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ギルマスへの報告

 はいこんにちは。

 魔獣の襲撃の報告のため、ギルドに早足で向かっているところです。

 ホントに急ぐなら怪鳥を倒した時に使った魔力飛行で一気に行くところだが、悪目立ちするしアルマが嫌がるので早歩きだ。


 ギルドに着いて、いつもの受付嬢の前に立った。



「い、いらっしゃいませー。一週間ぶりですねー。…今日も薬草の納品ですかー?」



 ちょっと怯えたような顔で話しかける受付嬢。初日以降は納品する量を30~40本程度に抑えてるだろうに。

 それでも多い!といつも半泣きで言われてるが。



「いえ、至急で報告する事があります」


「はい? 何かトラブルでもー?」


「ついさっき街の外の東側で、魔獣森林からゴブリンを10匹近く引き連れたホブゴブリンと、さらにブレイドウィングという大きな鳥型の魔獣が出てきて、襲われました」


「ええ? じ、冗談ですよね……?」


「私とアルマティナの討伐履歴を確認していただければ、事実であると分かるはずです」


「ち、ちょっと確認しますね」



 そう言って俺とアルマを見て、目を細めている。鑑定中のようだ。

 みるみる顔を青く、引きつらせていく。



「あ、貴方、ブレイドウィングを倒したんですか?」


「はい。手持ちの道具で目を眩ませた後、火蝦蟇の油をかけて燃やすことでなんとか」


「えええ…。あ、アルマさんも、ホブゴブリンを討伐してますね。お怪我も無いようで、なによりです。……あれ? 職業が見習いじゃなくて、え、パラディン…!?」


「うん。さっきジョブチェンジした」



 あっさり言うな、君。あんなに感動してたのに。



「見習いじゃないパラディンなんて、初めて見ました…」


「それより今回の魔獣の襲撃のこと、早くギルマスに報告した方がいい。魔獣森林に何かが起きてるかもしれない」


「は、はい! いますぐ報告しますー!」



 慌てて席を立ち、カウンター後ろのドアの奥へ走っていった。誰かにぶつからなきゃいいが。





 がしゃーん




 くぉら! ギルド内で走るなネイア!


 ひいぃ~! すみませんー!




 …聞こえなかったことにしておこう。

 あの受付嬢、ネイアって名前なのか。ステータス確認してないから知らんかった。



 10分ほど待っていると、受付嬢ことネイアが戻ってきてギルドマスターの部屋まで来るように言われた。

 えー、報告済んだから俺らもう帰りたいんだけど。あ、駄目? ですよねー。


 ギルドの奥に案内され、何だか見るからに高級そうな扉の前まで着いた。ここがギルマスの部屋か?

 ネイアがノックをした後、扉の前から声をかけた。



「マスター、お二人を連れてまいりました」


「ご苦労。入ってくれ」




 ドアを開けると、書類の山がいくつも積まれたデスクに不機嫌そうに眉間に皴を寄せ向き合っている、初老の男性が椅子に腰掛けていた。

 この人がギルマスか。目つきは鷹のように鋭く、軽く睨んだだけで人を2、3人くらい殺せそうだ。怖え…。


 そして、その傍で見覚えのある鑑定師がモノクルを拭いている。

 おじいちゃん半月ぶり。なにしとんの?


 とか考えてたらギルマスらしき男が口を開いた。



「アルマティナと、新人の、……名前を聞いてもいいか?」



 ネイアさん? 名前くらい伝えておかなかったの?



「梶川光流と申します。ギルドに加入したばかりで至らぬ点も多々ある未熟者ですが、よろしくお願いします」


「おう。俺はダイジェル担当のギルドマスターやってるヴェルガランドだ。よろしく頼む」



 互いに挨拶を済ませた後、本題に入った。



「それで、魔獣森林から結構な数の魔獣が出てきて襲ってきたって話だが、マジなのか?」


「マジ。私とヒカルがいなかったら、街に向かっていたかもしれない」


「……フィルス、念のため確認(真偽判定)頼む」



 鑑定師にギルマスが声をかけた後、すぐに返答を返した。



「あー、マジじゃな。嘘だったら良かったのにのぅ。ほっほっほ」


「笑ってんじゃねぇよ。くそ、なんてこった。とうとうウチの管轄にまで異常の波がきたか」



 頭を軽く掻きながら悪態をつくギルマス。

 面倒事抱えた上司のような顔してんな。あ、この人上司どころか社長みたいなもんだったわ。



「失礼ですが、異常の波とはなにか伺っても?」


「……ここ最近、世界各地でスタンピードが頻発してるらしい。月ごとの討伐ノルマを達成しているにもかかわらず発生してて、いったい何が起きてるんだってさっきまでコイツと話をしてたところだ」


