狩猟祭⑩ 鏡映しの固有魔獣
さーて、拘束したこの金色をどうしようかな。
…いたずらに生き物をいたぶる趣味はないけど、アルマを傷つけられたことに自分でも驚くほどに怒りを感じている。
でもこの状態でチクチク攻撃したりするのはなんか違うんだよなー、どうしようかなー。
『ク、クゥーン、クゥーン……!』
そんな悲し気な声出しても容赦しません。
お前だって追い詰めた獲物が命乞いしても見逃したりしないだろうが、甘えんな。
…いやまあ、騎士道精神溢れる魔獣とかいたら見逃す場合もあるかもしれないけど。
世界中くまなく探したら見つかるかもな。そうだ、お前、ちょっと探してみるか?
オオカミの周りを覆っている魔力を遠隔操作し、上昇させる。
『グアァッ!?』
急に上に向かって運ばれて、困惑したように鳴き声を上げる金色。
このまま地面に突き落としても仕留められそうだが、そんなあっさり終わらせるつもりはない。
遠隔操作で、まるで独楽のようにオオカミの身体を高速で回転させる!
『ググッグググググガガガガガガガアアアアアア!!?』
これなら360度くまなく世界を見られるだろ? 頑張って騎士道精神溢れる魔獣でも探してろ。
独楽っていうよりブーメランみたいになってるな、なにあれとってもシュール。
『アアアアアアアアアアアアア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ッッ!!!』
涎と涙を撒き散らしながら白目を剥いて絶叫を上げるオオカミ。
もっと凛々しい表情だったら某絶・天狼なんとかみたいに見えたかもな。
「さて、ひとまず金色の方は無力化できたかな」
「……すごい苦しそうな悲鳴を上げてるけど……」
「気にするな、今は残ってる銀色を仕留めることを考えよう」
『ギョエァアアアアアアアアッ!!!』
「……気になる………」
ドン引きしながら、バターになりかかってる金色を見上げるアルマ。
うるさいかもしれないけど、銀色に集中しないといけないのはホントだからね?
『グ、グルルル………!』
若干怯みながらも、こちらを睨みながら唸る銀色オオカミ。
『なんとか相方を助けないと』という意志と『下手したら自分もああなるのか…』という恐怖心による葛藤が見てとれるようだ。
相手が俺たちじゃなかったら思わず応援してあげたくなるような様子だな。でも敵同士なんでそうはいきません。
……念のため、もっかいステータスを確認しておくか。
魔獣:★鏡映しの銀狼
Lv46
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :821/867
MP(魔力) :299/551
SP(スタミナ):250/577
STR(筋力) :712
ATK(攻撃力):712
DEF(防御力):601
AGI(素早さ):736
INT(知能) :411
DEX(器用さ):501
PER(感知) :579
RES(抵抗値):301
LUK(幸運値):99
【スキル】
魔獣Lv5 体術Lv9 爪術Lv10 鋭爪術Lv3 牙術Lv7
【マスタースキル】
リベンジ・クロー
【ユニークスキル】
トレース・トランス
【称号】
格上殺し 一蓮托生 魔獣キラー 固有魔獣 スキルマスター
【キルログ】(本日のみ)
シルバーコッコ×2
メドゥリザード・ラージ
メニュー機能のアップデートにより、称号とキルログの確認ができるようになった。
これだけだと鑑定スキルと大して変わらないんだが、もひとつなかなかチートな機能が追加されていたりする。でも今は省略。
勇者もおんなじ機能使えるんだよな、こんなチートな機能使えるなら大抵の魔獣なら楽に勝てそうだな。
まあ、俺やアルマもそうだが一人だけでできることなんかたかがしれてるけどな。
…勇者は、誰か仲間を得ることができてるだろうか。
おっと、それより銀色オオカミのステの方だが、こいつと金色は2頭セットの固有魔獣みたいだな。名前の横に★付いてるし。
やっぱ爪術スキルが強みみたいで、派生スキルの鋭爪術とマスタースキルのリベンジクローを取得している。HPが減ってきたら特に爪の攻撃に気を付けないと。
