狩猟祭⑧ 死せるニワトリ 生ける飛行士を走らす
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あれから数分後。
アイアンコッコとシルバーコッコは女性陣の手によって殲滅。女は強し。
ヒューイットが必死に守ってくれていたらしく、二人には傷一つない。ヒューイットはボロボロだが。……マジお疲れ。
ゴールデンコッコはリーダーことグレッグナーと互角の勝負を繰り広げていたが、途中でグレッグナーの魔力とスタミナが切れてピンチに。
プラチナムコッコを倒してレベルが上がったので、魔力が全快した俺が横から入って首を刎ねてどうにかゴールデンも討伐。
……なんであんなにデカいのにプラチナムコッコより攻撃が軽いんだろうね。
首なんか俺の太ももくらいあるのに、プラチナムコッコの方がずっと硬く感じた。
この辺りのエリア越え魔獣の討伐はなんとか完了した。
が、問題はここからだ。
まず、幻惑の仮面が割れてしまって、このパーティに正体がバレてしまった。
「……飛行士の正体、あの黒髪外道コンビの男の方だったのか」
俺の顔を見たリーダーが呟く。
いや黒髪外道コンビってなに!?
アレか、まだレイナを無理やり討伐に連れてって金を巻き上げてる外道だって誤解が解けてないのか?
「ちょっとリーダー、あの噂って誤解らしいわよ?」
「助けてくれた人にその言い方はどうかと思うよー?」
「つーかあんだけ強けりゃ自分でBランクくらいの魔獣でも軽く2、3匹仕留めれば楽に稼げるだろうし、あの金髪の子に無理させてたのは金儲けのためじゃないってのはホントだと思うぞ?」
そしてなぜか他3人がフォローしてくれた。
一見、恩を仇で返すまいとこちらに気を使っているように見えるが、よく見るとちょっと怯えたような顔をしてこちらをチラ見してる。
プラチナムコッコやゴールデンコッコの首を素手で刎ねたのが怖かったのかなー……。
「すまん、つい口が滑って失礼なこと言っちまった。アンタらの噂がでっちあげだってのは知ってるよ」
「いえ、気にしてませんので。………それより、どうか飛行士の中身が私だということは内密に…」
「分かってる分かってる、自由自在に空を飛べるうえにAランクの魔獣を単騎で倒せる実力を持ってるなんてことがバレたら、誰に目をつけられるか分かったもんじゃねぇしな」
「たとえば欲深の貴族に『私のモノになれー』とか言われたりー」
「空を飛べるスキルの習得方法教えろとか色んな人に迫られそうだな」
「最悪、王立研究所あたりのモルモットにされるかも」
嫌すぎる! 怖すぎる! 絶対正体ばらすなよ! マジで!
「まあなんだ、アンタのおかげでどうにか無事に狩猟祭から帰ることができそうだ」
「飛行士さんが来てくれなかったら、あのニワトリに全員やられてただろうねー……」
「改めて、本当にありがとうな。助かったぜ」
「いえ、これも仕事のうちですので」
飛行士の正体に関しては、この様子ならとりあえずは大丈夫かな。
『ピピッ』
……さて、もう一つの問題の方はどうしようかな。
「……ところで、さっきから気になってたんだがアンタの肩に乗ってるそのヒヨコはいったい……」
「……プラチナムコッコを倒したあと、死体から卵が出てきたかと思ったら即座に孵化してしまいまして、ずっと私についてくるんです…」
「もしかして、初めに見たあなたのことを親だと思ってるのかしら…」
「すりこみってやつか、ホントにこんなことあるんだな」
『ピッ』
「か、可愛い…」
そう、あの白金ニワトリの形見の卵から産まれたこいつをどうするべきか、正直すごく困っています。
どれだけ離れてもテトテト歩いてついてくるし、このままだと情が湧いてきてしまいそうだ。
……もうこの場にほっといたらダメかな。
≪餌を捕食できず餓死、あるいは他の魔獣の餌になる可能性が極めて高――≫
分かった! 俺が悪かった! 育児放棄なんかしないから!
ちくしょう、ある意味白金ニワトリのどんな攻撃よりも厄介だ。
切り札と奥の手を攻略したら、死後の最後っ屁に泣かされることになったでござる。どうしてこうなった。
『ピ?』
こっち見んな、首傾げながらこっち見んな。ちくしょうカワイイ。
……でもこいつも一応魔獣なんだよな。町に連れ帰って飼うのは難しいかな…?
