ガリガリガリガリ
新規のブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
今週、多分次の日曜まで更新は難しいかもしれません。
姿焼き展を出禁になってから、さらに食べ歩きを続けること1時間。
丸焼きは味付けがちょっと薄味だったけど、肉そのものの旨味が強かったのでついつい食べ過ぎてしまった。お店の店員さんマジすまぬ。
てか食べ歩いているうちに、いつの間にか正午になってるやん。
昼からは俺も屋台で売り物をしないといけないし、早く屋台に行って準備しないとな。
「ヒカル、私も手伝う」
「え、いいのか? 正直助かるけど、まだ祭りを楽しみたいんじゃ…」
「一人で食べ歩いても、美味しくないし楽しくない。ヒカルのお手伝いしてる方が楽しそう」
「そ、そうか。ありがとな」
ええ子や、この子ええ子すぎるやろ…。
カモフラージュのための出店の手伝いをさせてしまって申し訳ない反面、そう言ってくれる優しさに涙がちょちょ切れそうです。
まあ、そもそもお店の手伝いって言っても、精々お金を受け取って売り物を手渡したりするぐらいで充分なんだけど。
他の屋台の密集地帯からちょっと離れた場所で、ポツンと目立たない位置にある小さな屋台が俺の出店だ。
他の店の近くだと迷惑かけそうでなんとなく居心地悪そうだし、別に儲けることが目的じゃないから目立たない立地をチョイスした。
出店スペースの取り合いの際に、真っ先にこんな目立たないところを選んだのを見て、他の出店の人たちは怪訝そうな顔をしてたな。
変に目立つ場所を選んでもトラブルのもとになるだけだし、これでいい。
で、何を売るのかというと、日本の夏の祭りにおける定番『かき氷』である。
下手に肉料理とか出して、万が一食中毒とかになったりしたらえらいことになるしな。
かき氷なら生焼けで食中毒になることはまずないから、比較的安全だと判断したため採用した。
食べ過ぎて胃が冷えて腹を下す人はいるかもしれないが、2杯以上食べる場合は自己責任だと言っておけば問題ないだろう。多分。
かき氷の出店をするにも、準備の段階で結構面倒くさい手続きとかが必要だったりする。
氷の元になってる水は魔獣草原の岩場で湧いてる岩清水を汲んできて、シロップの香り付け用の果物も魔獣草原や商店で買ってきたりして、それらを鑑定士によって安全性を認められて、はじめて売り物の材料に使うことができる。
アイテム画面があるから材料の鮮度を楽に保つことができてるけど、他のお店は冷蔵庫や冷凍庫みたいな魔具を使って保存してるみたいだな。
料理を売ってお金を稼ぐのってこんなに大変なんだな……。普段、売ってる料理の値段を高い高いと言ってるけど、こんな苦労をしているならあのクッソ高い値段にも納得できるかもしれない。
かき氷はあらかじめ凍らせておいた岩清水を、魔力で作ったかき氷カッタードリルで削って、果汁で香り付けしたシロップに食紅で色付けしたものをかけて出来上がり。
食紅に該当する物がこっちの世界にもあるんだな。貴族様のお菓子の色付けにでも使われてるんだろうか?
