狩猟祭⑨ 単騎は危険 短気も危険
新規の評価、ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
今回はアルマ視点です。
……多分、私は知らず知らずのうちに自惚れてたんだ。
魔力操作や気力操作でスキルをアレンジして使えるようになって、レベルに見合わない強力な技を使えるようになって、ジョブチェンジをして一人前になったと思い込んで、つい魔がさしたんだろう。
Aランクのオオカミが2頭いる時点で、逃げるべきだったのに。なんでまとめて相手なんかしようとしたのか、我ながら本当に馬鹿なことをしたと思う。
「アルマ、酷い怪我じゃないか……!」
「…ごめん、思ったより強くて……」
「いいから、すぐに治すから見せてみろ」
心配そうな顔でヒカルがそう言って、オオカミの牙に抉られた肩に手を当てると痛みがどんどんひいていくのが分かる。
かじかんだ手を暖炉で温めるような、優しい感覚。痛みが消えると、最初から怪我なんかしてなかったように傷が綺麗に消えた。
並のポーションや回復魔法じゃこうはいかない。……スキルが使えないのにどれだけ芸達者なんだろうか。
「……ありがとう」
「……アルマ、協力要請を出した俺が言えたことじゃないかもしれないが、無理だけは絶対によせって言っただろう…」
「……ごめん、なさい…ちょっと強くなったからって、油断してた……」
…それもあるけど、ヒカルに力を貸してくれって言われて、やっと私を頼ってくれたと思って、舞い上がっていた。
その結果が、この有様。これじゃあ、ヒカルが無理して突っ走るのも当たり前だ。
……私は、ただの、足手まとい…
「…まあ、俺もこいつの親に仮面ごと頭を貫かれたりして、危うく死ぬとこだったから人のこと言えないけどな」
『ピッ?』
「……え?」
いま、サラッととんでもないこと言わなかった?
というか、そのヒヨコはなんなの?
「アルマも俺も、一人で無茶するとロクなことにならないのがよくわかった。だから、どう見てもヤバい奴相手には極力連携しながら戦うようにしよう。一人で無理そうなら迷わず逃げていいから」
「………うん」
…やめた、ウジウジ落ち込んでても仕方ない。
今回の結果が駄目だったなら、その反省を次に活かせばいい。
気持ちを切り替えていかないと、本当に足手まといになる。
今、なにをするべきかだけを考えよう。
『ピッ!』
「……ところで、そのヒヨコは?」
「……あとで説明する。それよりこのオオカミたちを仕留めないと」
引き攣った苦笑いを浮かべるヒカル。…どんな経緯でヒヨコなんか連れていくことになったんだろうか。
『ガグァァァァアアアッ!!』
『オオオォォォォォォオオンッ!!』
…っ!
また、さっきみたいに遠距離近距離に分かれて攻撃してくるつもりだ。
迫ってきてるのは、金色。牙術が得意……いや、さっきみたいに姿だけで中身は爪術が得意な銀色かもしれな――
「ふーん、こいつは牙術が得意で、後ろの奴は爪術が得意なんだな。およ? なんだこのトレース・トランスって………ユニークスキル? 初めて見る分類だな」
「ヒカル、どっちがどっちか分かるの?」
「ああ、どうもこいつら互いの姿に擬態する固有スキルを持ってるみたいで、しかも変身中は自分のスキルに加えて相手のスキルも使いこなせるらしい。変身してる間は牙術も爪術も両方とも得意だと思っていい」
「……ようするに、下手に見分けようとしないで牙術も爪術も両方とも常に警戒しなきゃダメってこと?」
「まあな、ただ変身中は魔力が少しずつ減っていくみたいだから、変身しっぱなしってわけにはいかないみたいだが」
コロコロと姿を変えていたのは、相手をかく乱するためだけじゃなくて魔力を節約するためでもあったみたいだ。
その策にはまって肩を抉られた自分を不甲斐なく思う。もっと冷静によく観察していれば、結果は違ったかもしれないのに。
「ま、アルマがいれば常に変身していようが関係ないけどな。アルマ、ちょっといいか?」
「う、うん」
「精霊魔法を使って俺とアルマの周りの地面だけをできる限り高く盛り上がらせてくれないか?」
「…分かった。でも、魔力が残り少ないからどこまで高くできるか…」
「俺が補給するから大丈夫だ。というわけで精霊たち、ファイトー」
〈まためんどくさそうなしじだしやがって〉
〈あなほりのつぎはやまづくりかよ、しんどいわー〉
〈こら、むだぐちたたいてるとまたきょうはくされるぞ! はやくしろ!〉
「……なんか社畜を無理やり働かせてるブラック企業の上司みたいな気分だ」
愚痴を漏らす精霊たちの言葉に苦笑いを浮かべながらヒカルが呟く。
しゃちく? ブラックきぎょうってなに?
