昼食、家族面談
アルマママってマが三つ並んでて文字を打ち込む時になんか違和感ある。
はい、こんにちは。お昼過ぎでとてもお腹が空いております。
で、現在四人分の昼食を作っている最中です。
慣れない手つきでニンニク(のような食材)と森生姜をみじん切りにして、すり鉢でペースト状にして、あらかじめ用意しておいたボウルに塩・醤油もどき・酒・砂糖(高かった)・胡椒(クソ高かった)と一緒に混ぜる。
その中に一口大に切った鶏肉っぽい魔獣肉を投入。よく揉んで蓋をして重しを乗せてしばらく置いておく。キッチン用のビニール袋が無いのが不便だ。
で、しばらく置いといたものがここにあります。料理番組みたいな演出ですね。実際は朝出る前に仕込んでおいたものですが。
調味料を切って、溶き卵につけてよく混ぜて、小麦粉をまぶして粉をよく落としておく。片栗粉があれば小麦粉に混ぜてたんだがなぁ。残念。
とか、ホントに料理番組みたいな脳内実況やってますが、そうでもしないと後ろの三人の目が気になって仕方がないのです。
何であんなにこっちをジッと見てるの? アルマが眺めてるのはいつものことだけど、親御さん方の視線がギラギラしてるんですけど…。
アルマママは一見ニッコリ優し気な笑みを浮かべているように見えるが、よく見ると調理の一挙一動に集中しているのが視線から分かる。
あまりに手つきが不器用だから怒ってるのかな…。これが姑に睨まれてる嫁の気分か。俺、嫁でも夫でもないけど。
アルマパパはこちらを穏やかな表情で、しかしどこかピリピリした雰囲気でこちらを眺めている。アレ絶対内心敵視してるよな。
宿に入る時も受付のおばちゃんが「あら、今日はアルマちゃんおぶられてないのね」なんて言うから危うく修羅場になるとこだった。
修業で魔力使い過ぎて背負ってただけだと説明しても「魔力切れで無防備になった娘に不埒なことしてないだろうね」とか凄まじい形相で詰め寄られて生きた心地がしなかった…。アルマとアルマママが止めてくれなきゃバッサリやられてたかも。
最近、死が前の世界に比べて常に間近にあるのを実感しております。命が軽い、軽すぎる。
……料理の脳内実況に戻ろう。
後は肉を揚げる油を熱するために着火をアルマにお願いしますか。
「アルマ、コンロの薪に着火を頼む」
「分かった」
今朝のようにコンロに火を点けてもらった時に、アルマママが口を開いた。
「あら? アルマちゃん今指輪着けてたかしら?」
「着けてないけど」
「ゆ、指輪を着けないで生活魔法って使えるものだったかしら…?」
「…ええと」
目敏いなこの人。よく気付いたもんだ。
アルマは魔力の直接操作について教えていいか、迷っているようだ。
「アルマ、教えても大丈夫だ。君のご両親だろう?」
正直、虐待とかしたり子供に無関心な親だったら絶対教えたくない技術だが、まあこの二人の娘への溺愛ぶりを見る限りまず大丈夫だろう。
他人に下手に魔力操作の情報を漏らして娘に迷惑かけたりしないようには注意するはずだ。
逆に「ウチの娘は凄いんですよ」とか周りに自慢して拡散しそうな気もするけど……あれ、結構やばい? 俺、早まった?
「ヒカルに教えてもらって、魔力を直接操作できるようになった。これぐらいなら指輪なしでもできる」
「魔力を直接操作…? そんなことできるスキルがあったかしら?」
「スキルじゃない。スキルに頼らず魔力そのものを操る技」
「スキルに頼らずって…」
「燃費はちょっと悪いけど、汎用性はスキルとは比べものにならないくらい広い。魔力が足りてればスキルなしで色んなことができる」
「す、すごいわ!やっぱりうちの子は天才だわー!!」
「声が大きい。ほかの客に迷惑だから静かに」
このオーバーなリアクションはこの人たちのデフォなのだろうか。
まあ、アルマが天才だっていうのは同意しておく。
魔力操作もコツを掴むまではONかOFF、ようするに全魔力を使い果たすまで放出するくらいしかできなかったが、昨日の訓練の際にようやくある程度手加減ができるようになったと思ったら、今日の朝には生活魔法の着火を自力で使えるくらい繊細な操作ができるようになった。
そしてその要領で魔法剣もどきを発動し、その直後スキルによる本当の魔法剣を習得。
さらにその魔法剣で格上の魔獣ホブゴブリンを倒し、ジョブチェンジ条件がクソ厳しいパラディンに転職。
今日だけでこんだけのステップアップを成し遂げるなんて、紛れもない天才だろう。
おっと、油の温度もそろそろいい具合に温まってきたみたいだし、肉を投入しますか。
一気に入れすぎると油の温度が下がってしまうから、5個くらいずつ入れる、と。
ジュァァァァァァァァ………!
