ヤバい幼女
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「……わぁーお、まさか討伐を始めて半月ちょっとでジョブチェンジするなんてねー」
冒険者ギルドの受付で、感嘆の声を漏らす受付嬢ことナイマさん。
感心するのを通り越して少し引いてるようで、苦笑いを浮かべている。
「スキルや能力値もいい感じに育ってるみたいだし、パワーレベリングしたわけじゃなさそうね。いったいどんな方法でレベリングしてるのかしら……」
「簡単っすよ、とにかくいっぱいいっぱい魔獣を倒せばいいんす。めっちゃ大変っすけど」
「それがどれだけ非常識なことなのか分かってるのかしら。普通なら一日ごとにあなたの一割程度の数を狩るのがソロの平均で、しかもこんな連日魔獣を狩る人なんかそうそういないわよ。さらにLv19の魔獣まで狩ってるとか、あなたホントヤバゲホンッ、…すごいわね」
「…いまヤバいって言いかけなかったっすか?」
そのヤバいレイナのジョブチェンジ後のステータスはこんな感じだ。
レイナミウレ
Lv10
年齢:15
種族:人間
職業:忍者
状態:正常
【能力値】
HP(生命力) :184/195
MP(魔力) :39/117
SP(スタミナ):27/88
STR(筋力) :91
ATK(攻撃力):91(+80)
DEF(防御力):86(+80)(+10)
AGI(素早さ):135(+24)
INT(知能) :81
DEX(器用さ):124
PER(感知) :132
LES(抵抗値):74
LUK(幸運値):87
【スキル】
短剣術Lv4 体術Lv4 隠密Lv4 忍術Lv2 投擲Lv1
装備
熊牙の短刀
ATK+80
熊革黒装束
DEF+80
風切りの足袋
DEF+10 AGI+24
…ヤバい。何がヤバいかってまず能力値の成長幅がおかしい。
筋力や防御力なんかは並以下だが、素早さ器用さ感知の値がLv10時点のアルマと比べてもアホみたいに高い。
というか抵抗値と幸運値以外の能力値は気力操作でどうとでもなるし、実質隙がないと言ってもいい。ぅゎょぅι ゙ょゃばぃ。
随分と尖ったステータスだが、ハマれば非常に強力だ。実際格上の魔獣も難なく倒してきてるし。
そしてスキル欄の成長ボーナスもなかなかエグい。
全てのスキルが1~2ほど成長していて、新たに投擲スキルが追加されている。
どう考えても手裏剣とか苦無を投げるための前提スキルだよな。…そんなもんどこで手に入れればいいか謎だが。
「で、そんなヤバいレイナちゃんよりさらにヤバいのが後ろに二人いる件について。もうやだこのパーティ、怖い」
「今はっきりとヤバいっつったでしょ!」
「実際ヤバい」
「レイナ、ヤバい?」
「いや、アルマさんまでなに言ってるんすか…」
アルマって、時々変な悪ノリするよね。
それかまさかいつも本気で言ってたりするんだろうか、いやそれはないか。………ないよね?
ナイマさんが俺とアルマまでヤバいといったことには特に目くじら立てるつもりはない。
というのも、今更だが俺とアルマの討伐ペースも大分おかしいらしいからね。
同レベルの魔獣とサシで戦うということは、極端な話互角の実力を持つ相手と殺し合うということだ。
もちろん、魔獣の特性なんかを知っていたり、道具や装備の補正なんかを考えれば人間の方が魔獣より有利だといえるだろうけど。
そんなふうに、実力の近い相手とのサシでの殺し合いを日常にするような人はほぼいない。いるとすれば戦闘狂か単なるアホだ。
だから、パーティを組んでより確実に生き残れるように討伐をするのが当たり前の常識だ。戦いは数だよ兄貴ィ。
それでようやく、同レベル帯の魔獣をまともに狩ることができる。MPやSPの消費、あるいは怪我なんかをした際のポーションのコストなんかのことを考えると、Lv20台の場合は日に5~10匹程度討伐するのが平均らしい。
それに対して俺たちが普段狩ってる数が30~50匹程度。自慢に聞こえるかもしれんが、客観的に見ると異常な数だろうね。
それでもLv10台の時に比べてなかなかレベルが上がらない。Lv20台でこんなペースだと、高レベル帯のレベリングはもはや修羅の道だろうなー……。
大体の人間はLv40台くらいで頭打ちになるとギルマスが言っていたのも頷ける。そんだけレベルが高くなれば、危険を冒してレベリングするより低レベルの魔獣を狩っていた方が安定して、かつ安全に稼げるだろうし。
「はい、今回の報酬ねー。25000エンもソロで稼ぐなんて、将来が楽しみ通り越して怖いわぁ…」
「ありがとうっすー、ジョブチェンジしたからには、もっともっと稼ぐっすよーフフフ」
気のせいか、レイナの目が¥になってるように見える。……この世界でも¥の字って使われてるんだろうか。
「その意気だ、じゃあ早速明後日から草原の黄緑エリアで討伐を――」
「いい加減にしろよお前っ!!」
俺の言葉をぶった切って、怒声がギルド内に響き渡った。
声がした方を向くと、青髪の青年が俺の方を睨みつけているのが見えた。
え、俺、なんかした? てか誰この人。
「…えーと、なにかな?」
「こんな小さな子に無理やり魔獣を討伐させて、その討伐報酬を貢がせてるって聞いたが、その様子じゃ本当みたいだな。お前、そんなことしてて恥ずかしくないのかよ!」
「…はぁ?」
これアレか? この人、俺らの悪評を聞きつけて一応様子を見ていたけど、さっきのやりとりを聞いててギルティだと判断した感じか?
