもらおうとしたのに、それが中途半端なカタチで結果に表れてしまうなんて。
まぁ、今思うとむしろその選択は大正解だったわけだが。
「ジョブチェンジは今日、やった。それで、剣も、魔法も、どちらも使える」
「「…え?」」
親御さん達が同じ表情で声を重ねて疑問符を頭に浮かべている。
「私は、剣士と魔法使い、両方の力を持った『パラディン』にジョブチェンジした。これ、証拠の鑑定紙」
懐からステータスの書かれた紙を取り出した。
あの紙、いつ作ってもらったんだろうか?
≪鑑定投影で転写した鑑定紙は本人のステータスをリアルタイムで表示するもので、ステータスが変わる度に転写する必要はない≫
便利だなーあの爺さんのスキル。
「う、嘘。パラディンって…!」
「信じられない…! 存在する可能性がある、と言われるだけで、実際にその職業に至った者など確認されてないはずでは…!?」
「うん。私が、初めてパラディンになった人みたい」
「あー、因みにフィルスダイム鑑定師いわく、剣士と魔法使いのいいとこ取りで、能力値やスキルの成長率もそれらと遜色ないので、不遇職どころかとても優遇された職業みたいです」
いらんかも知れんが、一応、フォローしておく。
自分で自分の職業の凄いところを言うのはなんとなく気が引けそうだし。
「ヒカルのお陰で、魔法剣のスキルを取得して、ジョブチェンジの条件を満たせた。お父さんから習った剣も、お母さんから教わった魔法も、両方とも捨てずに持っておくことができた。ありがとう、ヒカル。そして、立派な職業になれたのは二人が大切に育ててくれたおかげ。ありがとう、お父さん、お母さん」
「「…」」
イイハナシダナー。この子ホントにええ子や。グスッ。
おや? 親御さんたちの様子が…
「「うおおおあああああああっ!!!アルマ(ちゃん)――――――――っっ!!!!」」
ダキッ
ギュウウウウゥゥゥゥゥッ……!
「ち、ちょっと、おと…おか…くるし…っ!」
BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB!
いや進化キャンセルじゃなくて!
ストップ! 一旦ストップ! 落ち着いて! スタァァァップッ!!
親御さん方が大声で号泣しながらアルマを抱きしめていて、一見感動的なシーンに見えるのだが、凄まじい能力値の二人が本気でぎゅっとしているため、絞まっちゃいけないところが思いっきり絞まって死にそうな顔をしている。
みるみる顔面蒼白になってるけど、これどう見てもやばい状態じゃね?
「ちょ……ふた、り、とも……ぐる……じ……」
「あ、ち、ちょっと! 絞まってます! 首とか色々絞まってますから! そのままじゃアルマがやばいですって!」
「ア"ル"マ"ぢゃああああああんっ!!」
「やはりウチの娘は最高最強だああああああああっ!!」
「…がくっ」
「あ、アルマ! 気をしっかり持て! そのまま気絶したら死ぬぞ! 二人に絞め殺されるぞ!」
まさにカオス。どうしてこうなった。どうしてこうなった。
その後、騒ぎを聞きつけた宿の女将さん(っていうか受付のおばちゃん)から苦情がきて、ようやく事態は収まった。
アルマが少しの間とはいえ、状態:呼吸停止になった時は本気で焦った。
教訓:はしゃぎ過ぎは良くない。時と場所と場合と節度を考えましょう。
という事があったのがさっきまでの話。
騒ぎが落ち着いた後、なんかめっちゃ両親から感謝されたけど、アルマの努力の結果だから俺大したことしてないって言ってるんだけどなぁ。
まぁ、悪い気はしないが。人に感謝されるのって、慣れてないからどう反応すればいいか分からぬ……。
その後、この街の近くの魔獣森林が3日後にスタンピードが起こる危険性があることを告げると、今後のことを相談するためにギルドに向かうことにしたようだ。
見送った後は、嵐が去った後のように静かになった。
…今日はもう晩飯食ってさっさと寝よう。なんて濃い一日だ。
俺の周りだけ一足先にスタンピードが起こった気分だ…。
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