金色の方は牙術と爪術のレベルがそのまま入れ替わったようなスキル構成だった。
そういえば固有魔獣になるための条件ってなんなんだろうな。
≪特定のスキル及び称号を取得しているか、特定の魔獣を一定数以上撃破しているか、成長している間の環境はどのようなものだったのかなど、固有魔獣への進化の条件は様々≫
ふむふむ、なるほど。
こいつらの場合、『一蓮托生』って称号あたりが条件の要っぽいかな。
≪ちなみに固有魔獣の素材は成長する装備品の素材になり得るので、損傷をできる限り抑えて討伐するのが望ましい。この2体の場合は毛皮と牙と爪が装備品の素材になる。ただし、余裕がない場合は安全性の高い手段で仕留めることを推奨≫
まあ命あっての物種だしな、無理は禁物。
で、こいつの身体で装備品の素材になる部分を、なるべく損傷させないように仕留めるのは別に無理なことじゃない。
かなりえげつない方法になるけどな、許せ。
「アルマ、ちょっといいか?」
「なに?」
「こいつら固有魔獣みたいで、こいつらの素材は成長する装備品の材料になるみたいで、なるべく傷つけずに仕留めたいんだ」
「……手加減して、戦える相手じゃないと思うけど」
「ああ、だから手加減も容赦もしない。かなり酷い方法になるけど安全にかつ確実に仕留められる方法でやろうと思う」
そう言って仕留める方法を伝えると、ちょっと引きつつも了解してくれた。
『グルァッ!!』
作戦を伝え終わった直後、銀狼が吠えて魔爪・遠当てをこちらに放ってきた。
俺とアルマは左右に分かれて回避し、そのまま二人同時に銀狼に接近。
近接戦闘は避けたいようで、クイックステップを使って銀狼が距離をとる。
遅い。素早さ特化のうえに縮地すら使っていた白金ニワトリに比べたら断然遅い。
すぐに追いつき、二人で左右から挟みこむように同時に攻撃を仕掛けた。
俺は気力操作で強化した膂力で、アルマは【暴風剣】で。
手数も質もこちらが上。アルマの攻撃を迎撃するので手一杯の銀狼は、対処しきれず俺に身体を拘束されるカタチになった。
気力込みの魔力操作でガチガチに固めてあるからもう逃げられない。詰みです。
え? なんでニワトリ戦で使い切ったはずの気力が回復してるかって?
その理由こそがメニューの新機能、『魔力と気力の相互変換』。
その名の通り、魔力を気力に、気力を魔力に任意で変換することができるようになる、という機能だ。
……こんな機能があったら、もう魔力と気力のゲージを分ける必要ないんじゃないかって思うかもしれないが、変換する際に半分ほどは変換ロスとして消えてしまう。
つまり、魔力を100ほど消費して気力を回復しようとしても50しか回復しないということだ。逆も然り。
だがそのロスによる損を考えてもかなり有用な機能だ。…おかげで気力を回復するのに何人前も飯を食う必要がなくなったしな。
さて、そろそろトドメといきますか。
「アルマ、どうぞ」
「う、うん。………なんか、ごめんね」
『グ、グルァッ!? グガゴバゴボァ……!!』
拘束してる銀狼の頭を、【大海原乃剣】によって作られた水が覆う。
そんなことをすれば呼吸ができなくなって、窒息するだろう。
損傷を抑えつつ仕留めるには外傷がつく攻撃は避けるべきだと思ってこんな方法にしたけど、やっぱ酷いな……。
あ、死んだ。合掌。
あらら、上で回ってた金色も回り過ぎて脳の血管が切れて死んだっぽい。
…地獄を味わえとか言ってた俺が言えた義理じゃないけど、ちょっと可哀想だったかな。
「うん、傷もないし綺麗な状態だ。これなら上質な装備が作れそうだな」
「……そのかわり、随分と苦しませちゃったけど…」
うん、正直スマンかった。
『ピッ、ピッ』
「……ところで、そのヒヨコについてそろそろ話してもらえると嬉しい」
「あー、こいつね……」
よくよく考えたらアルマとレイナに許可もらわないで飼うのはまずいよな。
どちらかが鳥嫌いとかだったらどうしよう、帰してきなさいとか言われないかな。
…なんで年長者の俺が『ペット飼ってもいーい?』なんて言わにゃならんのか。こういうのは一番小さい子が言いだすもんだろうに…。
お読みいただきありがとうございます。




