尋問もとい報告
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「……それは、本当か」
「…はい。近くを通り過ぎただけなのに、息をすることさえまともにできなくなるほど恐ろしい存在感でした。直前まで戦っていたAランクの魔獣が可愛く思えましたよ」
「ふむ……」
ただ今コワマスから尋問、もといコワマスへ報告中。
赤色エリアから強力な魔獣が5体同時にエリア越えしてきたこと、ほぼ掃討完了した時点でブラックドラゴンが急に現れたことなど、こちらから新規の情報が入るたびになにか考え込んでいる。
俺にはなにを考えているのか窺い知ることはできない。だってなんか質問することすら怖いもん…。
「通り過ぎたブラックドラゴンは、テイムされていました。飼い主は【超獣使い】の『ラーナイア・ソウマ』」
「ソウマだと!?」
初めて、驚いた表情を見せながらコワマスが立ち上がり声を上げた。
その迫力で腰が抜けそうになったけど、辛うじて留まった。怖ひ。
「は、はい。……おまけに、その飼い主のテイムレベルは9で、私が見た時点で使役中の魔獣の数は4体。つまり、魔獣を使役できる数に5体分ほど空きがあったということです」
「そして、狩猟祭の終盤に赤色のエリアを越えてきた魔獣の数も5体。……そいつが、赤色エリアでテイムした魔獣を橙色エリアまで移動させた後にテイムを解除したと考えるのが自然だな」
俺の推測と同意見か。まあ誰でもそう思うわな。
…ただ、『誰がどうやってやった』とかよりも、問題は『なぜやった』のかの方だ。
悪戯にしちゃ度が過ぎている。下手したら死人が出てたところだ。
アルマも、俺があと少し遅かったらどうなっていたか。
……そう考えると、改めて怒りが湧いてくる。
「……ほう、そんな顔もできるのか」
「…え?」
「目つきだけで、誰か殺せそうなくらい凄んだ顔をしていたぞ。鏡を見せてやりたかった」
いや、そりゃアンタの方でしょ。平時の表情でもめっちゃ怖いやん。
あ、スンマセンなにも失礼なことなんか考えていませんからジト目でこっち見るのやめてくださいマジゴメンナサイ。
「ところで、ラーナイア・ソウマについてなにか御存じで?」
「御存じも何も、隣の大陸にある『フィリエ王国』の国王直属の近衛兵の長だ。ブラックドラゴンを従えているから、ソウマ個人の有する戦力だけで一国の軍事力並の力があるという話だとか」
…大げさに聞こえなくもないけど、あのドラゴンを見た後じゃ納得せざるを得ない。
あんなもん、並の人間が何千人立ち向かったところで戦いにすらならないだろう。下手したらSPを補給するための餌にしかならん。
「その近衛兵長様が、隣の大陸の狩猟祭に乱入してきてこんな乱痴気騒ぎを起こした理由はなんなんでしょうね」
「………おそらく、『品定め』だろうな」
「品定め?」
「赤色エリアで狩りを進めていた者たちは、みな有名なパーティばかりでその実力は広く知れ渡っているからわざわざ調べなくても情報はいくらでも出てくる。橙色エリアで狩りを進めていた者たちはその一歩手前の実力者たちと言えるな。そういった、将来強力な戦力になりそうな者たちがどれほどいるのかを確認するためだったんじゃないだろうか」
「ええ?」
「ソウマは、戦闘狂じみた自分のドラゴンを満足させられる相手を見つけるのに日々胃を痛めているという話でな。最近では、将来ドラゴンの相手になりそうな者をチェックしておくのに余念がないのだとか」
…意外と苦労してるんだなそいつ。
でもそれに付き合わされる方はたまったもんじゃないぞ。
「テイムを解除した魔獣相手に、どれほど戦える者がいるか観察していた可能性が高い。お前やアルマティナの戦いぶりも見られていたかもしれんな」
「…最初っから、赤色エリアのパーティに喧嘩を売れば済む話では?」
「さすがにおおっぴらに冒険者ギルド相手に喧嘩を売るような真似は避けたいのだろう。いくらブラックドラゴンが強力だと言っても、それを当たり前のように狩れる人間がいるにはいるしな」
「…アルマの御両親?」
「それは極端な例だな。あのコンビ相手にやり合える相手など、世界中探しても両手の指で数えられるほどしかいないだろう。というか、ブラックドラゴンは一度だけそのコンビに喧嘩を売ったことがあるそうだぞ」
「ええ!? 大丈夫だったんですか!?」
「……心配してるのはそのコンビか? それともドラゴンの方か?」
「え、えーと……」
自分で言っておいてなんだけど、どっちを心配するべきなんだろうね。どちらも規格外すぎて分からん。
「…結果はドラゴンの方が一方的にボコボコにされたそうだ。ドラゴンレベルの者が喧嘩売ってきた以上、殺されても文句は言えなかっただろうが、ドラゴンが死んでその周辺国の軍事力のパワーバランスが崩れるのもまずいからあえて仕留めなかったらしい」
「ひえぇ……」
アルマの御両親強すぎィ!
