院長のいる街へ
「に゛ゃぁぁぁぁぁああああああ?!!?!」
「うわぁぁぁぁぉぉぉおおああああああああああっ!!!」
「ヒカル! お願い、もっと速度を落として!!」
「無茶言うな、あんまり時間をかけると魔力がもたない。きついだろうが我慢してくれ」
はい、こんばんは。
現在、毒を受けて苦しんでいる院長がいるという街【ニューシーナ】に向けて魔力飛行の真っ最中。
さすがに3人も抱えていると、魔力消費が激しいな。できるだけ速度を上げて、慣性運動も利用しながら移動しないと魔力がもちそうにない。
時速何キロくらいだろうねコレ?
≪およそ時速200kmほどのスピードで移動中。魔力による保護が無ければ、暴風により粘膜などに損傷を負う危険性があるレベルであると推測≫
一応、魔力で全員の顔周辺は保護してあるけど、超高速で高高度を移動する恐怖はどうしようもない。
俺はもう慣れてるけど、他の3人は余裕のない表情で絶叫を上げている。
『ピピピッ♪』
…そんな中、唯一快適そうにしているヒヨコのたくましさよ。
将来大物になりそうだなコイツは。色んな意味で。
「あ、アンタが飛行士だってのはよく分かった! てかこんな怖えーこと普段からやってんのか!?」
「ええ、慣れたものですよ。ああ、あとお願いしますから他言は控えてください。でないと心労で落下してしまいそうです」
「いいい言わねぇよ!! 頼むから途中で力尽きて落ちたりしないでくれよ!? いやホントマジでお願いしまっす!!」
「カジカワさんっ!! あとどんだけこの拷問に耐えなきゃいけないんすか?!」
「拷問言うな。地図を見る限りじゃ、このペースであと10分ほどすれば着くはずだ」
「じ、10分っすか……! 耐えられるかな……?」
「ペースを上げればもうちょっと早く着くけど、どうする? スピード上げる?」
「「「上げないで!!」」」
ハモりながらツッコむ3人。
同じ恐怖を味わってる時の一体感の強さってすごいよね。
で、10分ほど地獄を見てもらったところでようやく目的地に到着。
3人とも死にそうな顔をしながらorzの体勢で息を整えている。オツカレー。
「もうすっかり暗くなっちまったな。レイナ、孤児院に行くか、それとも今日はもう宿で休むか?」
「う、うえぇ……ほ、ホントはもう宿で休みたいところっすけど、院長が心配っす……! 早く孤児院に行かないと、…うっぷ……!」
「……そうか、無理はするなよ」
「なんかカッコよさげに言ってるっすけど、原因はカジカワさんなんすからね………!」
「……何度飛んでも、慣れそうにない……」
「し、死ぬかと思った……」
恨めし気な目でこちらを睨む3人。コワイ。
だってさー、毒の進行具合とか俺らよく分かってないし、急ぐに越したことないじゃん?
だから可能な限り全速力で向かったわけで、決して意地悪したかったわけではアッハイスミマセン謝りますから睨むのやめてくださいマジゴメンナサイこわい。
出発する前は泣きながら心配そうにしていたレイナだが、魔力飛行の体験がショッキングすぎて暗い気分も吹っ飛んでしまったようだ。前向きな気持ちになれたようでなにより。ちょっとゲ〇インになりかけてるけど。
…今更、レイナの影潜りで移動すればよかったんじゃないかとか言えないのは秘密だ。
関所では冒険者ギルドの身分証明カードを見せるだけで通ることができた。
鑑定証明書を出せとか言われたらまた俺のステータスのせいでトラブルになるかもしれなかったし、正直助かった。
その時に見えたラディア君のギルドランクがDなのにちょっと驚いた。狩猟祭の功績が認められたから、一気にランクアップしたようだ。おめでとう。
暗いせいか、街並みがよく見えないな。
雷や光の魔石を使った街灯なんかがあるから真っ暗ってわけじゃないが、それでもやっぱ薄暗い。
こんな状況で、孤児院を見つけられるかな…?
