帰る途中に
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「あ、おかえりっすー!」
魔獣草原の前にある注意書き看板の前まで戻ると、レイナが待っているのが見えた。
…あちこち血と見られる汚れがついてるけど、大きな怪我は特にしてなさそうだ。
と、その隣には
「…え? レイナって、あの黒髪のネーちゃんとパーティ組んでるのか?」
「そうっすよー、で、隣にいるのがリーダーのカジカワさんっす」
短剣使いの緑髪少年こと、ラディアスタの姿が見えた。
ふむ、エリア越え魔獣に襲われて、危ないところを助けられてから仲良くなったパターンかなこれは。
「初めまして、パーティ『希望の明日』のリーダーを務めている梶川光流と申します。よろしく」
「…前に、ダイジェルのスタンピードの時に一緒に戦ってるのを見たことあるけど、一応、初めまして。名前はアルマティナ、よろしく」
「あ、ああ、覚えていてくれたのか。あの時はウェアウルフに捕まってたのを助けてくれてありがとな。……おれは、ラディアスタ。気軽にラディアって呼んでくれよ、よろしくな」
とりあえず自己紹介。挨拶は大事、古事記にもそう書かれて……書かれてるのかな? 読んだことないから分からん。
「レイナのお友達?」
「はいっす。黄色のエリアから魔獣が侵入してきて、危ないところをラディアさんに助けられたんすよ」
「…ウェアウルフ並みに強い相手とやり合うのは正直肝が冷えたけどな。不意打ちが上手くいってよかったよホント…」
「ラディアさんすごいんすよ、魔獣に魔刃で短剣を突き刺したあと、そのまま伸魔刃を使って一気に魔獣の身体を貫いたりしてたっす!」
「短剣はリーチが短いから、相手によっちゃ急所まで届かないことがあるからな。でも伸魔刃じゃ攻撃力が足りなくて、Lv20台の魔獣相手じゃ傷つけるのさえ難しいし、なんなりと工夫しないと」
へえぇ、そんな発想もあるのか。
…その戦法を極めれば、武器が軽い分普通の剣士以上の攻撃力を身に着けられるかもな。
あれ、短剣使い普通に強くね? それかこの子の戦い方が優れているからそう見えるだけか?
「レイナを助けてくれたんですね、本当にありがとう」
「い、いやそんな大したことはしてないよ。…それに、レイナならあの影の中に入るスキル技能でなんとか切り抜けられたんじゃないのか?」
「いやー、あれだけ強い魔獣相手じゃ逃げるのも難しそうだったし、本当に助かったっすよー」
「レイナもこう言ってますし、君にはお礼をしなければいけませんね。……そうだ、今日の夕食、よければ一緒にどうですか?」
「え? い、いいのか? でも…」
「もちろん。ああ、それじゃ安すぎますかね? となると他に何か…」
「いや、夕食だけでいいから! 是非ごちそうになりまっす!」
夕食への誘いに乗るべきか悩みそうになってる少年に、さらなる報酬をちらつかせて夕食への同伴に踏み切らせた。
状態を見る限りじゃ、もう飢餓状態寸前まできてるのに遠慮なんかしなくていいのに。
ちなみに、さっきから少年に対して敬語で喋っているのは『飛行士』との接点を疑われないようにするためであって、決してなにか嫌味をこめたりしてるわけじゃないのであしからず。
そう、決して娘に彼氏ができた親父の気持ちなんか理解しそうになってなんかない。ホントに。ホントだってば。
『ピィ』
「ところで、カジカワさんの肩に乗ってるそのヒヨコはなんなんすか?」
「今日の晩御飯」
『ピピッ!?』
「ヒカル!」
「ごめんなさい冗談です謝りますから背中をつねるのをやめてください。…魔獣草原で拾ってきたんだ。一羽だけじゃ生きていけそうにないから、飼うことにした。レイナ、鳥が苦手だったりするのか?」
「全然そんなことないっすよー。ふわぁ、可愛いっすー……」
『ピッ』
恍惚とした表情をしながら、指でヒヨコの喉をさするレイナ。
ヒヨコも気持ちよさそうに目を細めている。
…そういえばこいつ、なにを食わせればいいんだ? 魔獣の雛が食うもんなんか知らないぞ?
≪魔獣の幼体の消化器官は非常に頑強で、大抵の有機物なら問題なく摂取可能。ヒトと同じ食事を与えておけば問題はないと推測。ただし、与える餌の量には注意が必要≫
あー、食べ過ぎると体に負担がかかってよくなさそうだもんな。
金魚とかエサのやり過ぎですぐに死んだりするらしいし。
≪否、魔獣は早急な成長をして生存確率を高めるためか消化吸収のスピードが極めて早く、餌の量が少なすぎるとすぐに餓死する危険性がある。現状の段階ではヒトと同じほどの量が一食分として望ましい≫
えええ、いやいやこんな掌に乗るようなサイズのどこにそんな量が入るんだよ。
ファンタジー生物は質量保存の法則すら無視するのか。……気力の空きがあれば何人前も入る俺が言えた義理じゃないけど。
大食い大会の時にも何十皿も平らげてたっけ。あの時にもらった景品のフライパン、テフロン加工のものよりさらに焦げ付きにくくて使いやすいんだよなー。卵料理とか作る時に重宝するわー。
「戻ったか、カジカワ」
!?
「その様子だと、どうやら怪我などはしていないようで何よりだ。無事で安心したぞ」
声がした方を向くと、いつの間にやらコワマスがいた。
急に後ろから話しかけられて心臓飛び出るかと思った……。
「コ……ギルドマスター、お疲れ様です」
「こ? …何を言いかけたのか知らんが、そちらも随分疲れているようだな。なにかあったのか?」
「……少し、報告させていただきたいことがあるのですが」
ただ、他の人に話を聞かれるとメニューのこととかがバレる危険性があるので、今すぐは話しづらい。
そのことを察してか、顎に人差し指と親指を当てて下を向くコワマス。
「ふむ、………すまんが、少しカジカワを借りるぞ」
「先に宿に戻っていてくれ。大丈夫、晩御飯を作るのが遅くなったりはしないから」
「え? そ、そうっすか……?」
「……なんかあったのか?」
「ちょっとね。……まあ大したことじゃないんですが」
「行こう、レイナ。ラディアも」
「あ、ああ……」
コワマスに連れられていく時点で、大したことじゃないなんていうのは嘘に決まってるけどな。
アルマが催促してくれて、スムーズに三人から離れることができた。グッジョブアルマ。
人通りの少ない道の外れまでコワマスと二人で足を進めて、その辺の岩に腰掛けてようやく話せる状況になった。
…なんでだろう、美人の女性と二人きりなのに全然ときめかない。別の理由で緊張して心拍数が高くなってきそうだけど。
「…さて、話を聞こうか」
「…はい」
これから始まるのはただの報告だよね? 尋問じゃないよね?
なんでこんな迫力満点なのこの人。もう怖い。早く帰って晩御飯作りたい……。
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