イケメンパーティの実力
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「梶川光流と申します。【希望の明日】というパーティのリーダーを務めさせてもらっています。…といってもまだDランクの駆け出しで、パーティを結成したのはまだふた月ほど前の話ですし、リーダーに任命されたのはほんの数日前なんですけどねハハハ」
「…同じパーティのアルマティナです。よろしくお願いします」
向こうの自己紹介が終わったので、とりあえずこちらも自己紹介。
こんだけ格上のパーティの人たち相手だと自己紹介ひとつでも緊張するなー。
「Dランク? 草の色が黄色のエリアは魔獣はCランクの魔獣が主だけど、大丈夫なの?」
「まあ、楽に倒せるわけではないのですが、魔獣の群れに襲われないように気を付けていればそれほど危険ではないですね」
「あー、ただ時々ワンランク上の魔獣が襲ってくることもあるから、無茶はしないほうがいいぞ。さすがにBランク以上は二人だけだときついだろ」
「そうですね、気を付けます」
…多分さっきのボスオオカミがBランクぐらいだったと思う。ハイケイブベアと同等以上くらいのステータスだったし。
おまけに群れを率いていたけど、アルマの精霊魔法のおかげで安全に狩ることができた。
まあ自分たちの実力を無駄に大きく見せる理由もないし、分相応に無難な返事を返しておこう。
「この大きなトカゲは物凄く強そうですね。こんなのに襲われたりしたらと思うとゾッとしますよ」
「まあ真正面からやりあうのは俺たちでもちっときついけどな。入念に準備を整えて、自分たちの戦いやすい環境まで誘導してようやく討伐できるって具合だよ」
「そうそう、変温動物の魔獣相手だからとれる戦法だけど、氷魔法をトカゲの身体にぶちまけまくって動きを鈍らせて、地属性魔法のスクロールを使って体をひっくり返して無防備な腹に攻撃を、って感じで仕留めたんだけど、そのための道具の準備も大変だったわよー」
うーむ、なるほど。
レベルが上がって、ステータスが強化されたからといってそればかりに頼るんじゃなくて、道具や環境、魔獣の性質なんかを考慮してハントをしていると。
俺もレベルが低い時にはスパークウルフの角とか火蝦蟇の油とか使ってたっけ。
最近じゃ魔力や気力操作に頼ったゴリ押し戦法ばっかで、道具や武器を使うことがあまりなくなってきてるんだよな。
レベルを上げて地力をつけて、新しい技を開発して戦術の幅を広げるのはもちろん大事だけど、それだけではまだ不十分な面もあるのは確かだな。
強力な魔獣とかと戦うことになったりしたら、使えるものはなんでも使うべきだろうし、近々港町で有用そうな道具がないか覗いてみるか。
「仕留めるための道具ばっかに気をとられて、肝心のアイテムバッグ忘れるアホのせいでこんな重労働するハメになってるけどな」
「うるっさいわねー、男がいつまでもネチネチと人のミスを責めるんじゃないわよ!」
「リーダー、コイツ全然反省してないみたいだし、もうコイツ一人に引かせましょうや」
「ちょ、なに言ってんの!?」
「そうだね、私もずっと引きっぱなしで肩と腰が痛いし、しばらく頑張ってもらおうかな」
「ファイトです、ライーナ」
「ご、ごめんなさいー! 謝るから勘弁してー!」
…俺もうっかりミスには気を付けよう。他人のふり見てなんとやら。
こういうやりとり見てると、ベテラン冒険者パーティも人間なんだなぁとちょっと親近感がもてるな。
「事前に準備をしてから挑んだっていうことは、この大トカゲを仕留める依頼を受けていたのでしょうか?」
「いや、魔獣のテリトリーの討伐依頼は受けたけど、このトカゲを仕留める依頼は受けていないよ。そろそろダイナやライーナの装備を新調したくて、高品質でなおかつ安く済ませるために自分たちで素材となる魔獣を仕留めたところさ」
「こいつの鱗、滅茶苦茶硬いから並みの装備じゃ刃が立たなくて仕留めるのも苦労するんだが、防具に使えばその防御力をそのまま有効活用できるんだよな」
「残った素材もいいお金になるし、準備の費用を差し引いても余裕で黒字ね。……このトカゲを見つけるのに一週間くらいかかったけど」
「むしろ探してる間に、ついでに仕留めた魔獣の討伐依頼料や素材の売値の方が高いかもな」
やっぱ奥地の魔獣は討伐料や素材の価値が高いみたいだな。
でも今の俺たちじゃまだ無謀だろうしなー、我慢我慢。
……ん?