「まあ、考えられるとしたら【魔王】の産まれる時期がそろそろ近いし、その影響とかじゃないかのう」



 この世界、魔王とかいるの?



≪魔王は一定周期で誕生する、魔獣と魔族を統べる存在。人間、また、亜人種に対して大規模な襲撃を行う。全人類にとって最大の脅威と認識されており、誕生の度に人類に甚大な被害をもたらしている≫


 なんか、そう聞くと悪の親玉っていうより災害みたいに聞こえるな。

 発生する条件は?


≪世界の理につき、回答不能≫


 …魔王もコトワリ由来の存在っぽいなこりゃ。なんのためにそんなもん産み出してるんだか。



「魔王かぁ。産まれる前から人様に迷惑かけるとか勘弁してくれよ本当に」


「愚痴を言っても問題は解決せんぞー。十匹近い魔獣が出てきたということは、恐らく前兆じゃろう。魔獣森林グルオーズの本格的なスタンピードまでもう時間がなさそうじゃな」


「早くて三日後ってとこか。住民の避難はギリギリ間に合うかどうか、ってとこだな」


「応援要請は? うちの街の冒険者だけじゃ大本を叩くにはちと厳しいと思うぞい」


「大丈夫だ。幸い、【イルユディ】の方から『剣王』と『大魔導師』が明日こちらに到着する予定だ。あの二人に依頼すればスタンピードの親玉はなんとかなるだろう。ザコはうちの冒険者に任せればいい」



【イルユディ】ってのは他の街の名前かな。

 剣王と大魔導師、って言った辺りでアルマの顔が驚いたような、少し強張ってるような、微妙な表情になったのが見えた。

 どうした?



「そう簡単に依頼を受けるかのぉ?」


「受けるさ。二人の娘が今ここにいるんだから、な」



 ……はい? 二人の娘?

 え、剣王と大魔導師ってまさか。



「アルマティナ、明日には両親に会えるから楽しみにしておけ」


「……うん」



 アルマの親御さんかよ!

 肩書きとギルマスの様子からして凄い人物みたいなんですけど。

 この子、実は超エリートだったのか?



「そう暗い顔するなよ。見習いパラディンだってジョブチェンジして剣士か魔法使いになれば、努力次第で後れを取り戻せないこともないぞ? あの二人だって、剣と魔法、どちらを捨てることを選ばなかったお前の心遣いを分かってくれてるし、そろそろどちらにするか選んだらどうだ?」


「ジョブチェンジならさっきした。どっちも選んでないし、剣も魔法も捨ててない」


「…? それはどういうことだ? ジョブチェンジすればどちらかのスキルが消えちまうんだろ?」



 困惑しているギルマスの傍で、アルマを凝視しながら鑑定師が口を開いた。



「……アルマティナ、お主は新しい職業を選ぶことができたのじゃな。剣士でも魔法使いでも見習いでもない、パラディンになれたのじゃな。よう頑張ったのう」


「は、はぁ!? パラディンなんか、実在したのかよ!?」



 ギルマスと鑑定師の二人が目を見開いて驚いている。

 てかじいさん、勝手に鑑定するのはプライバシー的にどうなの? 人のこと言えんけど。



「剣士と魔法使いのいいとこ取りのうえに、成長率もそれらと遜色ないようじゃ。さらに見慣れないスキルがあるのう。『魔法剣』とな」


「ヒカルが、色々教えて助けてくれたから、魔法剣を覚えてパラディンになれた。私一人の力じゃない」



 いやいや、それほどでもー。

 …俺の手助けなんて微々たるもんで、ほぼ全部アルマの努力の結果だと思いつつ、ちょっと本気で嬉しいとか感じてしまった。

 我ながらちょろいわー。



「そうか。…それほど優秀な職業なら、両親にも胸を張って自分は立派にやっているって言えるだろう。しばらく会ってなくて気まずいかもしれんが、一度会って話をしてやれ。向こうも久しぶりにお前に会いたがっているみたいだぞ」


「分かった」



 ギルマス、アルマの親御さんと仲いいのかな。

 こんな状況で親子関係の気遣いをしてくれる辺り、親しい人には優しい人みたいだな。目つきは怖いが。

 で、その怖い目の視線をこちらに向けてきた。ひぇっ、思考を読まれたか!?



