青いのは髪か尻か
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はいこんばんは。ただいま正義感溢れる青髪青年に責めたてられてる真っ最中です。
無理やりソロで魔獣討伐をさせて、その稼いだお金を巻き上げてるクズ野郎だと言われて内心辟易しているところです。
…まあ実際討伐二日目に歩けなくなるくらい消耗するまで討伐させたり、宿代や食事代もレイナの分はレイナに支払わせてはいるんだが。
「カジカワさん、この人もうなに言っても無駄だと思うっすから、もう放っておいて帰りましょう」
うんざり、と顔に書いてあるような表情でレイナが言う。せやな。
「おい! まだ話は終わっていないぞ!」
「そりゃアンタの中だけの話っしょ。こっちからすればもう終わりっすよ」
「君も君だ! そんな奴に金を貢ぐような生活のままでいいのか!? 解放されたいと思わないのか!」
「お金を貢いでなんかいないっすよ! いい加減にしろっす!」
「…そもそも会話になってない。自分の言いたいことばかり言って、相手の言葉が頭に入ってない。これ以上なにを話しても意味がない」
レイナもアルマもうんざり通り越して、嫌悪感すら覚えているのが見てるだけで分かる。すんごい顔引きつらせてるわこの子ら。
「おい、何の騒ぎだ」
アカン。
騒ぎを聞きつけてか、コワマスことギルドマスターが赤い髪を揺らしながら奥の方から姿を現した。
…というか本当に奥から出てきたのか? いつの間にかナイマさんの後ろに居たんだが。
「ぎ、ギルマス! え、ええーとですね」
「どう見てもそこの青いのと、小さい金髪と黒いの二人が騒ぎの中心だな。そうだろう?」
「え、ええ、まあ」
何故か怖い笑みを浮かべながら、ナイマさんに騒ぎの状況確認をするコワマス。
人を髪の色で見分けていらっしゃる。その見分け方だとコワマスは赤い人になるな。
……なんかコワマスのイメージで赤い人とかいうと、髪の色じゃなくて血の色かなんかで染まってるように聞こえるな…。
「おいそこの青いの、確かウィルクラウスだったか。この騒ぎはなんだ」
「あ、青いの…?」
「早く言え」
「うっ、は、はい」
さっきまでの勢いはどこへやら、たじたじしながら青いのが口を開いた。
「この黒髪が、この金髪の子に無理やり魔獣討伐をソロでさせて、稼いだお金を巻き上げているからいい加減にしろと言ってやっているところです」
「いや、だからそれはアンタが噂話を聞いて勝手に――」
「そこの金髪、青いのが話している最中だ。今は口を閉じていろ」
青いのが自分の信じている真実を話している最中に、レイナが抗議の声を上げたがコワマスに遮られた。
不満そうな顔をしつつも、指示通り黙るレイナ。大丈夫、この人が『今は口を閉じていろ』と言ったのは後で俺らが弁明するターンがあるから、という意味だから。…多分。
「自分で歩くことができないくらいボロボロになるまで討伐させたり、満足に休みも与えず、Lv10に達したばかりなのに草原の黄緑エリアで討伐させようとしたり、明らかにこの子を金儲けの道具としてしか見ていない仕打ちばかりだ! そして自分に非難が及ばないように虚偽の美談を言わせる始末! 悪辣極まりない!」
「…それは事実か? カジカワ」
コワマスがこちらに視線を移した。コワイ。
っていかんいかん、話す前から気圧されてどうする。落ち着け俺、素数とか数えんでいいから。
…さて、気を取り直してこちらの番だな。
「…まず、討伐二日目にレイナに無理させすぎて、自力で歩くことができないほどに消耗させてしまったことは事実です」
「ギルマスが出てきてはじめて認めたな! ほら見ろ、やはりこいつは最低な—―」
「青いの、黙れ」
先ほどレイナに注意をした時に比べて、低くトゲのある声で黙らせるコワマス。青いのも思わず反射的に口を閉じた。
はたから声を聞いてるだけでこっちも黙りたくなるくらい迫力がある。…って今は俺が話す番だっつーの。黙ってどうする。
「これはパーティのリーダーとして私が未熟故に起こした問題です。その反省を活かし、それ以降必要以上に無理をさせないように、また討伐をした次の日は休ませてそれとは別に週末二日は必ず休むようにしています」
「なるほど。その子は成人したばかりなのに、魔獣をソロで討伐させているらしいがそれについては?」
