気力なし もてなし 是非もなし
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コワマスへの報告も済んで、すぐに宿へ直行。
ウチの子たちもお腹を空かせてるだろうし、お客さんを待たせるわけにもいかない。早く帰らないと。
狩猟祭の結果は明日発表される予定らしい。
それと同時に狩猟祭で狩った魔獣の肉を使った屋台なんかがギルドの周りに並ぶ予定になっている。
肉を熟成させたりしないのかと思ったけど、食品を短時間で熟成したり逆に腐りにくいように加工したりできる職業の人もいるらしいので、問題なく美味しい肉を使うことができるらしい。
港町だと魚介類が豊富なイメージがあるけど、魔獣草原のおかげで肉類もかなり種類が多いから料理人には垂涎ものの町だな。もちろん俺みたいな食いしん坊にとってもだが。
ちなみに俺も午後だけ数日間屋台を出す予定だったりする。
狩猟祭にスタッフとして参加していたことを、参加者なんかに勘付かれないようにするためのアピールのためだ。
こういった祭りに出店側として参加するのはそれなりの準備が必要だし、そのことを考えれば出店をしてる人間が前日に魔獣草原で狩りに参加したりするのは考えにくいからな。
…まあ俺が肉料理なんか出しても、他の店の料理がある限り大して売れないだろうからちょっとしたデザートくらいしか売る気はないけど。
あくまでカモフラージュのためだから売れなくても問題ないけど、まったく売れないとそれはそれで悲しいしなー…。
さーて、ようやく宿に戻れたしさっさとキッチンに向かって調理を始めますか。
…既に食堂のテーブルで腹を空かせた子たちがスタンバイしてるしな。
って緑髪少年、テーブルに突っ伏してるけどなにが……ってスタミナが0になってる! まずい、早くなにか食べさせないと死ぬぞアレ!
急いでアイテム画面からスタミナ補給用に作っておいた焼肉とレタスモドキ入りサンドイッチを取り出して、テーブルに運んだ。
「おかえり、ヒカル。……ラディアが、急にテーブルに顔を押し付けたまま動かなくなった」
「ラ、ラディア君、大丈夫ですか?」
「だ、大丈、夫……腹が、減り過ぎて、死にそうな、だけ、だから……」
「いやどう見ても大丈夫じゃないっすよ! 顔が土気色になってるじゃないっすか!」
レイナの言う通り、ほとんど半死人の顔である。
まるで薬草鑑定を終えたばかりのネイアさんやナイマさんみたいだぁ……。
「料理ができあがるまで、これでも食べていてください。スタミナが尽きると生命力が徐々に減っていって、最悪命に関わりますよ?」
「あ、ああ………あ、りがと、う……」
空腹で死にそうな顔をしながら、力なくサンドイッチを掴み齧りつく緑髪少年ことラディア君。
食べ始めはまるでじいさんのようにゆっくりゆっくり咀嚼していたが、一口目を飲み込んだあたりから食べるペースが急激に加速していった。
次々とサンドイッチを頬張り、乗せていた皿のスペースがみるみる空いていく。
お、おう。腹減ってるのは分かるがそんなに急いで食うと喉に詰まらせるぞ。もっとよく噛んで食べなよ。
しっかし、スタミナが0になるとあんなに無気力になるもんなんだな。…あのまま放っておいたらホントに死んでたんだろうか。
≪体内脂肪を始めとした体内の貯蔵エネルギーにまだ余裕があるので、時間が経てばそれらを消費してスタミナを徐々に回復していたと推測。ただしさらに長期間なにも食べずにいた場合、貯蔵エネルギーが底を尽き餓死していた危険性大≫
狩猟祭ではりきり過ぎてこんな腹ペコ状態になったのか、それとも常に腹を空かせてるのがこの子のデフォなのか。
…今日は栄養がしっかりとれるメニューにしよう。
「う、うまかったー……生き返ったよぉ……!」
とか考えてるうちに、気がついたらあっという間に皿が空になっていた。もう全部食ったのか。
結構な量があったと思うんだけど、今日の晩御飯入るのかな?