「…? ヒカル、どうかした?」
「いや、空からなんか近付いてきてるような…」
「ええ? なにも見えないし、聞こえないわよ?」
「………いや、確かになにか、羽ばたくような音が聞こえる」
金髪美人さんは気付かなかったようだが、イケおじリーダーは【順風耳】を発動して俺が感じ取ったナニカに気付いたようだ。
…移動するスピードが速いな。しかもこの反応は魔獣草原の『奥』からこちらに向かっている。
つまり最低でもBランク、下手したらAランクいってるかも。
「…鳥型の魔獣、それもかなり大きい。多分『サイクロンウィング』かもしれない」
「うーわ、またメンドイのに見つかったなぁ。この大トカゲの肉でも狙ってるのか?」
「サイクロン…なに?」
「サイクロンウィング。強力な風属性の魔法を使ううえに、鳥型の魔獣だから常に上空から攻撃してきて、こっちの攻撃は遠距離攻撃しか届かないから普段と勝手が違って戦いづらい相手よ」
「並みの魔獣が空飛んでるだけならさほど問題じゃねぇけど、ステータスもかなり高めで下手したらこの大トカゲより厄介な相手かもな」
風魔法を使う鳥型魔獣ってことは、ブレイドウィングが何回か進化した魔獣なのかな。
魔力飛行が使えれば、ブレイドウィング戦の要領で地面に激突させて仕留められそうだが、この人たちの前じゃ使えないよなぁ、どうしよ。
「ですが、リーダーがいるならさして問題にはなりませんけどね」
「だな」
「だよね」
む、あのイケおじそんなに強いのか?
Lv51もあるし、是非その実力を拝見したいものだ。
「ちょっとちょっと、私一人じゃさすがに辛いから手伝ってくれよ」
「はいはい、分かっていますよ。………来ましたね」
空を飛ぶ鳥型のシルエットが、徐々にこちらに近付いているのが見えた。
…でかい。体格はこの大トカゲと遜色ないレベルだ。あの大きさでよく空が飛べるもんだな。
魔獣:サイクロンウィング
Lv46
状態:空腹
【能力値】
HP(生命力) :796/796
MP(魔力) :778/778
SP(スタミナ):138/550
STR(筋力) :676
ATK(攻撃力):676
DEF(防御力):397
AGI(素早さ):512
INT(知能) :724
DEX(器用さ):398
PER(感知) :442
RES(抵抗値):254
LUK(幸運値):102
【スキル】
魔獣Lv5 体術Lv5 爪術Lv5 攻撃魔法Lv10 上級攻撃魔法Lv1 補助魔法Lv6
【マスタースキル】
マギ・ミティゲイション
強い…! ヴィンフィートで封印した暴食スライムを除けば今までで一番強い魔獣だ。
能力値はほとんど隙が無いし、スキルもどれもレベルが高い。しかも【上級攻撃魔法】とかいう見慣れないスキルがあるけど、これなに?
≪【上級攻撃魔法】 攻撃魔法スキルをLv10まで上げた者が獲得できる上位派生スキル。通常の攻撃魔法スキルに比べて魔力消費が激しいが、威力はその分強力≫
ふむふむ、アルマの攻撃魔法スキルがLv8だったから、あとちょっとで習得できそうだな。
…で、こいつ生意気にもマスタースキル所持してやがるんだけど、これの効果は?
≪マスタースキル【マギ・ミティゲイション】 攻撃魔法スキルがLv10に到達した時点で獲得できるマスタースキルの一つで、攻撃魔法スキルを使う際の消費MPが半減する常時発動型のパッシブスキル≫
うわ、なにそれすごい便利そうだな。一見地味だが、MPがガス欠になりにくくなるっていうのはかなり有用だ。
敵がこんなスキル持ってたら厄介すぎるけどな。こんだけ強力な魔獣ならなおさらだ。
≪ちなみに、マスタースキルは個人によって習得するスキルが異なることがあり、今回のマギ・ミティゲイション以外にも消費MPは変わらず威力が上がるスキルなども存在する≫
へえぇ、アルマはどんなスキルを獲得するんだろうな、楽しみだ。
って、それどころじゃない! いまにも襲い掛かってきそうなくらい近くまできてるんですけど!