「カジカワって言ったか、色々とアルマティナの手助けをしてくれたようだな」


「いえ、私はただきっかけを与えたに過ぎません。むしろ私の方が彼女に助けてもらったことの方が多いくらいですよ」


「俺は、アルマティナの両親から『娘がダイジェルで暮らすからその助けになってやってほしい』と頼まれていたんだが、精々冒険者としての基礎基本を教えてやったくらいで本当に助けてほしいことに対しては何もしてやれなかった。知人の頼みとはいえ、立場上贔屓しすぎるとそれはそれで問題だからな」



 ギルマスは少し俯いて、申し訳なさそうに言葉を発している。



「だが、お前が来てからはもう大丈夫そうだ。もう、一人でも不遇な職でもないからな」


「まあ、ここのところ毎日何故かアルマティナをおぶって一緒に宿に入ってるくらいじゃし、もう寂しい想いはしとらんじゃろなー」


「おいコラてめぇ、まさかこいつに手ぇ出してねぇだろうな!?」


「出してませんよ!」



 何言ってんだこの鑑定師のジジイは!?

 ギルマスからなんかいい感じに話をされてる最中に余計な爆弾投下してんじゃねーよ!

 ギルマスもそんな怖い目で本気で睨んでこないでください!マジ怖ぇから!



「ちっ、ホントに出しとらんのか。つまらん」


「なに言ってんだこの野郎! もしもこいつになんかあったら、俺があの二人に殺されるかもしれねぇんだぞ!」


「ギルマス、大丈夫。私が魔力不足や枯渇で倒れても、ヒカルは私を助けるだけで他に何もしてこなかった」


「そりゃ結果論じゃねぇか!? お前はもっと自分の身に気を配れ! 無防備すぎるわ!」


「ヒカルなら大丈夫」



 そこはギルマスに同意しておく。

 俺がそういった下卑た考えを持ってたらどうするつもりだったんだこの子は。

 「ヒカルはそんなことしない」と信頼してくれているのか、それとも単に「コイツヘタレだから大丈夫」と言っているのか。

 前者であると願おう。



「はぁ…まあいい。カジカワ、アルマティナの両親は娘のことになると特におっかねぇから下手なこと考えるんじゃねぇぞ。お前一人死ぬなら自業自得だがキレた時の周りへの被害が想像もつかん」


「肝に銘じておきます」



 どんだけ怖いんだよ、その二人。

 できれば関わりたくないが、アルマに何度も助けてもらっている手前、こちらに来た時に会ってお礼を言わないわけにもいかなそうだなぁ。

 最悪、変な誤解されて話がややこしくなった挙句、ぶっ飛ばされそうな気がするけど。

 …やっぱ逃げていい?



「で、これからのことだが、俺達ギルド関係者はスタンピードに向けての準備で忙しくなりそうだ。主に住民を他の街へ一時避難させる手続きや交通手段の確保と、対スタンピードに向けての戦力編成だな。さっきも言ったがスタンピードには親玉となる魔獣が存在していて、そいつを討伐できればスタンピードは収まり、魔獣共は元通りテリトリーに戻っていく。そして親玉を倒すのはアルマティナの両親に任せる。その露払いにCランク以上の精鋭を同行させて、Dランク以下の者には街に侵攻しようとする雑魚を討伐してもらう。お前たちも頼むぞ」


「回復ポーションもかなりの量が必要そうじゃな。面倒じゃが儂も久々に薬草採取に向かうか」


「まあ、最近やたら大量に納品してくる奴がいるから、割とポーションのストックには余裕があるけどな」



 こちらを見ながら肩をすくめるギルマス。

 それって俺のことですか。ネイアさんの愚痴でも伝わってきてるの?



