狩猟祭⑥ 死力を尽くして
『コケッ!』
『『『ゴゲエェェェェエッ!!』』』
白金ニワトリが指示を出すように鳴き声を上げると、集まってきたニワトリたちが一斉にスキル技能を発動する。
ニワトリたちの爪から放たれる光る斬撃の弾幕。魔刃・遠当て、いや魔爪・遠当てか! まずい、あんな数の斬撃防ぎ切れないぞ!
「全員俺の後ろに隠れろぉっ!!」
壁盾戦士の銀髪青年ヒューイットが叫ぶと同時に、大盾を地面に突き刺しスキル技能を発動させた。
盾から魔力の盾、いや『壁』が展開されていき、ニワトリ魔獣たちから放たれる斬撃を防いでいる。
受け止めているヒューイットが苦悶の表情を浮かべ、今にも崩れ落ちそうになりながらも必死に耐える。
「うぐがががががっ!!」
「きゃあああああっ!! ち、ちょっとリーダー! 大丈夫なのコレ!?」
「知らねぇよ! ヒューイ、なんとか持ちこたえろ! お前がスキルを解除した時点で俺たち全滅するぞっ!!」
「だ、駄目だっ……! あと10秒ももたないっ……!!」
ヤバい、もう細かい作戦考えてる時間がない!
仕方ない、臨機応変作戦実行! 早い話が行き当たりばったりだ! ……作戦?
まずこの斬撃の嵐を中断させないと死ぬ!
でも攻撃しようにもこの壁から出た時点でミンチになりかねないから、壁の内側から攻撃しないといけない。
……壁から出ずに、攻撃ってのは矛盾しているように感じるかもしれないが、攻撃方法は、ある!
「おい、聞こえるか! 全員今すぐ耳を塞げっ!!」
「へ!? あ、アンタなに言って―――」
「いいから早くしろ! 巻き込まれるぞ!」
「ち、ちょっと待ってくれ! 俺は!?」
「私が塞ぐから安心しろ!」
盾を構えているヒューイットが不安そうな声を上げるが、魔力の遠隔操作で耳を塞いでおくので無問題。
さて、頼むから効いてくれよ!
気力を呼吸器と喉に集中し、ほんの一瞬だけ部分的に超がつくほどその機能を強化する。
空気を吸い込む量が普段より多く感じられる。実際とてつもない量の空気が肺に溜まっていって、胸から腹にかけて不自然なほど膨れ上がっていく。
掌をメガホン代わりに構えて音に指向性を持たせ、吸い込んだ空気を喉を通して一気に放出し、絶叫を上げるっ!!
「ああああああああああああああああ”あ”あ”あ”あ”あ”っっっ!!!!」
自分の声で鼓膜が破れるんじゃないかってぐらいの、爆音ならぬ爆声が口から放たれた。
ヒューイットが展開した魔力の壁に一部ヒビが入るほどの絶叫。耳を塞いでなければ四人とも鼓膜が破れて気絶していたかもしれない。
『ゴギャギャッ!?』
『ゴ、ゴゲェエ!!』
『ゴゴッ! ゴゲッ!? ゴゲェェッ!!?』
で、そんな絶叫をモロに聞いてしまったニワトリたちはなにが起きたのか分からないまま、大混乱に陥っている。
無事なのは白金ニワトリと金色ニワトリぐらいか、抵抗値が高いからこれくらいじゃさほど怯まないようだな。
だが、充分だ。あの2匹以外を一時的にとはいえ無力化できただけでも上出来だろう。
「な、なんて声出しやがんだ、アンタ……」
「ふ、塞いでたのに耳が痛いっ……!」
パーティの4人が恨めしそうな顔で悪態を吐いているがスルー。そんぐらい我慢しろ。
「ニワトリどもが混乱している今のうちだ! 残った力を振り絞って魔獣を殲滅するぞ! リーダーはあなたか、あの金色のニワトリを頼む! アイツとサシでまともにやり合えるのはあなたしかいない!」
「お、おう! 任せな!」
「灰色と銀色は混乱しているうちに遠距離から弓と魔法で攻撃して仕留めてくれ!」
「ま、魔力が残り少ないから全部仕留められるか分からないわよ!? 魔力回復薬も使い切っちゃってるし!」
「わ、私も……!」
「なら手を出せ! 魔力を譲渡する魔道具があるから! 早く!」
魔術士と的中弓士の二人の手を握り、大急ぎで魔力を譲渡する。
とりあえずMPを140ずつ譲渡したから、なんとか足りると信じたい。
これで俺のMPも残り50以下。だが魔力回復丸薬をアイテム画面から直接口の中に放り込んで回復できるから問題ない。
赤イノシシ戦の時はテンパっててこんなことする発想が出てこなかったが、今ならこんな器用なことも可能だ。冷静さって大事。
え、それを渡して飲ませればいいだろって? ごめんテンパっててその発想は無かったわ。……アホか俺は。
「本当に魔力が回復した……! これなら!」
「や、矢ぶすまにしてやるぅっ!」
さっきまでのお返しと言わんばかりに、矢と風魔法をニワトリたちに浴びせまくる二人、いいぞもっとやれ。
「君はあの二人に反撃が及ばないように守ってやってくれ」
「わ、分かった。………あのちっこいボスニワトリはどうするつもりだ?」
「私が倒す。………もう自重も容赦もしない」
後に備えて魔力や気力を温存しようとした俺の判断が間違ってた。
手加減してどうにかできる相手じゃない、本気でかからねば。たとえニワトリだろうとも、たとえニワトリだろうとも! なんだこのニワトリ相手に本気を出さなきゃいけない謎の屈辱感は!