≪従魔の首輪を取り付け、ギルドに従魔登録の申請をすれば問題なく育成可能と推測≫
そうか、………仕方ない、こうなったらペット代わりに育てるとしますか。
そうなるとまずはトイレから覚えさせないとなー、フン公害の原因になったりでもしたらまずいし。
おっと、いかん。他のエリア越え魔獣の対処もしないといけなかった。
こっからだとアルマのいるところが一番近いかな。まずはそこから応援に向かいますか。
って今気付いたけど、どうやら2体同時に相手してるみたいだ。急がないと!
「すみません、そろそろ行かないと。他の場所にも強力な魔獣が侵入しているようなので」
「そうか、気をつけてな!」
「無理はすんなよ!」
「ヒヨコちゃんも元気でねー」
「ち、ちょっと! ニワトリの素材はいらないの!?」
「プラチナムだけで充分です!」
素材は惜しいが、回収してる時間の方が惜しい。
あんな強力な魔獣2体相手にどれだけもつか分からない、どうか無事でいてくれよ!
「行くぞ!」
『ピッ!』
……念のため、ヒヨコの周りに魔力を纏わせて保護しておくか。
無防備な状態で、下手に高速で飛び回ったりしたらそれだけでショック死しそうだし。
~~~~~アルマ視点~~~~~
目の前には、2頭のオオカミ。
片方は銀色の毛並に銀色の瞳、そして銀色の鋭い爪が光っている。
もう片方は金色の毛並に金色の瞳、そして金色の刺々しくも綺麗な金色の牙が煌めいている。
そのどちらも油断できる相手じゃない。明らかに黄色エリアにいた群れのボスより格上だ。
その見た目の通り、銀色は爪術に、金色は牙術に長けている。
……だけど、その分かりやすい特徴を見て対策を練るのはかえって危険。
なぜなら、こいつらは瞬きほどの間に互いが互いの姿に変身するからだ。
今、この瞬間も本当はどちらが金色でどちらが銀色か、分かっていない。
片方が近距離の白兵戦をしつつ、もう片方が遠距離から援護をするので、とても戦いづらい。
動きもかなり素早く、【暴風剣】を使わないと対処しきれないから【大海原乃剣】が使えない。
攻撃魔法も遠距離攻撃の防御に使わないと防ぎきれず、時間が経つにつれ魔力を消費するばかりのジリ貧。
このままじゃ、まずい。
精霊魔法で落とし穴を掘って、片方だけでも落とそうとしたけど地面を沈下させた直後にエアステップで脱出された。
感知能力がある程度高い相手だと精霊たちの動きがなんとなく読めるのか、的確に対処してきて有効打にならない。
……一人じゃ、勝てない。
『グルァァァアアアッ!!』
「っ!」
まずい、余計なこと考えてるうちにまた入れ替わってる、いや変身しただけで変わっていない? こいつはどっちだろう。
牙か、爪か。
爪を振りかぶっているから………
いや、牙だ! 爪よりも先に、牙から魔力の刃が伸びて、こちらの身体に……!
肩に。激痛。
多分、深く抉られてる。血が噴き出てるのが見なくても分かる。
自分の体温と同じ液体が服を濡らしていってるのが分かる。
しかも、追撃の牙を今にも突きたてようとしている。
狙いは、わた し の アタ マ ?
避 け む り
死
「なにしてんだゴルァァァアアア!!!」
『ギャアアィインッッ!!?』
ゆっくりと、私の頭を貫こうとしている牙を、どこか他人事のようにぼんやりと眺めながら、死を待つばかりの私の目に入ってきたのは。
仮面を着けず、怒りをあらわにした表情を見せながらオオカミを蹴り飛ばすヒカルと、
『ピピッ!』
……その肩に乗った、小さく黄色いナニカ。
………ヒヨコ? なぜに、ヒヨコ?
お読みいただきありがとうございます。
柚子胡椒の胡椒って唐辛子なのね……。いただいたコメントを見て初めて知りましたとも。
調味料のことすらまともに知らない無知を小説の中で晒していくスタイル。恥ずか死しそう。
ちなみにコショウ入りイノシシ肉団子は地区の文化祭で振る舞われたものを参考にしてます。
柚子皮の刻んだやつと本当に合っていたように感じたけど、あのマリアージュはプラシーボ効果のたまものだった……?
9/10修正:後の話と矛盾する描写があったので、削除しました。