あんな奴を一方的にボコボコにするとかどんな強さだよ!? アレは人の手に負えるようなもんじゃないだろうに!
……なんか、ドラゴン狩りのコツを教えてもらっても、そもそも地力に差があり過ぎるから参考にならない気がしてきた…。
「そんなことがあって、痛い目見てしばらくおとなしくしていたと思っていたのだが、少し前からまた悪い虫が騒ぎ出したようでな。各地に急に現れては今回のように品定めをしたり、場合によっては喧嘩を売ってきたりしているようだ」
「はた迷惑な……。今回も、下手したら死人が出ていましたよ。被害にあった人たちから抗議の声が上がったりはしないのですか?」
「文句を言おうにも、明確な証拠を残さないようにしているようでな。今回の場合も、魔獣をテイムしているところやそれを解除した瞬間を誰かが確認していたわけじゃないし。誰かに喧嘩を売る場合も口止めをしたり、場合によっては消し炭にして証拠隠滅しているらしい」
「普通に人を殺してるんですね…」
「ただ、そのドラゴンに殺されたと思われる者たちは、実力はあっても普段の行動に著しく問題があったり、首に賞金をかけられてる犯罪者だったり、正直言ってむしろいなくなった方が為になるような連中ばかりだったがな」
「そうですか、でも今回は普通に優秀な冒険者のパーティが命の危険に晒されていましたけどね。……正直言って許しがたいです」
『天への階梯』だっけ? あのパーティは4人とも強くて素晴らしい連携を見せていた。
もしも彼らがあの白金ニワトリにやられていたら、ギルドとしても大きな損失だっただろうに。
そして、俺はともかくアルマも。俺が応援要請なんか出さなきゃ危険に晒すこともなかっただろうけど……。
いや、あれは一人で危険に向かって突っ走らないでもっと仲間を頼ろうとした結果だから、その判断が間違っていたわけじゃないとは思うが。
「一応、苦情は出しておくつもりだが、あまり芳しい結果は期待するな。なにせ証拠がないし、あくまで状況からの推理に過ぎないのだから。…それにドラゴンを使役している相手にそれほど大きく出られないしな。下手に逆鱗に触れようものならさらに面倒事を呼び寄せる結果になりかねん」
「……はい」
全然スッキリしないが、とりあえず返事だけ返しておく。
不満だらけの胸中を察してか、コワマスが少し厳しめの視線を送りながら口を開いた。
「どうしても、納得しかねるというのなら、手段はあるにはあるぞ」
「…はい?」
「お前やその仲間があのドラゴンより強くなって、その不満を思いっきりぶつけてやればいい」
いやいやいや、簡単に言ってくれますけど口で言うほど容易なことじゃないでしょうに。
とか思ってたらコワマスの目つきの鋭さがいや増した。
「無茶だと思うか? 無理だと思うか? そうだな、ブラックドラゴンのような圧倒的強者に立ち向かえるほどの実力など、身に着けようと思っても至難を極めるだろう。なら弱者は弱者らしく涙を呑んで不満を飲み込んでおけ。中身がないのに不満ばかり漏らすような奴にはなるな。そんなものはあの青いのと大差ないぞ?」
…まさか自分があの青いのに言い放った説教と同じようなことを言われるハメになるとはな。
しかも俺と違って、ちゃんと中身のある人間からの言葉だ。重みがまるで違う。
その分、心に深く刺さる。その分、こみ上げてくるモノもある。
「……あのドラゴンが近くを通り過ぎた後、『本当に怖かった』って内心怯えまくってました」
「だろうな。…私も、近くにいたら震えあがっていたかもしれん」
「そして、空腹だったせいか『ドラゴンの肉って美味いんだろうか』とか思ってしまいました」
そう言った直後、コワマスが噴き出した。
見られたくないのか、笑いを堪えるように顔を逸らして体を震わせている。あ、耳ちょっと赤くなってる。
この人こんな笑い方もできるのか。…ちょっと可愛いとか血迷ったことを考えそうになった。
「まあ不満云々はあるにはありますが、それより当面の目標として『ドラゴンを仕留めて食ってみたい』と思うようになりましたので、ブラックドラゴンに挑むにしてもそれくらい強くなってからにしときます」
「く、くくくっ……そ、そうか、まあ、お前がそういう気なら止めはせん、困難な目標だろうがせいぜい頑張るといい…」
目に涙を浮かべながら静かに笑うコワマス。気のせいかいつもより表情が柔らかい気がしないでもない。
多分無理だろうけど頑張れとか思われてそうだな。いつかドラゴンステーキを御馳走してやるから見てろ。
…ああ、そろそろ空腹が限界だ。話は済んだし早く宿に戻ろう。
お読みいただきありがとうございます。
緑髪少年の今後についてはまた次回以降のお話にて書かせていただきます。