縮地モドキで再び突進! さあどうする、また追いかけっこでもするか?
こちらとしてはそうしてもらえると助かる。バテて自滅してくれるのが一番楽だし。
『……コケッ!』
ニワトリにあるまじき、鋭い眼光。
もう逃げる気はないようで、こちらを迎え撃とうと蹴爪を構えている。
能力値は圧倒的にニワトリが上。本来まともな白兵戦なんかできっこないが、魔力操作と気力操作、そしてアイテム画面に入れておいた小道具を駆使して倒すしかない!
全身に魔力装甲を纏わせ、さらに残りの気力全てを身体強化に使用して能力値の差を埋める!
まずは火力特化パイルをブチ当て先制だ!
ズダァンッ! とパイルの液体空気が起爆する音が響く。
能力値の差がほとんどなくなった状態なら、当てること自体はさほど苦労しなかった。
が、耐えた。Bランク程度の魔獣なら一発で容易く仕留められる一撃を、白金ニワトリは蹴爪で受け止め防いだ。
さらに、火力特化パイルの反動がいつもの5割増しくらいに感じる。おそらく蹴爪で受け止める際になんらかのスキル技能を使ったんだと思う。
≪鋭爪術スキル技能Lv2【衝魔爪】爪に触れた瞬間に魔力を炸裂させて、強い衝撃を対象に与える技能≫
相手の攻撃をパリィするのに便利そうだな。現に爪に弾かれて軽く数メートルほど後ろに吹っ飛んじまった。
だが、正直それは悪手と言わざるを得ない。パイルを受けた方の脚が血塗れになってるうえに、変な方向に曲がっているじゃないか。
『コケェッ!!』
だが、なお怯まず折れた脚をおして縮地を使い、今度はニワトリの方から攻めてきた。
受け身にまわればまた火力特化パイルを当てられて、もう片方の脚もやられるか折れた足が千切れるかするだろう、という判断をしたからか。
……鳥頭にしちゃ的確な判断だ。やっぱこいつ強いわ、文句なしに強い。
無事な方の蹴爪を振るって攻撃してくるが、悲しいかな、ニワトリのリーチじゃこっちの攻撃の方が先に届く――
いや、違う!
「うぉあっ!?」
『ゴゲエエエッッ!!』
け、蹴爪が届く前に魔力の刃が先に攻撃してきた!?
伸魔爪? ……いや、あれは単純に攻撃のリーチを伸ばす技能だ。今の攻撃は蹴爪が振るわれる前にこちらを襲ってきた。
≪爪術スキルLv10技能【魁追魔爪】魔力で作られた刃を、爪による攻撃の前または後に繰り出す多段攻撃技能。先制か追撃かは任意≫
また厄介な技能だな! 引き出し多すぎだろこのニワトリ!
白兵戦じゃこの上なく絶大な効果を発揮するだろうな。
……俺もお前も考えることは大体同じか。
アイテム画面から、武具屋で買ったあるものを取り出す。
さて、小細工程度のものだが、果たしてこいつに通じるかどうか。
…なんでニワトリ相手にこんないい勝負してんだ俺は。
真面目にやってるけど、はたから見てるとすごいシュールに見えるだろうなー…。
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