『飛行士』に再び面倒事
新規のブックマーク、誤字報告ありがとうございます。
お読み下さっている方々に感謝します。
コワマスの部屋に案内され、来客用のテーブルの椅子に腰掛けた。
部屋の中は仕事道具や書類以外はなにもない、極めて殺風景な内装だ。どんだけストイックなんだか。
「そうビビらなくていい。スタンピードに突っ込んでいったり、古代兵器の再封印に比べればずっと安全な依頼だ」
ひかく たいしょうが おかしい。
古代兵器ってのはあのスライムのことだな。となるとロリマスからも連絡がきたのか。…どこまで俺たちの情報を伝えてあるんだろうな。
「この町で、近々『狩猟祭』が行われるのは知っているか?」
「狩猟祭?」
「む、知らんのか?」
「すみません、町に着いてまだ日が浅いもので」
字面からして、狩りをする祭りってのはなんとなく分かるんだが。
「狩猟祭とは、ギルド主催の年に2回ほど行われる祭りでな。参加者は魔獣草原に入って、一定時間内にどれだけ魔獣を狩ることができたかを競い合う。そして討伐した数と質のポイントに応じて参加者には報酬が贈呈される、といった内容だ。各エリアごとに最もポイントを稼いだ者には景品も用意してある」
ちょっと意味は異なるが、こっちが攻め込む側の言わば逆スタンピードみたいなもんか?
「で、その狩った魔獣たちの肉なんかを使った出店が狩猟の後に数日程展開されるまでが祭りの流れだな」
「なるほど。で、その祭りで私たちにやってほしい依頼があると?」
「そうだ。というか依頼を受けるのはカジカワ一人で構わんぞ。さっきも言ったが、それほど危険な役目を押し付けるつもりはない。お前に頼みたいのは『監視役』だ」
「監視役?」
「ああ。魔獣草原はエリアごとに魔獣の強さが違う。奥に進めば進むほど草原の色が緑から黄色、黄色から赤へと変わっていって、赤に近ければ近いほど生息する魔獣も強くなっていくのは知っていると思うが、たまにそのエリアに見合わない強さの魔獣が紛れ込むことがあってな」
「あー、何度か見たことありますね」
「何年か前まではそんなことはごく稀なことだったんだが、魔王誕生の影響か最近は特にそれが顕著でな。狩猟祭で、それぞれの実力に見合ったエリアで狩っているところにいきなり強力な魔獣が乱入してくる可能性が高いんだ」
魔王、またお前のせいか。ええかげんにせぇや。
それかたまたま誕生のタイミングと異常発生のタイミングが重なっただけなのか?
「不測の事態が起きる危険性があるなら、狩猟祭の開催はしばらく見送るべきでは?」
「私もそう思って半年前の狩猟祭は中止したんだが、その直後にスタンピードが発生してな。幸いそれほど規模の大きなものではなかったが、祭りを中止した途端に魔獣草原でこれまで何世紀もほとんど発生しなかったスタンピードが起こったのはどうも偶然とは思えないんだ」
「…狩猟祭とは、単なる祭りではなく魔獣草原のスタンピードを抑えるための催しであるということでしょうか」
「私はそう考えている。この祭りをするようになったのはもう何百年も昔の話だから、確認のしようがないんだが」
そういった大事な情報は途切れさせちゃダメだと思うの。
何百年も繰り返し行われていくうちに、スタンピードの発生を抑えるという目的より、祭りを楽しむことの方が優先されちゃった感じかな。
「で、お前に依頼する内容だが、強力な魔獣がエリアの枠を越えたりしていないか、空から監視をしてほしい」
「えーと、あの広い草原を私一人で監視するのは無理がある気が…」
「緑や黄緑のエリアはウチの職員たちで監視するから、お前には黄色と橙色のエリアを任せたい。色が赤に近付くにつれ、エリアの範囲も狭くなっていくから飛行能力があるならなんとか監視できるだろう。イヴランの話によると、お前はある程度遠くの魔獣の気配も感じとることができるのだろう?」
「ええ、まあ…」
…ロリマスめ。いらん情報伝えやがって。
できれば余計な情報は教えないでほしいんだけどなー、面倒事が増えるばっかだし。
「強力な魔獣相手に対応しろとは言わん。遠距離通信用の魔具を持たせるから、それを使ってギルドの職員に魔獣の大まかな位置を伝えてくれればこちらで対処する」
「もしもその魔獣が、誰かを襲っていたら?」
「襲われている者がその魔獣を相手取るのに実力不足だった場合は、できれば飛行能力を駆使して離脱させたりして救助してもらえると助かる。まぁ無理にとは言わん、皆ある程度のアクシデントは覚悟のうえで参加しているからな」
「そうですか。まあ一緒に逃げるだけならなんとかなりそうですので、できるだけ救助はしておきます」
「救助するかどうかはお前の判断に任せる。大雑把な説明はこんなところだな。なにか聞いておきたいことは?」
んー、説明聞いたばっかでまだ情報の整理が追っついてないけど、とりあえずいくつか質問しとくか。
「狩猟祭はいつごろ開催される予定なのでしょうか?」
「今日からちょうど一週間後だな。そろそろこちらも狩猟祭に向けて準備を進めなければならんところだ」
一週間後かー、早いと言えば早いが準備する時間は充分あるかな。
「狩猟祭に参加する人は、レベルごとに討伐するエリアが決まっていたりするんでしょうか?」
「ああ、Lv50以上の者は赤色のエリア、Lv40以上が橙色のエリア、といった具合に推奨レベルが設定されているな。あくまで推奨するレベルだから絶対というわけではないが、一つでもエリアのランクが上がると地獄を見ることになるから推奨レベルを超えるエリアでの討伐はやめておいた方がいいな」
「パーティで狩る場合は、どういった判定になるのでしょうか?」
「単純に、狩った数や質のポイントをパーティの人数で割った数が総合のポイントとなる。場合によってはパーティを組まずに討伐した方が多くポイントを稼げるかもしれないが、その分リスクは増すからソロに慣れた者以外は素直にパーティを組んだ方が無難だな」
ふーん、となるとソロでもアホみたいな数を討伐できるレイナとアルマはかなり有利、というか下手したらそのエリアのトップになれるんじゃね?
いや、黄色のエリアはアルマ一人じゃちょっと大変かもしれんが。
うーむ、監視役を任された場合俺は参加できないけど、悪目立ちするよかいいか。
まあ俺たちよりずっと多くポイント稼げる人たちだっているかもしれないから、単なる自意識過剰からくる杞憂かもしれんが。
どっちかと言うと狩りのあとの出店の方が気になる。普段海産物が主のこの町にどんな食べ物が並ぶか楽しみだ。
…いや、魔獣の素材を使った装備品なんかよりそっちの方が気になるのは我ながらどうかと思うが。
お読みいただきありがとうございます。