種類は魔獣草原にちなんで緑色から赤色までの5種類で、緑、黄緑、黄、橙、赤といった具合だ。
ハワイアンブルー味が欲しいけど、あれってどんな香料使ってるんだろうな。ソーダ? ラムネ? …もうどんな味だったのかすらおぼろげだ。
かき氷って、香料と染料以外の成分はほぼ同じなんだっけ。『色』による味のイメージってやっぱ重要なんだなー。
メロンとイチゴに似た果物は、馬車に同乗してた商人のカナックマートさんに売ってもらった物を使用。
魔獣草原で採れる果物だけじゃ限界あるんで。
で、売り始めてから早くも1時間ほど経過したが、ほとんど売れない。
小サイズ350エン、大サイズ700エンで売ってるんだけど、やっぱ馴染みのないものだからみんな買うのを躊躇してるんだろうなー。
店の場所も目立たない場所にあるし、おまけに値段が他の店よりはるかに安いのが怪しさに拍車をかけてる。そりゃ売れんわな。
もっとも、少人数ながら買って食べてみた人の反応は結構好評みたいだが。
「ほとんど売れないな、まああんまりバカ売れしても大変だからこれぐらいの方がむしろ気楽でいいのかもしれないけど」
「…手伝うことがほとんどない」
「ごめんな、暇で。……そうだ、ちょっとアレンジしたやつを味見してみないか?」
「え、いいの?」
「いいのいいの。どうせほとんど誰もこないし」
早速味見用に2杯ほどかき氷を作ってみる。
魔力ドリルの要領で氷を削り、紙コップに満たしたものにイチゴ(ストロゥベリー)味のシロップをかけたものに、さらに砂糖入りの牛乳を追加。
練乳を買っておけばよかったなー、まあこれでも充分甘々だろうけど。……ちょっと糖分の摂り過ぎかもしれないけど、まあコーラとかに比べりゃまだマシだと思っておく。
じゃ、早速いただきます。
んー、うまい。普通にうまいわー。
「美味しい。今日は暑いから、その分さらに美味しく感じる」
「だな。他のお店で食べた後に、肉の脂なんかを洗い流すデザートにピッタリだと思うんだが、やっぱこんな場所でこんな見慣れないもんじゃ売れないのかねぇ?」
「このミルクを入れたピンク色のカキゴオリも出したら? 正直、一番美味しいかも」
「一応、アレンジ用の牛乳も許可申請通ってるけど、それだけで売れるもんかね? まあ試しに追加してみるか」
というわけで手書きで『トッピングにミルクあり 追加100エン』の表示を足しておく。
…まあこれだけで売れるわけないんだけども。
……お? こちらに人影が二人分近付いてきてる、お客さんかな。
「お疲れ様っすー、……ガラガラっすね」
「どうも。……コレ、なに売ってるんだ?」
なんだ、レイナとラディア君やないの。
デートは順調そうだな。レイナの手荷物がやたら多いのが気になるが、アレ全部食べ物なのかな?
「かき氷ですが、良かったら1杯どうですか? ほとんど売れないし、もうタダでもいいですよ」
「なんかもうヤケクソ気味になってないっすか? まあカキゴオリとか見たことも聞いたことないものをロクに宣伝しないで売ろうとしても無理があるっすよ」
「カキゴオリって、今二人が食べてるそれか? ピンク色の雪みたいだな」
「せっかくなんで二人分下さいっすー、自分は黄色のやつで」
「じゃ、おれは緑で」
髪の色で決めてないか君たち。
いや別にいいけどさ。
どうやって削ってるのか分からないように氷を箱の中に入れて、魔力操作で削る。
ガリガリと削られていく氷を不思議そうに見つめるレイナとラディア君。
「その箱、氷を削るための魔道具なのか? 変わったもの持ってるんだな」
「ええ。ちなみに中に手を突っ込んだりしたら二度とスプーンが握れなくなるくらい悲惨なことになるのでご注意を」
「あ、ああ。絶対に触らないよそんな怖えー箱…」
実際はタダのなんの変哲もない箱なんだけどね。
こう言っておけばカモフラージュには充分だろう。
で、盛り付けた氷にシロップをかけて、厚紙製のスプーンと一緒に手渡した。
早速かき氷を口に運ぶ二人。お味はいかがかな。
「シャクシャクで甘々で爽やかな酸味があって、すっごい冷たくて美味しいっす!」