ヒカルは時々変なことを口にするけど、イマイチ意味が分からない言葉ばかりだ。
こないだ『ウスイホンってなに?』って聞いても目を逸らしながら『知らなくていい…』って気まずそうに言うだけだったし、今回も多分ロクでもない言葉だと思う。
……ヒカルのいた『ニホン』って、どんな世界なんだろうか。どうにも想像しづらい。
精霊たちが恨めし気に悲鳴を上げながらも手早く地面を隆起させていき、私とヒカルの周囲の地面が10メートルくらいまで盛り上がった。
『ガアアアアアッ!!』
接近してきた金色のオオカミが、構わず駆け上がってくる。
銀色の方は、遠距離から魔爪や魔牙の遠当てをこちらに放ってきてる。
地形が変わっても、オオカミたちはまるでぶれずに連携しながら攻撃を仕掛けてくる。
「アルマ、遠距離攻撃の防御頼む」
「うん」
言われるままに【大海原乃剣】で魔法剣の水を操り、飛んでくる魔力の斬撃を防いでいく。
大海原の剣は攻撃範囲は広いけど、攻撃力と速度はさほど高くない。
強力な相手と白兵戦をするには暴風剣くらいの速さがないと対応しきれない。
だから、駆け上がってくる金色オオカミには私は対処できない。
『グルァッ!!』
エアステップを使って、一気にこっちに向かって突進してくる金色オオカミ。
【轟突進】も併用して使っているらしく、とんでもない速さだ。
「はい、バカ一名ご案内」
『グウァッ……!!?』
「少しは考えてから動けばよかっただろうに、短気な奴だなー」
そのオオカミの動きが、空中で急速に減速していき、止まった。
空中に止まったまま、混乱した様子で手足をバタつかせている。
ヒカルが、分厚く魔力のクッションの壁を展開して、オオカミの身体を受け止めてそのまま包み込んだみたい。
……こんな技まで使えるようになってたんだ。
「エアステップを一回使ったら、どこかに着地するまで再使用は不可能だ。つまり、お前はもうどうすることもできない」
『ガアァァッ!! ……グッ! グルァアッ……!!?』
「手足や牙を動かして遠当てを撃とうとしても無駄だ。お前の能力値はこいつの親より弱いし、拘束を維持するのはさほど難しくない」
『ピピッ』
…ヒカルの肩に乗ってるヒヨコの親って、どんな怪物だったんだろう。
「…お前も、悪意があってアルマを傷つけたわけじゃないのは分かってる。生きるためには、食わなきゃ死ぬのは当たり前だしな」
穏やかな表情を浮かべながら、優しくオオカミに語り掛けるヒカル。
…でも、額に青筋がたってるし、怒気と殺意が隠しきれてない。普通に怒りをあらわにするよりずっと怖い。
「でもそれとこれとは話が別だ。さて、お仕置き開始だ、せいぜい長く地獄を味わえ」
『キ、キャイン! キャインッ!!』
あまりの迫力に悲鳴を上げながら、絶望した表情を浮かべる金色オオカミ。
……なんだろう、肩を抉られた恨みとかより、憐れみの方が強く感じる……。
お読みいただきありがとうございます。




