閑話 勇者の道は険しく辛く
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今回は勇者視点の閑話です。
はいどうもコンニチハ。山賊どもをボコボコにしたあと無事脱出してから数日が経過しました。
幸い、近くに街があったので何日も歩くハメにはならなかった。まあ食料は割と潤沢にあるからそうなっても大丈夫だったろうけど。
問題は…
「ネオラ、あっちの洋服店なかなか雰囲気良さそうじゃない? 一緒に行きましょう」
「……あれ女性用の店だろ」
「ネオラなら大丈夫大丈夫」
「なにがだよ!?」
オレをレディース専門のファッションショップに引きずり込もうとする、赤毛三つ編み少女レヴィアリア。
…なりゆきでいつの間にかこの子まで一緒についてくることになってた。
アジトから脱出した時に、約束通り職業を教えろとせがまれたので鑑定紙を見せた。
え、は? ええ? みたいな顔をしながら困惑している様はちょっとおもしろかわいかったな。
「…勇者? え、ホントに? マジ?」
「…うん。こんなナリだし、そうは見えないかもしれないけど」
「他に仲間は? はぐれたの?」
「いないよ。召喚された直後、この国の王様にお金と身分証明書と立ち入り禁止区域なんかの通行証をもらったあと、『よし、じゃあ魔王殺ってこい』みたいなノリで単身放り出された」
「うわぁ……勇者って、魔王を倒して世界を救う存在でしょ? なのに扱い雑すぎじゃない?」
「オレもそう思う」
まあ勇者は死に戻りができるから、多少雑に扱って道中死んでも問題ないからって考えもあるんだろうけど。
でもせめて仲間の一人でも同行させるくらいはしてほしかったな…。
「……ねえ、あなた仲間はほしくないの?」
「ほしいよ! でもギルドで仲間を募集しても誰もついてきてくれなかったんだよ。まだ俺のレベルも低いし、魔王討伐なんかに同行なんかしたくないみたいだったから…」
「そう、………ねえ」
ちょっと気恥ずかしそうに顔を逸らしながら、か細い声で告げた。
「私、あなたについていっちゃ、ダメかな…?」
…その上目遣いで、しおらしい態度とりながら問いかけてくるのは卑怯だと思う。
ってイカンイカン、流されちゃダメだ。勢いでOK出す前にまずは理由を聞かないと。
「……オレについてくる理由は?」
「私も早く自立して冒険者になりたいって、両親の制止を振りきって家を飛び出してきたのはいいけど、現実は厳しくてね。……一人だと他の街に向かう馬車に乗る代金もまともに稼げないで、フラフラになりながら歩いてたところを山賊に捕まったってわけ」
この子、思考回路が単純というか残念というか。
勢いのまま突っ走る前に、自分が本当に正しいかどうかもっとよく考えるべきだと思うの。
「……歳の割に随分とレベルが高いみたいだけど、それは?」
「家出する前に、こっそり近くの魔獣のテリトリーでレベリングしてたの。時々訓練をサボりながらやってたから周りからはやる気がないのかってよく怒られてた」
訓練無しで、魔獣といきなり戦うのは自殺行為だってメニュー言ってなかったか?
≪この子、えーとレヴィアリアさんでしたか。なかなかセンスがいいみたいですねー。基礎が未熟なまま魔獣と戦うのはいただけませんけど、それを才能でカバーしてるようですね。もしかしたら、将来とても優秀な冒険者になれるかもしれません≫
んん、基礎がなってないのは俺も一緒だしなぁ。自分を棚上げして人のこと責められん。
でも親御さんに黙って家出した子を同行させるのはちょっと………御両親も心配してるだろうに。
≪仮に家に連れ戻そうとしても、抵抗されて一人でまたどっか行っちゃいそうですけどね。そうなればまた山賊に捕まったり行き倒れたり、最悪魔獣の手にかかって御臨終なんてことになりかねませんよ?≫
ええー、もう連れてくしか選択肢ないのぉ?
第一、オレについていっても魔王を倒すまで危険なことだらけだろうに。
≪ネオラさんの仲間として、メニューに登録すればレヴィアリアさんも死に戻りの恩恵を得られますし、かえって安全だと思いますよ≫
ああ、そういえば勇者の仲間にも死に戻りは適用されるんだっけ。
≪まあ、仲間に登録できるのは4人までですけどねー。でないと極端な話、1000人くらいを仲間に登録すれば何度死のうともいくらでも蘇る不死身の軍隊とかつくれてしまいますし≫
ナニソレコワイ。
……まあ、そういうことなら仲間に迎えてもいいかな。
山賊との戦いの時の連携も悪くなかったし。
≪結果的にコレでよかったんじゃないですか? ハーレム第1号としても申し分ない逸材だと思いますし。……ああ、あのハゲオッサンがいるから2号ですかね?≫
あのオッサン勘定に入れんな! オレのハーレムに男は一切いらん!
「で、ついていっていいの? それとも、ダメ…?」
「あー、オレにも魔王を倒すっていう目標があるから、それに協力してくれるっていうなら別にいいけど」
「魔王討伐ね。……もしも達成できたら、家出したことくらい誰も文句言えないくらいの実績になるわねフフフ…」
なんか邪な打算めいた言葉が聞こえたような…。
それで家出したことがチャラになるかどうかは御両親次第だと思うんだが。
…なんだろう、魔王討伐して意気揚々と帰ってきた直後に怒鳴られてるところしか想像できない。
「いいわよ、魔王だろうがなんだろうが軽くぶっ飛ばして世界救ってやればいいんでしょ?」
「簡単に言うけど、魔王を倒すまで基本的に自由は無いし、何度死んでも蘇るからそのつもりでな」
「……ああそういえば、勇者とその仲間は何度でも蘇るって伝説があるけど、まさかホントなの?」
「うん。オレの仲間になった時点で死にたくても死ねないから覚悟しとけ」
「なにそれこわい………でも考え方によっては命は保障されてるとも言えるわね」
まあ死んでも生き返ることができるのは安心感があるだろうな。
「それじゃあよろしく、ネオライフ」
「ネオラでいいよ、オレもレヴィアって呼んでいいか?」
というやりとりの末に今の状況があるわけだ。
「つ、次はこのフリフリな服はどうかしら…!?」
「いえ、あえてこちらのボーイッシュな軽装も捨てがたいですわ……!」
…なんでオレはレディース専門の服屋で着せ替え人形にされてんだ!
さっきから店員さんたちが暴走気味にオレに可愛らしい服を着せてくる。マジでやめてほしい。
てかレヴィアも自分の服そっちのけでオレに着せるもんばっか選んでんじゃねぇよ!
「……オレ、男なんですけど……」
「「だがそれがいい!!」」
「よくねぇよ!!」
もう帰りたい! 宿に帰ってふて寝したい!
勇者の進む道とはかくも険しいものなのか!? いや絶対違うだろ!
この子仲間にしたの早くも後悔し始めてきたんだが。…もうやだ。
お読みいただきありがとうございます。