「うめぇ……! なんでコレ売れてないんだってくらいうまいよコレ!」
好評なようでなにより。
二人ともちょっとリアクションがオーバーな気がするけど、気を使ってくれてるんだろうか。
「こんなに安くて美味しいのに、売れてないのがもったいないっすよ」
「目立たない場所だし、値段も安すぎてかえって怪しいし、そもそも売ってるものが得体がしれないからな。そりゃ売れんわ」
「いや原因分かってるなら改善した方が…」
「まあ他の屋台の料理を食べた後に、デザートとして食べに人がそのうち来るかもしれないし大丈夫大丈夫、多分。おそらく。きっと」
「とりあえず真面目に売る気がないのは分かったっす…」
半ば呆れ顔でツッコむ二人、でもかき氷を食べる手は止まらず。
「たのもー」
おっと、他のお客さんがきてたのか。
あまりにも客がこないから気付かなかった。…悲しい。
ってこの人は
「おや、ナイマさん。いらっしゃいませ」
「やっと今日のお仕事片付いたから、ちょっと寄ってみたけどなんか変なモノ売ってるわね。コレなに?」
「かき氷っていう、削って雪みたいな状態にした氷に果物風味のシロップをかけた、いわゆる氷菓ですね」
「なにそれおいしそう、ちょっと緑のを一杯お願い。ああ大きいサイズでね」
ナイマさんの髪の色的に、ハワイアンブルーがあったら是非提供したかったなー。
渡されたかき氷を一口食べると、ナイマさんが目を見開いた。
かと思ったら何も言わずに早足でどっかに向かっていってしまった。
「…口に合わなかったのかな、黙ってどっか行っちまった」
「ま、まぁ、好みは人それぞれだし仕方ないっすよ」
「いやでも、早歩きしながらも勢いよく食べてたしそんなに悪い反応じゃなさそうだったと思うけどな」
ちょっとブルーになりかかった俺に対して、レイナとラディア君がフォローを入れてくれた。
俺、人に気を使われてばっかだな、不甲斐ない。
とか思いながら若干凹んだのもつかの間。
ナイマさんが去ってから数十分後に人の波が俺の屋台に押し寄せてきた。
なんだ、なにが起きた!?
「おい、こっちに赤の牛乳入り大サイズを一杯!」
「俺は黄色の大サイズ!」
「アタシは黄緑の小サイズで」
「ヒカル! 次の急いで!」
「お、おう! てかなんだこのお客の入りは!?」
いつの間にか、アルマの手助けを借りてフル回転で回してもお客の注文をさばき切れないほどの行列が出来上がっていた。
おかしい、ほんの少し前までガラガラだったのにナイマさんがどっか行ってから急に―――
まさか
「ナイマちゃんが言ってた、クソうめぇ氷菓売ってる店ってのはここか?」
「こんな暑い日に氷菓を売るならもっと目立つとこで売ってくれよ、探すのも一苦労だ」
「うわ、うっま!? ナイマちゃんが言ってた通り、まるで甘い雪でも食ってるみたいだ!」
「おい、こっちの橙色の大サイズはまだか!?」
「はい、ただいま作ります!」
「なんだあの箱、中に入れた氷があっという間に雪状になってくぞ」
「変わった氷菓だけど、使う道具も相当珍しいな」
ナイマさん、ひょっとしてあまりに客が少ないウチの惨状を見かねて宣伝してくれたのか?
なんてこった、薬草鑑定で意地悪した俺なんかにこんな手助けをしてくれるとは。ありがとうごめんなさい。
……決して『薬草鑑定の仕返しにアイツの店を客でごった返しにしてやろう』とかそういう意図じゃないと思いたい。
てかホントに忙しいな! いったい何人並んでんだこれ!?
…その後、シロップの作り置きが空になるまで爆速で売れてしまい、次の日の屋台は材料の確保のためにお休みにすることになった。
クッソ疲れた。戦闘の疲れとはまた別種の疲れで、アルマもグッタリとした様子で座り込んでいる。
嬉しい反面、商売の大変さを改めて実感した。……明日はシロップ作りでしゃかりきだなこりゃ。
お読みいただきありがとうございます。
ちなみにナイマさん的に普通に美味しかったのを宣伝するのと、薬草鑑定の報復がそれぞれ半分ずつくらいの心情だったり。