「システィ、閃光! ライーナは次に魔法! 着弾後に私が落とすから、ダイナはトドメを頼む! 二人は離れ過ぎないように、大トカゲの身体を盾にして隠れていてくれ!」
イケおじリーダーがそれぞれに指示を出す。
何気に俺たちのことまで気にかけてくれているとは、やっぱこの人カッコいいわー。
「【フラッシュバン】!」
銀髪シスターことシスティさんが魔法を発動。
スパークウルフの角ほどじゃないが、杖から強い光が放たれてサイクロンウィングの目をわずかに眩ませた。
「【フレイムライフル】ッ!」
金髪残念美人ことライーナさんが、魔獣の目が眩んでる隙に攻撃魔法を放った。
高速の炎の弾丸。遠距離まで威力も速度もまるで落とさず届くようで、サイクロンウィングの身体に次々着弾させている。
『ギョォゥァァァァアアアアアッ!!!』
だが、向こうもやられっぱなしじゃない。
サイクロンウィング、…長いしもう怪鳥でいいや。怪鳥から小規模な天変地異かと見紛うほどの竜巻が複数、俺たちの周りに放たれた。
っていやいやいや、なんだこれ! お前大怪獣とでも戦ってるつもりなのか!? こんなアホみたいな威力の魔法、人間数人相手に使ってんじゃねーよ!
≪上級攻撃魔法スキルLv1 【クアドラブル・サイクロン】 魔力で四つの竜巻をつくり、周囲一帯の敵対対象を切り刻み、吹き飛ばす上級風属性魔法≫
ひいぃ、シンプルながらえげつないなオイ。
俺とアルマは大トカゲの身体にしがみついて、辛うじて飛ばされないように耐えてるけど、他の人たちは平然と立って構えている。
スゲーなこの人たち、こんな魔法を浴びせられるのは日常茶飯事とでも言いたげに、余裕綽々だ。
ってあら? イケおじリーダーは? …まさか吹き飛ばされでもしたのか!?
『ギョオアアアアアアッッ!!?』
空から怪鳥の絶叫が聞こえたからそちらを見てみると、イケおじリーダーが怪鳥の翼の片方を剣で切り落としているのが見えた。
…はい? え、あのイケおじ、なんであんな高いとこにいるの? てか、浮いてない? まさか魔力飛行…じゃないよな。
≪極体術スキルLv5【天駆】を使用し、空を駆けあがって攻撃した模様≫
あれが天駆ってやつか! なにあれとっても優雅………いや、よく見ると足踏みしてる。シュールだなおい。
見てる分にはともかくやってる方は大変そうだなー…。
「トドメだぁっ!!」
で、落ちてきた怪鳥の頭に向かって棍棒を思いっきり叩きつける、茶髪青年ことダイナさん。
その結果、………怪鳥の頭が3倍くらいに広がって辺りに撒き散らされた。グロい。
防御力が比較的低めだったし、当たりさえすれば普通にダメージ通るみたいだな。当てるまでが途轍もなく大変そうだが。
「ふーっ、みんな無事だね。二人も、怪我は無さそうでなにより」
「…すごかった」
唖然とした表情で、小並感を呟くアルマ。
まあ、なにがどう凄いか説明しようにも上手く言えない気持ちは分かるが。てか全部、もう全部凄いわ。
…俺たちがあんなレベルに達するまでどれだけかかることやら。
自分たちがまだいかに未熟かということと、まだまだ先は長いことを実感させられた。
「ところでリーダー、このトリどうしよう。置いていくのもったいないんだけど…」
「これ以上は持っていけないし、魔獣たちにプレゼントするしかないね。残念だけど」
「うぅ~………アイテムバッグさえ忘れなければ~」
「いや今になって後悔すんなや」
こんな高級そうな素材も、持ち運ぶ手段がなければ置いていくしかない。
アイテム画面に入れられなくはないけど、メニュー関連の機能がバレるのは避けたいから泣く泣く放置。…もったいねー。
手持ちのカバンをアイテムバッグに見せかけて持っていけなくはないけど、それならなんで大トカゲ運ぶ時に出さなかったって話になるしな。
…だって持ち逃げしようとしてるんじゃないかって疑われそうで嫌だったんだもん。
その結果が今の筋トレデスマーチなわけですが。町まであとどれくらいかなー…。
お読みいただきありがとうございます。