「うーん、薄暗くて街の様子がよく見えないな…」
「孤児院の看板が、前と変わってなければ一発で分かるんすけどねー…」
「なんか特徴的な看板だったりするのか?」
「肉っす」
「は?」
「でっかい肉の描かれた看板があったら、十中八九院長の運営してる孤児院っす」
「どーゆー孤児院なんだそれは…」
「院長の肉に対する執念は凄まじいものがあるっすからね…。経営が苦しくて滅多に食べられないからなおさらっす…」
下手したら肉屋と間違われないかそれ?
俺らもよく肉は食うけど、院長はさらにハングリーな肉食欲をもっているようだな。
じゃあ肉の描かれた看板を探しながら街を歩いていけばいいのか? それでホントに見つかるのか…?
とか思いながら街を眺め歩いていると、ブロック肉を切り分けている絵が描かれている看板が立っている建物が見えた。あれか?
「レイナ、あの看板か?」
「あー、多分違うっす。骨がついてないし、看板が小さいっすから」
「いや、普通に大きな看板に見えるんだが。なに? 孤児院の看板ってそんなにでかいの?」
確かに、メニュー表示を見てみると『カルナッタの肉屋』と表示されていて、孤児院とは関係なさそうだ。
いったい、本物の看板はどんな感じなのやら…。
さらに十数分ほど街を歩いているが、件のものらしき看板は見当たらない。
ホントにこの街で合ってるのかね? マップ画面も暗くて視界が悪いせいかいつもよりマッピングの範囲が狭い。
ちょっとでも視認することができれば、メニューに孤児院の場所を特定してもらえるのに。
視界が開ける朝まで待つか? でも今更って気もするしなー。
……む。
「おやおや、こんな時間に散歩かいぃ?」
「暗い夜道は気を付けろよぉ、怪しい奴らに絡まれでもしたら大変だからなぁぁ…」
とか思ってたら、まさに怪しい連中にいつの間にか囲まれていたでござるの巻。
マップが上手く使えないと、こんなにあっさり接近を許してしまうのか。生命探知をしておくべきだったかな。
「この辺りは物騒だ、よかったら俺らんとこにきなよぉ」
「そうそう、そっちのお嬢ちゃんたちならタダで天国連れてってやってもいいぜぇー」
「ああ、そっちの男二人は来なくていいぜ? 男なんだから自分の身ぐらい守れるだろぉ、ヒャハハッ!」
んー、全部で10人か。
Lv20ちょっとくらいで、こないだの山賊よかマシな実力だな。
「こ、こいつら、この辺で張ってやがったのか……!?」
「か、カジカワさん……」
怪しいチンピラ連中を警戒しながら臨戦態勢をとるラディア君と、こちらを見ながら不安そうにしているレイナ。
いや、ラディア君はともかく暗闇ならレイナの独擅場だろ。忍術スキルはどうした。…まあいいや、丁度いい。
「あー、すみませんちょっといいですか?」
「あー? うるせぇな、いいからテメェはどっか行ってろよバカが!!」
穏やかに話しかけてみたが、聞く耳もたないと言った様子で棍棒を俺の頭に振り下ろしてきた。
こりゃ駄目だ。まともに会話しようとしても無理っぽいな。
チンピラの振るった棍棒が、俺の頭に当たった瞬間に派手な音を立てて砕け散った。
魔力パイルを頭から棍棒に向かって撃っただけなんだけどな。てかもろいなその棍棒。
攻撃力+80もあるのに強度が足りてない。チンピラの持つ装備なんかそんなもんかね?
「え、あ、な、なにぃっ…!?」
「ぶ、武器が……!? どんな石頭だよこいつ!」
「えーと、もう一度聞きますけど、ちょっといいですか」
少し声色を低くして再度声をかけてみる。
頼むから応じてくれよ、でないと抑えきれないかもしれない。
「は、はんっ、そんなボロ棍棒一つ砕いたくらいで調子に乗ってんじゃ………!?」
言葉の途中で、口を開けたまま明後日の方向を見ながらチンピラたちの動きが止まった。
アカン
後ろから、とんでもない熱気と殺気と魔力が感じ取れる。
見るのが怖いけど一応後ろを振り向くと、さっきから静かに、かつ怒りを抑えていたアルマが、直径5m近い大火球を頭上に準備しているのが見えた。
待て待て待て! そんなもん町中でぶっ放したら火事じゃ済まないぞ!!
