狩猟祭終了 通り過ぎる翼あるもの
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とりあえず、アルマと合流する前にあったことをかいつまんで説明。
白金ニワトリとの死闘の際、頭を貫かれた件について責められるかと内心身構えていたけど、アルマも似たような状況だったからか少し顔をしかめられる程度で済んだ。
ヒヨコの可愛さに気が紛れてくれたおかげでもあるかもしれない。現に今も指でつついたりして興味津々の様子だし。グッジョブヒヨコ。
エリア越えした5体の魔獣のうち、白金ニワトリと金銀オオカミの3体は俺たちが仕留めたから残り2体ほどが橙色エリアに残っている。
幻惑の仮面が破壊されたからこれ以上飛行士として活動するのは難しいし、どうしようかなー。
とか思っていたが、高レベルのスタッフたちや参加者たちが総出で対処しているようで、この調子なら大丈夫そうだし残りの魔獣に関しては俺たちが向かう必要はなさそうだ。
やっと狩猟祭も終わりが見えてきたかな。
「あと2体ばかし残ってるみたいだが、他のスタッフや参加者の人たちが頑張ってくれてるみたいで特に問題なさそうだ」
「よかった。……他になにか怪しそうなものは?」
「怪しそうなもの?」
「…魔獣がエリアを越えるのは最近じゃ割とよくあることらしいし、私も何度も見てきた。けど、5匹ものまったく違う種類の魔獣が同じタイミングでエリアを越えてくるのは少し不自然な気がする。…さっき倒したオオカミは、2匹セットの固有魔獣だったから一緒に行動していてもおかしくないけど、他の魔獣はどう?」
「んー……マップ画面によると、角ウサギの上位種とサイクロンウィングみたいだ。確かにこいつらが協力してるトコなんか見たことないな」
これらの魔獣がエリアを越えるタイミングがかぶることは絶対にないとは言い切れないけど、何者かによって人為的にエリア越えが引き起こされたと考える方が自然な気がする。
もしもそうなら、誰がなんのために?
…犯人が魔族なら、ある程度強い参加者を事故に見せかけて殺害しようとしたとしても分からなくはないけど、魔族の手口にしちゃちょっとやり方が地味というかせこい気がする。
ヴィンフィートの時みたいに古代兵器引っ張り出してくるのは結構極端なケースらしいが、それにしてもちょっと規模が小さいというかショボいというか。
そもそも魔族の反応なんか周辺に感じられないし、マップの範囲内にもそんな表示はない。赤色エリアにいるのなら話は別だが。
「人為的に誰かがやったことだとしても、証拠になりそうなものは特に見当たらなかったし、現状じゃ判断できないな」
「……なんだか、不気味」
「だな。誰がどうやって、なんのためにやったのか分からないのがなんか気持ち悪い」
『ピッ』
「……今回の件のせいでコイツの面倒見るハメになっちまったしな」
今はまだ小さいし可愛いもんだが、成長していくにつれどんどんデカくなっていくしなぁ。
普通のニワトリ程度の大きさならともかく、進化してあの金色ニワトリみたいになったら寝る場所にも困りそうだ。
まあデカくなっても捨てるつもりはないが。…ペットが大きくなったからといって捨てる人間の神経が分からん。
…ん?
え、なに これ
≪警告:ただちに伏せて、息を潜めて気配を殺してやり過ごすことを推奨≫
……!!
「アルマ! 今すぐ伏せて! 動いちゃダメだ!!」
「…!!」
アルマも気配を感じとったのか、俺に言われるまま伏せて息を殺して微動だにしないようにしている。
俺も同じく伏せて動きを止めて呼吸を止める。
ヒヨコも本能的に危険を悟ったのか、俺の懐に入り込んできた。下手に動き回られたらこちらに関心を抱かれる危険があるし、そうしてもらえると助かる。
メニューが警告を出し、魔力感知を使うまでもなく俺とアルマが危険を感じとれるほどの存在感。
ヴィンフィートの暴食スライムをも超える圧倒的な魔力と生命力。こんなもの相手に戦えるわけない。見つかったらおしまいだ。
その気配の主が、空を飛んで、上空を飛んでいるのが分かる。
目で見るまでもなく、風を切る音を聞くまでもなく分かる。
顔を上げて見てみたい気持ちがわずかにこみ上げてきたが、それよりもはるかに強い恐怖心が湧き上がってきて身体を動かすのを許してくれない。
バサバサと翼を動かす音すら怖い。
早く、早く速くはやくハヤク、どこか、遠くへ、行ってくれ………!!