油で肉を揚げている音が調理場に響いた途端、アルマママの視線が再びこちらにチェンジ。ガン見してるな、ちょっと怖い。
アルマも揚げ物料理はこの辺りじゃ珍しいのか、いつもより興味深そうにこちらを見ている気がする。
アルマパパは…なんかめっちゃビクッとしてた。まあいきなりこんな派手な音したらビックリするか。
で、1分ちょっと過ぎたら一旦取り出して、油切りのために金属製の網を乗せた容器に乗せて1分ちょっと余熱で肉に火を通して、軽く叩いて亀裂を入れて、再び油に投入してまた1分ちょっと揚げたら、再び油切りと余熱による火通しと叩いて亀裂を入れる作業。
最後にもう一回先程より高めの温度で30秒ちょっと揚げて取り出し、よく油切りをしたら完成。
和風骨なしフライドチキン、いわゆる唐揚げの出来上がりである。
…脳内料理実況してもやっぱり後ろの視線が気になるわー。さっさと残りの肉も揚げてしまおう。
晩御飯も唐揚げにするつもりだったから、肉の量は足りるだろう。…また夜に別のメニュー作るのか。面倒だ。
野菜炒めを付け合わせに添えて、加熱し直したアロライスを盛り付けて、唐揚げ定食4人前完成。
ちなみにアロライスの加熱は魔力を熱エネルギーに変えるイメージをしたら上手くいった。魔力操作万能すぎだろ。料理が捗るわー。
普段はそれぞれの部屋で食べてるが、今日は親御さん方がいるからキッチンの隣の部屋のテーブルで全員食べることにした。
「できました。冷めないうちにお召し上がり下さい。あ、お口に合われないようでしたら無理に食べなくても」
「「「いただきます」」」
「……いただきます」
三人の合唱がきれいにハモった。こういう時は親子の息が合うんだな。
ちょっと遅れて引き気味に俺も合唱、実食。
うむ、表面はサクッとしてて中の肉は程よくジューシー。出来立ての揚げ物は多少料理の腕が悪くても美味いなぁ。冷めたのもあれはあれで美味いと思うが。
三人の反応は、
アルマは黙々と食べてるが、唐揚げを齧るたびにパリパリ音が立つのが楽しいみたいで、心なしか表情が満足そうだ。
アルマママは唐揚げを食べると一瞬目を軽く見開き、その後は目を瞑りうんうんと頷き味わいながら咀嚼している。良かった、特に味に不満はなさそうだ。
アルマパパは…なんか凄まじい勢いで唐揚げと野菜炒めとアロライスを口に運んでいる。あれで味が分かるのかな?と思ったけど時々「くそぅ、美味い」とかボソッと聞こえたからまあいいか。
「「「ごちそうさまでした」」」
で、あっという間に全員完食。お粗末様でした。
「ヒカル君、さっき調理中にアルマちゃんに聞いたけど、貴方普段アルマちゃんの料理も作っているそうね?」
アルマママがいきなり声をかけてきた。
やべ、さっきみたいな単純なお手軽料理ばかり作っているのがばれてお怒りか!?
