狩猟祭⑦ 死闘の果てに
新規の評価、ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
お読みくださっている方々に感謝します。
『コケッ!?』
アイテム画面から取り出したものを見て警戒したのか、一旦距離をとるニワトリ。
距離と速さからしてクイックステップか。もうポンポンと縮地を使えるほどスタミナが残っていないようだな、気功纏も使ってないし。
取り出したのは、一組の鋼鉄製の籠手。
ワキワキと指を動かし、ひとりでに動く様はまるで籠手自体が生きているかのようだ。
まあタネ明かしをすると単に魔力の遠隔操作で動かしてるだけなんだけどね。
しかも拡散を防ぐために生命力を接続してはいるけど、気力は一切籠めていないから距離が空けば出力と精度が落ちるし、近くでも俺と同じくらいの力しか発揮できないっていう。
だが、無いよりはましだ。ほんのささいな小細工だが、無いよりはましだ。大事なことなので2回(ry
さて、今度はこっちからいくぞ! 縮地モドキで接近!
『コケェッ!』
再び火力特化パイルをブチ当てようとする俺を、伸魔爪で迎え撃とうとする白金ニワトリ。
しかもクイックステップを使って間合いを調節して、こちらの攻撃が届かず自分の攻撃が当たる絶妙な距離を維持している。マジで戦い慣れてるなこのニワトリ。
ギィンッ と金属音が響く。
俺の操作している籠手が伸魔爪による攻撃を受け止めて防いだ。
そしてそのままこちらに引き寄せようとしたが、咄嗟に伸魔爪を解除し逃げられた、いや自分から蹴爪を振るいながら接近してきた!
蹴爪が当たる前に【魁追魔爪】によって作られた魔力の刃が俺の胸めがけて迫ってきたが、二つの籠手を盾にして防ぐ。
しかし
ガシャッ グシャッ と鈍い音を立てて、鋼鉄製の籠手が二つともひしゃげ、砕ける。
魁追魔爪の盾にした籠手を、【衝魔爪】の追撃により破壊されたようだ。
鋭爪術は爪術と併用できるのか。派生スキルとはいえ別のスキル扱いだから当然といえば当然か。
『コッコケェ!!』
とった、とでも言っているかのように鳴き声を上げ、籠手を失い無防備になった俺に向けて跳びながら全力で伸魔爪を振るうニワトリ。
もう蹴爪を防ぐ籠手はない、回避は不可能。今度こそ当たる!
とでも思ったのか?
『!?』
振るわれた蹴爪が俺に当たる寸前で止まった。
蹴爪だけじゃない。跳びあがったニワトリの身体そのものが宙に浮かび、止まっている。
かかったな。
火力特化パイルの起爆準備は既に完了済み。
なにがなんだか分からない、といった様子で困惑しているニワトリに向けて、パイルの杭を向け起爆っ!
爆音とともに、ニワトリの身体が数十メートルほど吹っ飛んだ。
ニワトリの片脚が千切れ、血が噴き出ている。
あちこち打撲傷を負っていて、クチバシからも血が滴り落ちている、見ているだけで痛々しい。
しかし、致命傷には至っていない。原形をとどめているし、なにより目が死んでいない。
…あの状況で、咄嗟に折れた方の脚で衝魔爪を使って盾にするとはな。
ニワトリの身体が空中で不自然に止まっていたのは、単に硬化した魔力を遠隔操作してニワトリの身体を固定していただけだ。
ニワトリにしちゃかなり重いが、それでも人に比べたら大分軽いから宙に止めておくのは容易だった。
地に足がついている状態だったら、地面を蹴った勢いで楽に拘束を解けただろうが、飛び上がってなにも蹴るものがない状態ならどうすることもできなかったようだ。
エアステップを使えば脱出できたかもしれないが、咄嗟にそこまで頭が回らなかったみたいだな。
不可視の魔力の遠隔操作ができるのにわざわざ籠手を操っていたのは、目に見える盾となる道具を操りあえて破壊させることで『盾は壊した、今のコイツは無防備だ』と思わせて大振りの攻撃を誘発するためだ。
跳び上がるまでしてくれなくても、とにかく強めの攻撃をしてくれればその軌道を読んで拘束できる。小ぶりな牽制なんかじゃ小回りが利いて軌道が読みづらいけど。
片脚をもがれ、内臓がいくつか損傷して血反吐を吐きながらも、なおこちらを睨みつけてくる。
まだやる気かよ、逃げるつもりならもう追わないのに。
だが、やるというなら容赦はしない。きっちりトドメを刺すまで油断もしない。
ゆっくりとニワトリに向けて歩を進めながら、こちらも睨み返す。いつ向こうから攻めてきてもいいように。
…なにが悲しくてニワトリと仏頂面でにらめっこせにゃならんのか…。
あと10歩ほどで互いの間合い。
いや、あいつには魔爪・遠当てがあるからいつでも攻撃できるはずだが、撃ってこない。片足では上手く撃てないんだろうか。
あと9歩。
次の脚を踏み出したあたりでメニューがひとりでに開いた。
≪警告:プラチナムコッコの取得しているマスタースキル【リベンジ・クロ―】の効果により、HPが減少した数値分爪術および鋭爪術の攻撃力が上昇している。攻撃を受けた場合、梶川光流のHPが尽きる可能性が高い≫
