招かれざる客
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はい、こんばんは。現在日が変わる1時間くらい前の深夜です。
アルマたちに薬草採取を任せて、俺は院長の看病のためのお留守番中。
……留守番って、年長者がやるもんじゃないと思うんだけど。院長を回復できるのが俺しかいないから仕方ないが。
「うぅっ………」
とか思ってる間に、容体が悪化してきたのか院長のHPの減りが早くなった。
顔色も良くない、このまま放置してたら数分もつか分からないな。
生命力を譲渡して、HPが減ったはしから回復し続けておく。
「い、院長、大丈夫……!?」
一緒に看病している銀髪少女、カルシェイラことカルラが院長に声をかける。
こちらもこちらで泣きそうな顔で、不安からか血の気が良くない。
「……か……カル……」
「院長……! そうだよ、カルラが傍にいるよ、頑張って。今レイナお姉ちゃんが薬草を採りに行ってるから」
「……カルビ……」
「…………」
……放置してても大丈夫な気がしてきた。
肉の寝言の天丼やめろ。肉なのに天丼とはこれいかに……つまらん。
スタミナの補給も兼ねて、肉を食べさせてやろうかとも考えたが食道に詰まらせて息ができなくなったりしたら危険なので止めておいた。
「……どんだけ肉好きなんだろうな、この院長」
「ウチの孤児院、お金がないしお肉なんてひと月に一回食べられればいい方だから……こんなにお肉好きなのに、自分の分を他の子に分けたりしてるし」
ネタに走ったような寝言ばっか呟いてるかと思ったら、割と冗談抜きで真面目な理由があった。
…そりゃ夢の中でくらい肉食いたいわな。
「うふふ……それは肉じゃなくてニックっす……」
「落ち着いたみたいだな。………夢の内容が気になるが」
「……うん」
苦笑いしながらカルラと顔を見合わせる。
院長の容体もひとまず安定したし、せっかくだからこの子とちょっと話をしようか。
……確認したいことも、いくつかあるしな。
「あの、ちょっといいですか?」
「ん、なにかな?」
意外にもカルラの方から話しかけてきた。
レイナの連れとはいえ、年の離れた俺に自分から会話を振るのはちょっと勇気がいるだろうに。単に人見知りしない性格なのかもしれないけど。
「よかったら、レイナお姉ちゃんのことを聞かせてほしいなって。スタンピードから散り散りになって逃げた後に、どうなったか知りたいんです…」
「俺とアルマと会うまでの間の話はレイナから直接聞いた方がいいと思うから、話すのはふた月くらい前に初めてレイナと会った時からでいいかい?」
「はい」
さすがに、スラム暮らししてたことなんかを勝手に話すのはレイナに悪いから自重しておいた。
とりあえず、レイナが熊と命がけの追っかけっこをしていたことから話しておくか。
…この話はこの話で、ものすごく心配になる話だろうけど。
魔力や気力の直接操作なんかの話は伏せつつ成人した時に見習い忍者になるための修業の話から、ヴィンフィートで暴食スライムを再封印する際にレイナに助けられた話に、港町での狩猟祭の話までダイジェストで話し終えた。
話の展開によって顔を青くしたり、大きく驚いたり、顔を逸らして静かに笑ったり様々なリアクションをとってくれて、話をしている俺の方も見てて楽しい。
「このふた月の間に、そんな大変なことをしてきたんですね……」
「あと、成人してまだひと月程度なのにもうレイナのレベルは13にまで上がってたりする」
「え、も、もうそんなに強くなってるんですか…!?」
「うん、レイナは本当に才能のある子で、多分今の俺のレベルなんかすぐに追い越しちまうんじゃないかな」
「やっぱり、お姉ちゃんはすごいんですね……!」
ちょっと大袈裟にレイナのことを持ち上げておく。その方が聞いてる方も楽しいだろうし。
それに、多分レイナのレベリングのペースなら中堅職にジョブチェンジする日もさほど遠くないだろう。
ちなみに俺の今のレベルは白金ニワトリと金色オオカミを倒した後に爆上がりして、現在Lv33ほどだ。ふた回り近くレベルが上の相手を2体倒したボーナスはデカかった。
能力値の方も155ほど上がって、今ならハイケイブベアとも魔力操作なしでやりあえるかもしれない。
つっても白金ニワトリとサシでやりあうのはもう嫌だけどな! 怖いもん!
「さて、今度は俺の方から聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「はい、わたしの分かる範囲でよければ」
すっかり打ち解けた様子で返答するカルラ。
それにしても、成人前なのに受け答えがしっかりしてるなこの子。
「最近、院長が魔獣に襲われる前になにか普段と違ったことは無かったかい?」
「普段と、違ったこと?」
「ああ、たとえば怪しげな人が孤児院の様子をうかがってたとか、孤児院の外の人となんらかのトラブルが発生してなかったか?」
「………そういえば、半月くらい前に、ガラの悪そうな人たちが院長と言い争っていたような……」
やっぱり、なんかあったみたいだな。
「どんな外見だったか、思い出せるか?」
「はい、派手な赤色の髪で、前髪だけ白かったのでよく覚えています。あと、すごく太ってて、宝石のついた指輪をいくつも着けてて、甲高い声で院長に向かってなにかを寄越せって怒鳴ってました。院長は毅然とした態度で受け流してましたけど」
随分と特徴的な人物だな、そりゃ印象に残るわ。
まだ確定じゃないが、そいつが今回の件に関わっている可能性が高いと見るべきかな。
宝石のついてる指輪をいくつも着けてるってことは成金っぽいし、人を雇う金は潤沢にあると見るべきか。
…魔獣草原で見たドラゴンの飼い主の例もあるし、今回も同じような手を使ったのかね。
……!
「…なあ、今夜、誰かお客さんが来る予定でもあったのか?」
「? いえ、そんな話は聞いていませんけど…」
「そうか、………今すぐ、子供たちを目立たない場所に隠れさせておいてくれ」
「…え?」
「何者かが集団でこの孤児院に向かって移動してて、その中に魔獣も混じってるみたいだ。招かれざる客の可能性が高い」
「え、ええ!?」
「急いでくれ。ひとまず俺が対処するから、皆で静かに息を潜めて隠れているんだ」
気持ちよさそうに寝てる子たちを起こすのはちょっと罪悪感があるけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
万が一孤児院に侵入されて無防備に寝てる子たちに危害を加えられたりしたら目も当てられない。
「わ、分かりました……! で、でも院長は……?」
「俺がベッドごと移動するから、一緒に隠れさせておいてくれ」
そう言って、ベッドを魔力操作を利用して優しく持ち上げる。
多分、素の能力値でも持ち上げられるだろうけど、優しく運ぶのに越したことはない。
それを見てたカルラがちょっと引いてたけど、緊急事態なのでスルーしてくれ。
院長を運び終わってから、集団が近付いている正門に陣取り対処の準備をする。
さて、いったいどんなお客様なのやら。絶対ロクでもないナニカだろうけど。
……アルマたち、早く帰ってこないかなー。
お読みいただきありがとうございます。
そぼろみたいに細かい肉なら寝ててもなんとか食べられそうではあるかもしれない。
というかこの院長なら普通に食える。




