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フィッシュ! (魚が釣れるとは言ってない)

新規の評価、ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。

お読み下さっている方々に感謝します。

「……! 引いてる…!」


「おおおっ! アルマさんそのまま引き上げるっす!」



はいこんにちは。隣がやたら盛り上がってますね。

ただいま海辺の釣り場で魚釣りの真っ最中です。

いつもなら食材を売ってる店で買い物して帰るところですが、今日はちょっと趣向を変えてフィッシングをすることに。

異世界では数少ない娯楽だし、のんびりと楽しみますかね。……俺のトコまだ全然魚がこないけど。



「カジカワさん、まだボウズみたいっすけど釣り得意じゃないんすか?」


「…子供のころに1回か2回やったくらいでほとんど経験はないよ。無趣味で熱中するものなんかほとんど無かったしな」


「無趣味って、楽しみにしてることが無かったってこと?」


「まあ、な」



強いてあげるなら漫画とゲームぐらいしか楽しみがなかった。

残業帰りの短い自由時間を割いてまで熱中できる趣味なんて、それぐらいしか楽しむ余裕がなかったから。

仕事が忙しすぎて、学生時代の友人とも疎遠になってしまって、ひたすらポチポチあるいはパラパラ。

我がことながらなにが楽しくて生きてたんだろね? 生きる理由は特にないけど死ぬ理由も特にないからとりあえず生きてるみたいな。



「まあ、今こうやって釣りをしてるのは割と楽しいけどな。港町にいるうちは、休日のたびにここでのんびり釣りを楽しむのもいいかもしれない」


「釣れないのに楽しいんすか?」


「やかましい。これでも今晩のおかずのために真面目にやってるわい」


「釣った魚を晩御飯にするんすか、新鮮さは折り紙付きっすね。釣れればの話っすけど」


「ちなみに誰も何も釣れなかった場合、今日の晩御飯はさっきアルマが釣り上げちまった長靴のソテーな」


「長靴は食べ物じゃないっすよ!」


「……やかんが引いてた」



現時点での釣果を見ると、俺はボウズ。ゴミすら釣れない。

レイナは何匹か釣り上げているが、どれも小ぶりで食いでは大してなさそうだ。天ぷらにすればまあまあ美味そうだが。

アルマは長靴とやかん。…ハイライトの消えた目で釣りたてピチピチのやかんを見つめている。

釣りを始めてからすでに一時間が経過しているが、あまり芳しくないな。まあ釣りってのは待つ時間も楽しむもんだが。

このままだと消化できないモノが食卓に並ぶことになってしまう。…ちょっと訓練も兼ねてズルしてみるか。


魔力操作で釣り竿から糸に…魔力だけじゃすぐ拡散しちまうな。

糸に流し込む魔力に生命力を接続し拡散を抑え、さらに気力を接続して出力と精度を上げる。

で、釣り餌をまるで生きているかのように動かして、魚の興味を惹く。

まあそんな簡単に釣れるもんでもないと思うけど、魔力の遠隔操作の訓練にもなるししばらく色々試してみますか。



「お、また釣れたっすー! ……小指くらいのサイズっすけど」


「……コップが引いてた」



ぶれないな君たち。

アルマもよくそんな器用にコップの取っ手に釣り針が引っかかるもんだ。

まあぶれないのは一向にヒットしない俺の方もだが。…魔力操作あんま効果ないな。


もう晩御飯の材料は食材屋で買おうかと思い始めた時に、俺の釣り竿をなにかが引いてるのが分かった。



「フィッシュ!」


「お、カジカワさんもようやくきたっすね!」



地球のものと違って巻き辛いリールを精一杯巻いてる途中、故障したのかリールが動かなくなってしまった。

やばい、このままじゃ逃げられる! …仕方ない、魔力操作で直接獲物を引き上げ一本釣りじゃー!

え、卑怯? アーアーキコエナイネー! とりゃー!


魔力操作で引き上げられて、バシャンと少々派手に水しぶきを上げて、獲物が水面からはね上がった。

その正体は、タコ。 地球のごく一般的なマダコに近いタコだった。

ベシャンと着地した先は アルマの腹部 だった。 Oh…


アカン



「~~~~~~~~~っっ!!?!?!」



声にならない絶叫を上げて涙目でタコを引きはがそうとするアルマ。

タコの足がアルマに絡んでいる姿は、なんというか、……コメントは控えよう。



「あ、アルマさん落ち着くっす!」


「っ!! !?!?! !!!」



レイナが叫ぶが聞こえていないようで、パニックに陥り言葉にならない声を上げている。

メニューさん! タコを引きはがすテクとか知らない!?