爪の攻撃が当たったら、最悪一発で死ぬかもしれないってことね、こわ。
とか画面の文字を読みながら進んでいるうちに、あと3歩。
まだ、ニワトリは動かない。
あと、2歩。なお、動かない。
1歩。動かない
トドメを刺そうとこちらから構えた直後
ニワトリを中心に、爆風
なにが、おきた
≪体術スキルLv10技能【気功・発徑】 気力を消費し、自身を中心に爆風を発して周囲を吹き飛ばす技能。使用者は爆風の影響を受けない≫
…まさか、こんな切り札を隠していたとは。
爆風で吹き飛び、体勢を崩した俺に向かって片脚で縮地を使い、急接近し蹴爪を振るうニワトリ。
魔力の遠隔操作では防げない。さきほどの爆風で周囲に展開していた魔力は全て吹き飛ばされて拡散してしまった。
片膝を突き、不安定なこの体勢では、腕を振るって防ぐこともできない。
まあそんな時のために、全身のどこからでもパイルを発動して敵の攻撃をパリィできるように修業していたんだけどな。
さっきからこのパターンばっかのような気がするけど、備えあればなんとやら。何度でもしぶとくしつこく防いでやるわ。
無防備な俺の背に向かって振るわれた伸魔爪を、まともにではなく爪の横っ腹を叩くカタチで弾く。
お、重い……! まるで猛スピードで突っ込んできた自動車でもぶっ叩いたような重さだ。
こんな攻撃を正面から弾こうとしても、パイルごとばっさり斬られてただろう。
もしも両脚があったなら、この後の追撃でやられてたかもな。
だが、しのいだ。
攻撃を弾かれ、今度はニワトリの体勢が崩れた。
気力を全て右腕に集中、そして魔刃改を発動。
普段使う時はチェーンソーのように動いている魔刃改を、気力により強化しさらに動きを加速させて切れ味を強化。これならニワトリの能力値がいくら高かろうとも容易く斬れるはずだ。
魔刃改をニワトリに向かって振り下ろす。
ニワトリは、身体を捻って蹴爪で受けるつもりのようだ。あの体勢からリカバリーできるのかよ、こいつも大概しつこいな。
だが、無理だ。
ここまで気力を集中させて強化した魔刃改の攻撃力は、おそらく4ケタを軽く超えている。
その証拠に、蹴爪を容易く切り裂いて、胴体を深く切り裂くことができた。
さて、もうお前の武器は無いぞ。まだやる気か?
両脚を失い、攻撃手段と機動力を失って致命傷を負ったニワトリの顔は
笑っていた
諦めたような顔じゃない。むしろ、勝ち誇ったようにこちらの顔を真っ直ぐに見て――
ドスッ と 仮面ごとなにかが頭を貫通し、通り抜ける感触。
山賊に矢を射られた時のデジャヴが浮かぶ。
ニワトリのクチバシから、魔力の刃が伸びて、俺の頭を貫いていた。仮面が割れて、素顔があらわになる。
伸魔爪、いや、爪術だけじゃなくて牙術も持ってたっけこいつ。伸魔牙ってとこか。
切り札の次の、さらに奥の手。正真正銘最後の攻撃か。
……見事。
俺のHPが、身体と連動していたらお前の勝ちだっただろうな。
ニワトリの首を掴み、クチバシを引き抜き、呆然とした表情のニワトリの顔を見つめ
魔刃改で、首を刎ねた。
宙を舞うニワトリの顔が、ゆっくりと地面に落ちていくのが見える。
その目は、一瞬だけ驚愕の表情を浮かべたあと、安らかに閉じられていった。
やっと、決着が、ついた。
「ふ、ふ、ふぅ、ううぅぅ………!」
呻き声を漏らしながら、膝から崩れ落ちてしまった。
体中が震えてうまく溜息を吐くことすらできない。
やべぇ、やべぇ、やばいやばいやばい、と語彙が死んでる思考が頭を巡る。
今の戦いで何度死にかけたのか。
特に最後の一撃。もしも外付けHPがなかったら、絶対あのまま死んでたわ。
勝利の余韻よりも、死にかけた恐怖の方が圧倒的に勝っている。もう二度とこんな強い奴と単騎で戦ったりしないぞぉぉ……。
ぼとっ
とか内心半泣きになりながら呼吸を整えていると、足元に軽い衝撃。
……む? 首を失ったニワトリの尻から、なんか白い玉がひり出されて地面に落ちたようだ。……卵?
死んで括約筋が緩んで出てきたのかな、てかこいつメスだったのか…。
白金ニワトリの肉の味も気になるけど、卵も美味いのかな。
これは是非持ち帰って検証してみなければ――
ピシッ
……ぴしっ?
異音に気付き、卵を見てみるとわずかにヒビが入っているうえに、動いているのが分かる。
まさか
≪卵、孵化寸前の模様≫
いや早くね!? いま尻から出てきたばっかだよ!?
あれか、上位の魔獣の卵は即孵化したりするのか? これじゃ卵が食えないじゃないか。
てかこのままだと魔獣の雛が産まれちまうんだけど! どうしようメニューさん!
≪レベルが一定の数値に達したのを確認、メニュー機能のアップデートを開始≫
このタイミングでかよ!?
いやあとでいいから先にこっちの卵の対処を、あああああ! もう孵化するー!!
お読みいただきありがとうございます。