「……誰から消し炭になりたい?」
言ってることと威圧感がもう魔王のそれじゃねーか! 怖すぎるんだけど!
「ひ、ひぃぃっ!!?」
「ま、待ってくれぇっ!! 俺らが悪かった!! だからそいつをこっちに撃たないでくれぇっ!!」
大火球とアルマの怒りの形相に腰を抜かして、大慌てで謝罪してくるチンピラたち。
…うん、これは心折れるわ。誰だって降伏するわこんなん。
「アルマ、抑えて抑えて。反省してるみたいだし、ちょっと質問するだけで止めておこう」
「…ヒカルがそう言うなら」
すぐに大火球を消して平常モードに戻るアルマ。温度差がすごいな、色んな意味で。
「……さて、これが最後の対話の機会になりますが、よろしいですか?」
俺の言葉に、青い顔でヘドバンしながら肯定の意を示してくるチンピラたち。
まったく、余計なトラブル起こさないでほしいもんだ。
「この辺りで、大きな肉の看板を掲げている孤児院を探しているのですが、どこにあるか知りませんか?」
「こ、孤児院……? 肉の看板って、アレのことか…?」
チンピラが指差した方向を見てみると、薄暗い状態でも一発で分かるくらいドでかい骨付き肉が描かれた看板が見えた。
……あれか。なんで今まで見つけられなかったんだってくらいデカいなオイ。
っと、危ない。
「ぐああぁぁぁっ!?」
俺に右手首を握られて、激痛からかチンピラが叫び声を上げる。
掌から、串のような鉄製の針がポロリと落ちた。
…毒針か。しかも塗られてるのは致死性の毒じゃないか、怖いなー。
≪梶川光流の抵抗値ならば、この程度の毒は1分足らずで自然に解毒可能≫
あ、そっすか。
「駄目じゃないですか、人が遠くを見てる隙に不意打ちしようなんて」
「いででででっ! はっ、放せ!!」
「放せ? 分かりましたよっと!」
「う、うわぁぁぁあああ!!!」
放せと言われたので、気力で膂力を強化して思いっきり他のチンピラ共に向かって投げ飛ばしてやった。
投げ飛ばされた奴と、着弾地点にいたチンピラ共は全員気絶。死なない程度に手加減したけど、大して大きな怪我は無さそうだ。意外と頑丈だな。
残った他のチンピラは戦意喪失しているのが見て分かるくらいに狼狽した様子で、こちらを怯えたような目で見ている。
「ああ、すみません。ちょっと勢いつけ過ぎてしまいましたーゴメンナサーイ」
「めっちゃ白々しい言い方っすね…」
「不意打ちのためとはいえ、一応目的地を教えてくださったので、もうこちらからなにかするつもりはありません。ただ、これ以上ちょっかいを出してきたら…」
気力強化した脚力で、地面を思いっきり踏みつける。いわゆる震脚ってやつかな。
ズンッ、と辺りに地震さながらの震動が響き、伝わっていく。……ちょっと力籠め過ぎたかな。
「どうなるか、お分かりですね?」
そう言うと、残ったチンピラたちは全速力で逃げていった。
……うーん、ちょっと調子に乗り過ぎたなー。
なんか、半端に強くなって力で屈服させようとする傾向が強くなってきてる気がする。
でもあんな奴らに丁寧に丁寧に対応するのもアホらしいしなー。
「孤児院の場所は分かったし、早く行こうか」
「……あ、あんたホントに強いんだな。あっちの黒髪のねーちゃんも怒るとあんなに怖いのか…」
「怒った時のこの2人より怖い人って、そうそういないと思うんすよねー…」
若干引き気味に呟くラディア君とレイナ。
……言っとくが、俺はともかく本気で怒った時のアルマはあんなもんじゃないぞ。
「…あれくらいどうってことない。ヒカルが怒った時は、あれの軽く10倍は怖い…」
「…うん、おれ、絶対にあんたのこと言いふらしたりしないよ、ホントに」
白目を剥きながらこちらに言葉をかけてくるラディア君。なにその顔。
……さっさと孤児院に行くとしよう。これ以上のトラブルはごめんだ。
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