「あ、ご、ごめん! 腹が減り過ぎておれ一人で全部食っちまった!」
「大丈夫、晩御飯はこれからだから」
「え? で、でも、これ以上奢ってもらうのは悪い気が…」
グウゥ… と少年の腹から空腹を告げる音が鳴った。
…まだ余裕で食べられそうですね。状態も空腹(大)とか表示されてるし。
「……あ、い、今のは、その…」
「あんだけ食べてまだお腹減ってるんすか……」
「あはは、なるべく早く作るから待っていてください」
「遠慮しなくていい。レイナを助けてもらったお礼だから、好きなだけ食べていって」
「…すんません」
顔を赤くしながら恥ずかしそうに俯くラディア少年。
今日はお腹いっぱい食べな。……おかんか俺は。
『ピピィ、ピィ…』
なにか訴えるように、こちらを向きながら鳴き声を上げるヒヨコ。
お前も腹が減ってるみたいだな、しばし待たれい。
さーて栄養のあるものって言ってもなー、なににしようか。
ラディア君の栄養状態をメニューに教えてもらったところ、どうも熱の通った野菜とかが足りてないっぽい。
でも、もてなすのにあんまりベジタブルベジタブルしててもなんか残念だろうしなー。
あ、そうだ。アレならあんま野菜っぽくないし、栄養もしっかり摂れるんじゃね?
そうと決まれば早速調理にとりかかりますか。
まずやたらデカくて重いトマト(ヘヴィトマトというらしい)をカットし、さらに魔力操作でミキサーのように回転する刃を作り、ドロドロになるまで細かく刻む。
周りの目があるから、鍋の中に入れて目立たないようにしてから魔力の遠隔操作で刻んでいるので怪しまれたりはしない…と思う。
熱したフライパンに植物油をひき、みじん切りにしたニンニクモドキを入れて炒めて、さっきのドロドロにしたトマトとコンソメモドキを入れて混ぜて塩コショウと砂糖を入れて味を調え、最後にバターを加えて溶かしてソースの完成。
次はロックオニオン、なんか顔っぽい模様があるピーマン(ジャックピーマン)とレッドキャロットはみじん切りに、トライホーンラビットのモモ肉は賽の目切りにする。
キノコがあれば一緒に入れてたんだが、ちょうど良さそうなのが売ってなかった。ちょっとコクが不足しそうだなー……。
モモ肉から炒めて、火が通ったらみじん切りにした野菜を投入しさらに炒め、塩コショウとコンソメモドキ、そしてケチャップを加える。
マヨネーズが売ってたからもしかしたらと思ったが、ケチャップも普通に売ってた。過去の勇者が伝えたのかな? GJ。
……過去の勇者たちも、食に対する執念は相当なものだったみたいだな。日本人が伝えたっぽいレシピがあんまり見当たらないのが引っかかるけど。
具材にケチャップが馴染んだら、アロライスを投入。
始めから炊いてある店売りのものじゃなくて、土鍋で自分で炊こうとしたらちょっと固く炊けてしまったものをアイテム画面に放置していたんだが、こっちの方がむしろパラっとした食感になりそうだし好都合かもな。
あ、ちょっとケチャップ少なすぎたかな。追加で投入ー。全体的に赤くケチャップが馴染んだらチキンライスもといウサギライス完成。
……これ味大丈夫かな、ちょっと味見。
うむ、イケるな。良かった。………ん?
『ピッ! ピピッ!』
足元でヒヨコがウロチョロしながら鳴きわめいている。コラコラ、衛生上問題あるから調理場まで入ってくるな。
え、空腹がそろそろ限界? 俺ばっか食っててズルい?
しょうがないな、小皿にちょっと分けてやるから適当につまみ食いしとけ。
『ピピィッ♪』
凄まじく速く小さなクチバシでウサギライスを食いまくるヒヨコ。こいつの能力値でどうやってあんな動きができるんだろうか…。
…あれ? そういやなんでコイツの言いたいことがなんとなく分かるんだ?
これもメニューの翻訳機能の影響かな。言葉は分からないのにフィーリングは伝わる不思議。
さて、いよいよメインの工程だ。
…正直言って、成功率は低い。これまでの料理はレシピを参考にすれば誰でも作れるようなものばかりだったが、こればっかりはどうしてもセンスが求められる。
失敗したら一気に見栄えが悪くなるんだよなー……お客をもてなすのになんでこんな難しい料理作ろうと思ったんだろ俺。
是非も無し、最悪失敗しても味はそれほど悪くはならないし、ビビらず挑戦しますか。
お読みいただきありがとうございます。
調理の途中で中途半端ですが、一旦区切らせていただきます。
魔族並みにタチ悪い退屈ドラゴンたちですが、彼らも魔族からすれば殺すべき対象なので対策を練る必要があるようで。
主人公も、仲間を危険に晒されたことに対して心の奥底で静かに怒りを燃やしながら、いつか必ず文句言って報いを受けさせてやるわチクショウメーとか思ってます。