「パワーレベリングにならないように、自力での実戦経験を積ませるためです。成人前からある程度の戦闘訓練はさせているうえ、一応アドバイスしつつ討伐させていますので大きな怪我は今のところしておりません」
「まあ、Lv19のブロンズコッコまでソロで倒せるくらいだし、緑のエリアの魔獣じゃもう相手にならないでしょうね」
「なっ、そんな強力な魔獣までソロで狩らせているのか!? 無謀にもほどがある!」
「ナイマ、青いの。………次に余計な茶々を入れたら口を縫い合わせるぞ」
二人を睨みつけながらさらに低い声を発するコワマス。怖すぎる。
その迫力に二人とも顔を青くしながら口を押さえている。そりゃそうなるわな。
ブロンズコッコっていうのはあのニワトリのことだけど、進化したらシルバーコッコとかゴールデンコッコとかになるんだろうか。…どうでもいいか。
「実際、怪我もなく討伐を続けられているようだし、それほどの魔獣をソロで倒した実績があるなら黄緑エリアで討伐をさせてもいいだろう。討伐の内容自体にさほど大きな問題はなさそうだな」
「し、しかし…!」
「ナイマ、針と糸を持ってこい」
「ひっ、す、すみませんでした! 黙っています!」
か細く悲鳴を上げて、青いのが必死に謝る。
口を開くたびに小物臭くなっていくなコイツ。もういっそ縫ってもらえば?
「で、その子の稼いだお金を巻き上げているというのは?」
「宿代と食事代をこの子の分だけ払わせているだけで、あとは自由に使わせています。無駄遣いしないように注意はしていますが」
「基本的に自分の生活費は自分で支払って、自分で稼いだ金は本人の好きに使えるということか。なら巻き上げているとは言わんな。…最後に、ありもしない美談を言わせて非難を逃れているというのは?」
「美談かどうかは分かりませんが、一応魔獣のテリトリーでハイケイブベアに襲われているこの子を救助して、行くあてがないのでそれ以降一緒に行動するようになったのは事実です」
「ナイマ、カジカワの討伐履歴にハイケイブベアを討伐した記録は?」
「ありますね。…しかも2匹や3匹どころか10匹近く狩っていて、何匹かソロで倒しているようです」
「そうか。美談のどこまでが真実かは定かではないかもしれんが、少なくとも致命的な嘘を吐いているようには見えんな。……いままでの話を聞く限りでは、青いのが言うほど問題のあることをしているようには思えないが、どうなんだ?」
どうやら、こちらの言い分を支持してくれているようだ、よかった。
そして、そのことを問いかけられた青髪青年はこちらを睨みつけながら歯ぎしりをした後、口を開いた。
「こ、こいつが言ったことが全て事実だという証拠がどこにあるんですか」
「それを言ったら、お前がカジカワに抱いた疑念こそ真実だという証拠がどこにあるか、という話になるぞ。しかも金髪の、…レイナミウレだったか、この子はカジカワに金を巻き上げられていることを否定している。本人がこう言っている以上、あるかどうかも分からん罪を証拠も無しに責めるほうが問題だろうが。人のことを糾弾する前にまず噂が真実かどうか証拠を集めて見極めることから始めろ」
「ぐっ………! あ、あなたにそんなこと言われる筋合いは—――」
「その通りだ、私もたかだかいち冒険者にこんなこと言う必要はない。言うまでもない常識だからだ。まったく、私はお前の母親じゃないぞ、お坊ちゃま」
「く、くそぉっ!」
捨て台詞を吐きながら、ギルドの外に走って出ていく青いの。その勢いでウェスタンドアが外れそうなくらい振り回されている。
…青いのは髪だけじゃなくて、尻あたりの蒙古斑もかもしれないなありゃ。
あーほーくーさー。アイツのせいで時間が無駄になったわ。
って俺らだけじゃなくて、コワマスやナイマさんの時間もだな。
「お手数おかけしました、ギルドマスター」
「まったくだ。あんな正義の味方気取ったガキがギルドにいるかと思うだけで不快な気分になってくる」
肩を竦め、呆れ顔のコワマス。
「ああ、ついでだ。ちょうどお前に依頼しようと思っている仕事が入ってきてな、その説明をしたいから部屋まで来てくれるか?」
「…え?」
めんどくさいのから解放されたと思ったら、もっと厄介そうな仕事が入ってきたでござる。どうしてこうなった。
…おのれ青いの。
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