「毎日、こんなに手間がかかって美味しい料理を作っているの?」
「え、あ、はい。簡単な料理ばかりで申し訳ないですが、一応毎日私とアルマの料理を作っています。材料費は頂いてますが」
「毎日だとぅ!? それではまるで夫婦のようでは ブペバァッ!?」
「あなた、黙って」
「は、はい」
会話の途中に割り込んできたアルマパパを凄い速さで殴って諫めるアルマママ。これはどう見てもカカア天下ですね。
ニコニコしたまま殴ってるから余計怖い…。
「これからも、お願いできますか?」
「え、ええ、もちろん。そういう約束ですから」
「そう、ありがとうね」
そう言って、再び席に戻っていった。
な、なんだったんだ。
その後、いつものように流し台で食器を持って洗浄する。
その際に流水の魔法もアルマは指輪なしで使ってみせた。火以外の属性も問題なさそうだな。
とか思っていたら今度はアルマパパが口を開いた。
「本当に指輪なしで生活魔法を使っているようだな。ヒカル君、だったかな? 君がアルマにこの技術を?」
「はい。まあ、魔力操作を遊び半分で行っているところを見られまして、自分にも教えてほしいとアルマに言われて」
「遊び半分で魔法剣使ってたんだね…」
ちょっと呆れ顔でアルマが呟く。あの厨二ファイヤーソードはスキルの魔法剣と違って実用性はあまりないから遊び半分だって意味なんだが。
「魔法剣? なんのことだね?」
「剣に攻撃魔法を宿らせる技。ヒカルが魔力操作でそれを使ってるのを見て、私も使ってみたいと思って一週間くらい魔力操作を習ってた。それで、今日の朝ようやく私も魔法剣を使えるようになったと思ったら、急に魔法剣のスキルを取得できた」
「修業の末に新種のスキルを取得した、ということか!? それもたった一週間で!やっぱりうちのアルマは天才だぁぁぁ!!」
「声がうるさい。黙って」
「なんか母さんの時より言い方冷たくないか!?」
似たもの夫婦だなぁ。リアクションがそっくりだ。
いや二人そろって親バカなだけか。アルマが優秀なのは俺も同意するが。
「話を戻すが、ヒカル君、良かったら少し魔力の直接操作というものがどういったことができるのか見せてもらえないだろうか?」
急に神妙な顔でこちらに再度話を振ってきた。昼食前の敵意に満ちた表情ではなく、単純に興味深そうな顔だ。
「ええと、この場では狭いので、精々これくらいしか…」
そう言って、洗い流し終わった食器を魔力で覆い、固定。
覆った魔力を操作し、乾燥用のスペースまで次々と食器を宙に浮かべながら移動してみせた。
…我ながら地味だ。でもこの場であんまり派手にやらかすと迷惑かかるし。
ってあれ? アルマパパ口開けたまま固まってない?
地味すぎてリアクションに困っているのか。ああ、また何を言われるやら。
「あ、あの、大したことできなくてすみませ――」
「今のはなんだね!? まるで食器が自分の意志で飛んで移動したように見えたのだが!?」
「え、えーと、魔力を食器に纏わせて固定して、その魔力を操って動かしただけですけど」
「い、いったいどんな修業をしたらそんなことができるようになるのだ…?」
あれー? なんか予想外に反応が大きいな。こんな地味な技なのに。
「君、料理人のようだが、いったいどうやってこのような技を?」
「料理人じゃないです。鑑定師のフィルスダイム氏いわく、恥ずかしながら私は職業が判別できないらしく、スキルも一切取得できないみたいなんです。なので、生きていくためにスキルに頼らないで魔力を直接操作する技術を編み出しました」
「な、なに、料理人ではない? スキルも取得できない!? そんな人間がいるのか? で、ではさっきの料理はどうやって?」
「どうやっても何も、普通に作っただけですが」
そう言った直後、勝手にメニュー画面が目の前に表示された。
≪通常、料理人が取得している【料理】スキルは火加減、匙加減、食材の切り方、レシピなどをほぼ半自動でサポートするスキルであり、料理スキルもなしに先程のような料理を作るのはこの世界の人間にとっては至難≫
……あんな簡単な料理すらスキルがなくちゃ作れないのか。
それじゃあこの世界の料理人って、料理人がスキルを使って料理を作っているというより、料理人を使ってスキルが料理を作ってるようなもんじゃないか。
……地球側の料理人が見たらどんな反応をするやら。
「お父さん、それくらいでいちいち驚いてたら身が持たない。今日の昼前なんて、ヒカル、空をすごいスピードで飛んでた」
「空を飛んでたぁ!?」
アルマ、いらんこと言わんでくれ! ますます話がややこしくなるだろ!
「スキルが一切使えないけれど、何とか自分にもできることがないかと、魔力を使って色々試していたらそんな大道芸みたいなことばっかり習得してしまいましてね。ははは」
とりあえず笑って誤魔化そう。もう上手い言い訳なんか思いつかねぇわこんなん!
「まあ、何をやっても駄目でも、何もやらないよりはましかなーと、色々試しているところです」
「……そう、か。君も君なりに苦労してきたのだね。スキルも無しに、よく頑張ってきたのだな。うぅっ……」
あ、あれ? なんでパパさん泣いとるの?
何故か同情されているようだ。意外と人の苦労話とかに弱いのかな。
こっちは半分楽しみながらやってるんだが。
「あ、でもアルマとの交際とかは認めんぞ。それとこれとは話が別だ」
「アッハイ」
急にキリッとした顔でオチをつけるアルマパパ。
だからアルマとはそんなんじゃないって。
お読み頂きありがとうございます。
新規のブックマーク、評価も頂きありがとうございます。
こんな拙い小説でよければ今後もお読み頂けたら幸いです。