「そんなわけで、三日後くらいにスタンピードが起こる可能性が高いから、それに備えてお前たちも準備をしておけ。必要な物があったら早めに購入しておかないと、みんな避難しちまってギルド支給の備品くらいしか手に入らなくなるぞ」


「分かった。森林にも、もう入らないほうがいい?」


「当たり前だ。スタンピード直前の魔獣のテリトリーは普段とは段違いの魔獣が深部じゃなくてもゴロゴロしてるんだぞ。ホブゴブリンやブレイドウィングなんて、最低でもEランク以上の実力がなきゃ太刀打ちできないのに、FランクとGランクのお前らが倒せたのが信じらんねぇよ」


「特にカジカワ、お主ブレイドウィングを討伐しておるな。いったいどのようにして仕留めたのじゃ?」



 あんまり魔力操作とかのことを話したくないんだけどなー。

 スキルが使える代わりに魔力操作が使えない人間に対して、少しでも有利になろうとしてるってこともあるけど、まぁそれだけならさほど大きな問題でもない。そもそも魔力操作は教えられたところでそう簡単にできるもんじゃない。

 俺は元々魔力がない異世界人だから魔力に対して敏感で、魔力を認識して操作することはそれほど難しくなかった。

 アルマは俺がマンツーマンで教えていたってこともあるけど、他の戦闘職に対してスキルが乏しいから他の要素で補おうとして独特の才覚を育んできた結果、魔力操作に関しても俺と大差ない運用が可能になったわけだ。

 まぁそれでも努力を重ねれば他の戦闘職の人間にも俺やアルマに近いこともできるだろう。それならそれでこちらも工夫をしてさらに先を目指せばいい。


 けどなー、魔力の直接操作って、下手したら戦闘職以外の人間の魔獣に対する自衛手段にも使える可能性があるんだよな。

 例えばこの鑑定師のじいさん、MPが30あってINTなんか200超えてたから、仮に攻撃魔法を使えるなら相当な威力の魔法を使えるんだよな。もしかしたらホブゴブリン相手にも通用するかも。

 もしも生産職の人間全員が魔力操作を覚えて、魔獣に対する防衛手段を得たなら戦闘職の人間の価値が相対的に下がってしまう事態もあり得る。

 もちろん、戦闘職にしか討伐できない魔獣だってわんさかいるだろうから、無価値になるわけじゃないだろうけど、もしもそうなったら何らかの歪みとなって表れるかもしれない。

 世界のコトワリってやつも、それは望んでいないだろう。でなければこんな戦闘職と生産職が共依存になるような世界にはならなかっただろうし。

 俺がその原因を作ったのだとコトワリに認識されたら、なんらかのペナルティが下るかもしれない。アルマの言うバチってやつが。

 自分から藪を突いて蛇を出したくないし、ここは適当に誤魔化そう。



「護身用に持っていたスパークウルフの角を着火して、目を眩ませたら空から墜落しまして、(パニックになって魔法を乱発して魔力不足になったから空を飛んで逃げようとしたのを追っかけた)その後に火蝦蟇の油を奴の体にかけて引火させて焼き殺しました」


「おいおい、高価な素材の大盤振る舞いじゃなぁ。まぁそれならお主でも仕留めることは不可能ではないか。ゴブリン程度なら殴り殺せるようじゃし」


「痛い出費ですが、命はお金には代えられませんから」



 うん、嘘は吐いてない。空飛んだこととか着火を自力でやったこととか言ってないだけだ。



「よし、それじゃあ今日はもう帰っていいぞ。スタンピードもやばいが、明日アルマティナの両親が来ることにも注意しろ。死ぬなよ」



 不穏な言葉を言いながら見送るギルマス。

 死ぬなよってアンタ、どんだけやばいのさその二人は。

 スタンピードよりその二人から逃げたいです。ていうかもう逃げていい? あ、駄目? そう言わんと。

 …明日が憂鬱だ。向こうじゃ毎日がそうだったが。

 こっちに来てからは明日が楽しみだって思えるようになってきてたのに、どうしてこうなった。


お読み頂きありがとうございます。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
[一言] 有能なじいさん >>> 無能なギルマス 偉ぶってるくせに大した事ないなギルマスのおっさん。 ギルドマスターのくせに職業のパラディンの事も知らないのかよ。  それと恋愛は自由なんだろう…
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