恐怖に震えることすらできず、ガチガチに硬直していた身体に熱が戻り始めてきた。
気配の主は、既に目の届くところにはいない。なんとかやり過ごせたようだ。
気配を感じとってから、どれだけ経っただろうか。
…多分、時間にして1分も経っていないだろう。体感時間は軽く1時間くらいに感じられたが。
それほどまでに移動速度が速く、またそれほどまでに強力な存在感。
いままで何度か死の恐怖を感じたことはあったが、今の気配が近くを通ったことに比べたらまるでちっぽけなことに思える。
もうその気配が近くにいないことを確認すると、俺もアルマも脱力しきって崩れ落ちてしまった。
おっとと、懐にヒヨコがいたんだった、危うく潰すとこだった。
「………今のは、なんだったの………」
アルマが顔を青くしながら震える声で呟いた。
こっちが聞きたい。なんか翼を羽ばたかせる音が聞こえたけど、アレ、もしかして
≪【竜種】『ブラックドラゴン』と判定≫
アレが、ドラゴンか……!
ファンタジー作品じゃだいたい最強の生物として扱われてるけど、実際その存在感を感じとってみると笑えるくらいヤバい代物やないの。
チート? バグ? そんなもんじゃない。ありゃ最初っから強者として創られたもんだと思う。
もしも見つかっていたら、どうなっていたか。飛んで逃げようにも、あんな速さから逃げられる気がしない。
あるいは、見つかっていたけど取るに足らない虫けらみたいなもんと思われて見逃されたか。…あんなもん相手じゃ悔しいとすら思えん。
てか、どっから湧いたんだよ。あんなのが接近してきてたら、100km離れたところからでもたぶん分かるんじゃないか。現に今も滅茶苦茶離れたところにいるはずのドラゴンの気配がまだ感じ取れるし。
≪ブラックドラゴンの飼い主のテイムスキル技能【眷属召喚】により、遠方より召喚された模様≫
へぇ、テイムスキルって、飼ってる相手を自分の近くまでワープできるのかー、便利だn
…はい? テイム? なにを? 飼い主って、えええええ?
≪先ほどのブラックドラゴンは、その背に乗っていた【超獣使い】『ラーナイア・ソウマ』によってテイムされている模様≫
……嘘やろ、あんなもんをテイムできるもんなの?
飼い主になる前に餌になりそうなんですが。
≪過去の勇者がテイムしたブラックドラゴンを、テイム技能Lv10【飼権譲渡】により何代にも渡って受け継いでいる模様。【飼権譲渡】は自分がテイムしている対象を他の魔獣使い系列の相手に引き継ぐ技能≫
…ちなみにドラゴンの寿命はどんくらい?
≪個体差はあるが、平均で数千年単位≫
平均の数値がざっくりしすぎててよく分からんなそれ。
……メニューさん、魔獣使いって複数の魔獣をテイムすることってできる?
≪スキルレベルの数値分使役できる。先ほどのドラゴンの飼い主はテイムスキルLv9なので、9体までテイム可能。≫
使役してる魔獣なんかのテイムを自分から解除して、捨てたりすることはできる?
≪可能≫
……ドラゴンの背に乗っていた魔獣使い、いや超獣使い? そいつの使役してる魔獣の数とか分かる?
≪ドラゴンとともに梶川光流の近くを飛んでいた時点で、4体≫
つまり、5体分の空きがあったわけか。
……十中八九、今回の5体同時エリア越え騒ぎの犯人そいつじゃねーか。
あとでコワマスにチクっておこう、震えて眠れ。
「……さっきの、どうやらドラゴンらしい」
「あれが、ドラゴン? 初めて見た…………昔、お母さんとお父さんがよく狩っていたって言ってたから、そんなに強いイメージじゃなかったけど、あんなにすごい生き物なんだ……」
空を見上げながら、アルマが感慨深げに、かつ恐怖の混じった声で呟く。
そういえば、ダイジェルのギルマスがあのお二人はドラゴン狩りとかやってたって言ってたっけ。
あれをよく狩ってたとかあのお二人の規格外振りがよく分かる、……いや、やっぱ分からん。想像できんぐらいヤバいのは分かるがよく分からん。
「……ドラゴンの気配を感じとった時、戦おうなんて少しも考えられなかった。ただ、早くどこか遠くへ行ってほしいって頭の中で何度も思うばかりだった…」
「俺もだよ。マジ怖いわアレ、シャレにならん…」
『ピッ…』
ヒヨコも産まれて初めての恐怖があんなのじゃ、今後恐怖心が麻痺しそうで不安だ。
「…狩猟祭も、もう終わりか。そろそろ町に戻ろうか」
「……うん」
「んー、それにしても……」
「どうしたの?」
「いや、ドラゴンの肉って美味いんだろうか」
「……あんなのを見たあとでそんなこと考えるヒカルは、やっぱりある意味すごいと思う……」
呆れ顔でこちらを見ながら苦笑いするアルマ。
いや、だってドラゴンの肉なんてロマンの塊じゃん。いつか絶対食ってやる。
そのためにも、強くなったらドラゴン狩りのコツとかアルマの御両親に伝授してもらおうかな。
ああ、肉のこと考えてたらものすごく腹が減ってきた……。
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