噂話とさっきの会話だけじゃ誤解するのも無理ないけど、それだけでこんなストレートに怒鳴ってくるなんて、ちょっと思慮が足りないんじゃ…。
てかいきなりそんな大声で怒鳴るのも結構勇気がいると思うんだが。そっちこそ恥ずかしくないのか?
「ソロでボロボロになるまで狩らせたり、討伐したあとの休みもロクに与えていないらしいな! そんなに金が欲しいか!? なら自分の力で稼げばいいだろうが!」
疲労で倒れるまで狩らせたのは初日だけなんですが。いや1日だけだろとか言い訳する気はないけどさ。
まあ普通討伐後は2、3日休ませるのが普通らしいけど、一応1日おきに休ませてはいるんだが…。
「いや、お金目当てというより、どっちかというとレベリング目的で狩らせているんですが」
「なら、その子が稼いだお金は全額その子のものになっているんだろうな!?」
「いえ、宿代とか食事代とか、各自ワリカンで払ってるからその分は引かれてますが」
「はぁ!? そんぐらいの金も払ってやらないのかよ! いい歳して寝床代もケチるとか最低だなお前!」
いきなり変な言いがかりつけてくる君も大概だと思うが。
…あ、ヤバい。また背後から阿修羅と明王の憤怒の波動ががが…!
これ以上なんか言うのはやめといたほうがいいぞ青年、俺はともかく後ろの二人がキレそうだ!
とか思っていると、青年が今度はレイナに向けて口を開いた。
「君も、我慢しなくていい。こんな奴にボロボロになってまで一生懸命稼いだお金を貢ぐ必要なんかない。不満があるならはっきり言えばいいんだ」
「はっきり、言えばいい?」
「そうだ、君が働いて稼いだお金を君がどう使おうと自由だ。それを奪うような奴に遠慮なんかする必要はない」
青年の言葉を聞いた後、軽く溜息を吐いてから
「そっすか、じゃあさっそくはっきり言わせてもらっていいっすか? …………あんた、バカじゃないっすか?」
「…え?」
無表情で、まるでゴミでも見るかのような目で青年を見ながらレイナが口を開いた。
「あんた、自分のなにを知ってるんすか? あんた、カジカワさんとアルマさんのなにを知ってるんすか? どんな噂話を聞いて勝手に正義漢気取ってるのか知らないっすけど、余計なお世話なんすよ」
「な、なにを」
「なにを言ってるのかって? そりゃこっちが言いたいっすよ。こちらの事情も知らずに相手を勝手に悪者だと決めつけて、その悪者に立ち向かっていってる俺かっこいいーとでも思ってるんすか? 気色悪い」
お、おおう。レイナってこんな顔もできたのか。
相手のことを軽蔑しているのが見ているだけで分かる顔。酔っ払いオヤジの時とはまた違った表情だ。
「洞窟の中でハイケイブベアに食われそうになってるのを助けてくれたのはこのお二人っす。行くあてがない自分を連れていってくれたのも、お腹ペコペコの自分に美味しい料理を食べさせてくれたのも、職業を決めあぐねている自分に新しい選択肢をくれたのも、自分の装備を用意してくれたのも、クソオヤジに立ち向かうために力を貸してくれたのも、強くなりたいと願った自分を鍛えてくれてるのもこのお二人っす。そんな事情、あんたは知らないっすよね? 知らないのにどんな権利があって説教かましてるんすか? ねえ」
早口で、かつはっきりとした口調でこれまでの経緯を話しつつ、それに対してなんか文句あんのかと言わんばかりに責めまくるレイナ。
青年もたじたじながら、それでもレイナに食ってかかる。
「お、俺は君のためを思って!」
「思わなくていいっすよ。正義感が強いのは認めるけど、人に向かってなにか口を開く前にちょっとは考えたらどうっすか? そういうのは親切の押し売りって言って、押し付けられた方からすると迷惑なんすけど」
「……そうか、そういうことか」
およ? 意外にも素直な反応だな。
自分の非をちゃんと認められるのはまあ評価できるな、うんうん。
「お前、自分が責められた時にこの子にありもしない美談を言わせて、非難されることから逃れているな! なんて卑怯な奴なんだ! それでも男か!!」
あ、ちゃうわ。この人自分が間違っているなんて微塵も認めてねーわ。
めんどくせー………もう帰っていい?
お読みいただきありがとうございます。