≪目と目の間に活き締め用のピックを突き刺し締めると、タコの体色が白く変わり簡単に無力化できる≫



活き締め用のピックなんか持ってねーよ!

いや、魔力操作で針状にした魔力を指先に作ればいい!


アルマにますます絡みつこうとするエロダコの眉間にブスッと思いっきり突き刺すと、体色が白く変わりダランと力なくはがれた。



「はふぅーっ…!……ふぅーっ…!…ふぅ……!」



顔を真っ赤にしながら息を整えようとするアルマ。

…あんまりまじまじ見てるとなんか背徳感があるからあまり見ないでおこう。



「……ごめん、勢いよく釣り上げたらそっちに……」


「だ、だいじょう、ぶ………でも、次からは、気を付けてほしい………」


「…タコが絡んでるアルマさんを見てて、なんというかイケナイ気分になりそうだったっす……」



レイナ、それ以上いけない。

ちょっとしたトラブルはあったが、少し休憩してから釣りを再開。

……次からは一本釣りする時に獲物の着地点をよく意識しよう。




釣りを再開してからさらに数時間が経過。

そろそろ夕暮れ時だし、帰る準備をしないと。

ちなみにあれからの釣果は意外と悪くなかった。


レイナが釣った魚はキスやシシャモのような小さな魚ばかりだったが、数が多いので充分食いではある。

天ぷらもいいが、めざしとかにしても美味そうだな。

…アルマはある意味大漁だった。魚介類の類は一切釣れなかったが、釣れたガラクタの中に割と有用そうなアイテムが混じっていた。

というか、釣り上げたものの価値が一番高いのはアルマだ。魔道具とかを釣り上げるのはもはや一種の才能だと思う。…魚が一切釣れなくて本人は釈然としない表情だったが。

で、俺が釣ったものは珍味とかゲテモノみたいなのが主だった。…魚釣りとはいったい。

タコとかイカとか、あとウニやシャコみたいなのも釣れた。シャコはすぐ腐っちまうから早めに締めてアイテム画面に放り込んでおいた。

異世界の海洋生物は地球のものと比べてどんなもんかとちょっと期待してたが、特に大きな差異は感じられなかった。

…あんま大きな違いがあっても食うのに躊躇うから別にいいけどさ。



普段の魔獣狩りとかしながら過ごす生活が充実していて、休日の楽しい過ごし方が分からなくなってきてる気がしないでもない。

向こう(日本)でも、休日は泥のように眠るばかりで特に楽しくもなんともなかったけど。

でもまあ、他の誰かとなにかしながら過ごすってだけでもなんというか充実感が得られるもんだな。



「そろそろ帰るか。たまには魚釣りもいいもんだな」


「…食べられるモノが釣れなかった……」


「で、でもなんかすごそうなアクセサリとか釣れてたじゃないっすか、落ち込むことないっすよ」


「……ありがと」



…気を使ってフォローしてるつもりだろうが、煽ってるようにも聞こえなくもない。

次に魚釣りをする時は餌とかにもこだわってみるか。アルマの使ってた練り餌はどうも魚の食いつきがよくなさそうだったし。

さーて、帰ったらシャコを塩ゆでにしたり、タコは唐揚げ、イカやレイナの釣った魚は天ぷらにしてしまうか。

やっぱ油ものが多いな、生で食べられそうなのはウニくらいか。下処理も面倒そうだなー……。

お読みいただきありがとうございます。

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 9/5から、BKブックス様より書籍化!  あれ、画像なんかちっちゃくね? スキル? ねぇよそんなもん! ~不遇者たちの才能開花~
― 新着の感想 ―
革靴を食べる映画や漫画はあるし、生物素材の長靴なら食べられなくもなさそう。食べたいかはともかく
[一言] アルマさん、釣竿に宝釣りのエンチャントでもついてらっしゃる?
[良い点] 寿司が食べられない外人の仕事仲間が最初に好きになったのはウニでしたね
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